ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、古典文学など好きなものについて語るところ。

花組『PRINCE OF ROSESー王冠に導かれし男ー』感想

花組公演

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バウ・ミュージカル『PRINCE OF ROSESー王冠に導かれし男ー』
作・演出/竹田悠一郎

1幕が終わったときには「スゴワルリチャード3世が描きたいのか」と思ったけれども、2幕まで見終わると「いや、これはヘンリー7世とイザベルのラブが描きたかったのでは?」と思うようになり、そうならそうでものすごく宝塚向きだし、1幕からもっとヘンリー7世とイザベルをいちゃらぶ(死語)させたらよかったのでは???とも思いました。
個人的にはヘンリー7世って物語のない人だなあと思っていて(なんせツイッターではヘンリー7世をヘンリー8世と間違えていたくらいだわ)(ヘンリー8世は離婚しまくりのメアリーやエリザベスの父親ですな)、そりゃヘンリー6世やリチャード3世が濃すぎるからだろう(そもそもシェイクスピアが描いているというのも大きい)って話ももちろんあるのですけれども、あれよあれよとみんなに持ち上げられて、結局敵から妻をもらうというウィーンハプスブルクに非常によくある手段で、薔薇戦争を終わらせた人というくらいのイメージしかなかったのです。
けれども、いやそんなことない!この薔薇戦争を終わらせた人間は、政治的な器が大きいだけでなく、個人としての自由恋愛もちゃんと楽しんだ人なんだ!という妄想は、とても宝塚らしくて面白いと思うのです。
だからこそ、もっと作品を温めてから世に送り出しても良かったかなあ、とは思いました。
でもきっと竹田先生は自分のデビュー作品として、どうしてもこの題材を扱いたかったのよね。
その意気込みだけはとても感じられました。
デビュー作品の題材としてはちとばかり重かった、難しかったことが災いして、脚本としてまとめきれなかったというところがネックですが、描きたい方向としてはとても宝塚向きだと思ったので、次の作品も楽しみです。
公演プログラムには自分で家系図を書いたというくらいだから、この作品への意気込みは並のものではないと思うのですが、いやだからこそ、その家系図をプログラムに掲載してくれよ、と。
あの若干読みにくい公演挨拶の文章(失礼)をカットするなり、レイアウトを工夫するなりして、その家系図を載せる場所を作りましょうよ。
劇団側もかなり脚本のブラッシュアップに協力したようだから、そこも抑えてくださいよ〜!と叫びだすところでした。

薔薇戦争を宝塚で扱うということで、イメージとしては、赤バラモチーフの衣装を着た軍団と白薔薇モチーフの衣装を着た軍団が踊りまくって戦いに明け暮れるというような、非常にベタな、いってみれば『ロミジュリ』のような場面を期待したのですが(そして他にもそれを期待していた人もいたよう)、それはありませんでした。
ショルダータイトルは「バウ・ミュージカル」でしたが、ミュージカルというわりには歌の入る位置が???というところもあり、脚本としては芝居に重きを置いたのでしょう。
ただ、プロローグやフィナーレを見ていると、むしろ竹田先生はショーを作ってみたらいかがかしらん?と思いました。
それくらいプロローグ、フィナーレは最高でした。
特にフィナーレはみんな水を得た魚のようでした。
衣装も良かった。赤バラボタンの燕尾服に赤バラドレス、最高だよ。

公演前、プログラムを見て「らいとくんの赤髪はキルヒアイスなのでは?」「あわちゃんのお化粧が進化している!」「稽古写真ではなく、あすかヘンリー7世の写真集なのでは?」「プログラムの裏表紙、最高だな!」などと興奮しながら望んだ5列。
バウ自体、全然当たらないというのに、こんな良席どうしたらいいんだと困惑してしまう。
生徒さん経由だったので、本当にもう感謝しかない。ありがとうございました。

1幕はゴリゴリの悪役であったリチャード3世は、そりゃもう悪い顔で悪いお衣装で悪い歌を歌うのですが、1幕で彼が主人公のように見えてしまうのは、やはりヘンリー7世のドラマが足りないなと感じました。
らいとヘンリーに出会ったときに「君は何がしたい?」と聞きますが、私としては、お前さんは何がしたいのだ?と思いました。
ヘンリー7世は王冠を望んでいるようにも見えますが、それはあくまで母であるうららマーガレットの願いかなとも。
ヘンリー6世との謁見の場面でも、彼が王冠を何がなんでも望んでいるようには見えなくて、もしかしたらむしろそういうところに周りは「こいつは王冠を抱く男だ!」と思ったのかもしれませんが(あすかの美貌でそう思ったのでしょうかw)、本人の意思があんまりよくわからないなあと。
この場面、あんまりあすか、喋らないし……。

ヘンリー7世が変わったなと思ったのは、らいとヘンリーが亡くなってからでしょうか。
2幕の最初でリチャード3世によって処刑されてしまうので、おいおい早いな?もうらいとくんの出番はないのか?と思ってしまいましたが(無事にありました)あの事件を契機にようやくヘンリー7世自身が王冠にこだわるようになったのだなと思いながら見ていました。
だから2人は出会いの場面から描かれるわけですね。
ヘンリー7世が自分の意志で立ち上がるためにはらいとヘンリーが死ななければならない。
らいとヘンリーが死ぬのが早いか遅いかという問題は何を描きたかったかにもよるのでしょう。
リチャード3世との対立軸を明らかにすることがメインなら、もっと早くてもいいのかもしれません。

リチャード3世は会ったこともない間からずっと傍系であるヘンリー7世をマークしていて、そんなに驚異的な存在に見えないのだが……?と思ってしまう(失礼)。
イザベルとのラブを描きたいのなら、リチャード3世の場面がおそらく長いからでしょう。
化粧ドン!衣装ドン!音楽ドン!で迫力のあるリチャード3世で、とてもよかったのですが、1幕は彼がかっさらっていたとも思えてしまいます。
もっとも2幕ではむしろ滑稽で、戦いの場においてさえずっと王冠を被っているから、その執着ぶりは明らかで、ヘンリー7世の、言ってしまえば清く明るく淡白な(!)王冠への想いとの対照的でありました。
そのリチャード3世から王冠をゆっくり外すのが亡霊になったらいとヘンリーというのは、とてもいい演出でした。
1幕終わりで自分で自分につけた王冠を他人の手で奪われるという悔しさはいかほどのものでしょうか。

ヘンリー7世が逃亡生活に突然現れたイザベルと、そりゃ恋に落ちるのだろうことは宝塚を見慣れた人なら誰でもわかりますが、1回目は割とつっけんどんというか、何者かわならない不穏さみたいなのはありましたが、1幕の終わりあたりに出てきたときには、もちろんお互いに言えないこともあるのだろうけれども、なんだかもうすっかり仲良くなっているようで、おお?と置いていかれるところでした。
一緒に城下町歩いたり、庭を見て散歩をしたりしちゃいかんのかな……でもまあ逃亡の身だし仕方ないのかな……せめて2人きりでなんかもう少し見せてくれないと、なぜ2人が想いを寄せ合うのかがわからないなあ、と。
せっかく宝塚で上演するのだから、どうせ争いを止めるための手段として結婚した2人が実は政略結婚の前に出会っていて、しかも恋においていました!というのはとても宝塚らしい発想ですし、おもしろい設定だとも思うからこそ!だからこそ!もっとヘンリー7世とイザベルの恋愛を見たかったです。何度でも言う。

わからないといえば、イザベルはフランス国王の使いと言いますが、ヘンリー6世の妻である柚長マーガレットがフランス人だと考えれば、ヘンリー7世に近づくために「フランス」を持ち出すのはわかります。
でもこれってヘンリー7世が調べたらきっとすぐにわかることですよね?
劇中では「あの従者のフランス語はかなり怪しかった」と言って、あまり「フランス国王の使い」ということを信じている様子ではなかったですが。
すぐに見破られるような嘘をついてまで彼女がヘンリー7世に近づいた理由はなんだったのでしょう。
彼女にとって敵の敵であるフランスをもってきたことのリスクはなかったのでしょうか。
そして本当は誰の思惑で彼女は動いていたのでしょうか。
イザベルの母親であるりりかエリザベスは、自分の娘が不在のことをようやく2幕あたりでもらし、最後には抱き合っていますから、少なくとも母親の陰謀で彼女が単独でヘンリー7世に近づいていたわけではなさそう。
では、いったい誰の差金でイザベルはヘンリー7世の隠遁場所に現れたのだろうか。
イザベル自身が紅緒さん並のお転婆やじゃじゃ馬根性を発揮して、「敵の皇子とやらはどんな腑抜けやろうかしら?この目で見定めてやるわ!」みたいな感情から、誰からも命令も受けず、家で同然でヘンリー7世の元にやってきたというのなら、それはそれでおもしろい!と思うのですが、そうするとイザベルのもとに必死に手紙を書いてよこしていたのはどなた?という疑問も生まれる。
やはりここのあたりの書き込みをしないことには、イザベルというキャラクターになかなか観客はついていけないかなと思いました。

そういえば、1幕が終わってから「この王宮はどうなっているのだ?」と思いました。
と、いうのも囚われているはずの柚長マーガレットがわりと自由に出歩いている様子が見られたり、リチャード4世が倒れたことに気が動転しているりりかエリザベスにうららマーガレットが簡単に近づいたりしている様子があったりして、ランカスターとヨークの対立とは?とも思いましたが、でもよく見るとこのメンバーは全員女性で。
戦いやしがらみ、王位継承から完全に自由とは言えないかもしれないけれども、そういうところが男性よりも女性の方が自由であることを示しているのかもしれないと思いました。
たとえ敵であっても、愛する人が病に倒れたらどうしよう!と慌てるのは当然だよね、寄り添いますよ、というようなメッセージが込められているのかな。
『月雲の皇子』でも兄と弟の争いを止めようとしたのは母と妹でした。
今回もそれと似たようなことが起こっているのかもしれません。

あわちゃんのアン・ネヴィルとしてのお役は1幕終わりくらいまで待たなければならないのですが、すでに夫を殺された経験のある彼女の運命を悟り切った感がたまらなかったです。
というか、プロローグの魂のダンスもすばらしかったです。羽が生えているよう。
美咲ちゃんと対でしたが、贔屓目もありましょう、あわちゃんの方が伸びやかのように見えました。
かつての夫とは敵対しているリチャード3世と結婚することの葛藤はもちろんあったでしょうが(描かれていませんが、父親もリチャード3世に殺されたようなもの)、そこはすでに悟りを開いた女性という設定にすることで、バッサリカット。
見たかったような気もしますが(笑)、時間を考慮するならば致し方ないでしょう。

2幕の中盤のリチャード3世の夢でしょうか、幻でしょうか、現実世界ではキリッと冷たい表情ばかりしていたアンが彼に膝を貸して休ませる場面は、リチャード3世自身の願いが込められていたのかもしれません。
しかしその願いが現実世界で叶うことはなく、そのままアンは亡くなります。
この場面の演出は秀逸だった。すばらしかった。
唯一戦いの場において死なない人物がアンなのですが、処刑の残虐さを強調するのとは裏腹に優しく穏やかに流れるように死んでゆく。最初の魂のお役に繋がっていくようなイメージが感動的でした。
リチャード3世が目覚めると既にアンはこの世のものではない。
ゆったりと静かな演出でしたが、とても好きな場面です。

アンはいつの間にかできていた子供を、これまたいつの間にか亡くし、リチャード3世に「あなたが殺した人間の命と私たちの子供の命の重さは同じである」と訴えます。
もっともその言葉は、最後までリチャード3世には届かなかったように思います。
しかしその思いは出会いはしないものの、ヘンリー7世には届いていて、だからリチャード3世を戦の場においてむごたらしく殺そうとはしない。むしろ「彼もまた犠牲者だ」という。
最後の最後で命の重みというテーマもぶっこんできたか!という感じでした。
デビュー作品ですし、もう少し削っても良かったのでしょうけれども、野心は十分に感じられました。

さて、キャスト別の感想。
ヘンリー7世のあすか(聖乃あすか)は真ん中に立っていて安心感がありますね。
竹田先生が惚れ込んでいるのも脚本から伝わってきます。
自分で「プリンスオブロージーズ」って、あ、歌っちゃうんだ……とは思いましたが、きっとそれがやりたかったのでしょう。
実質2番手にあたるリチャード3世のゆーなみくん(優波慧)は、お化粧の迫力がすごかったです。
軽妙な役のイメージが強かったですが、こういう悪い側面も見ることができてよかったです。
らいとヘンリーは、本当に身長が高いですね。
宙組のスタイルお化け軍団に混じるといいのかもしれませんが、折角ですし花組で育って欲しいところです。
こういうときにタカスペが恋しくなるなあ。しどりゅう(紫藤りゅう)とかもえこ(瑠風輝)とかとの並びを見たい気もする。
はなこ(一之瀬航季)はなかなか食えない役に挑戦。
あすかヘンリーとのやりとりは同期ということもあって、にまにま。
新人公演の少尉、見たかったなあ。一生言う気がする。
今回は新人公演の紅緒も編集長も鬼島も出ているから余計に思うのかもしれません。

ヒロイン格のイザベルを演じたみさきちゃん(星空美咲)は、新人公演ヒロインなしのバウヒロインということで抜擢だったと思うのですが、芝居、歌、ダンスともにこじんまりとはしていますが、安定している印象を受けました。
プログラムのお化粧の様子を見ると、こちらも伸び代がありそうです。
ちゃぴ(愛希れいか)に似ているという話がありますが、私はあんまりそうは思わなかったかなあ。

2番手ヒロインはあわちゃん(美羽愛)。舞台化粧が進化していましたが、もっとよくなるぞー!とめっちゃ応援しています。
お衣装はプロローグの象徴的なグレーのドレス、1幕アンのブルーグリーンのようなドレス、2幕の王妃としてのダルメシアンみたいなファーがついた青いドレス、フィナーレの深紅のバラモチーフのドレス。
プログラムのお衣装は美咲ちゃんもあわちゃんも出てきませんでした。
フィナーレはダイナミックに踊る!最高!
8期上のゆーなみくんによくくらいついていたと思います。

りりか(華雅りりか)エリザベスは最初に出てきたオレンジ色(柿色?)のドレスをしっかりと着こなしていた。
あのドレスの色、似合う人、なかなかいないよ……。
このエリザベスもかなり物語がある人なので、こちらのお話もまた見てみたいなあ。

うらら(春妃うらら)マーガレットも、始終尼さんのような姿で、とてもよかった。
見るたびにべーちゃん(桜咲彩花)に似てくるような気がいたします。

リチャード3世の従者であるゲイツビーを演じたとわちゃん(峰果とわ)がすごいうまい。
『はいからさん』のときにも思ったけれども、すごいなあ。
リチャード3世が主役に見えるのも彼の果たした役割が大きく感じます。

千秋楽まで無事に幕が開くことをお祈りいたします。