ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

花組『巡礼の年』新人公演感想

花組新人公演

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ミュージカル『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』
作・演出/生田大和
新人公演担当/中村真央

本公演の感想はこちら。

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『元禄バロックロック』に引き続き、馳せ参じました、新人公演。
前回の新人公演は愛しの美羽愛ちゃんがヒロインだったこともあり、あわちゃんを追って行けば、概ね話を理解できるという仕組みになっていましたが、今回はラプリュナレド伯爵夫人は出てくればセンターに立ちますが、出番が前半に集中していたこともあり、前半はあまり話を追いかけることはできませんでした。
とはいえ、新人公演のアドリブ、もっといえば新人公演ならではのアドリブは、まさに彼女が演じたラプリュナレド伯爵夫人に集中していたとも思います。主演二人がわりと真面目に演技をしなければならないので、あわちゃんが出てくるたびに笑いをかっさらっていて、ファンとしては嬉しい限りでした。

ウィーンの貴婦人たち、登場早々ひときわ高く結い上げられた白い髪、あでやかな赤い花の髪飾り、本公演よりも華やかな色になった大きな輪っかのドレス、もう見た瞬間感激しましたわ。心のキャンパスに一生保存しますわ。
多くのマダムたちに囲まれ、中心となり、今やサロンの帝王となったリストのパトロンにふさわしいオーラよ……っ!
台詞のないところでもマダムたちと楽しんでいる様子がうかがえて、何を話しているのか気になりすぎるわ。
歌は高音が苦しそうな感じはしますが、手に汗を握りつつも、地声のところはわりと安心して聞けました。

リストを叱り飛ばしながら下手花道から登場する場面の巻き舌は圧巻でした。
あえて文字にするなら「ふらああああんつっ!?!?」みたいな感じでしょうか。
あんな特技があったなんて、今まで知らなかったわ……『恋アリ』から早3年が経とうとしているのに、初めて知った特技でした(『恋アリ』で最下級生として登場しているあわちゃんを見つけた人)。
客席からも笑いがもれておりました。
リストの取り巻き三人娘もラプリュナレド伯爵夫人の佇まいに圧倒されてマイクに入るか入らないかの音量で「本日もお美しく……」みたいなお世辞を言って去っていくのですが、それに対しても「ありがう、でも当然でしょ!」とお礼だけでなく、ぴしゃりと言い返すあたりがもうもう……っ! たまんないですよ……っ! 最高だよ! 私はやっぱりあわちゃんのお芝居が大好きだよ!
その後のリストとのやり取りも、激昂するタイプのくりすちゃん(音くり寿)の役作りとは打って変わって、冷たく静かに怒るタイプのラプリュナレド伯爵夫人でした。なんなら巻き舌で出てきたときが一番テンション高い感じでしたね。

ところでラプリュナレド伯爵夫人の伯爵、形式上の夫であるはずの「ラプリュナレド伯爵」は今、どうしているんでしょうね。
姿かたちが全く見えないどころか、話にも出てこないので、もしかしたらもう亡くなっているのかもしれません。
だからこそラプリュナレド伯爵夫人は自由に芸術家のパトロンができるのかしら。
どちらにせよ、政略結婚であっただろうし、リストとの幸せな時間があったからこそ、リストが離れていこうとするのが許せないのでしょう。
リストへの愛情、もっといえば、未練のようなものがあるのでしょう。
一方で、リストとしてはパリに連れてきてくれた、パリの社交界にデビューさせてくれた、それだけで満足なのでしょう。
言ってしまえば「用済み」であり、リストにはそこからまだ上り詰めていこうとする「野心」があるのだから。

リストがマリーとパリを出奔したことは、瞬く間にニュースになり、暇な貴族たちの噂話に上るようににある。
ただし、暇であろうがなかろうが気になってやまないのがラプリュナレド伯爵夫人とマリーの夫であるダグー伯爵です。銀橋のほぼセンターにいるあわちゃんのオーラたるや……! まぶしいぜ!
ダグー伯爵は本役がつかさくん(飛龍つかさ)で、新人公演はらいとくん(希波らいと)。
あわちゃんとらいとくんはソロはそれぞれワンフレーズのみで、あとはコーラスとなりましたが、『元禄バロックロック』でもそうだったように、歌は二人とも課題なのですね。頑張ってください。
とはいえ、ダグー伯爵も丁寧な役作りを感じました。らいとくんのお芝居もいいよなあ。

リストがパリを離れたのち、ラプリュナレド伯爵夫人はタールベルクを社交界の花形として抜擢、リストの後釜に据えようとする。
このときもタールベルクからの愛撫はともかく、口づけは拒むような仕草があり、ラプリュナレド伯爵夫人のリストへの愛情を感じずにはいられませんでした。うっかり裾を踏んでしまったタールベルクへの叱責も厳しい。本公演のラプリュナレド伯爵夫人と比べると、全然タールベルクなんて視界に入っていない感じなんですよね。リストが戻ってくることを、リストとまた愛し合う日々を夢見ているようでした。

タールベルクはラプリュナレド伯爵夫人の期待に応えるべく社交界でピアノを弾く、弾けばラプリュナレド伯爵夫人の息のかかった記者により絶賛される。タールベルクとしてはおもしろくて仕方がないでしょう。
そのタールベルクの取り巻きはリストと異なり、男性が多いのですが、そこの台詞も「なんだか、あなたの取り巻きはむさくる……数が少ないのねえ」と新人公演ならではの台詞に変更されていました。
ありがたい……! 新人公演でも、ちゃんと演じるタカラジェンヌのために台詞を考えてくれるなんて、なんとありがたいことなのでしょうか!

その後リストが戻って来て、タールベルクとの戦いになる。
ラプリュナレド伯爵夫人としては戦わなくても勝敗などわかっているし、残念ながらジョルジュ・サンドがリストにお願いしたように、ラプリュナレド伯爵夫人もまたリストに敗者の烙印を押したくはない。一方で自分が取り立ててきたタールベルクが負けたら自分の顔も潰れてしまう。
本公演よりもリストへの未練がある新人公演のあわちゃんの伯爵夫人の心持ちはさぞ難しかったことでしょう。戦いの際「タールベルク!」と歌いながらも周りの「フランツ・リスト!」と呼びかける人々に不安げな視線を送り続けていました。
「この勝負、わたくしが引き取らせていただきますわ!」という台詞は痛みさえ伴います。
思えば、リストがマリーとしていたように白いキャハハウフフの穏やかな生活は、本公演のれいちゃん(柚香光)のリストとくりすちゃんのラプリュナレド伯爵の2人だとあまり思い描けないのですが(もっと大人の遊びをしていそうw)、新人公演の2人にはかつてそういう夢見心地な世界があったようにも思います。それはもちろん学年が若いということもありましょうが、役作りの根本が違うからなんですね。

穏やかな生活で得た新たな心境で作った曲を披露したことで、リストはタールベルクに勝つ。リストに背を向けて上手に去っていく伯爵夫人とタールベルクの背中には哀愁が漂います。
しかしその後、リストは大勢からの拍手喝采に快感を覚え、マリーとは違う道を歩むことになる。拍手、他人からの承認、名誉、地位といったものに呑まれていく。
野心こそ元からもっていたものの、拍手という毒薬でリストの体を最初に蝕んだのはラプリュナレド伯爵夫人が紹介したパリのサロンでしょう。そこはウィーンのサロンとはまた違う、特別な場所だったはずです。芸術の都、パリですから。そしてラプリュナレド伯爵夫人はタールベルクのときのように最初はリストを褒める記事を書かせていたことでしょう。すぐに必要なくなったかもしれませんが。他者からの承認に飢えていたリストにとって、拍手は実に甘美な毒薬に違いありません。
そう考えるとラプリュナレド伯爵夫人とは道を分つことになったものの、リストは伯爵夫人から与えられた毒薬からはしばらく逃れることができなかったともいえそうです。ショパンの前で勲章を脱ぎ捨てたとき、ラプリュナレド伯爵夫人からもようやく解放されるのでしょう。

あわちゃんはその後、兵士として一番後ろの位置に同期のみこちゃん(愛蘭みこ)と登場。あんな短い髪、今まであまりなかったわよね?!?! 新鮮でした。
本役ここちゃん(都姫ここ)のオランプも愛らしかったですが、みこちゃんのオランプも最高でしたね。
ロッシーニとのバカップルぶりが本公演を上回っていましたし、登場早々、ロッシーニが紹介しているというのに、我先にと率先して一歩前に出るおちゃめさん。でも嫌味は全然ない。
パリから出奔したリストを新婚旅行がてらジュネーヴまで追いかけてきた時も、ロッシーニが投げたトランクをナイスキャッチするみこオランプ。なんて愛らしいのでしょうか。
そしてピアノの前で繰り広げられるメロドラマをよそに(笑)、上手側の戸棚を勝手に開けて、ロッシーニではなくベルリオーズとワインを飲んでいる様子。自由すぎるぜ、みこオランプ。これは本公演通りなのでしょうか。この場面、リュサンド嬢のあわちゃんしか見ていないから上手を全然見ていないのよね……。
そこはかとなくエルミーヌっぽいのは貴族の令嬢という肩書きが共通しているからでしょうが、みこちゃん持ち前のチャーミングさが感じられてよきです。

あわちゃんもみこちゃんも、新人公演のプログラムによるとラストは兵士のまま登場する予定だったみたいですが、なんと! あわちゃんはラプリュナレド伯爵夫人、みこちゃんはオランプ嬢としてお着替えし直して登場してくれました。ありがてぇ〜! これがマジでありがたかった。
ラストはやっぱりこうでなくちゃね! 不意打ちすぎて、めちゃめちゃ泣きました。
中村真央先生、本当にありがとうございます!!!
タールベルクと共に出てくるラプリュナレド伯爵夫人は一体何を見て、何を思っているのでしょう。タールベルクと一緒にいても、その心はうつろ、愛しあった頃のリストに向けられているのかもしれません。
いつかあわちゃんに答えて欲しいなあ。
オランプはロッシーニと、なんだかんだ革命を生き延びてラブラブ生活していて欲しいです(笑)。

さて、新人公演初主演のゆきくん(侑輝大弥)は、幕開きそうそうはちゃめちゃに緊張しているのがわかって、最初の弾き語りなんかはわたしも緊張してしまいましたが、次第に力が抜けてきましたね。もっともいきなり弾き語りするなんて思っていなかったよね、よくやりました。西野先生が指揮を振っていなかったから、ちゃんと自分で弾いていたのでしょう。すごいなあ。
そしてヒロインも新人公演初のみさきちゃん(星空美咲)。バウヒロイン、外部ヒロインも経験がありますので、場数を考えれば妥当でしょう。芝居、歌、共に安定しています。あとは表情がもう少し柔らかくなるといいのですが。
記事を書いていることがダグー伯爵にばれたときは、まどか(星風まどか)マリーがわりと冗談っぽく「今はやりのジョルジュ・サンドだって女流作家よ」とダグー伯爵に言って許してもらおうとするのに対して、みさきちゃんのマリーはわりと真剣に説得するような感じでダグー伯爵に対抗していて、そりゃザ☆貴族のダグー伯爵には一ミリも響かないだろうな、と思いました。
新人公演後の囲み取材は2人ともラストのお衣装でしたので、ゆきくんは神父姿、みさきちゃんは今にも「夜のボート」を歌い出しそうな黒いドレスで、これはちともったいなかったかなあ。メインのベルベットのお衣装を着た姿のお写真がよかったファンも多いのではないでしょうか。時間の問題で仕方がないのでしょうが。

ショパンの鏡くん(鏡星珠)はほぼ初めまして。抜擢ですね。これで研2とかマジか?! 舞台度胸に感動しました。出て来たときは一瞬かちゃさん(凪七瑠海)に見えました。まだまだ荒削りなところはありますが、これから垢抜けていくのが楽しみです。
サンドちゃんは安定のたおしゅん(太凰旬)。本役のひとこ(永久輝とあ)よりも声は高かったものの、それが気になることはなく、色っぽいサンドちゃんを演じきっていました。ちょっと歌の高音が不安定だったけれども、男役であそこまで高い声を出すことはあんまりないから大丈夫でしょう。
そして『冬霞の巴里』で大活躍したまるくん(美空  真瑠)のエミールは! もう! 最高でした!!!
特にあのラップ……完成度が高い……あすか(聖乃あすか)だって決して悪くなかったし、なんなら研ぎ澄まされた感じがしてすごくよかったのに、まるくんのあのギラついた感じは一体……ニュース記事の中でも彼女に触れているものがありました。
花組の下級生男役も育って来ていますね。本当に新人公演がなかった2公演が惜しまれるし、前回だって1回しかできなかったことを考えると悔しい。

ゆきくんのカーテンコール。1回目は「明日は十分休んで、明後日からの本公演を頑張ります」といったものの、2回目でうっかり「今日得たことを明日の公演に……」と切り出してしまい、舞台上も観客席もざわつきましたが「生かしたいところですが、明後日からの本公演に生かしていきます!」と言い直したのはすごい舞台度胸だった。言い直すこともできただろうに、それをせず、力技で文意をつなげていくその力量たるや! すばらしい!
露出が増えると、こういうトーク力みたいなものも求められるようになるので、本当に大変だと思いますが、すばらしかったです。

あとはみさとちゃん(美里玲菜)、ゆめちゃん(初音夢)、ひめかちゃん(湖春ひめ花)はどこにいてわかったな。本公演でも見つけられるメンツですから、まあ数の少ない新人公演なら尚更なんですけどね。3人ともウィーンのマダム姿が最高でした。お美しいこと!
みさとちゃんは新人公演や別箱でそろそろしっかりした役がつくといいのだけどな。楽しみにしています。

ところでこういうことを書いていいのかどうかはよくわからないのですが、今回新人公演の演出を担当された中村真央先生はなんでも中村暁先生の娘だとか。
スタッフにすみれコードがあるのかどうかはよくわかりませんが、ジェンヌも姉妹や母娘は認知されているから、いいのかな……?
真央先生、期待しています。

ちなみに『元禄バロックソック』の新人公演の感想はこちらです。

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