ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

雪組『Lilacの夢路』『ジュエル・ド・パリ!!』感想

雪組公演

ミュージカル・ロマン『Lilac(ライラック)の夢路』-ドロイゼン家の誇り-
作・演出・振付/謝珠栄
ファッシネイト・レビュー『ジュエル・ド・パリ!!』-パリの宝石たち-
作・演出/藤井大介

 ディートリンデがなんの罪の償いもしていないのはええんかい!とか、ラストは誰かヨーゼフのこと思い出さんかいな!とか、そもそもヨーゼフは死ぬ意味あったのか(本当に死ななければならなかったのか)?とか、フランツはディートリンデのどこが好きなんだろう?とかいろいろ疑問は残るのですが、雪組に珍しい多幸感で誤魔化された気が、する……。路線スターたちが真ん中でトップスターとわちゃわちゃして、着替え人形になってくれたからOKという人もきっといるのでしょうけれども。こういうとき私は宝塚向きではないのではないかと思ってしまう。
 20世紀はコンクリートの時代と言われますが、それと同じように19世紀が鉄の時代と言われたのでしょう。耐久性、持続性、可塑性、普遍性もろもろ合わせて考えると、当時の材料と比較してその利便性は他の追随を許さないのでしょう。今回の話は、鉄道を作る話というよりも、鉄道を作る資金を集める話になっていて、その縦糸に対して、横糸に夢人たちがいて、一族の話をもう一つのテーマとする。その構造はいい。いいのだが、それを果たしてうまく描けたかな、という疑問は残りました。

 ツイッターでは「これはベンチャー企業の社長がこれまで(成功まで)を振り返った再現VTRなのだ」という旨を読んで、なるほど~!わかりやすい!そして刺さらないわけだ!と妙に納得しました。私は見たことがないのでよくわかりませんが、『ガイヤの夜明け』なる番組のようだとも言われていました。だいたいベンチャー企業の成功秘話とか、うさんくさいにもほどがあると思う性質なもので。しかし、そういう胡散臭さも吹き飛ばしてしまうようなオーラが咲ちゃん(彩風咲奈)には確かにある。
 再現映像だと考えれば、ハインドリヒはディートリンデの罪の償いなんぞには興味がないだろうし、フランツがなぜディートリンデに惹かれているのかも知らないだろうから描かれないのもわかる。エリーゼにも家の紋章の話と鉄の話しかしないのもまあそうだろうなと思われる。それほどロマンチックな場面があったとも思われない。だからこそ、それが宝塚で、本公演として見たい話かどうかはまた別だろうけど。

 再現映像説はわかるのですが、それにしても一つの作品ですから、ハインドリヒを視点の中するにしてももう少し細部に矛盾なく、疑問なく作れないものだろうかという欲が私にはある。百歩譲ってフランツは話が始まる前からディートリンデが好きだったから、何が好きなのかわからなくてもいいけど(よくない)(二番手男役の物語が不明瞭なのは宝塚としてもどうなの)、エリーゼはなぜハインドリヒが好きになったのだろう、というのは知りたいよねえ。だってトップ娘役の役柄だよ? ゆめぴろちゃん(夢白あや)の大劇場トップお披露目公演だよ? やっぱりあれか、顔と金に惹かれたのかな(こら)、と思ってしまうのも、よくないかなあ。というか、なんならフランツは一度ハインドリヒと完全に袂を分つかと思ったのに、ハインドリヒの話を盗み聞きしただけで改心するとか、随分ハインドリヒに都合がいいストーリーだよな、と。まあハインドリヒ視点の再現映像だからねーと言われれば確かにそれまでなのですが、だからそれを宝塚でやる意味はあるのか、と。
 ディートリンデも、ハインドリヒが好きというわけではないけれども、自分を無視するのが耐えられなくて、脅してやろうと思うのは百歩譲ってわからんでもないが(わかりません)(甘やかして育てたであろうパパが悪いのもわかりますが)、それにしてもあの脅しはきつすぎないか。ひまりちゃん(野々花ひまり)になんて役をやらせるのか。そしてそれでも彼女を愛してくれるフランツって優しすぎないか。器がデカすぎるぜ。それは何よりもハインドリヒに都合よく見えてしまうのが悲しいかな。スター制度を採用している以上、トップスター中心になるのはいいのだが、ご都合主義とは一線を画すものではないだろうか。

 ハインドリヒの中で、ドロイゼン家の領主として農地や農民を守ることとプロイセンという国のために鉄道を作ろうとしていることがアイデンティティとして両立しているのもすごいなと思う。世界史としてはどうなんでしょうね。貴族としての役目と市民としての自覚ってそんなに親和性のあるものではないと思うけれども、そういう珍しい人だから主人公になり得るのかもしれませんが。まさに赤レンジャー。凄鉄戦隊美形レンジャーの真ん中。
 農民を解放すれば農民が喜ぶというのも難しい話だと思います。気候によって農作物が取れなかったときに面倒見てくれる領主がいなくなったら、路頭に迷う農民も出てくるのではないかと。実際に冬だけでも仕事をくださいと別の領地から農民がやってくるくらいにはハインドリヒって領主として有能だったのよね。とはいえ、実はご兄弟を率いていたのは、真ん中で取り持っていたのは、五男のヨーゼフだったことが明らかになるわけですが。あのオーケストラの場面は良かったなあ!
 ハインドリヒがいわゆる長男なのに夢想家で、自分の夢に一直線というのはあんまり今の日本では考えられないような感じもありますが、何もしなくても財産がまるっと転がり込んでくるのだから、あんまり悩まなくていいというのはわかる気がする。フランツ以下は「人生が保証されていない」という台詞が響くよなあ。ハインドリヒとフランツは一度決裂するかとも思いましたが、フランツがハインドリヒの思いを盗み聞きするだけでフランツが考え直してくれるのだから、これもまたハインドリヒに都合よく見えてしまう。あそこのあーさ(朝美絢)の白衣装、素敵でした。

 台詞が響くといえば、あとはランドルフ(一禾あお、すごくよかった!)を通じて国に支援を求めようとしても「鉄の力があるなら鉄道ではなく武器を作って!といわれる可能性が高い」という話が、なんだかとてもリアルで、あんまり他人事とは思えなかったんだけど、グサグサ刺さったのは私だけなのだろうか。重工業の企業の株式いっぱい持ってる政治家って。
 あと前半に出てきた「たった一つの情報を誰よりも早く手に入れたことで億万長者になる」というのは、今でも言えるかなーそんな時代でいいのかどうかはまた別の問題だけど、億万長者がその金を何に使うかはノブリスオブリージュを胸に刻んでほしい。その意味でハインドリヒは分配してくれそうなのが救いかな。

 美穂圭子の扱いとしては、アーニャとしての出番は最後しかなかったこともあって、もったいないという声も聞きますが、結局サブタイトルにあるような「ドロイゼン家の誇り」、つまり騎士道をもっとも体現していたのは彼女であったという横糸の物語はおもしろかったと思います。むしろ鉄の資金集めの話よりも私は興味あるよ。
 とはいえ、振付も謝先生だったから踊りはすばらしかったし、わりとみんな出番がある感じではあったから、それはよかったかな。そんなわけでアーニャの話、書きませんか、謝先生。
 はいちゃんとかけいくんとかはもうちょい出ても良さそうなものだけど、大劇場はその塩梅も難しいよね。退団者の見せ場はショーでたくさんあったから、まあこんなものでしょうか。

 さて、お次はショー。ショーだけでもいいから東京公演見に行きたい。楽しすぎる!と素直に思ってしまいました。宝塚が二本立てである意味がよくわかる。
 全部全部割とよかったんだけど、まず一ついい? ダイスケ先生にありがちな男役が娘役のカッコするの、私はとても苦手なんだけど、カンカン、私の大好きなカンカンで、え??まなはる(真那春人)??え、あすくん(久城あす)??みたいな???え?え?あれは、ちょっと……生で見たいです、すいません、ダイスケ先生、ありがとうありがとう。パステルカラーの雪組とか新鮮でした、本当にありがとうございます。
 初舞台生のラインダンス、黒燕尾の咲ちゃんが銀橋にいるときの背景として大階段から降りてくるの、マジで大正解!!!としか言いようがないよね?もう絶対あそこから出てくるって思ったもんね???そしてラインダンスの一番上手の方はどなただろうか、かわいいなあ!!! ラインダンスのところ、東京はどうなるかなー(めくるめく『デリシュ』の思い出)。
 しかしフルールたちはなぜ黄色なのだろう……ミモザ? でも花といえばピンクのイメージだが、まあそれもよきかな。
 そしてプロローグ、ひまりのシンメがメロディちゃん(音彩唯)だったのが、もうもう……っ! すごい。驚いてしまったが、それもそうだよね、と。ただ、変なアンチが増えないようにだけは劇団さん、頼むよ!
 ところで、階段から降りてくる美穂圭子が熟練男役を率いて歌う場面とかマジでありがたすぎませんか? ありがとう。こういう作品を待っている人もいるはずだよ! ヒロイン美穂圭子とか、ヒロイン五峰亜季とか!

 シャガールの場面の冒頭、かりあん(星加梨杏)とうきちゃん(白峰ゆり)の幻影デュエットダンスも良かった、素敵だった。その後のあーさとひまりのカップルも超可愛かったし、周りのすわん(麻花すわん)やりなくる(莉奈くるみ)もよかった。可愛かった。楽しかった。目が足りなかった。
 一つ言うことがあるとすれば、どこがシャガールかは不明ではありました(笑)。でも鮮やかな青いジャケットやワンピースはまぶしくて若々しくて良かったです。あれかな、細部に使われているカラフルなところがシャガールのイメージなのかな。

 オベリスクそらくん(和希そら)、噂のへそ。別に悪くないのだが、こういう場面こそともか(希良々うみ)にやっていただきたい。格好いい系娘役代表。今回のスチールもゆきちゃんみたいで好きだったなあ。 
 ところで、ここのダンサーにあがち(縣千)がいるというなぞ配役。これはいいの、か……? いや、私はファンがいいなら、それでいいのですが。それから、組長(奏乃はると)のお歌もありがとうございました。

 フェルゼン咲ちゃんのルーブルコレクションも楽しかったなあ。ゆめぴろちゃんの衣装も良かったし、サイドではあいみちゃん(愛すみれ)とあすくんが歌っていて、そのお衣装もすごくすごく良かったし(あいみちゃんの輪っかのドレス! 最高かよ!)、ここもずっとずっと見ていたかったな。今回のお衣装大当たりが多くて嬉しいな。ゆめぴろちゃんの進化するドレスはもちろん、デュエダン赤ドレスもよかったのです!
 うきちゃんの綺麗で長い足も拝めて満足だよ。本当にありがたい場面だったよ。

 そして聖母マリア様はありすちゃん(有栖妃華)。そうか、そういう配役にするんだと驚いた場面です。歌はもちろん申し分ないし、構わないし、お化粧も上手くなって、私は好みからいえば好きな生徒なのですが、例えばここ、メロディちゃんじゃないんだ、みたいな感想をもった人は他にもいるのではないだろうか。なにせ、オープニングではひまりちゃんとシンメトリーだったわけですし。
 私としては、ありすちゃんの美声が聞けて良かったことに違いはないのだけれどね! 不思議なキャスティングだなあと。劇団がある意味でメロディちゃんを守ったというのならそれはそれでよくわかるとも思います。

 娘役トップお披露目ショーにふさわしく、ゆめぴろちゃんは冒頭も中詰も男役を侍らせる場面がしっかりあってすごいな〜景気がいいな〜! 本人も楽しかろう!! 布量多い衣装ばかりで(これはこれで景気がいいので、こういうお衣装も大好きではある)指にリング嵌めて操るのは難しかったろうが、上手に捌いていた印象があります。上手にやっていたなあ。
 そして、あーさは必ず娘役を侍らせる場面がある印象(笑)。二番手だからというのもあるかもしれないが、前からそうよね……雪組に来てからショーは毎回と言っていいほど娘役侍らせ場面がある。まあ、そうさせたくなるのもわかるのだけれどね!

 中詰直後はあがち軍団。若手の筆頭みたいな扱いなのだろうけれども、こういうお役目もそろそろ卒業かな。なんせ四番手ですからね。この間の花組であすかもやっていたけれども、あすかも次にバトンタッチしたければならないでしょう。
 曲はノリノリのフランス国歌。いつもラインダンスで聴いているから、高い声での「やっ!」という声と共にあるから、男役だけの煽りの言葉の威力たるや!これはこれですごい。イメージがガラリと変わった。手拍子もしていたからな、あのフランス国歌。男役たちの雄々しい声で上書きされました。不思議な感じでしたが、ここも楽しかったです。

 次は白黒咲ちゃん。お衣装やカツラが一瞬ジャガビーかな?と思いましたが(ここの衣装は不思議だった)白チームと黒チームに分かれたこの場面も良かったなあ。クラッシックとモダンという分け方も新しい?
 白あーさの後ろに友人の大の推しであるせーみくん(聖海由侑)もばっちり発見しました。出番そのものは増えた印象がありますが、歌起用がもっと増えるといいなあ。

 そんでもってカンカン! 待望のカンカン! カンカン、レ、ディ……??? う、うん。とても見たい。生で見たいです。ピンクのおかっぱカツラに帽子をあごしたでリボンで止めるまなはるとか、超見たいです。
 そんでもってここのゆめぴろちゃんの衣装も超可愛い。なんだこの配色! 銀橋に残るのもよき。カップルコンビを左右に置いて真ん中のスターオーラを見せつけてくれましたね。ありがたい。

 フィナーレは階段に凱旋門と思しきものが立っていましたが、あれはちとスターの顔が見えない座席とかもあるだろうからなあ、フランス感は出てはいたかもしれないけれど。
 ここの衣装もよき! 白!白!白燕尾!!! 尻尾長いバージョン!!! 赤い薔薇を胸をさす!!! 大変好みです!!! たぎるぜ!!! ビジューキラキラすぎて、ライトが当たって眩しいってこともなくて、ちゃんとスターのオーラを見せてくれたのね、ありがてぇ。たまにこういうとき衣装のビジューが多すぎて眩しすぎて直視できないってことあるからな、よくわかっていらっしゃるわ、ダイスケ先生。ありがとう。

 デュエダンのラスト、そういう演出なのかどうかわかりませんが、咲ちゃんに抱かれてうっとり目を瞑ったままライトが消えるのかと思いきや、直前でゆめぴろちゃんが目を開けてしっかり顔を見せてくれたの、よかったなあ。こういうとき、娘役は男役に寄り添って目を瞑ったままのことが多いからな。娘役だってしっかり主張してくれていいのよ。
 そして、メロディちゃんのエトワール。こりゃたまげた。はいだしょうこのエトワールを思い出した。難しかったと思いますが、よくやったぜ! 追い上げ具合が怖い気もするけれども、劇団さん、そういうとこ、頼むよ……!
 その意味では、パレードの並びはゆめぴろを守ったのかな?と思うところがあって。パリがテーマだから、あーさが青羽、ゆめぴろが桃羽、咲ちゃんがトリコ羽でしたが、並びは上手からあーさ、咲ちゃん、ゆめぴろで、国旗とは反対。トップの上手側にトップ娘役がいて欲しい気もするが、ね……。
 『はいからさん』も確か上手からあきら、れいちゃん、華ちゃんだったから前例があるといえばあるが……まあ、それならそれで、あーさが桃羽、ゆめぴろが青羽でもよかったような気もするけど。あーさの桃羽、見てみたい気がする。見てみたいな!

 星組の唯一のチケットかつSS席が、データ上の話とはいえ、紙屑同然となり、悲しみが押し寄せてきますが、一番辛いのは星組の生徒。中止の延長もお知らせされましたが、まずは健康第一で。
 そしてこれを機に劇団はトップスターだけでなくフェアリー全体の働き方を考えなければならないのではないでしょうか。1日2回公演が多すぎるし、本公演は期間が短いし、そのせいでショーは基本的に稲葉、ダイスケ、中村Bのローテーションで(時折別の人が入るが)、作品の質にも影響するでしょう。それは芝居にも言えることです。
 無給人間はそれほど投資はできないですが、応援はしているんだよ、阪急。頼むよ、阪急。