ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

雪組『夢介千両みやげ』『Sensational!』感想

雪組公演

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大江戸スクランブル『夢介千両みやげ』
原作/山手樹一郎「夢介千両みやげ」
脚本・演出/石田昌也

ショー・スプレンディッド『Sensational!』
作・演出/中村一

演目発表当初から「ダーイシだし」と悩んでみたり「ポスターもあんまり……」と思ってみたりして、期待がそれほどできたかったのですが、そのあたりの心配はそれほどなかったです。全くなかったとは言わない。
『カンパニー』や『壬生義士伝』ほどのアレはなかったので、そこは良かったかなと。
原作は未読。プログラムによると、戦後刀を振り回す系の物語は検閲に引っかかったということですが、本作は無事に民衆に届けられた作品だったとか。
なるほど、多くの人が明るい未来を信じられた時代に夢介のようにお金で物事を解決し続けていく姿は眩しく見えたことでしょう。当時の市民たちが勇気づけられたのは、さもありなん。
ただ、現在、先進国の中で唯一といっていいくらい我が国だけが賃金が下がり続け、未曾有の疫病が流行ろうとも国民に銭をばら撒かない政府を目の当たりにしていると「うるせぇ! 死に金だろうがなんだろうが、金は金だろ! 四の五の言わずにはよよこせ!」と思ってしまう私はたぶん心が荒んでいるのでしょう。
夢介の言う「生きた金」「死んだ金」の概念は確かにわかる。わかるけれども、たとえば「人生、金と美貌」と思っている身としては「金に生死はあっても美醜はねぇだろ」と思ってしまう。美醜は好みに左右される部分はあるけれど、お金は誰が持っても千両は千両でしょう。
もちろんそういう屁理屈をこねないから、夢介の周りにはお金が集まり、またその人柄によって人が集まる。
でも、その人柄だって、百姓の身でありながら大金持ちの家に生まれたからこそ身に付いたおおらかさや穏やかさ、心の広さなのであって、ある程度裕福だからそういう人柄になったんでしょ、とうがった目が見てしまう。
「金では買えぬものがある恋に心に男伊達♪」はお金があるから言えることなのでしょう。
作品の良し悪しというより、時代との相性がめっぽう悪いような気がいたしました。

よく言えばおおらかで穏やか、悪く言えば呆けていて、牛のようにのろまな夢介は、宝塚のトップスターが演じるキャラクターとしては珍しいですが、大柄で肩幅もあるどっしりとした体格の咲ちゃん(彩風咲奈)は説得力がありましたし、演技もきちんと主役として舞台にい続けたのはさすがだな、と思います。
トップスターであっても夢介を演じられない、夢介向きでない人はいるでしょうし、こういうキャラクターを求められることもそれほど多くはありません。
トップになってまだ1年というのも功を奏したのかもしれません。
怪力で、いざ戦うとなったら剣の腕もたつ、というのはいかにもトップスターらしい設定ですが(笑)、おそらく原作でもそうなのでしょう。

話としては、総太郎がお金と人柄で傷つけた人たちを、夢介がお金と人柄で救っていくように見えたので(だからこそ、一言でお金がどうというつもりはないのですか)、こういうトップと2番手の関係はおもしろいな、と。
反対のことが多いじゃないですか。2番手が常識人で、トップが面倒臭い奴という構図というか。
でもこの咲ちゃんとあーさ(朝美絢)の2人は反対くらいがちょうどよくて、これは新しい発見でした。
そして今回はトップ娘役のきわちゃん(朝月希和)もどちらかというと面倒なタイプの人間でした。
その意味で、みんなが咲ちゃんによって更生させられる話とも言えるかもしれません。
小柳先生風に一行で表現すると「夢介がみんなを真人間にする話」といったところでしょう。トップスターが方言を話すなんて!と思う人はみない方がいいかもしれませんが、それにはあんまり違和感はなく、ただ、その方言は使い方があっているのか?という目線で見るとちょっと居心地が悪いです。このあたりの時代考証は適当だろうからな……。

きわちゃんのお銀、良かったですね。
女スリの押しかけ女房、夢介のために優しい女になると誓い、多少嫉妬はするけれども、始終夢介とはイチャラブで、可愛らしかったです。
ヴェネチアの紋章』でも2人は会えばイチャラブでしたが、だいふ大人の雰囲気が漂っていましたし、基本的には会えない時間の方が多かったのに対して、今回はなんの障害もないので、主演の2人がずっとほわほわのイチャラブでしたからね。
もっとも「江戸中の玄人女を殺してやる!」みたいな台詞はどうかと思ったけれども。そういうところだよ、ダーイシ。あと恋に落ちたときの「キラリン」という効果音と特殊ライト、あれ、いるのかねぇ。ここは新宿コマ劇場か。
吊り目の化粧もよかったし、負けん気の強い感じも合っていたように思います。

で、ダメ人間代表みたいな総太郎を演じたあーさは、なんというか、とても楽しそうでしたね。一人で愉快でしたし、空気は全然読めないキャラクターでした。
オープニングの総踊りには出ていなくて、それが終わった後、下手からやってきて銀橋を「なんせこの顔この器量もててもててしょうがない♪」とかふざけた歌詞(笑)を歌いながら渡り、あんこん(杏野このみ)芸者とゆきの(妃華ゆきの)芸者と3人で踊る。
着物で踊っているのに、全然動きにくそうでないのはさすが。ダンスの種類が増えてきているけれども、やはり日本舞踊は叩き込まれるのだろうな、と音楽学校の厳しさを思いました。この場面、好きだわ〜。
お衣装も色とりどり。7着くらい着ているのかな。さすが伊勢屋の跡取り息子(一回パパに勘当されるけど)(飛脚問屋が銀行みたいなことをしているのも当時の風俗としておもしろい)。
芸者遊びをするのはいいが、金は払わないし、春駒太夫に言い寄ろうとして一目惚れしたお糸とほぼ無理矢理結婚しようとするし、子供ができたお松は捨てようとするし、美人局の件でもなんだか情けない、と女と関わるとロクなことがない。
そんなんだから、あいみちゃん(愛すみれ)に柱に括り付けられるのですよ。
あの場面、本当に好きで。春駒は役として楽しそうに演じているわけですが、もう中の人が楽しそうで楽しそうで何よりでした。
これが同期の絆よ。あっぱれである。
春駒の芸の場面ではまさかのミラーボールが大活躍。これ、和物やで?!となりましたね。楽しかった。ミラーボールに特別手当をあげよう。

お松を演じたひまりちゃん(野々花ひまり)はたぬきメイクでしたが、かわいいよ、ひまりちゃん、さすがだね。
自分のところの女中に手を出して、子供ができるという話はどこにでもありそうですが、お松は身寄りがなく、いっそのことならと首をくくろうとする、ところを夢介に助けられる。
これは脚本の問題ですが、総太郎はお松の境遇を知って自分の子供までも殺しそうになったと衝撃を受けますが、今目の前にない命よりお松本人の心配をそもそもしてやれよな!と思いましたね。そういうとこやぞ、ダーイシ。
でも綺麗な花嫁衣装まで拝めて、こちらとしては幸せでした。ありがとう、白無垢、よく似合っていたわ。夢介や、世話をしてくれてありがとう。

今回から雪組こんにちは!のそらくん(和希そら)はちょっとやりようのない役どころだったかな。
あーさが組替え大劇場お披露目が『ひかりふる路』のサンジュストだったことを考えると、物足りないような。
せっかく組替えしてきてくれたのだからもっと豪勢に華やかにお迎えしてあげたかったような気もします。
もっともそれはショーで大爆発しているようにも見えましたが。
このあたりの塩梅が難しいから、ショーがあると救われる。
妹弟はそれぞれブーケちゃん(花束ゆめ)とりなくる(莉奈くるみ)。こういう茶番みたいなのは、ちょっといらなかったかなとは思っている。笑いを掻っ攫っていたけれども、なんかドリフみたいで、イヤだなあって思ってしまった。そういう方向を求めていないんだよなあ。そういうところだよ、ダーイシ。

今回が最後で惜しまれるあなやちゃん(綾凰華)は、夢介によって改心する役どころ。その恋女房がお滝がともか(希良々うみ)。
最初の方の顎を外される場面なんかは、本当にこれでいいのか?と思ってしまうけれども、終盤では大活躍の悪七でしたね。ええ、総太郎なんかよりもよっぽど肝の座った男でしたよ。
大事な恋女房を守るために命をはったのは、ありがちといえばありがちですが、悪七のキャラとしてはそういうことしか思い付かないような感じでした。
自分で「お滝のヒモだ!」と堂々と言っちゃうのはどうかと思いましたけどね。もっと他の言い回しがないんかい、そういうところやで、ダーイシ。
お滝もよかった。ともか、色っぽかったなー!
三味線の師匠として稼いでいるのに、美人局までやっちゃうのだから、人の欲望は際限がないものです。
自分が美人だとわかっていないとあの方法はとれませんが、好きな人と一緒に裕福な暮らしを夢見るごくごく一般庶民なのでしょう。
出番が後半しかなかったのがもったいないくらいでしたわ。

オープニングやエンディングに出てきた三度笠の男役ずらり、早乙女の娘役ずらりは笠の関係であんまり顔が分からなかったのは残念。タカラジェンヌなんだから顔を見せてなんぼだろうと思ってしまう。同じ衣装なのはわかるのだけれども。
壬生義士伝』でも娘役の使い方はこんな感じだったなと思うとね。新人公演で同じ役をやる生徒も出てくるのだろうな、と思うともうちとなんとかならんのかいとは思いました。
新人公演世代は、せっかくなら新人公演では本公演と全く別のお役をやってもらいたいじゃないですか。そういう意味で小柳先生のアイドルなんかも難しいところではあるな。

あがち(縣千)は『元禄バロックロック』でいうところのおとくりツナヨシみたいな役どころ。
お決まりのパターンではありますが、本人はいたって楽しそうでした。しかしあの裾をひきずるのは大変そうだな……最後のお銀への台詞「これからはヤキモチじゃなくて亭主の世話、やきなよ」みたいなのは、ちょっとなあ。そういうとこだよ、ダーイシ。いっそのこと「町じゃなくて亭主の世話をやきな」の方が過激で良かったかな(いいのか)。

さて、かりあん(星加梨杏)です。
今回初めてスチール入りした彼女ですが、猪崎先生がちょっとやばかった。
いや『ほんものの魔法使い』のときからちょいちょいオペラがとまるな、とは思っていたし、気にはなっていたし、『CH』でも頑張っているなとは思っていたけれども!けれども!アー!
そもそも今回はキャラクターも反則で、ああいうの好きだからな、誰がやっても気にはなっていただろうけれども、よりにもよってかりあん
『ほんまほ』でトートダンサーみたいな化粧をしれっとしていたかりあん
これはますます応援せねばなりませんな。ショーでもしょっちゅうオペラに入ってきたよ。眼が足りぬ。

そしてショーは雪組の担任なのか?と思わせる中村B先生。
1つの場面にたくさんの組子を出しすぎて、場面が1つ少ないのが特徴ですが、これはなんとかなりませんかね。下級生まで追うのが大変なんですよ、ショーでは下級生もしっかり見たいんだよ! 1階席だと人が重なってしまって後ろまで見えないんだよ! 人数制限!と思いました。
一方で、銀橋を軽率に使いまくるところは本当に感謝しかないし、フィナーレではきわちゃん銀橋センター男役ずらりは最高だったし、デュエダン前の男役黒燕尾娘役ドレスの中詰再来みたいな豪華な場面も大好きだから、これらは残っていてよかった。ありがとう! 中村先生!
いや雪組ファンは『MR』で何度も見た構成だし、最近では星組『Ray』や花組『The Fascinetion』でもやったばかりだけどね。ショー作家がマジで不足しているし、プログラムでのそらくんの発言から宙組と中村B先生が全然組んでいないこともわかって、ナンダッテ?!とはなりましまけどね!

オープニングから格好良かったわ。カゲソロのともかはもっと舞台上でも活躍していいと思ったけれども、それだけ下級生の歌手が育ってきているということでしょうか。でももっとともかの歌声は聞きたかったよ。
相変わらずこうるさい映像はどうにかならないものかと思いながら幕が開くと板付きじゃんか!
すでに咲ちゃんはせり上がっていて、あーさ以下5人がハットに手を当てて待っている。そりゃ極上の世界ですわ。
マジであーさが赤、そらくんが青だから、完全に脳内は「青春アミーゴ」だよね。見たことあるわ、これ。
2人が銀橋ですれ違うところなんかうっかりオペラで見てしまったので、変な声出たし、オペラは膝の上に落としたわ。拍手で変な声が掻き消えて良かったけど、2回目も覚悟していたのに、やっぱりオペラを落とした。首からかけていて本当によかったし、これからいくつ心臓があっても足りない。
あとはオープニングからしっかり見付けられた聖海由侑。すっごい金髪だったし、ちょうど色も黄色でした。反対にカセキョー(華世京)がなかなか見つけられなかったよ、残念。

それにしても、並びが咲ちゃん、あーさ、そらくんの次があがた、あやなになっていたのは、しょっぱかったな。最後なんだし、そのままあやな、あがたの順番だったらダメだったんかい。
あやなちゃん、餞別の場面はもらえたけれども、ひとつまるっとという感じではなかったのに対して、あがちはフラミンゴの場面でガチガチのセンターだったし。まあ、どこがフラミンゴなんだ?とは思ったけれどもね。
次からはそらくん、あがちになるに決まっているのだからさ、あれはちょっと傷ついちゃったな。好みの問題ももちろんあるのだろうけれども、すんすん。

コーラスは副組長(千風カレン)とあいみちゃんで安定、途中の歌手起用のりなくる、ありすちゃん(有栖妃華)、上手下手にわかれるときは華純沙那ちゃんをウォッチング。アルマ王女、良かったからな。カゲコーラスでも起用があったし、今後も活躍が期待できる〜!

続くフラミンゴの場面はなんと言ってもひまりちゃん!かーわーいーいー!
中村先生はフラミンゴをなんだと思っているのか、しばしば謎ですが、ひまりの可愛らしさで全てが許される。ピンクのヒラヒラも可愛いし、とっても可愛い。
この場面、センター奥で聖海由侑と麻花すわんが組んで踊っているようにも見えたけど、よくよく見るとすわんはこの場面に出ていないから、一体あれは誰だったのだろう……。

すわんはお次の軍服あーさセンターの場面にいましたね!
2人の男をもてあそんでいましたね! ドレス姿も素敵でしたよ!
あーさの軍服はそりゃもう絶品に違いないのですが、この場面もよくわからなくて、プログラムを読むと場所は要塞なのに、ドレスアップした淑女がたくさんいるのはなぜ?
要塞の中に入ってきて恋人たちを引き裂こうとしている黒い風とやらは本当にただの気候の風なの?それとも場所が要塞で、男役が軍服だから、これは戦争の比喩なの?
ともかは娘役の中では1人だけキラキラのついたお衣装を着ているけれども、あすくん(久城あす)みたいにソロはないし、なんなの?
これは『Ray』の霊夢の場面でもみっきーは歌うのにペアダンスをしているはるこさんは歌わないというアンバランスさを連想させて、なんだかなあと。
プログラムにもともかは「黒い風女A」と特別枠になっているのだから、舞台でも特別だということがわかるようにしてくれよ。
ともかの歌声を聴かせないのはいくらなんでももったいないでしょう。
もっとも黒い風の侵入はあったものの、誰1人死ぬことなく終わったみたいなので、それはそれで治安がいいのか?と思ったりもしましたが。
しかし軍服というのも、これからしばらくエンタメで扱いにくい方向になっていくのかもしれません。

中詰風神はこれまたオリエンタルの意味を問われそうなオリエンタルでしたね。すわっち(諏訪さき)と組長(奏乃はると)と副組長の3人で銀端からスタート。これはこれで景気がいい。『MR』での既視感はある。
銀橋を軽率に使いまくり、スターの見せ場を作ってくれることはありがたいし、ひまりちゃんも一人で渡りきったし、はばまい(音彩ゆい)が男役2人を引き連れているのはよかった。
あやなちゃんが一人で銀端に残って長い四肢と優雅なダンスを披露してくれたのは嬉しかった。麗しいな……。

お次のプラズマはそらくんがセンターで黄色や金色といったお色味のお衣装。
いい感じで、雪組に新しい風を吹かせるぞ〜!という感じで、こちらも景気がいい。
対する咲ちゃん率いるオーロラ勢はブルーとグリーのお衣装。こちらでもたくさんの歌手やコーラス起用がありましたが、下級生ウォッチングまで余裕がありませんでした、残念。
咲ちゃんオーロラとそらくんプラズマがあいみちゃんの歌声の中激しく踊るのは良かったなあ。ここの歌手は彼女にしか務まらない!と思いましたね。ダンスの迫力に負けない歌唱力と経験値でした。

カップル銀橋は目が忙しい。
りあん、ともかに加えてはいちゃん(眞ノ宮るい)とはおりん(羽織夕夏)ですからね。はおりんは芝居の方で芸者の歌手としての活躍もありました。
ピンクとオレンジの衣装は長年引き継がれているお衣装ですが、可愛いですね、やっぱり。そしてともかにはこれくらいパキッとした色の方が似合うな、と再確認しました。
ロケットはまさかのはばまいセンター。『Ray』のほのか方式でした。ちょっと手を繋ぎにくそうなのが難点かな……。
深紅ベルベットドレスのきわちゃんは、髪型も最高でした。すごい好きやで、こういうの。そして娘役銀橋センター男役ずらりは「情熱の花」のおとくりで見たけれども、何度見てもいい。こういうのができる娘役はやはり強い。
紳士淑女はいつもの構成でしたが、これもたまらないし、なにより黒燕尾のあやなちゃんが観られたのがとても嬉しかったです。
デュエダンもきわちゃんツヨツヨな振付もあってよかった。自分一人でも立てるけれども、男役にも寄り添える、すばらしい娘役芸ですね。
エトワールはありすちゃん。歌手が育ってきたとはいえ、ここはやはりありすちゃんということらしいです。
彼女に不満はありませんが、エトワールも新人公演主演同様、いろいろな人に経験してもらいたいポジションですから、あんまり固定したり続いたりするのは良くないかな。ありすちゃんは好きなんですけどね!

公演プログラムのラストについている公演アンケートでは、そらくんとあがちが笑点をやっているので、ぜひご覧ください!