ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

外部『8人の女たち』感想

外部公演

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8人の女たち
原作/《 HUIT FEMMES 》by Robert THOMAS
上演台本・演出/板垣恭一

早々にチケットを取ったにもかかわらず、まさかの土曜日が仕事確定の日だったので、泣く泣く同行する予定だった友人のお母様にお譲りすることになりましたが、その母上が「のんちゃんとまみちゃんが並んでいるのを見ることができて良かったです」とのことでしたので、もう私は胸がいっぱいになりました。
そうなんですよ、のんちゃんとまみちゃんが並んでいるのがね、もうね! もうもう!! しかもセンターですよ!
私の年齢を考慮すると、たぶん「なぜお前がのんちゃん、まみちゃんの並びを知っているのだ……」と思われるのですが、母親がビデオで後追いするタイプのオタクだったので(当時、ドがつくほどの田舎に住んでいたこともある)私が初めて好きになったタカラジェンヌがかなめさん(涼風真世)であることを明かせば、納得していただけることでしょう。そうです、だからのんまみの並びで感動がありとあらゆるところからやってくるのです。ありがたい。
今年の梅田芸術劇場はわりと挑戦する作品が多くて楽しいのですが、こちらもまたその挑戦の一つでしょう。

「今度、元タカラジェンヌだけで『8人の女たち』という映画の芝居をやるんだけど」と夫に話したところ、「フワンソワ・オゾンの?」とどこからともなく映画が出てきたので、映画を視聴してから臨みましたよ、配信に。同じ監督でおすすめなのは『彼は秘密の女ともだち』ですかね。
オゾン監督はゲイであることを公表していますが、関係あるのかないのか、女性の描き方がとても辛辣です。ええ。ドキリとします。でも嫌味ではないです。
映画ではシャネル役の俳優さんが黒人であることも手伝って、人種差別的なことも考えさせられます。

作品としては、「自分の秘密でも他人の秘密でも守るのは難しいこと」「誰も知らない秘密はないこと」を考えさせられます。
ギャビーの不倫はオーギュスティーヌが知っていたし、オーギュスティーヌが読書クラブに入っていたことはピエレットが知っていた。彼女の詩心はルイーズが知っているし、お酒を飲んでいることはギャビーが知っている。
ピエレットがシャネルとポーカーを頻繁にしていたことはマミーが知っていたし、マミーがポートワインを夜な夜な飲んでいたことはシャネルやルイーズが知っていた。
シュゾンの懐妊もオーギュスティーヌが知っていたし(シュゾンはロンドンにいたのになぜ知っていたのかw)、カトリーヌがいやらしい本を読んでいたことをルイーズが知っていた。
マミーが毛糸を夜中に取りに来たことをオーギュスティーヌは知っていたし、シュゾンが前日の夜に帰宅していたことをカトリーヌは知っていた。
ルイーズがマルセルの愛人であることはピエレットが知っていて、マミーやギャビーはマルセルが破産していたことを知っていた。
「他人の秘密」を思わず喋ってしまう心理はわからなくはないですが、シャネルが「ハートのエース、2枚も持っているんだからね!」と勢いあまって言ってしまったり、ギャビーがピエレットに自分の不倫について話してしまったりするように「自分の秘密」でさえ、人間は隠しきれない。愚かではあるけれど、愛のある描き方でした。
あれ、でもマミーが歩けることや株券をクッションに隠していたことは誰も知れなかったのかな。

8人の女性はすべて赤い衣装で出てくる。それに対して、舞台装置として存在感を放つ本棚はブルー。シュゾンが帰宅して「本の香りが懐かしい」というようなことを言いますが、「赤:青=女:男」のメタファーになっているのもよく練られている。
これは映画ではなかなかできない。舞台だからこそでしょう。こうなってくると犬の性別も気になってくる。
これは何度でも見たいですね。配信で見たこともあって、視線が誘導されましたが、生で観劇していたらきっと見落としていたところもあるだろうなあ、と思うほど見所があって、楽しい舞台でした。そもそも芸達者しかいないのがすごい。間の取り方が天才。

ギャビーはわたる(湖月わたる)。オープニングでは「ひときわデカい……」と。もう圧巻。存在感が半端ない。あのロングコート、他に誰が着るんだ……引きずってしまうぞ。
そして本当におもしろい。突然歌い出すのも、マルセルがポーカーをしていたことを知ったときの反応も、ピエレットが銃を触っていないことがわかったときの反応も、全部全部うまい。さすが。
「あなた、マルセルに手紙を書いたの? 毎日顔を合わせている人に!?」の演出もよかったよな。ギャビーは本当に知らなかったんだな。

オーギュスティーヌはみず(水夏希)。あの赤いチェックのワンピースもなかなかにパンチがあるのに、首元のスカーフとタイツがショッキングブルーみたいなまた攻めた色なのに、それがまたよく似合っているんだから、本当にスタイルって怖い。
演じ方によっては、ものすごく嫌味なキャラクターになってしまうはずなのに、そのギリギリを攻める。すごい。
シュゾンに「あなたみたいに汚れてないわ!」と言うあたりが、もう「年季の入ったオールドミス」って感じでした。語の重複はわかっているのですが、もうそう言うしかない。あのキャラクターをキュートに演じることができるのはすごい。
つまり、マルセルとは清い関係だったと。そうよね、「いつか乗ってみたい、恋のゴンドラ」というくらいだものね。
音楽は彼女のためにあったといっても良いくらい、音楽とマッチした演出でした。

ピエレットはたまきち(珠城りょう)。俳優デビュー、おめでとうございます。
かつてヌードダンサーだったという話ですが、思わず宝塚時代のダンスを思い出してしまったよ。肉感のある肉体が迫力をもってダンスする姿が脳裏をよぎって、はっ!としてしまった。何を想像しているんだ、私は。
煙草を吸う姿とかね! 色っぽかったね! ポーカーしている指先もきっと色っぽいわね!とか思ってしまったよ。だから私は何を考えているんだって話ですが。

ルイーズはねねちゃん(夢咲ねね)。メイドなのにえらいメイクが濃いw お人形さんw まさにスタイルお化け。
「私、告げ口するのは嫌いだけどー!?」「もう全部ぜーんぶ言いますから!」「だって私たち、愛し合ってしましたからー!」可愛いな。キュートだな。たまんねぇな。
妖婦と言われているけれども、納得しちゃったよ。納得しかなかったよ。いわゆる肉食女子。あんな家にわざわざ仕事しに来るくらいだから、本当に愛していたんでしょうね、マルセルとマルセルのもっているお金を。
看護師免許まで持っているので、仕事には困らないでしょうが、今後も妖婦として生きていくのでしょう。

シュゾンはらんの(蘭乃はな)。私はタカラジェンヌ時代の彼女をあまり買ってはいないのだけれど(好みの問題です、すいません)、これはいかにも「しっかり者の一族の長女」というぴったりのお役でしたね。わかる、私も長女だから、そういう役割を担わされてきたんだよね。
襟付きの赤いワンピースがとても可愛かったし、途中でボレロを脱いだ姿も可愛かった。
一族の中で唯一「自分を幸せだと思える人」と言われる。この家の外で見つけた幸せというのが、屋敷の魔を感じる。

カトリーヌはかのまり(花乃まりあ)。配信で見た『The Parlor』も良かったですが、今回は全く違う役で、こちらもよかった。
これは考え方の一つですが、結局カトリーヌが提案したことにより、8人の女たちの秘密が次々に暴かれ、それを扉の向こうでマルセルは全て知ることになる。知って、そして絶望して、本当に亡くなってしまう。
かつて『名探偵コナン』に「ピアノソナタ『月光』殺人事件」というお話がありまして。コナンが推理で犯人を追い詰めて、自殺に追いやってしまう、それをコナンがひどく後悔し、今後はそういうことがないように慎重になる、というコナンにとっても一つの分岐点になっているエピソードです。
その後に服部平次に「推理で犯人を追い詰めて自殺に追い詰めるような探偵は犯人と変わらない」というような旨の発言もしており、忘れられない事件なわけですね。
その線でいくと、今回マルセルを殺したのはカトリーヌということになるのかな、と。彼女は最後に泣き叫びますが、そこまで追い詰めたのはミステリー好きな無邪気な子供心だったのではないでしょうか。

マミーはまみちゃん(真琴つばさ)。車椅子から立ち上がるのは、もう笑いがね! 堪えきれないよね! 思ったより立つの、早かったな、という気もしますが、そもそもミステリーの中で車椅子の人って大抵怪しいですよね。
周りから「立ち上がれない」「一人で移動できない」と思わせるのにぴったりなアイテムですから。
がめついババアをコメディタッチだけでなく、キュートにも演じていました。すごいよ、本当に。
隠し扉のあのワイン、死ぬまでに飲みきれるのだろうかという謎が残りますね。

シャネルはのんちゃん(久世星佳)。ギャンブル依存症で「ハートのエースを2枚も持っている」というね。この設定がおもしろくて何度も言いたくなるわ。
けれども、仕事はしっかりする。屋敷のことは隅々のことまでわかっていて、ギャビーからシュゾンとカトリーヌの養育を任されるほど信頼されている(もっともシャネルは「ギャビーにはできないと思ったから自分から進んで買って出た」と言うけれど)。
手紙の処理をしていたのは彼女だから、オーギュスティーヌが読書クラブの会員であったことは知っていた可能性もありますが、主人の家の人間の秘密は守る。マミーの秘密をあばくのもルイーズをかばってのこと。彼女はむやみに屋敷の人間の秘密をばらまかない、仕事のできる人です、すばらしい。しかし彼女は一体どうやって真実に辿り着いたのだろう。ガス管が爆発したときにマルセルの気配でも感じたのだろうか?

ミステリー作品であるにもかかわらず、何度でも見たい作品だと思えるのはすばらしい。
普通、犯人がわかったらミステリー作品の魅力は落ちると言われていますからね。それだけ芸達者が多かったということ。ミステリーの本筋とはまた別の芝居が端々で行われていて、楽しすぎる。目が足りない。
数年後また別の元タカラジェンヌ8人で上演してもおもしろそうです。そのときは必ず生で見たい。
オープニングと1幕終わり、2幕でシャネルが撃たれたあとに少しだけ入るダンスの場面も印象的でした。うまいよなあ。素敵でした。
原作の戯曲は日本語訳されていていますが、私の住んでいる都道府県では2つの図書館しかもっていないという貴重図書。
ちょっと離れた図書館ですが、何かの折にぜひ行って、手に取ってみたいところです。