月組『グレート・ギャツビー』感想2
月組公演
三井住友VISAカード ミュージカル『グレート・ギャツビー』
-F・スコット・フィッツジェラルド作“The Great Gatsby”より-
脚本・演出/小池修一郎
大劇場配信後の感想はこちら。まさか4枚ともチケットがとぶとは思っていなかったよ。
先週が東京公演千秋楽でした。東京は無事に感想できて良かったです。
うっかり雪組公演のチケットを取ってしまったので、千秋楽の配信は見られなかったのですが、退団者の皆様、お疲れ様でございました。個人的には特になつこさん(夏月都)、あきちゃん(晴音アキ)の退団は惜しまれます。
宝塚での公演は、芝居とショーの二本立てがよい、特に初心者には一本物ではなく二本立てで見て欲しいと思っています。それは、芝居をやる劇団はあまたあれど、ショーの上演をする劇団はほんのわずかしかないからです。
一方で、歌やダンスができても芝居心のないタカラジェンヌにはそれほど惹かれないのも事実です。ショースターという立ち位置のタカラジェンヌさんがいることはわかっていますし、それはそれで素敵なのですが、とにもかくにもまずはお芝居ができてこそタカラジェンヌ、とも思います。
その意味で二人のお芝居が好きだった私はとても残念です。特にあきちゃんは、まゆぽん(輝月ゆうま)同様勝手に組長になることを期待していたのもあり、とても残念です。お二人が今後の人生を健やかに過ごされますように、と願うと同時に、彼女たちが培ってきた演技力が月組で引き継がれますようにと祈るばかりです。
新人公演も東京は無事にできて良かったです。配信で視聴しました。
前回の星組も大劇場公演は上演できず、東京のみの公演で、配信がありました。
一方で、花組は『元禄バロックロック』と『巡礼の年』と2回連続大劇場公演のみの上演となり、配信がありませんでした。
その反省を活かしてか、ようやく宙組公演では大劇場の新人公演からもカメラが回っていたと聞きますが、どれだけ悔やんでも花組の新人公演が帰って来ないのが残念です。
母は「しめさんの『うたかたの恋』が円盤化するまでは死ねない」と亡霊のように言いますが(まだ生きています)、私も『元禄』の新人公演の映像を流してくれるまでは死ねないな、と思ってしまいます。個人的には『はいからさんが通る』の新人公演が見られなかったのも辛すぎるんですよ……。ゲネでもいいから見せて……袴姿のあわちゃん(美羽愛)。
新人公演は、なんといってもあみちゃん(彩海せら)がよかったですね。もう見る前から知っていたような気がしますが、とても良かったです。あの芝居、あの歌声、そしてストーカー気質の役、すべてがぴったりだったし、もうすでに見たような気さえしましたが余裕で期待値を上回ってくるあたり最高です。すばらしかったです。
登場したときのあの白スーツの感動たるや……背中を魅せることにはまだちと課題が残りそうですが、それでもポケットに手をつっこんで立っているだけで充分に様になるスターになりましたね、嬉しい、ありがとう!
雪組公演の『ワンス』に出演したこともプラスになったことでしょう。同じ禁酒法の時代、女が幸せとは言い切れなくてもある程度成功していく中で、その女と釣り合いがとれる男になるために違法行為に手を染め、金儲けをする男――イケコはこういう題材が好きなんですかね、好きなんですね、そうですか。過去を取り戻したい男と現実が見えている女の組み合わせ。そう「女はそれほどロマンティストではない」のですよ、聞こえていますか。
あみちゃん、本公演のエディもすごく良かったし(ロイヤル紫門ゆりやが以前は演じていましたね……! 好き枠か!)、ルディも素晴らしかった。
最後に日記を読む少年ギャツビーが現れる。本公演では、新人公演でニックを演じた瑠皇りあ、新人公演では和真あさ乃でしたが、私はあみギャツビーの隣にいる少年が、かつて『SUPER VOYAGER!』で日記をひろげるだいもん(望海風斗〉と一緒に出ていたあの少年あみちゃんに見えました。ああ、大きくなって……っ!という感動があふれましたね。
「アウトロー♪」と歌う闇っぽい感じや「デイジー♪」と歌う粘着質な感じはだいもん味を感じました。しかしやはり根本に歌と芝居のうまさがにじみ出ているんだよなあ。本当に楽しみです。101期主演作品もバウホールでぼちぼち上演されていますので、あみちゃん主演作品もそう遠くないでしょう。今からわくわくします。
瑠皇りあくんが演じたニックもとても丁寧に作られていてよかったです。語り手としての役割は、むしろ本公演のおだちん(風間柚乃)よりも出ていたかな。いや、おだちん、何をやらせてもうますぎて、ゴルフが下手とかちょっと信じられないのよねw
新人公演ならではあどけない感じがよく出ていて、ギャツビーのストーカーぶりにちょっと引いていたり、けれども誰もギャツビーの葬式に誰も来ないことに心の底から怒りを感じている様子もうかがえました(おだちんは達観しているように見えてしまった)(居候たちさえ来ないんだから腹を立てて正解)(しかしギャツビーの墓参りをするような男だからジョーダンに振られてしまう……うう)。あとは「変わっているというか凝っているというべきでしょう」という台詞もぴったりだった。おだちんだと、君も凝っているタイプでは?と穿ってしまうから。いや、それだけおだちんがうまいってことなんですけどね! でもニックとしてりあくんもとても素晴らしかったです。私はあまり認識したことのない生徒でしたが、これからが楽しみですね。
本公演でちなつ(鳳月杏)が演じたトムは、七城雅という、これまたあまり今まで認識したことのない生徒でしたが、なんとなくありちゃん(暁千星)っぽいなという印象を受けました。そしてうまい。
どこを切り取っても腹の立つ歌詞しかない「アメリカの貴族」を高らかに歌い上げる。すごい男前。びっくりしちゃったわよ、私。そもそも本公演では娘役ばっかり見ているということもあるけれど、男役も豊富ですね、すばらしい……っ!
しかし本当に腹の立つ歌詞だ。なんだよ、価値がわからないのにヨーロッパの絵画を買いあさるって、移民や奴隷に国を渡さないって、そもそもお前らの祖先もイギリスからの移民なんだろ!とかKKK万歳みたいな歌詞になっていて、それを歌うキャラクターを作るのは大変だろうけれども(役者が本当にこんなこと思っているとしたら真っ青だからね)、客観視できることが良い役作りにつながっているでしょう。
私はおはねちゃん(羽龍きよら)があまり得意ではないのですが(ファンの方、すいません。好みの問題です)、それでも歌が圧巻なのは認めざるをえないでしょう。ギャツビーとトムのスターオラーが拮抗している本公演とは異なり、やはり新人公演はギャツビーが大きく見えてしまいましたので、それにもかかわらずトムを選んだデイジーというのは本公演よりも嫌な女に見えました。もっとも原作のデイジーは嫌な女なので、こちらの方が原作よりかもしれません。
娘役で気になったのはなんといっても、本公演でみちる(彩みちる)が演じたジョーダンのらんぜくん(蘭世惠翔)ですよ!
みちるの小悪魔ジョーダンという役作りに対して、らんぜくんは背も高いし、顔付きもパリッとしているから、魔女的なジョーダンという役作りで、もうたまらんかった。
トムに「こいつ、まだ独身なんだぜ」とニックを紹介されて「私もよ」と答えるみちるは小悪魔キュートでしたが、らんぜくんはもうこれ完全に誘っている、なんてつやっぽいんだ……とおったまげました。すばらしい。
ゴルフ選手というのも、体型としてはどうしてもらんぜくんの方が説得力がありますが、いかにもスポーツできそうな見た目なのにいかさまゴルフで賞金を稼いでいるのかー!と新人公演ではいっそうジョーダンがせこく感じられ、これもまた乙でした。
みちるジョーダンは「小柄な私が賞金を稼ぐためにはこれくらいのいかさま、しょうがないでしょハアト」という感じでした。それはそれで開き直っていてどうなのー!?って感じですが、二つのジョーダンを楽しめたのは良かったです。
マートルは本公演ではじゅりちゃん(天紫珠李)、新人公演では白河りり、これもまた素晴らしかった。さすがである。歌がすごい。
「遊びに行きたい~だけど先立つものが たり!な!い~のよ~~~!!!」というのがたまらん。私の心の中の小さなフラッパーが歌って踊り出す。やばい。この迫力がすばらしかった。
ジョーダンの「恋のホールインワン」が新人公演で削られてしまったのは残念でしたが、これは残して本当に大正解だし、りりちゃんの歌! すげえ! 知っていたけど! すげえ! 語彙力がなくなりそうな予感しかしませんでした。
ちなみに上記の歌詞が好きすぎて、家でもよく歌っているのですが、スパダリからは「君、オーブンで温められれば食べられる夕食を作れるの?」と聞かれて終わりました。作れないな。それなら最初から冷凍食品を用意しておくな、買ってくるわ……マートル、実はすごいのではないか?
そしてレンジではなくオーブンなんだ……と今更驚いた。
ヴィッキーは今回新しく付け足された役かな? トムが2番手になったことによって、トムの見せ場を増やすために作られたのでしょう。
新人公演では2幕でトムがヴィッキーの楽屋を訪れる場面はカットされましたが、本公演のかれんちゃん(結愛かれん)はものすごく可愛かったし、それを知っていてめちゃめちゃ計算して、でもスレイグル(蓮つかさ)にいつも丸め込まれて、逃げ出せなくて……という切なさも見えるキャラクターでした。
新人公演では楽屋の場面がなかっただけに、羽音みかちゃんは単なる遊び女に見えて、それはそれで人生を謳歌している、楽しく過ごしているのが伝わってきて良かったです。そうだよ、無理に不幸な女性を描かなくてもいいんだよ、刹那的かも知れないけれど、愉快に過ごしている、現状に満足している女性もいたっていいじゃない、と思いました。
あとは、本公演のドアマンで私に鮮烈な印象を残した、天つ風朱李くん。びっくりした。私、あまり男役にはひっかからないタイプのヅカオタなのですが、これはたまげた。本公演のドアマンでもっていかれると思わなかった。そして新人公演では、るねぴ(夢奈瑠音)のお役ラウルじゃないですか。「ソウル・メモリアル」最高でした。いや、この子はくるのではないですか?!
珍しく男役で楽しみな……ってさっきからそんなのばかりだな。新人公演では新しい男役さんに逢う機会になってしまっている。それでいいのか。娘役を追いかけるのだけでも大変なのに~! 幸せな忙しさだわ。
こありちゃん(菜々野あり)やそらちゃん(美海そら)ももっと活躍して欲しい~!と思いながら、ジュディ役の花妃舞音も素敵でした~! 新人公演ヒロイン経験は伊達じゃないですね!
これからもいっぱい活躍して欲しいところです。まずはショーからかな。
新人公演では、ギャツビーとデイジーの過去場面(ルイヴィルの森)、二幕のギャツビーとデイジーの事後場面が短縮され、二幕最初のジーグフェルド・フォリーズとヴィッキーの楽屋、ニックとジョーダンのゴルフ練習場面、事故後のデイジーとニックの場面などがまるまるカットされた感じでしたが、芝居としては実はこれくらいでいいのかもしれないと思いました。
下級生の見せ場を作るためには必要なのかもしれませんが、本来の話の筋からいったら、実は1幕でおさまるのではないか、そもそもかりんちょさん(杜けあき)の初演では1幕だったじゃないか、と思いまして。
やはりショーとセットで宝塚は見たいものなので、ショー場面を芝居に付け足すくらいなら、芝居を1幕にして、ショーを別にしてほしいなと思いました。わがままかもしれませんが。
次の月組公演全国ツアー『ブラック・ジャック 危険な賭け』の配役発表もありました。
近々ちなつ主演の『ELPIDIO』も配役発表があるのでしょうか。みちるがヒロインだといいのですが、ラブの話ではないのかもしれません。ちなみちコンビ、いいと思うんだけどな……ちなつが一人二役のため、二番手という言い方が正確かどうかも分かりませんが、メンバーをみると上手い具合にあみちゃんとはならないのかな……スターシステムの悩ましいところです。
来年合流の『応天の門』、原作漫画のファンなので、こちらも楽しみにしています~! しかしそろそろれいうみでオリジナル良質脚本も期待しているんですよ~! 劇団さん、マジで楽しみますね~~~!!!