ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

雪組『シルクロード~盗賊と宝石~』感想

雪組公演

kageki.hankyu.co.jp

ミュージカル・シンフォニア『f f f -フォルティッシッシモ-』~歓喜に歌え!~
作・演出/上田 久美子
レビュー・アラベスクシルクロード~盗賊と宝石~』
作・演出/生田 大和

お芝居の『fff』の感想はこちら。

yukiko221b.hatenablog.com


ものすごい反響をいただいて、ビックリしました。
でもこれが唯一絶対の解答ではありませんし、それこそ「ただ一つの正解」を求める行為は、完全に上田先生の術中にはまっているような気もいたしますので、あくまで一個人の感想だと思っていただければ幸いです。

一つ書き忘れた感想としては照明ですかね。
きぃちゃんにずっとブルーがあたり、人外であることを示す手法としてはありがちなのですが、「ブルー」ってまさに「悩み」「苦しみ」つまり「不幸」につながっているんですよね。
こんなにもありがちな手法なのに、すごい意味が込められている……と呆然としてしまった。
それからルイが難聴であることを示すユガミの表現も不気味だったなあ。
初日の舞台を見て、上田先生は真っ先に調光室に向かったらしいので、おそらく照明に関する何らかのダメ出しをしたのでしょう。
一体どんな話をしたのでしょうか。気になるところです。

あとは2階席からでも充分に楽しめる役者の配置になっているのがいいですね。
気になる下級生がいる人は上から見た方が、最初の楽隊の場面や最後の大団円は見やすいかもしれません。
私も花組はいからさんが通る』を7列目で観劇したとき、美羽愛ちゃんを上級生と重なって見つけるのが大変でしたが、2階席のときはすぐに見つけられました。
どこでもS席!と思えるのが大劇場のいいところですね。
もちろんこれはショーにも当てはまります。

さて、今回はショーの感想です。
前回の最後にも書きましたけどね、「宝石である真彩希帆を盗賊である望海風斗が追いかける」っていう筋書きがもう最高なんですよ。
ハズレなわけないんですよ、個人的にね。
「盗賊と宝石」の歌詞に「君の最後を俺が奪おう」とありますが、生田先生は「望海の最後」どころか「望海の最初」つまりお披露目公演だって担当しているんだから、「最後も」の方が正しいのでは?と思ったくらい。
生田先生の望海こじらせ具合は皆さんもご存じの通りですが、「どうして! 望海のショーを! 1回しか担当できないんだ!!!」という根強い響きが聞こえてきました。あれ、私だけか。真彩のお衣装に関しても「俺が着せたいお衣装、全部着せたったで!」という感じでしたね。ブルーダイヤモンドですが、お衣装がブルーだけでなく、赤、黒、白と彩り溢れていて良かったです。
どうでもいいですけど、生田先生は朝美もこじらせている疑惑があるので、ぜひ朝美主演の作演出も担当して欲しい。オリジナル作品で。頼む。見たい。

芝居仕立てのショーということで、そういうのが好きでない人もいますよね。
正確にいうと、歌と踊りの出し物の中でも、ストーリー性のあるものを「ショー」といい、一つずつ場面がわかれていて、全体としてゆるっとテーマがある程度のものを「レヴュー」というとか。
『BADDY』のときに何かで読んだ気がしますが、『シルクロード』も『BADDY』もその定義でいえば「ショー」ですよね。

お芝居も過去作品への壮大なリスペクトがありましたが、こちらも同じような気持ちが見え隠れしました。
第五章の中国が『BUND/NEON上海』はリスペクトというよりは、もはやオマージュですが、砂の演出や「黄金の奴隷」という役名は上田先生の『金色の砂漠』を思い出させますし、真彩が空中ブランコで出てくるところは「野口先生に教えてもらったの?」って思うし、第六章は「大介先生の宗教場面ですね!」と思うし、青い薔薇を受け渡すところは「明日海りお……」ってなる。
手錠でつながられたまま踊るところは「金の花」ですしね……。
配役でも、望海率いるスリが諏訪さき、彩海せらっていうのはさ、『ONCE』と『壬生義士伝』の新人公演主演をした二人ね……あとを継ぐのね……とか考えてもう涙がさ……うう。

シルクロードといっても世界を西へ東へという形になっているので、黒塗りのお化粧でなかったのも個人的にはよかったです。
多少いつもよりも暗めかな~という程度。
プログラムの生田先生の講演挨拶は、まさに二人のためのアイデアだったと心の底から思っているのがよくわかりました。
でももう少し簡潔にまとめてくれてもいいのよw
シーン別の説明も今回はショーの中では長い方でしたね。語りすぎ!
でもきっと説明せずにはいられないのでしょう。

こちらもお芝居ほどではないですが、よく盆が回るなと思いました。
盆はどちらか一方の回りだけでは不具合が生じやすくなるらしく、幕が降りているときに反対の向きに回すらしいという話を聞いたことがありますが、お芝居とショーの盆の回るムキってどうなんですかね。
これで右回転と左回転の帳尻がぴったり合うようだったら、それはそれですごい。

第一章、ストーリーの語り手であるキャラバンの登場。
翔くん(彩凪翔)の赤い髪にときめいた人が多いようでしたね。
あとキャラバンの女のはおりん(羽織夕夏)とありすちゃん(有栖妃華)、めっちゃ可愛いです。
砂のお役でもすぐに見つかるカレン副組長(千風カレン)とすみれ姉さん(愛すみれ)、ひまりちゃん(野々花ひまり)も素敵でした。
そして影ソロというか、声だけ先に登場するきぃちゃん(真彩希帆)。
お芝居もそんな感じでしたね、声が先に聞こえてくる。それだけの美声の持ち主。なんてったって「稀代の歌姫」。
盗賊がずらっと出てきても、すぐに見つかるのはあみちゃん(彩海せら)。すごい、どこにいても、端にいても、オペラグラスがぴたっと止まるんだ。
私のオペラグラスにはあみちゃんセンサーがついているかのよう。

ターバンの巻き方って難しいな、と思うのですよ。
だいもん(望海風斗)はターバンがお好きらしいですが、巻く位置がとっても難しいと思う衣装なんですよね。
上過ぎても下過ぎてもダメ。どれだけおでこが見えるか、眉との間隔のバランスはよいか。
『シャルム!』のときも下級生はターバンに慣れていないんだろうな、と思う生徒が何人かいました。
上級生見て! 自分見て! なんかちょっとおかしいと思いませんか?
もっとも今回ターバンを巻くのは男役だけでしたが。

きぃちゃん登場は空中ブランコに座って、ブルーのドレス。
降りるとものすごく後ろを引きずる長いドレス。『ONCE』の地上の天国のピンクのお衣装のよう。
その裾を肩に掛けてあげる翔くん。これ、最高。最高なんですよ。
何度見ても鼻血が出るかと思うレベルで好き。キャー><ってなる。
翔くんときぃちゃんのデュエットもよかったですよね~!
銀橋渡りは翔くん→あやなちゃん(綾凰華)・みちるちゃん(彩みちる)・あがち(縣千)→あーさ(朝美)・夢白→咲ちゃん(彩風咲奈)・ひらめちゃん(朝月希和)→きぃちゃんの順番だったかな。
とにかく「え、みちるちゃん、そこなんだ……」と思ってしまった(みちるちゃんの出番がショーのわりに少なくなってしまったような気もして淋しい……)。
夢白と反対でもよかったのではないかしらん……中詰ではあーさとみちるちゃんがシンメでしたが。
朝美主演の次のヒロインはみちるちゃんでは駄目なのかしら……。あう。

第二章はさききわコンビのプレプレお披露目。
「いつまでも一緒にいようね」というお手紙を咲ちゃんがひらめちゃんに書いたというお話。
これ、どこまで本当なんでしょう。
すごくドキドキします。
お衣装も素敵でした。ダンス映えするお衣装でしたね。ちょっと重そうでしたが、好みのお衣装でした。
すごく、イイ!!!
こういうクラシカルなお芝居や表現がすばらしい二人なんだから、この雰囲気を生かした作品を、オリジナル作品を作ってくださいね、劇団! 頼むよ! 本当に……。
本当こういうお衣装もよく似合うよね、ひまりちゃん。好き。

第三章のペルシャ
生田先生が朝美をこじらせている場面。
すごいよ、あーさ、だいもんのことを蹴り飛ばすし、きぃちゃんのことビンタするからね。
なんなの? 退団者に対して何させているの? 『ひかりふる路』でロベスピエールを後ろから抱きしめるサンジュストも相当強烈だったけれど、今回も相当インパクト強いですからね? すごいよ???
もうビックリしちゃったよ、私。
歌の技量とか男役としての立ち居振る舞いは本当にもうどこから見てもすばらしい男役になったと思うんですけど、その人にホント何させてんの……すごいね……。
褒めているのか、褒めていないのか、自分でもよくわからないのですが、とにかく作演出生田朝美主演作品が見たい。
千夜一夜のシェヘラザードというわりには、シャフリヤールに物語を聞かせる場面は一瞬で終わってしまったな、淋しい。
きぃちゃんと翔くんのデュエットソングはあったのだから、あーさともあっていいじゃない。欲張りかな、ダメかな。

娘役の宝石、目が足りないわ! どこ見ろってんだよ。
オペラグラス迷子だよ、とにかくみちるちゃんが可愛いよ。髪型、素敵ね! それにしてもあーさは娘役を侍らすのに定評がある。『ガトボニ』にもそんな場面ありましたしね……。
娘役で目が足りないのは「大世界」の場面でも同じなんですけど、チャイナ~!

第四章はインドでロケット。
『Ray』でもそうでしたが、ロケットちゃんたちが一度出てきたらそれで終わりではなく、もう一度出てくるというのがおもしろいですね。
クラシカルなロケットがお好きな人もいるでしょうけれども、時折こういうのがあるといいですね。
ここはインドの神様がたくさん出てきて大変だぞ〜!
プログラムには辛うじてあなやちゃん扮するスーリヤが太陽の神、あがち扮するチャンドラが月の神ということはわかりますが、それぞれとシンメになっているウシャス、ターラーは説明がありません。
星南のぞみ演じるウシャスはスーリヤの恋人、ないしは母。暁紅の女神。98期同期で素敵なシンメトリーです。
夢白あや演じるターラーはインド神話において創造神ともいわれるブリバスパティの妻。
ロケットのスカンダたちは軍神、シヴァ(朝美)とパールヴァイティー(彩)の子供。
それにしても夢白はもうロケット卒業したんですかね。『アクアヴィーテ』でも出てませんでした。103期生かあ……。

後から出てくるだいもんのヴィシュヌはヒンドゥー教の神。
翔くんのブラフマーとあーさのシヴァと3つの最高神
ちなみにヴィシュヌ派、シヴァ派において、それぞれは3つの神の中でもキング・オブ・最高神
シヴァの妻の一人はカーリー(笙乃茅桜)。血と殺戮の女神。
シヴァの別名であるナタラージャはカリ様(煌羽レオ)。舞踊の神。
さっきまであーさは「自分のために歌い、踊れ」と言っているシャフリヤールだったのにw
インドに限らないけれども、神話の世界はややこしいですね。

きぃちゃん演じるラクシュミーは美と富と豊穣と幸運の女神。欲張りすぎるだろ!詰め込みすぎだろ!というくらいですが、きぃちゃんだもよねー。
ヴィシュヌの妻であります。神々のレベルでも夫婦。最高だな。
ところどころ歌詞でもサンスクリット語が出てきているようですね。
もっとも私は「ワン・ツー・スリー」という翔くんの歌詞しかわからなかったけど。無学。

咲ちゃんのラーヴァナはブラフマーに認められてスゴツヨの特権を得たり、ヴィシュヌに助けてもらって転生したりする羅刹の王。
そのほか大勢の男役ガンダルヴァは、奏楽神団。
神々の宮廷で美しい音楽を奏でる仕事についている。ここでもまた音楽モチーフ! さすがだいきほ。
大勢の娘役アプサラスは水の精。宮廷内での接待係。ガンダルヴァの奏でる音楽に合わせて踊ることもあったのでしょう。
ヒンドゥーサンスクリットが入り交じっているのはいいのだろうか、よくわからないですが。
パズドラでよく出てくるので、詳しい人もいるかもしれません。
極彩色がめまぐるしい中詰でした。『カルーセル輪舞曲』を思い出した人も多いでしょう。

第五章の中国は言わずとしれた『BUND/NEON上海』のオマージュ。
すごい。すごいデジャブだった。もう既視感が半端なかった。すごい。格好いい。
あのチャイナが好きな人はたまらんだろうなあ。
私はお帽子は顔が見えにくくなるので、あんまり得意ではないのですが、カリ様はすぐにわかったわ……動きって大事……。
歌姫が出てくるともう大変。どこを見たらいいかわからない。
ひらめちゃんもひまりちゃんもみちるちゃんもいますからね。でもやっぱり歌姫を見てしまう。
だって後ろに控えているのもはおりんとありすちゃんだよ。豪華なコーラスだな、本当。

このきぃちゃんの曲を「真彩ラップ」と言う人もあるようですが、あれはただ早口なだけでラップとは違うかなと個人的には思っております。
ラップだったら歌詞は脚韻もしくは頭韻が必要になってきますから(私が聞き取っていないだけで韻を踏んでいるようだったらゴメンナサイ/この場面、歌詞どころの騒ぎではない興奮がやってくる)。
おそらく高校の漢詩の授業でやったはずですよ、忘れているかもしれませんが。洋曲なら今でもよくある。
私はJ-popなるものをまるで聞かないのでよくわからないのですが、最近の曲は韻を踏んでいないのかしらね。
曲そのものはオリジナルではないので(エレクトルスイングとしてはわりと有名なキャラバンパレスの「LoneDigger」)、版権が気になるところです。
これは差し替えたらいかんよ。
生田先生が観劇なさったとき、ここは身体がリズムにのっていたとか。差し替えたらあかんよ。
頼むから差し替えないでね。これがこのショーにおける2番目のお願いです。
三人のタンゴはさながら『あかねさす紫の花』の中国マフィア版といったところでしょうか。
ダンスは苦手といっているきぃちゃんですが、そんな風にはとても見えなかったです。すばらしい。

第六章。これはちょっと私は注文がありまして。
異素材の布を組み合わせてできた黒い軍服、ダブルボタン、赤い腕章、これはアウトなのはないでしょうか。
もちろん腕章は無地ではあるけれども、嫌でも思い出すものがある。
ナチスを礼賛している場面では当然ないし、むしろ悪の象徴として「争いのコロス」として描かれている。
かろうじて娘役は軍服でもないし、ダブルボタンでもないのだけれども、黒いドレスに赤い腕章。
けれども、タカラジェンヌがそれをやると「格好良く」見えてしまう。これが問題なのではないでしょうか。
だからせめて腕章の色だけでも変えて欲しい。
さききわの鳩が出てくることで改心したことを示すために腕章はとれるのですが、頼むから、この腕章はよくない。
銃を持って、隊列組んで、そろったダンスを見せられると全体主義めいたものを連想してしまう。
金とか銀とか白とか、とにかく腕章の色だけでいいから変えて欲しい。円盤化する前に。頼む。
これがこのショーにおける1番のお願いです。

それにしても平和の象徴の白い鳩は咲ちゃん、ひらめちゃんでここでもプレプレお披露目感。
いや、よく似合っていましたし、ダイナミックなダンスはとても素敵でしたけどね。
白いお衣装ということもあって、せっかちな私は結婚式か!と思いましたね。
早すぎるわ。まだ前任者退団してませんって感じです。
ここまでプレプレお披露目!という具合を前面に出されると、退団するときには添い遂げで!という人も現れそうです。
私は添い遂げを強要したくないタイプだからなんとも言えないですが、気持ちはわからないでもないとうっかり思ってしまった。

第七章フィナーレ。ホープダイヤモンドを連想させる青い薔薇をもって銀橋0番だいもん登場。
上級生娘役との場面。ちょっと時間が短すぎて、一人ひとりを見ている時間が短くなってしまうのが惜しい。
もうちょっと、もうちょっと、引き延ばしてくれてもいいのよ。
あとせっかくだから全員がだいもんと少しずつ絡んでくれていいのよ。せっかくなんだから……っ!><
そして郡舞で青い薔薇は咲ちゃんへと手渡される。「俺は星はいらない」といった『食聖』を思い出しますね。バトンたっち! あみちゃんが後ろの列とはいえ、ほぼセンターにいることにもビックリしました。ありがとう、ありがとう。
雪組のスターの思い、希望といったところでしょう。
デュエットダンス、プログラムには「共に旅をした、最良のパートナーと共に、男は踊る。」ってすごい。
もうこれだけで涙が出てくるレベル。花組時代のあれやこれやから思い出される。走馬灯のように。


銀橋の並びは、下手から朝美・真彩・望海・彩風・彩凪で、彩彩コンビで並んだのは、好きな人にはたまらなかったことでしょう。
銀橋渡りも上手は望海が率いてやってきて、下手は真彩が率いて並んで、トップコンビが先頭になるのもよかったし、挨拶順も「朝美・真彩」「望海・彩風」からの「真彩・望海」とトップコンビになって、とてもよかったです。
やっぱりこういう順番はお作法として大切だと思う。

雪組『f f f -フォルティッシッシモ-』~歓喜に歌え!~感想

雪組公演

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ミュージカル・シンフォニア『f f f -フォルティッシッシモ-』~歓喜に歌え!~
作・演出/上田 久美子
レビュー・アラベスクシルクロード~盗賊と宝石~』
作・演出/生田 大和

実は最初に見たときには「おもしろい! すごい! しかしどうやって解釈すればいいのか?」と思い、各所でコメディタッチなところや印象に残ったところなど部分的な感想はいくらでも思いつくのだけれども、全体としてどういう作品だと考えるかというのが難しいなあ、なんといったらいいんだろうなあ、語彙力ないなあ……なんて途方に暮れていました。
けれども、その日の夜にお風呂で考えがまとまりました。
そうか、これは一つの「シンフォニー(交響曲)」なのか、と。
「ミュージカル・シンフォニア」というショルダータイトルはそういうわけか、なるほど。
私が観劇したのは芝居というよりもむしろ交響曲だと考えると、全体としてスッキリまとまりをもって腑に落ちました。
だから普通の「物語」としての文法を照らし合わせて、あれはこことつながっているとか、フラグを回収したな、とかそういう見方をしない方が私は楽しめました。
交響曲にもそれなりの「文法」があって、むしろそれを作り出したのが今回の主人公であるルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(ルイ)なのですが、今回は細かい音楽のカテゴリ(スケルツォとかメヌエットとかソナタとか)はともかくとして、交響曲にはガッツリ「序破急」「起承転結」の作り方の他に、「同一テーマの反復」という作り方があり、それと照らし合わせて今回の作品を読んでいくとおもしろいなと思った次第です。
だから多少観念的な話にはなるかと。

ここからはネタバレがありますので未見の方は注意です。

では、本作における「反復」される「同一テーマ」とはなんなのか、それが謎の女の正体なんだと思います。
本人は「誰のそばにもいる」「人生の不幸」と名乗ります。
ナポレオンの言葉を借りれば、「人間の苦しみ」とも言い換えられるでしょう。
ゲーテの言葉で言うなら「悩み」というところでしょうか。
そしてそれにルイは「運命」と名付ける。
厳密にいえば「不幸=運命」ではない。だからルイのやったことは「ラベルの張り替え」だ。新しい名前をつけた。
だから彼女は最後に白いお衣装に「生まれ変わる」。新しい概念として彼女を捉え直したから、彼女も変わった。

ルイは失恋、難聴、孤独といった「不幸な運命」を背負いながらも、それでも抗って、戦って、魂を込めて作った音楽で戦ってきた。
その音楽は確かに不幸の中から生まれたかも知れないけれども、その音楽は人々に不幸をもたらしたわけではない。
上田先生の講演会で「何が嫌いかわからなければ、何が好きかもわからない。感覚というのは相対的なものだ」というフレーズが印象に残っていますが、まさにそういうころなのではないでしょうか。
「何が不幸かわからなければ、何が幸い(歓喜・喜び)なのかもわからない」
だからルイは「不幸」という概念とともに「歓喜の歌」を作る。

天界という人知を超えた存在が大きな枠組みとしてあり、その中で、ナポレオンの苦しみ、ゲーテの苦しみ、現在のルイの苦しみ、過去のルイの苦しみといった「人々の苦しみ」が繰り返し描かれる。
これこそが「同一テーマの反復」であり、音楽(芝居)として「苦しみ」のクライマックスはナポレオンの苦しみだろう。
ここに描かれるナポレオンは史実のナポレオンではない。
百日天下を成功させたナポレオンの見る影もないが、それでいいのだろう。
ここに描かれているのはあくまでも「ルイが思い描くナポレオン」なのである。
「ルイが思い描くゲーテ」は政治家としてのゲーテ当人によって否定されてしまった。
「ルイが思い描くナポレオン」も皇帝となったナポレオンによって否定されてしまったが、ルイの夢の中に現れるナポレオンは「人は苦しむために生きる」と説く。
そんなのあんまりである、という反動をバネに自分の「苦悩」を人類の「不幸」とともに「歓喜」に変える「運命」を選ぶ。
すごいな、壮大だな。ビックリするわ。こんなの、見てすぐには気がつかないよ。
観劇したその日にゆっくり振り返る時間がとれてよかった。

大団円は見事である。
白いお衣装を着てみんなでぐるぐる回ってジャンプする。第九の完成である。
自身を「不幸」と名乗った謎の女は「運命」という新しい名前をつけられたことによって、白いお衣装に着替えて女神のようにルイのそばで微笑む。
なお、ルイは第十の交響曲も執筆中であったというが、完成する前に亡くなる。
だから第九の「歓喜の歌」が本当に最期の作品となる。

私たちはあらゆる「不幸」とともにある。
いや、なんていうかこの未曾有のウイルスが跋扈する世界でこの国の対応なんてのは、多少知恵のある人ならわかる通り「不幸」だと思うんですよ。
あんな支配者がいる国に生まれるなんて。
私たちはその「不幸」にどうやって戦ったらいいのだろう、抗うべきなのだろう。
そう考えずにはいられませんでした。

それから、作品全体が、過去の作品へのリスペクトにあふれている。
彩凪翔演じるゲーテが『春雷』であることは言うまでもなく(そのゲーテに携帯電話の存在を予見させたのはうまいなあ、しかもその携帯電話が悪しきSNSを生み出すのだから、思わず考え込んでしまう)、他にも例えば、望海風斗演じるルイの少年時代を演じるのが野々花ひまりであることは『ドン・ジュアン』を思い出させる。
真彩が銃口を望海に向けるところはさながら『ひかりふる路』だろうか。
中盤、第五交響曲を捧げることから、謎の女の正体がチラリとわかるあのコメディたっちな二人の会話は『20世紀号に乗って』のようでもある。
「ペンよりもパン!」って最高だな。あの真面目な声のトーンで言われたらねえ……笑。
しかしルイはそのパンも投げ捨てるわけですが。毎回そのパンの行方が変わりそうですね、あの軌道。
望海に対して「は?」と本気で、低い声で真彩が言うのもおもしろい。
ルイが体が密着するほど近づいてきたときのやりとりもよく似ていたな、と。
円盤化されないことに落胆しているファンへのやさしさ。ありがとう、上田先生。

また、本人たちは演じていませんが、謎の女がピストルを手渡すところは『エリザベート』のトートやトートダンサーのようでもあるし、『うたかたの恋』を連想する人もいるだろう。
ナポレオンの戴冠式のお衣装は『眠らない男』のものだった。
上田先生ってすごいな。天才か? これを『サパ』とほぼ同時並行しようとしていたというのがすごい。頭の中、どうなっているのだろう。情緒不安定になりそうだけど。
『サパ』はゴリゴリ「物語」の読み解きを必要とすると思っているし、次の『桜嵐記』もおそらくはそちらのタイプであろうから、少し違うタイプの物語を作ってみたくなったのでしょうか。いやはや、すばらしい。

すばらしいといえば、空のオーケストラピットの使い方ももはや神業レベル。
誰だって空のオケピを見るのが辛いと思った。
『アナスタシア』のときは御崎先生が指揮者として立ってくれたことがどれだけ心強かっただろう。
でも上田先生は「何ができないか」ではなく、「何ができるか」という発想で、オケピを十二分に舞台として使ってくれた。
とても嬉しかった。だから最初の場面は涙なしでは見ることができない。

よく回る盆、よく動くセリ、という印象もありますが、これも舞台上の人数を減らすのに効果的なのでしょう。
少々うるさい(物理的にというよりも精神的に気が散るとか)と感じる人もいるかもしれませんが、私はめまぐるしく変わるのがおもしろかったです。
それにしても大道具さんは、これは大忙しだろうなとは思いました。
裏方さんもどうか、最後まで無事でいてください。
銃に見立てたトランペットの大道具もすばらしかったです。

配役の小さな炎と黒炎の妙も効いていました。
小さな炎、それはルイの生きる希望。だから楽隊たちとベースの色は同じ。ルイにとって音楽とは生きる希望。
一度は黒炎に消されかけますが、ルイは「不幸」を乗り越え、再び音楽を作る。
黒炎こそトートダンサーのようなものでしょうか。
「ひとかけらの不幸」といいますか、まあ二人いるので「ふたかけらの不幸」とでもしておきましょう。

役者別の感想としては、まずはだいもん(望海風斗)もルイはもうミュージカル役者としての一つの完成形だと思います。
これを普通の男性が演じたら、暑苦しくなってしまいそうだなと。
ルイは重苦しくこそあれ、暑苦しくはないかなと思うのです。
音楽にまつわる話を最後に演じられる喜びもあるのかもしれません。
だいもんのご実家では父親がクラッシック曲を好んで聴いていたというので、喜びもひとしおではなかったことでしょう。
人格は別として、あの偉大な楽聖ベートーヴェンを演じることができる喜びをひしを感じました。
「サヨナラ公演に名作なし」という言葉を見事に覆してくれました。
上田先生も彼女にこそベートーヴェンを演じて欲しかったのでしょう。

指揮者が指揮棒を振ることは今でこそ当たり前になっていますが、ルイの時代はそういう習慣ができるかできないかギリギリのところ。
でもやっぱり指揮棒をもっていてくれると嬉しいよね。
ファンとしては『ファントム』も思い出すからさ。
ありがとう、上田先生。
ちなみに「fff(フォルテシッシモ)」なる記号を最初に用いたのはルイだとか、なんとか。私も何かで読みました。
最初、楽譜を見た人たちは「ff(フォルテッシモ)」の間違いでは?と思ったくらいだそうです。
ルイは楽譜の字も読みやすいとはいえなかったのでしょうね。

上田先生に「稀代の歌姫」と言われるきぃちゃん(真彩希帆)の謎の女もすばらしかった。
サヨナラ公演なのに、概念としてのお役で、しかもルイにしか見えないという設定だから、他の役者との絡みは確かに少ないのだけれども、その分濃厚にだいもんと絡んでくれて、本当に嬉しかったです。
しかも絡み方が今までになかったようなタイプで、もうなんていうか本当に新しい一面をありがとう。
ショーでも思いましたが、今回はやたらと高笑いが多いので、喉を大切になさってください。
上田先生と生田先生はきぃちゃんに高笑いして欲しかったんですね……笑。
あとは銀橋での演技は裸足でもありましたので、足下にもご注意ください。
突然ピンクのお衣装になったときは驚きましたが、それもルイの妄想ですしね! 愛らしかった。
ついでに大きな黒いリボンにピンクのお帽子?髪飾り?も素敵でした。
ルイが常に重苦しい「fff」であるのに対して、「ppp」の姿勢を貫くというだいきほの新しい関係もすばらしかったです。

次世代を引っ張っていくナポレオン役の咲ちゃん(彩風咲奈)はそつなくなんでもこなすという感じでしたね。
ひらめちゃん(朝月希和)との絡みがないのは残念でしたが、ショーではこれでもか!というくらいプレプレお披露目感が漂っていましたね。
素敵なコンビになってくれることを祈ります。

メッテルニヒのカリ様(煌羽レオ)は『N!ZM!!』のピンク髪+半袖腕まくりという出で立ちがうっかり性癖に刺さって大変なことになりましたが、今回のメッテルニヒもすごくよいー!
セリ上がりしているメッテルニヒと花道から銀橋にむかって歩きながら歌うルイの二人の曲が私はとても好きです。
あー早く『ル・サンク』でないかなー。正しい歌詞が早く知りたい。とても知りたい。
本当に完璧にメッテルニヒだよ? 私の想像通りだよ?
伊東甲子太郎のときもそうだったんだけど、本当に想像通りの甲子太郎だったんだよ?
拍手するしかねー! あとダーティーLEOも好きでした。要は悪役ってことか。

あすくん(久城あす)のサリエリは、どの媒体でもなかなかお目にかかれないほどの陽キャぶりを発揮して、新しいサリエリ像ができました。すばらしい。
映画『アマデウス』の印象が強い人も多く、サリエリモーツァルトに嫉妬していたという話もありますが、実際はモーツァルトの方がサリエリをうらやましがったという話もありますね。
宝塚で言えば星組ロックオペラモーツァルト』のサリエリ(凪七瑠海)とは全く違うサリエリに出会うことができました。
いや、これは目からうろこでした。すごい楽しいよ、あのサリエリ
みちるモーツァルトには「まだ宮廷楽長なんてやって! 実力ないくせに!」みたいな悪口を言われていますが、聞こえていてもにこにこしていそうなサリエリでした。

ゲルハルト役のあーさ(朝美絢)は、ルイが「少年」「青年」「大人」と役がわかれているのに対して、すべてを一人で担っておりましたので(もっともここをわけるとあーさの出番がさらに減るので仕方が無いかもしれません)、早変わりもあって大変だったと思いましたが、演じ分けもよかったですね。
少年時代の第一声なんかは月組時代を思い出すほどでした。
青年ルイ役のあみちゃん(彩海せら)との並びはうっとりでした。舞台写真欲しいくらいです。
あまり出番がなかったのは残念ですが、あれが最大限でしょう。

ルイの少年役を演じたひまりちゃん(野々花ひまり)、天国にも地獄にもいけないモーツァルトを演じたみちるちゃん(彩みちる)、オーストリア皇后を演じたカレンさん(千風カレン)、ブロイニング夫人を演じたすみれ姉さん(愛すみれ)、大好きな娘役ちゃんたちは何を演じていてもどこにいてもすぐに見つけました。
ひたすらに愛らしかったです。ありがとう。
でもひまりちゃんを何回もぶたないで~!>< 見ているこっちが痛い。
それくらい組長(奏乃はると)の演技もすばらしかったです。
あやなちゃん(綾凰華)にもちゃんと歌う場面がありました。
出番はそれほど多くないけれども、ルイの後ろ盾になっていてくれて本当にありがとう、ルドルフ大公。

最初に「同一テーマの反復」が主軸にある作品だと考察しましたが、これってうっかりすると眠くなるんですよね。
なんせ同じことが繰り返し起こるから。「人間の不幸・苦悩」がずっと続くから。
けれどもそうならないのは一重に役者の技量でしょう。本当に組子たちの芝居に支えられた(上田先生に鍛えられた)作品でした。

まあね、そもそも「だいもんがきぃちゃんと一緒に第九を作る」っていう筋書きだけで大優勝なんですよ、御託なんてどうでもいいんですよ。『SV』を思い出さずにはいられませんからね、ファンは。上田先生は本当に過去作品へのリスペクトがあるな。

今まで私が触れてきた多くの作品とタイプが違うので、良さをかみしめるのに時間がかかりそうな作品ですが、とてもとても良かったです。
ショーと合わせると、本当に胃もたれしそうです(笑)。
でも出会えて良かった作品です。
しばらくベートーヴェン関連の書籍をあさって読みながら、この作品に出会えた幸せもかみしめます。
ショーの感想はまた後で! 長くなりすぎた!

こちらも「宝石に扮したきぃちゃんを盗賊であるだいもんがシルクロードを渡って追いかける」という筋書きだけで大優勝で、今回は芝居もショーも大変満足でした。

2020年観劇振り返り

今日が仕事納めの人も多いのでしょうか。お疲れ様です。
私は一足先に仕事を納め、ぐーたら過ごしています。
ぐーたらついでに今年の観劇を振り返りました。
ちなみに、2019年観劇振り返りはこちら。

yukiko221b.hatenablog.com

花組 Grand Festival 『DANCE OLYMPIA』-Welcome to 2020-(作・演出/稲葉 太地) 1回
月組 デジタル・マジカル・ミュージカル 『出島小宇宙戦争』(作・演出/谷 貴矢) 1回
星組 幻想歌舞録 『眩耀の谷 ~舞い降りた新星~』(作・演出・振付/謝 珠栄)、Show Stars『Ray -星の光線-』(作・演出/中村 一徳) 5回
月組 ミュージカル・ロマン 『赤と黒』-原作 スタンダール-(脚本/柴田 侑宏、演出/中村 暁) 1回
雪組 ミュージカル 『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』(脚本・演出/小池 修一郎 ) 4回
宙組 『FLYING SAPA -フライング サパ-』(作・演出/上田 久美子) 3回
宙組 オリエンタル・テイル 『壮麗帝』(作・演出/樫畑 亜依子) 1回
雪組 ミュージカル・ロマン『炎のボレロ』(作/柴田 侑宏、演出/中村 暁)、ネオダイナミック・ショー『Music Revolution! -New Spirit-』(作・演出/中村 一徳) 1回
雪組 望海風斗 MEGA LIVE TOUR 『NOW! ZOOM ME!!』(作・演出/齋藤 吉正) 3回
専科・雪組公演 凪七瑠海コンサートロマンチック・ステージ『パッション・ダムール -愛の夢-』(作・演出/岡田 敬二) 1回
花組 ミュージカル浪漫『はいからさんが通る』(原作/大和 和紀「はいからさんが通る」(講談社KCDXデザート)(c)大和 和紀/講談社)(脚本・演出/小柳 奈穂子) 7回
月組 JAPAN TRADITIONAL REVUE 『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』(監修/坂東 玉三郎、作・演出/植田 紳爾)、ミュージカル『ピガール狂騒曲』〜シェイクスピア原作「十二夜」より〜(作・演出/原田 諒) 4回
星組 『エル・アルコン-鷹-』~青池保子原作「エル・アルコン-鷹-」「七つの海七つの空」より~(原作:青池 保子(秋田書店))( 脚本・演出/齋藤 吉正)、Show Stars『Ray -星の光線-』(作・演出/中村 一徳) 1回
星組 ミュージカル『シラノ・ド・ベルジュラック』(脚本・演出/大野 拓史) 1回
宙組 三井住友カードミュージカル『アナスタシア』(潤色・演出/稲葉 太地) 2回
※ライブ中継を含めた回数

※宝塚以外
『ロカビリー☆ジャック』(作・作詞・楽曲プロデュース/森雪之丞)(演出/岸谷五朗) 1回

37回のうち、宝塚以外が1公演しかないのが嫌でも目立つ。
『ロカビリー☆ジャック』も年の始めの方だったことを考えれば、コロナ以降、宝塚以外の観劇をしていなかったということですね。
ライブ中継が始まったおかげで、回数そのものは去年よりも少ないものの激減!という感じではない。
けれどもなーやっぱり生で観劇したいしなー。
3~7月までの5ヶ月もの間観劇しなかったのなんて、何年ぶりだろう。
少なくとも大学生のときにだってこんなことなかったぞ。

回数としては『はいからさんが通る』が最多の7回ですが、人生初の新人公演がなくなったうつろな気持ちは一生忘れられないだろうなと思っています。
「うらみ」ではなく「うつろ」です。劇団がそう判断したことも、よくわかるから。
オーケストラと新人公演が戻ってくる日が待ち遠しいです。

最近、オシゴトの関係で『はいからさんが通る』を何度も繰り返し見たり、原作を読んだりしているのですが、やはり私は原作が好きなんだなーということをしみじみ感じました。
環と鬼島の番外編『鷺草物語』は是非ともバウホールあたりで見たいです。
編集長の番外編『霧の朝 パリで』も見たいのです。あの美形を女性にはやれないといった作者の言葉が今でも忘れられないのです(笑)。

作品として良かったなあと思うのは、宙組『サパ』と月組『WWT』『ピガール狂騒曲』です。
上記の作品は宝塚初心者にも自信をもって勧められる作品です。

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来年は『fff』『桜嵐記』と退団公演×うえくみ先生の組み合わせが2本もあり、今いる5組のトップスター10人の顔ぶれが夏までに半分以上変わるという激動の年になりそうですが、コロナ、てめぇだけはおとなしくしてろよ?

それではみなさん、ごきげんよう。よいお年を!

星組『シラノ・ド・ベルジュラック』感想

星組公演

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ミュージカル『シラノ・ド・ベルジュラック
脚本・演出/大野 拓史

今更な感じですが、とてもおもしろかったので、ライブ中継を見ながらとったメモをもとに、ざっくりした感想をば。
基本的に「みっきー!」としか言っていません。天寿光希の芝居が知っていたけれども、すばらしかった。相変わらず……。
ちなみに併せてこの映画をおすすめしておきます。

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登場早々からいかにも「悪い人」のオーラがぷんぷんのみっきー。
もちろんそれはお衣装もあるのだろうけれども、目つきというか視線というか。ねっとりした目線がね、もうすごーくわかりやすく悪い人。素敵。悪い人エンジン、全開。
画面にうつるみっきーが悪い人で、そしていちいち格好良い。好き。
最近だと『龍の宮物語』もばりばりの「悪い人」でしたね。

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単調すぎだという人もいるようですが、私はとにかく場面転換が少ないのがストレスなく見ることができて、良かったです。
大劇場はともかくとして、別箱で場転が多いのは割と集中力が切れてしまいがちだからダメなのよね、私……。
もともとフランスの喜劇で、全5幕、ほぼ原作通りに進み、ゆったりした感じがフランスの優雅さというかエスプリというか、それらが助長に感じる人もまあいるだろうけれども、私は概ね良かったかなという感想です。
1幕は劇場→菓子屋→バルコニー、2幕は戦場→修道院という見事にわかりやすい5幕ですな。
大道具も工夫が凝らされていて、1幕の終わりのバルコニーの場面で使った階段の向きをかえると、確かに違った場所であるように見えて、2幕では戦地として使われていました。絶妙だな。

いきなり主人公が出てくるのではなく、世界観や周りの状況の提示から始まるタイプのお芝居で、リニエール(朝水りょう)が「皮肉屋の小汚い詩人」として出てくるのですが、うまいなあ……見せ場が序盤しかないのがもったいないくらいです。
「小汚い」ってレベルが難しいですよね、特にタカラジェンヌはみんなきれいな人が多いからさ。

そしてヒロインのロクサーヌ(小桜ほのか)がこれまたすばらしくキュート。
ツイッターでもつぶやいたのですが、時折みゆちゃん(咲妃みゆ)に見えることがあって、「あ、芝居がうまいんだな」と思いました。
ガツンと体育会系の今の星組ですが、丁寧に芝居をつくる人も多いんだな、ということに改めて気がつかされます。
ほのちゃんに関して言えば、圧倒的なヒロイン力とでもいいましょうか、娘役芸といいましょうか、美しかったですね。
本当になぜ次の演目が『ロミオとジュリエット』なのだろう……あの娘役の出番が全然ないことで有名な……寂しい。

菓子屋のきわみくん(極美慎)は、菓子屋なのに踊り出す、踊りがキレキレ。菓子屋なのに……。
ラストの場面は15年後という設定だったと思いますが、お衣装は変わらず。
別は故ということもあり、お衣装にはそれほど時間や予算を割けなかったのでしょうか。
せめてもう1着くらいあってもよかったのでは?と思ってしまいました。まあほのちゃんも喪服入れて4着だから仕方が無いのか。
「パンをつくるしか能が無い」と言われてしまいますが、この「パンを作る能力」が2幕では活躍します。

最初は白いドレスがよく似合っているほのちゃん、全然しゃべらないのね……と思っていたら、2回目に出てきたときには、わりと早々歌い始めて、そしてうたうめえ!ってなった。常識ですね、はい。
シラノと菓子屋で会う場面でお召しになっていたピンクのドレスは『異人たちのルネサンス』でまどか(星風まどか)が着用していたものでしょうか。
ちょっとベロアっぽい感じのあのドレス、とても好きなので、またお目にかかれて嬉しかったです。
3回目に出てきたときはもういきなり歌っていたしな。ブルーのドレス、かわいいな。
真珠のイヤリング、ネックレスと、ブレスレットもよくお似合いでした。部屋に入って出てきたらアクセサリー変わっていてびっくりしたけどな。これぞ娘役魂。
2幕で羽織っていたマントは『1789』でちゃぴトワネットがフェルゼンと密会するときに着ていたものかな。派手。

音寧姉さんはロクサーヌの侍女ということでしたが、ちょっと滑稽な感じでしたね。
どういう役作りなのwと思いながらも、生真面目な感じが愛らしかったです。
ドレスは『ひかりふる路』でみちるちゃんが着ていたお衣装かな。

1から10まで悪い人、格好いい人であるみっきーは目をカッ!と見開いた様子が大変に印象的ですし、マントさばきが美しいですし、本当にため息が出てくるレベル。
「今日はお別れに言いに来た」とか、ほんとうに仕草がまるっと伊達男!
むしろロクサーヌはどうしてあの熱烈な投げキッスをうけても惚れないのだろう……なぞだぞ。
1幕終わりでは無事にクリスチャンと結婚式を挙げる。

2幕ではロクサーヌがただのエスプリ好きのお姫様であるだけではなく、愛する人のためなら危険もおかさないタイプのお姫様であることもわかる。格好良いな。
そしてクリスチャン瀬央にかなり力強い対応をします。ひざまずいていながら、絶対にクリスチャンの手を離さない。
熱烈に語っている手紙を書いたのがクリスチャンでないことを知らずに手紙のお礼を必死に言うロクサーヌ
ここでようやくクリスチャンはシラノの気持ちに気がつく。しかし気がついてすぐに彼は砲弾に倒れる。
原作ものということもあろうが、物語の構造としては無駄がなくて大変よろしい。

夫がなくなったということで、ロクサーヌ修道院へ。
14、5年経った後ということらしいですが、落ち着いたほのちゃんの演技がこれまたすばらしかった。舌を巻く。
俗世のあらゆるしがらみから解き放たれた今のロクサーヌは、ド・ギッシュ伯爵を許すほどの大きな心の持ち主。
「許す」ということに関して、とても器が大きいな、と。こういう女性が描けるのがすばらしい。
そしてロクサーヌが手紙の本当の主に気がついて、シラノの死をもってエンド。
「どうしてその尊い秘密を今になって明かそうと思ったのですか」という台詞が好き。「尊い秘密」っていいな。

理事(もう理事ではないけれどもw)は、やっぱり声がなー><
主演となると台詞も増えるし、今回なんて口から生まれてきたかのようnエスプリ上手な役ということもあって、苦しかったかな。
公演期間が短いのはむしろ幸いだったかと。声はかれていくものですから。

フィナーレのみっきーがまさかの金髪でなくてびっくりしました。
長髪だったということもありましょうが、おお!新鮮!と思いました。最近フィナーレやショーでは金髪が多かったですから。
『龍の宮物語』のときも、え、一体どこに隠していたの?その金髪!!みたいな反応をしてしまったくらいなので。
きわみくんがマジやんちゃなのは再認識したのですが、それにしても娘役が少ないな。
音寧姉さんがセンターなのは、まあそうなるだろうけれども、そうか『エル・アルコン』チームにそんなに娘役をとられていたのか……と唖然。
デュエットダンスのほのちゃんの白いドレス姿は女神でしたね。ちょっと物足りない感じはありましたが、美しかったです。

星組は音波みのり、有沙瞳の両名の活躍も応援したいところですが、今回はほのちゃんのこれからの活躍も同じくらい願っております!

余談ですが、雪組のトップコンビプレお披露目が『ヴェネチアの紋章』『ル・ポァゾン』に決まりましたね。
古き良き宝塚の再現への期待が高まります。咲ちゃんは『炎のボレロ』に続いて柴田作品ですが、似合いそう。
この夏に『ヴェネチアの紋章』を見返して、ちょうど花組のれいはなで見たいなと思っていたところでした。
ええ、はかない夢となりましたがね……。

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一方で朝美氏主演のバウ+東上も決定。東上は故郷に錦の御旗を立てることになりましょう。
しかし朝美主演のバウとかチケット争奪戦がこれまた激しそうですね。
きむしん先生は『アーネスト・イン・ラブ』『蘭陵王』はよかったのですが、個人的に『リッツホテル』で原作との解釈違いを起こしてからちょっと微妙なのですが、うまく行くといいですね。
お相手は誰がつとめるのでしょうか。個人的にはみちるちゃんかひまりちゃんがいいなあ。おとなしく発表を待ちます。

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宙組『アナスタシア』感想

宙組公演

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三井住友カード ミュージカル『アナスタシア』
潤色・演出/稲葉 太地

アーニャ役であるまどか(星風まどか)がとにかくすばらしかった……っ!
さすが、タイトルロールなだけはあるよ!
なんで彼女のソロ曲があんなにも少ないかわからないよ!
お芝居も歌もダンスも、そしてデミトリ役の真風に寄り添うという娘役芸も本当にすばらしかった。
なんでこの二人のデュエットダンスを見るのが最後になるの……?ともう意味がわからなかった。
この二人のデュエットダンスで泣いたことなんて一度もなかったのに、思わず涙がほろりと。
とてもいいコンビに成長したのにね……っ!

海外ミュージカルものということで、初日の幕が開く前から予想できていたことではありますが、やはり役が少なくてもったいない……><と思う役者はたくさんいましたね。
やはり宝塚歌劇団という場所は「誰が演じている」ということも一つの楽しみとして提供されている場所でもありますから。
しかしそんな中でもみねりちゃん(天彩峰里)の少女時代のアナスタシアは幕開きから、もうべらぼうに可愛い。最高に可愛い。
そりゃマリア皇太后の1番のお気に入りになるわけだよ!と納得させられるし、マリア皇太后の威厳がありつつも孫娘を可愛がる様子が本当にすばらしくて……。
『神々の土地』では「兄ではなくアレクサンドラです!」「とにかくアレクサンドラはそう信じているようで……」と冒頭でアレクサンドラを批判しまくっていた副組長(美風舞良)がアレクサンドラ皇后役というのもおもしろくて、冒頭ではくすりと笑ってしまいました。
マリア皇太后との仲も相変わらず悪いようで、アナスタシアにオルゴールがプレゼントされたことを知るやいなやものすごい勢いで「今の時代に必要なのは、オルゴールではなく、お祈りです!」とキッパリと言い放つ姿に「陛下を守るのは神ではない!」と私の中のドミトリーが叫びました。すいません、『神々の土地』オタクなもので……。
父親に向かって「私は大公女、アナスタシア・ニコラエヴァナ・ロマノフよ!」と言い切る少女アナスタシアを演じたみねりちゃんがとにかく愛らしかったです。ラブリー。ソーキュート。

『神々の土地』関連で言うなら、最後に近い場面、マリア皇太后デミトリに「あなたを誤解していたのかもしれません」と言ったとき「そういう人生なんで」みたいな返答をしたときは、フェリックスううううう!!!!!と思いました。
あの人も誤解されやすい人ですよね。とっても友達思いなのに。デミトリ―思いというべきか。
なんといっても麗しのイレーネを救うために「ご自分のレンブラントを全部ボリシュヴィキに渡した」というくらいですから。
冒頭でデミトリがユスポフ家の劇場で暮らしていることがわかったときよりもときめきました。

ららちゃん(遥羽らら)がアレクセイで、そらくん(和希そら)がリリーという発表を見たときは、「なぜ娘役に女性の役を、男役に男性・少年の役を与えないのだ……?」とも思ったのですが、ららちゃんのアレクセイも、リリーのそらくんもすばらしかったです。
ららちゃんは2幕でしゃべったときに大変声が愛らしかったですね。
「秘密を教えてあげるよ。僕、もうすぐ死ぬんだ」「君は誰?」「そんなバカな!自分が誰かわからないなんて」みたいな台詞だったと思います。
台詞の真意はちょっと意味不明だな……と思いながら正直聞いていたのですが、声が大変すばらしかった。可愛い。

デミトリの悪友役である秋音光、紫藤りゅう、瑠依薪世、鷹翔千空の四人は、第1幕第6場でデミトリとアーニャの関係をからかったすぐあとの場面で、ロマノフの男性として早着替えで再び登場するのですが、これがまたすばらしい。
美しい青年貴公子になって白い軍服のお衣装で出てくる。早着替えがすばらいしこともさることながら、すぐに役を変えられる彼女たちもすばらしい。
そしてわかっていたことではありますが、このメンバーだとしどりゅーに目がいく。
しどりゅー、あの、芝居をしているときは「昔から宙組にいました」みたいな感じなのに、どうしてフィナーレのパートだと星男になって観客をあおるのですか……もう……すき。
スチール写真が白い軍服のお衣装でないのが残念だ。残念極まりない。

個人的にはデミトリと一緒にある女の子をアナスタシアに仕立て上げて一攫千金を狙うパートナーが、実はボリシュヴィキのスパイでした、みたいね展開の方が盛り上がるような気もするのですが、そうするとさらに役が少なくなってしまうのがまた難しいところですし、オリジナル版を踏襲している以上、そうできないのは仕方がないのかもしれません。
でもヘラヘラしながらデミトリの相棒やっているききちゃん(芹香斗亜)が実は冷酷なスパイでした、みたいな2面性、見てみたくないですか?
私はとっても見てみたいです。

第1幕、パリ行きの列車に乗る場面はやけにシリアスで、りんきら(凛城きら)演じるイポリトフ伯爵が歌い出す。
時計の針が動く演出は印象的ですが、あまりにもシリアスで、そのままみんなが列車に乗っていくものだから、てっきりここで1幕が終わるのかと思うほどでした。
アナスタシアを見て伯爵が「神のご加護がありますように」と言うのも印象深く、伯爵は一目見ただけで実は彼女がアナスタシアであることを見抜いたのではないかと思うほど。
もっともここで1幕は終わらず、紆余曲折を経て、パリの風景を見下ろして終わるわけですが。
この終わり方も結構好きで、パリの風景を見に行ったはずのアーニャが歌うためだけに戻ってきたように見える演出はなんとかして欲しいのですが、デミトリとアーニャがパリの風景を見下ろしながらせり上がっていく上手からグレブという魔の手が近づいていることを暗示するのは美しかったです。

ダイヤモンドの存在を明かしたことでロシアを出国できることになったのですが、アーニャに「本当に信頼できる人にしかこの存在を教えてはいけない」と言った看護婦はおそらくアーニャの正体を知っていたのだろうなあ、となんとなく思いました。
アーニャという名前を与えたのも彼女でしょう。
個人的にはキーパーソンだと思っているのですが、これ以上話を膨らませるわけにもいかないのかな。

ラストのデミトリの「俺は手を伸ばしても届かない人を愛し続けることはできない」という台詞はとても素敵ですね。少年少女時代に実はパレードで目が合っていた、というエピソードはいかにも宝塚が好きそうな感じですが、あの場面は芝居の中にはないにもかかわらず、目に浮かぶようで……好き。
実は1幕にフラグが立っていたことには2回目に気がついたことでしたが、あのパレードで手を振る美しいアナスタシアとそれを薄汚れた少年デミトリが見ている様子が想像できて、とても好きです。
ここはいい演出でした。

ちょっと残念だったのは舞台装置かな。
第2幕のバレエを見る場面、あの舞台装置はセンターの席からでないとよく見えないかと。
上手と下手のボックス席に座るデミトリとアーニャ、マリア皇太后とリリー、そしてその奥の枠の中で繰り広げられる「白鳥の湖」は上手からはちょっとよく見えない部分が多く、しょぼんとなりました。
とはいえ、本公演だから舞台装置を大がかりにしたい気持ちもわかりますし、難しいですね。
そんなことより優希しおんくんのロットバルトは最高でしたね。ノリノリじゃねぇの!
なんでジークフリートに負けるかがわからんくらい格好良かったです。しびれました。

ただ2幕頭の橋と坂の舞台装置はとてもよくて、後ろにいる生徒もよくわかる。
下級生がよくわかるのはとてもいい。
アーニャが橋の名前を答えるときはブックレット?観光本?を見ずに言って、「昔、聞いたことがある気がする」みたいな台詞が挟まってもいいかなと思いましたが。

そしてだいぶ残念だったのが脚本ですかね……。
細かいこというようで本当に申し訳ないのですが、文章を構造的に読むのが仕事なものでどうしても気になる職業病だと思っていただければ。
2回見たから「アーニャはデミトリたちに会ってから、本当に自分がアナスタシアだと思っていたこと」「デミトリの幼少時代のたった一度のお辞儀の意味」の2つを理解できたのですが、いまいち演出が足りないと思うのです。
ちゃんとその言葉が観客の印象に残るような演出が欲しいかなーそんなに尺はとらなくてもいいからさ。
後者は歌詞にも入っているはずなのに、なんだか印象に残らないんですよね。

2回見てもわからなかったのは「アーニャはいつ自分がアナスタシアだと確信したのか」「マリア皇太后はなぜアーニャの部屋を訪れたのか」の2つですかね。
デミトリもアーニャも、もしかしたら本物のアナスタシアかも?と疑念を抱いたのは、おそらくオルゴールをアーニャが難なく開けたタイミングだと思いますし、デミトリが確信したのは、「皇女様」といって白いお衣装同士でひざまずいた場面だと思うのですが(しかしここの演出もなんか印象に残らない。役者の力量だけでインパクトを残しているような気がする。音楽や照明をカットアウトにしたらどうだろう)、アーニャ自身はいつ確信したのかさっぱりわからず、ホテルでマリア皇太后と対峙しているとき突然アナスタシアだった頃の記憶をぺらぺらと流暢にしゃべりだすから、一瞬私は置いてかれてしまいました。
あ、記憶戻っていたのね、みたいな。

マリア皇太后もそもそもなぜアーニャに会う気になって、わざわざ自分でホテルまで足を運んでのはか全くわからなかったわ。
会う気になったらなら、もう一度呼び寄せればいいのでは? なぜ自分できた? いや、皇太后だよ???みたいな疑問が。
そもそもバレエの時点で「おや?」と思っているわけだし、1度目で会ってあげてもいいような流れでしたが、それを裏切ってくるのはよくある方法かと思うのですが、そのあとのデミトリがマリア皇太后にぶつけた言葉にそれほど説得力があるようにも思えず、マリア皇太后の心変わりの理由もよくわかりませんでした。
「最初はアナスタシアに仕立て上げようと思ったけれども、今は本物のアナスタシアだと確信しています。だから会ってください」とストレートに言えばいいものを、なんだかよくわからないことを長々としゃべって背を向けたという感じになっているのがなんとも。
もちろん現実にそういう場面になったら、あたふたしてよくわからないことを述べるということはあるかもしれませんが、これ、お芝居ですからね……?

ラストはたたみかけるように意味がわかないところが多く、記者会見するといいながら「あなたの彼は?」と言って、マリア皇太后はアナスタシアから離れていくし、突然グレブがどこからともなく現れて「ここの警備はどうなっているんだ?」と思わざるをえないし(少なくともマリア皇太后が近くにいるような場所の警護ですよ?)、グレブは殺せないままなのはわかるとして、「財産を受け継ぐ者としてアナスタシアを発表する日」であるといって、おや、記者会見とは違う日なのか?同じ日なのか?と思って、時間軸が行方不明のまま、橋の場面でアーニャとデミトリが再会、ダンスして完!って、ええええええと思ってしまいました。
おとぎ話だからこれでいのか? ふんわり雰囲気わたがしみたいなラストでした……全くわからんかった……。

台詞でもかみあっているのかないのかよくわからない場所がいくつかありました。
マリア皇太后とアナスタシアの写真撮影のあと「誰もあなたの発言を否定しないようになるわ」「そんなのおかしいわ」「ところであなたの彼は?」というようなやりとりがあったと思うのですが、んんん?どういうこと???と思いましたし、2幕冒頭の橋の場面でも「バスタブのお湯は残しておいてよ!」「気をつけろよ」「うん」というデミトリとアーニャのやりとりも、なんか一言足りないような……ともやもやしました。
壬生義士伝』のときも脚本に赤ペン先生したいわ……と思ったけれども、今回も思ってしまった。
稲葉先生ってショーのイメージが強いからな。
最近の芝居だと『WEST SIDE STORY』もあるけれども、やはり海外ミュージカルなのね。
『WSS』そのものを私はあんまりかってないからな……。

第2幕はリリーが大活躍ですが、ヴラドに再会したリリーの反応も実は私はあんまりよくわかっていないのですよ。
死んだと思っていた元恋人が生きていて、わざわざ会いに来たという事実に対して、「過去の異物」と思っているのか「会いに来てくれて嬉しい」と思っているのか、その両方で揺れ動いていてもいいのですが、芝居野中では変化には要因が必要で、揺れ動いている要因がよくわからないな……と。
うれし恥ずかし、というわけでもないし、完全にコケにしているわけでもなさそうですし。
「あなたが愛したリリーかしら?」というのも突き放すために言っているのか、今の私も愛してくれるかしら?というニュアンスで言っているのか、どっちだろう……。

男女のやりとりでいえば、バレエを見に行くためにきれいに着飾ったデミトリの蝶ネクタイを、これまた大変美しいお衣装に早着替えして出てきたアーニャが直してあげようとしているのを、デミトリは嫌がるけれども、そのすぐあとに腕を組むように示す。
いちゃいちゃしたいのか、したくないのか、どっちやねん。

あと、気になることといえば冒頭でアナスタシアがベッドにオルゴールを取りに来る場面。
完全にゴリンスキーと鉢合わせているのに、アナスタシアは無事なんですよね……。
最初、ゴリンスキーがグレブの父親かと思ったのですが、グレブの父親はロマノフ一家を銃殺した後、「己を蔑んで死んだ」と母親は言ったというくらいですから、違うんでしょうね。
グレブパパとゴリンスキーは同僚で、同じようにロマノフ一家の処刑に立ち会ったけれども、前者は「己を蔑んで」、後者はいまだに新政府の役人として、生き残りのロマノフを追っている、といったところでしょうか。
自分が殺し損ねた娘を自分で片付けるのではなく、かつての同僚の息子に頼むってどういう心境なんでしょう。
ゴリンスキーは繰り返しグレブに「父親の意志を継げ」といいますもんね。
グレブ自身も「信じている彼の誇りを」と歌う。
実は父親、精神でも病んだのでは?と勘ぐってしまうな。

それから宙組に詳しい方にお聞きしたいのですが、本日A日程のフィナーレのパレード、トップスターたちが銀橋挨拶する前の段階で、上手の花道にいる、右から数えて2人目の頭身おばけの男役さんはどなたでしょうか……10秒に一回くらいウインクしていて、私も見事に被弾したのですが……。
マチネ公演でドキドキしたのですが、おもわずソワレ公演でもオペラグラスで見ていたところ、やはりしゃんしゃんを持ちながら、ウインクを飛ばしまくっていたので、これは自分を見ていると思った人には手当たり次第ウインクしているな?と思っていたところ、オペラ越しで再び被弾しました。
プログラムを見ても全くわからない……スタイルで覚えているからか……。

あと気になった下級生は、ネヴァクラブのギャルソンヌのお嬢さんを演じた愛未サラさんとロケットの一番上手で小さい身長ながらも輝いている栞菜ひまりちゃんのお二方の娘役です。
サラさんはもともと美人だなーと思っていたのですが、歌って踊っている姿はとても美しかったです。
ひまりちゃんは、160センチない中、一生懸命なのが大変に愛らしかったです。
個人的には山吹ひばりちゃんも応援しているのですが、今回はA日程だったので、残念ながらお目にかかれませんでした。残念!
AとBにわかれてもプログラムの最後のページの下級生さんたちは本当に少ししか出番がなくてかわいそうだな……。
次の生田先生、頼むよ!

フィナーレの曲は『NZM!!』の第1幕最後の「ノゾミ~♪」に聞こえた気もしますが、私だけかしら。

星組『エル・アルコン-鷹-』『Ray -星の光線-』感想

星組公演

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グランステージ『エル・アルコン-鷹-』
青池保子原作「エル・アルコン-鷹-」「七つの海七つの空」より~
 原作:青池 保子(秋田書店)  脚本・演出/齋藤 吉正

Show Stars『Ray -星の光線-』
作・演出/中村 一徳

開演アナウンスがやけに低い声で、もうここから完全にティリアン入っているな、という感じでしたが、幕開き一発目、ビジュアルもまたかなり初演に寄せてきている印象でした。

初演は大好きな瞳子安蘭けい)とあすか(遠野あすか)でしたが、当時はまだ実家暮らし&受験期だったこともあり、生で観劇はできておりません。
映像で見た記憶はあるのですが、今回の再演を見て「後半、全く記憶にない。いつ終わるんだ?」と思ったので、印象としてはその程度だったのでしょう。
再演するなら「多すぎる録音の心情台詞のカット」「女性が無理やり襲われる場面のカット」「ティリアンの野望の明示」の3つはせめて直してほしいと思っていたのですが、見事にそのどれもが実現していなくて本当にもう……原田先生は一皮剥けましたよ、あなたはいつ剥けるのですかヨシマサ先生……。
今回の再演に向けて分厚い原作を読みましたので、わたしは脳内補完ができましたが、場面はぶつ切りだし、話は飛び飛びだし、キャラクターの気持ちはまあわからんでもないのだが、「でもなんでそう思うの?」「だから何なの?」みたいな虚しい疑問が脳裏を過りまくりましたね。
このあたりの換骨奪胎は小柳先生に弟子入りした方がいいのではないでしょうか。
「七つの海、七つの空を手に入れる」ということはつまりどういうことなのか、「スペインの無敵艦隊の総司令になりなる」とか具体的なこと言ってください。

こっちゃん(礼真琴)は、13年前予科生としてこの作品を見て、えらく感動したという話ですが、本に感動できない以上、役者に説得力があったということでしょう。
噂に聞くところによるとあかさんもお年玉を注ぎ込んで見ていたとか。
「そんないい作品か?」と映像でしか見ていない私は思わず穿った見方をしてしまいますが、生で見た方がおっしゃているのだから、やはり役者がすばらしかったのでしょう。
本はダメだよ、どうにもならん。
プログラムで「13年前予科生として、熱狂してこの作品を見た生徒が今では星組のトップスターになった」とヨシマサ先生のお言葉がありましたが、それを詠んだ時に「あれ、ひっとん(舞空瞳)はまだ102期生だぞ?」と思った私をお許しください。
ひっとんの話では当然ない。こっちゃんの話だよって感じですよね。すいません。

そして私は「海賊が好き」と無邪気に言ってしまう、そういところが実はあんまり得意ではないのだなと思いました。歌もダンスも上手いのは認めるのですけれどもね……。

しかしトップスターがやりたいという作品があることと、その作品が再演に耐えうるものであるかどうかということは全くの別問題ではないでしょうか。
今後もこっちゃんがやりたいと言っていた『ロミオとジュリエット』を上演することが決まっていますが、こちらも娘役の数が少ないという問題は以前から指摘されていたはずです。
まあBOXを買っておいて、ケチつけるなという話でもありますが、逆に言えば、BOXを買ったから文句も言えるのよ!という感じでしょうか。
『1789』ももしかしたらこのコンビで上演されることがあるかもしれません。
そのときはぜひオランプ役はひっとんにしましょう。
そして何よりオリジナルの脚本を待っています。なんのための座付き演出家!
トップスターのやりたい作品の願いはわりと叶えられるのに対して、トップ娘役の願いはなかなか叶えられないことにもなんとなく不満があるのかもしれません。
そう考えると雪組の『ファントム』は、コンビの熱い気持ちが再演にゴーをかけたのでしょう。これもまた再演する価値のある作品かどうかは微妙ですが。

さて肝心の再演ですが、役者という意味ではとてもよくて、ティリアンをやりたくてたまらなかったというこっちゃんはもとより、愛らしくも気高い貴族兼女海賊をのギルダを演じたひっとんも、ラスプーチンとか黒太子とか次の死とかやたらと黒いイメージのある愛ちゃん(愛月ひかる)のレッドはとてもよかった。
それだけに本が……とも思う。何度も言うよ。
同じ紺色のドレスでも、袖から出てくるたびに違う髪型、髪飾りになって、娘役魂が炸裂しているはるこさん(音波みのり)、ティリアンに情報を提供する酒場の踊り子スサーナを演じたあんる姉さん(夢妃杏瑠)、堂々たるエリザベス女王を滑稽味をふまえて演じた副組長なっちゃん(白妙なつ)、レッドを支援する根っからの海賊ブラックを演じたかのんちゃん(天飛華音)あたりが印象に残っています。
ラストの愛ちゃんとかのんちゃんの並びは、おお!これは!よき!と思わず拍手をする勢い。このコンビ、バウや別箱でいかがでしょうか。

ひっとんは、もはや娘役トップスターとして向かう所敵なし!という出立でしたね。
ドレス姿は踊り難かったかと思いますが、エリザベス女王ばりの襟の白いドレス、女海賊として仲間を率いるショッキングピンクのドレス、シリアスな場面で着ている紫のドレス、いまわのきわの黒いドレス、ラストの天国でのホワイトベージュのドレス、どれも本当によく着こなしていました。
髪型もアップスタイル、おろしているスタイル、どれも美しかったです。
どれが一体舞台写真になるのでしょうか。とても楽しみです。どれも欲しいわ!
海軍中佐相手でもひるむことなく、首を取る気満々の強気の女性は大好物です。すばらしい。
だからもっとキャラクターを書き込んでやれよって思いましたよ、余計に。
ただ少し痩せてしまったでしょうか? しっかり食べていますか? 心配しています。
迫力のある歌声、ダンスにはある程度の筋力、脂肪も必要でしょう。

キャプテン・ブラックを演じたかのんちゃんもとてもよかったです。
あの脚本だと、ちょっと出てきてすぐにレッドの味方になってしまい、なんやねんというところはありますが、芝居はとても良かった。
レッドがスペインに亡命するティリアンを追いかけようとするところを止める姿が大変に勇ましかったです。
かのんちゃんは特にお顔が好みというわけではないのですが(すいません)とにかくお芝居から目を離せない役者だなと思っています。
『エルベ』のときのヨーニーがいまだに忘れられないのです。あれはとてもよかった……。

「乙女心がピンクに染まる~♪」の歌詞の破壊力は相変わらずすごいですが、同じボケ担当なら『アーネスト・イン・ラブ』のセシリー嬢が歌う「悪い人」も負けていません。
気になった人はぜひ検索してみてください。
今回の曲に負けず劣らず、ぶっ飛んじゃうような歌詞だからw
1から10までツッコミどころしかない。
ちなみに私は大好きです。

ラストの白いお衣装のティリアンとギルだはTHE宝塚という感じで、また二人が抱き合うわけでもなく、それぞれが自分の足で立っているというのが印象的でしたが、天国ですかね?
天国なんだろうなあ、しかしギルダはともかくティリアンは天国に行けるのかなあ、なんて思ったり……。
ダーティーヒーローを宝塚で上演するのは全く構わないのですが、ラストが難しいのかもしれません。


『Ray』のオープニングでは思わず天寿光希を探してしまいました。いないよって話ですよね。セルフツッコミ。
いや、あの紫のお衣装に金髪のみっきーがあまりにも好きすぎて、つい……なんて罪な人なのだろうか……好き。

ひっとんの曲が増えていたのが嬉しい限りです。
オープニングの「あなたの輝きに彩られ~♪」と歌いだすかと思いきや、愛ちゃんとデュエットで新しい歌詞をいただきました。
そして中詰、謎の霊鳥の場面でも冒頭にピンクの大きなセンスをもってソロをいただきました。
どれも素敵です。こういう変更があるから全ツ版の楽しみはやめられない。
しかしオープニング直後のこっちゃんとひっとんのデュエットソングがなくなったのは残念でした。
あれ、好きだったのにー!
残しても良かったのでは?と全体の構成を見ても思うのですが、いかがでしょうか。
なんでこっちゃんの元気はつらつなソロになってしまったのだろう。
あの曲の振り付けが密だったのがいけないのか……。

はるこさんの鬘がショーでも本当に見応えがあって工夫が凝らされていて、娘役の鏡だなと思いました。
思わず見てしまう。すばらしい。
星娘たちはこういう技術を今の内にきちんと教わっておいてくださいね。受け継いでくださいね。
あとは画面に映らなくても袖て歌っているのがすぐにわかるなつさん。
圧倒的な歌唱力。安心安全信頼の歌唱力。きっと肺活量もすごいんだろうなあ。

肺活量といえば、こちらも負けていないのがことひとのデュエットダンス。
音楽は「星に願いを」でした。
こっちゃんの衣装が赤×黒だから、最初に出てきたときに「ねずみか?」と思ったのですが、曲もディズニーだったので、浦安に思いを馳せた人はおおいことでしょう。
本公演のデュエットダンスよりも好きかもしれません。
しかし一番好きなデュエットダンスは『ロクモ』のときのデュエダンです。
あれはすばらしかった。あんなハイレベルのデュエダンを最初に見せられたらなんていうかもう……言葉がない。
しかしこの二人、踊り終わっても全然息が上がっていない。ぜいぜいしていない。胸が大きく動いていない。すごい。
筋肉の付き方の問題もあるでしょうけれども、肺活量もすごいんでしょうね。

五輪の差し替えは本当によかった。救われた。ありがとう、一徳先生。
そのままだったらどうしようかと思った。
早く中止にならないかな。
一徳先生の作品のフィナーレ冒頭は、例えば『MusicRevolution!-NewSpirit-』の「Such a Nirgt」もそうなのですが、今回の「星にスイング」も配役が変わったり演出が変わったりしても大変好き。
本公演バージョンから好きでしたが、今回のもだいぶ好きです。
ぴーすけとかのんちゃんという配役も私得でありますし、何よりお衣装が好き。
ぴーすけもかのんちゃんもひっとんも後ろのすみれ色のお衣装も全部好き。
要はシルバー系のノーブルなお衣装が好きなんでしょうね。
ひっとんは髪形がフェリシアのようでこれまた可憐。好き。最高。愛らしい。天使。
しかしやはり痩せたのでしょうか。ちょっと首回り、胸回りのすきすき具合が気になりました。ちゃんと食べているかしら……。
とにかく心配です。
貴重な娘役トップスターですから。大切にしてあげてください、劇団のえらい人たち。


本日11月30日は星蘭ひとみの退団日。
袴での儀式もなく、お別れということが寂しくてたまりません。
今までありがとうございました。類稀な美貌が忘れられません。『鎌足』『ロクモ』あたりの採用のされ方が良かったと思っています。
これからの活躍を祈っています。

そして衝撃的な人事の発表もありました。
なんて過激団なの、というしょうもないギャグはさておき、もやもやが残ります。
やはりこれは華ちゃんが残留してくれることが私の唯一の希望ですが、華ちゃんの決断も応援したいジレンマです。言っても詮無きことですね。
来月に控えた『アナスタシア』を見る目がだいぶ変わると思われます。

映画『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』感想

cyranoniaitai.com

映画『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』(現代『Edmon』)
監督・原案・脚本:アレクシス・ミシャリク
主演:トマ・ソリヴェレス

映画『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』を鑑賞。たいへんおもしろかったです。
たくさんの人に見て欲しい映画です。映画館に行くのが怖いという人もいそうですが、これは見て後悔しない作品。
ちなみに『シラノ・ド・ベルジュラック』はもうすぐ星組で開幕予定。

kageki.hankyu.co.jp


作中に出てくるムーラン・ルージュ月組『ピガール狂騒曲』の舞台そのものですし、舞台裏の話という観点でも共通のおもしろさがあります。

kageki.hankyu.co.jp


言葉だけですが「ダルタニアン」も出てくるので、『All for One』ファンも楽しめるかも。
チェーホフも出てくるので星組『かもめ』の連想も可能です。宝塚らしくない作品と言われがちですが、私は好きです。
しかしこれら宝塚要素を無視しても、とにかくおもしろかった!とすっきり思える映画でした。

1895年、フランスパリ。詩劇作家のエドモンは作品を上演するものの、劇場支配人にはすぐに打ち切りだと告げられる。
才能を信じてくれていた妻もスランプが2年続くと家事や子育てのお金も回らなくなり、心が離れていく。
ある日、俳優で友人のレオが想い人であるジャンヌへの愛の言葉を代弁する。
すると今までのスランプが嘘のように作品のアイデアが浮かんできたエドモンはレオには内密に、レオとしてジャンヌと文通を始める。
四苦八苦ののち作品は完成するものの、個性的すぎる俳優、押しの強すぎる出資者、劇場を使わせないように奮闘する劇場支配人などなど問題は山積み。
シラノ・ド・ベルジュラック』の創作秘話を、作品へのオマージュたっぷりでお届けする2時間映画。

この話を映画にするために15年もかけたという監督の意気込みを感じずにはいられませんでした。
実際にこの映画の制作費が、同じ作品の舞台の収益によっているというのもおもしろい。
というか映画の本を書いたときには出資者が集まらなくて、それを舞台版に書き直したら出資してくれる人が出てくるというのはおもしろいなあ。
監督の多彩な才能を感じずにはいられません。
本人も役者として出演しておりますし。
小説も書いているとか。すごいな。神は二才を与えたもうか。

まずは大好きなキャラクターから。
カフェオノレ亭の黒人店長がしびれる。とにかく痺れる。最初からいい。
最高にクールだね!
「義父が残してくれたのは、カフェと詩を愛する心」という台詞が印象的です。
よい義父だったのね……と出てもいない義父にまで思いを馳せてしまったよ。いい作品だな、本当。
最初に黒人であることを逆に馬鹿にされた彼は、教養のない客はいらないと言わんばかりに、しかし暴力に頼ることなく、自身の深い知識教養によって啖呵を切って、客をやり込め、見事に追い出す。
それを見ている客たちは、拍手で店長を迎える。
その客たちは、当然白人が多いのだけれども、当時のパリでもこういう黒人は受け入れられたのでしょうか。
映画の演出としては大変面白かったのですが、フランスに旅行したときにあからさまな差別を目の当たりにした身としては、当時の差別問題という重い現実を思い出しました。

要所に出てくるキーパーソンなのに、映画のパンフレットには取り上げられておりません。悲しいかな。
調べてみると、どうやらこの役者さんは2019年に亡くなっているようです。
コロナでないといいのですが……コロナでないならいいというわけではありませんが、そんなことが脳裏をよぎりましま。
「芸術家よ、無法者であれ!」と言ってカフェから劇場に進軍を促す場面も素敵でしたし、進軍する様子はさすがフランス革命の国だと思いました。
この場面は映画の公式ホームページの予告でも見られるので、ぜひそこだけでも多くの人に見て欲しい。
芸術家、ひいてはアーティストは無法者、ちょっと反社会的だったり、ちょっと斜に構えたくらいでなければ、やはりおもしろいものは作れないですよね。
なんていうか「総理倶楽部」とか言っている場合ではないのだよ。

もう一人、個人的なキーパーソンは、娼館に出てきた謎のロシア人。
いかにもロシア人という風体で、結核だといい、女遊びはせず、やたらとうまいことを言う。
パリで豪遊できるくらいのお金持ちというところか。
その名もアントン・チェーホフ
そりゃそーだわ!そーだろーね!
うまいこと言うわけだよ!
「嫉妬深い妻に許しをもらうためには?」というエドモンの問いに「もうすぐ死ぬから許して」と答える。
人間はいつか死ぬ。だから嘘ではない、と。
そしてエドモンは『シラノ』のラストシーンを思いつく。
「着想と出会う」とはまさにこういうことなのでしょう。
この映画にはそういう場面が何回も出てきますが、この場面が一番痺れます。
この場面においてチェーホフに「度がすぎるほど楽しんでいる」と言われている友人のロシア人は、しっかりというかちゃっかりというか『シラノ』の初日を観に来ていて、ばっちり感動していました。
感情の起伏が激しいようで(笑)。
チェーホフは特に大きなアクションは起こさないものの非常に満足した様子でした。

自由人が多い映画ですが、個人的にベスト・オブ・自由人はサラ・ベルナールでしょう。
それこそロートレックのミューズですが、このころはもうアメリカでも仕事をしているらしく(アメリカの客はうるさい客、フランスの客は上質な客という考え方に笑ったw)、たまたまフランスに戻ってきていたわずかな時間をエドモンのために割き、エドモンと名優コクランと引き合わせた張本人です。
まあ、時間をつくるだけ作って、引き合わせるその場に自分がいないというところが、自由人が自由人たるゆえんなのですが。
『シラノ』の初日も、招待されていなかったのか、いたけれども忘れていたのかは定かではありませんが、全5幕のうち、最後の幕だけ見に来る。
それもヘアセットの途中でw
「まだ終わっていません!」というスタイリストに対して、「私はこれが気に入っているのよ~」とかいって、出て行ってしまう。自由すぎるだろ。

レオは当然、手紙など送っていないのに「情熱的な手紙をありがとう。最初は顔が気に入っていたけれども、今はあなたの魂が好きよ」というようなことをいうジャンヌに不信感をもつ。
手紙を送っているのはエドモンなのだから。
最初にうっかり男の人と熱いキスをしてしまったあのうっかりレオが、愛するジャンヌのためにラストでは詩の勉強をする。感動。
好きな人のために変わることができるってとても素敵ね。

ラストは熱情的なくちづけ祭りです(笑)。
ジャンヌは『シラノ』の幕が下りた後、レオに熱いキスをします。
しかしそのあとレオがカーテンコールで舞台に戻ると、エドモンにも熱いキスをします。
こういうところがフランス映画っぽいなと思ったわけですよ。
情熱的なフランス女が舌の根も乾かぬうちにというか唇も乾かぬうちに他の男とキスをする(褒めています)。
まあ、前者は愛情のキスで、後者は友情(友愛?)のキスなんでしょうけれども。

これはちょっと私には真似できないなーと思っていたら、ジャンヌが舞台袖から姿を消した後、エドモンの妻・ロズモンドが今度は現れる。
嫉妬深い(と言われている)(少なくとも私はそうは思わなかったぞ、あれくらい普通だぞ)ロズモンドは、しかし冒頭ではとてもエドモンの才能を信じている。
あの場面があって良かったと思うのは、この最後の最後の場面ですですね。
「作品を作ったあなたとあなたの愛人に感謝だわ」と言うような台詞があり、そのままエドモンに熱いキスをします。
一緒に観に行った旦那は「奥さんは結局勘違いしたままだった」と言いますが、私はあながち勘違いではなかったのかなと思います。
作品のミューズというのは聞こえはいいかもしませんが、『シラノ』の幕が降りた後、レオとジャンヌがこれまた熱いキスをしている様子を見ているエドモンのあの眼差しは「作品のミューズってだけか?」と思ってしまいました。
ロートレックサラ・ベルナールの関係も、どうだったんでしょうかね。
ちなみに作中に出てくる『シラノ』のポスターはロートレック風味でありました。
ロズモンドを演じたアリス・ドゥ・ランクザンは私の大好きな映画『婚約者の友人』にも出演しております。

ラストは以上のように4回も熱いキスが繰り広げられる(ちなみに客席でサラがオノレにも熱いキスをしていた)わけですが、そのどれもが女性からのキスというのが衝撃的でした。
すごいよ、フランス女。めっちゃみやびだよ、とんでもない熱量だよ。

劇場の舞台監督の小柄のおじさんは、出てきた最初から迫力あるなーと思っていたら、かなり芸歴の長いお方だったようで。
旦那がその昔、彼が主演を務める作品を見たことがあるようでしたが、ハリウッドにも呼ばれるような名脇役だとか。
『シラノ』の当日、シラノと決闘するはずの役者が見当たらずに、エドモンに「リハーサルを見ていただろ!」と言われる。
この無茶振りが『ピガール狂騒曲』を連想させますが、こちらの映画ではバッチリと演じてくださいます。すばらしい。

コクランの息子役もよかった。
ちょっと愚鈍で、俳優の傍らパン屋のアルバイトもして生計を立てているけれども、名優のパパとしては俳優だけで生計を立てて欲しいらしく、アルバイトにはいい顔をしない。
しかし恐ろしく演技は棒。
それを克服するために娼館に行くのですが、まさかの1度目は失敗。
そういう流れになるだろうことは読めていましたが、失敗するんかーい!と思いました。
けれども、本番直前にどんでん返し。楽屋で!?みたいなところはあるけれども、見事に情感もって台詞をいえる役者になりました。立派である。
このあたりもなんていうかフランス映画っぽい。

日本でミュージカルといえば『レ・ミゼラブル』『エリザベート』あたりでしょうか。
モーツァルト!』を挙げる人もいるでしょう。
どちらにせよ悲劇の方が多いんですよね。
喜劇はあんまりないなあ、と旦那と話しました。
余韻を残す作品があまりうけなくて、1から10まで説明してくれる作品の方が舞台に限らずエンタメにおいてウケてしまうこの国で、喜劇を上演するのは難しいのかもしれません。
1から10まで説明していたら、当然喜劇にならないですから。

しかし繰り返すようであれですが、『総理倶楽部』とか言っている場合ではないんですよ。
キャラクター化して「かわいい」と思われることよりも、実際にその人物がどういう政策を行って、どういう結果を出して、もっといえばどんな非道をはたらいたのかを勉強するのが「学問」でしょう。
学問がないがしろにされる国での喜劇はやはり難しいと思わずにはいられません。

最初にも書きましたが、たくさんの人に見て欲しい映画です。