ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、古典文学など好きなものについて語るところ。

映画『ナイブズ・アウト』感想

映画『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』
監督/ライアン・ジョンソン
公式ホームページはこちら。
最高だったよ!
ライアン・ジョンソンはミステリーだけ撮っていてもいいのではないでしょうか。
 
●名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイブ)
名前を見ればわかるけれども、どう考えてもフランス系じゃん?
でも見た目はパリッとイギリス紳士なわけですよ。
もうスーツの着方からしてね。
っていうか、演じているの、ダニエル・クレイグだからね?
そりゃ、ブリティッシュコンプレックス丸出しな風になるよね?
この人、長らく『007』シリーズで、ジェームズ・ボンドやってたんだよ?
この人がパリッとスーツ着たら、そりゃ英国紳士風になるに決まっているやろー!って話。
それなのに、最後に明かされるのだけれども(英語がわかる人には最初からわかることだと思います)、この人、使っている英語がなんと「南部訛り」。
監督自身もそこにこだわったというのだから、なんとまあ倒錯した世界なの!
まとめると、一見するとイギリス紳士に見えるフランス系の名探偵はアメリカ南部訛りを使っている、ということですね。
すばらしいよ! 大好きだよ! すごいこねくりまわしっぷり。
 
最初はもう当然「僕ちゃんは名探偵だからね~☆」みたいな感じで出てくるのですが、中盤、おいおいこいつ、実は使えないんじゃないのか?と思わせておきながら、最後の大どんでん返し!
物語の構造としてすばらしい! 最高である! そしてたくさん貼ってある伏線! 感動しちゃう。
ミステリーだから、とお思いかもしれませんが、別にミステリーに限らず、物語ってやっぱり伏線が大事なのよって話。
 
容疑者一人ずつ話を聞いていく場面は映画ならではの手法。
本や芝居では同じことはできない。
そしてピアノの「ポーン」という音。
最高である。名探偵だぞってにおわせるのには十分である。
素敵な演出ではげるかと思った。いや、はげたくないですが。
 
変わり者のブランですが、アメリカでは私立探偵をやるにあたって、警察や消防での職務経験が必要だとか。
この人、一体どうやって公の機関で働いていたのだろう……と呆然となるほど変人。
拳銃の使用許可をもらったり、警察の情報を一部見せてもらったりするためには必要らしいですが、闇医者がいるように、闇探偵もいそうです。
探偵そのものが闇っていうのもどうなのwというツッコミも入りそうですが、それはそれで物語がおもしろくなりそうです。
 
個人的にはこの人、豊田市美術館で行われた「フランシス・ベーコン」の展覧会で上映されていた映画で、ベーコンにけつをほられていた人というイメージが強くてなんともっていうのが残念。
ジェームズ・ボンドなのにな!
 
●マルタ、本当にいい人(アナ・デ・アルマス)
「正直者がバカを見る」という言葉がまかり通ってしまうような今の時代に、マルタのような人は本当に貴重だなと思います。
そしてこういう人こそ、報われるべきだと思うし、幸せになってほしい。
だってこの手の人たちは決して多くを望まず、与えることを惜しまない。
マルタに全財産を渡せば、結果としてみんながハッピーになる。
そう考えたハーランじいちゃんは正しかったと心の底から思えます。
 
彼女の「嘘をつくと吐いてしまう」という謎の体質ですが、似たような性質の人はいるのではないかなと思います。
極度の緊張でお腹が痛くなる、とかそういうことと似通っているのかな、と。
「嘘をつく」→「緊張する」→「体調が悪くなる」
こんな感じでしょうか。
だからこそ有能な看護師であるのに、病院勤めができないのでしょう。
お屋敷のお抱え看護師をやっている理由もこのあたりにありそうです。
 
そう、彼女は飛び切り有能な看護師である。
ビンのラベルなど見なくても「モルヒネ」と「鎮痛剤」の違いがわかる。
たとえ同じ形のビンに入っていたとしても、だ。
すばらしい。きちんと作中でそれが証明されたときは背筋が震えましたよ。
 
病院勤めができれば、一番ネックになっている母親の問題も解決するはずだ。
給料が違うだろうし、公に認められるようになる部分も多かろう。
しかし、優秀な看護師であるにもかかわらずそれができなくて辛いのは誰よりもマルタ自身だろう。
 
●等身大のメグ(キャサリン・ラングフォード)
ハーランおじいちゃんとは特に仲良くもないし、だからといってすごい仲が悪いわけでもなさそうなのメグ。
マルタのいいお友達。
最初はメグだけが、マルタの母親の困難について知っている。
このあたりから仲の良さがうかがえる。
マルタが遺産を相続することになったときも、メグは驚いていたが「ハーランじいちゃんが決めたことなら」と一度は母親に言う。
けれどもライフスタイルを提供する化粧会社というなんともうさんくさい会社を運営している母親から「誰があなたの学費を支払うの」と強い口調で言われて、思わずメグは黙ってしまう。
メグが勉強していることについて、伯母のリンダは文句があるようだが、ハーラン祖父がそう思っている様子はない。
等身大の大学生という感じがする。
 
遺産を相続できないことがわかった一族からメグは圧力を受ける。
マルタと一番仲が良かったから、なんか弱みを知らないか?とさんざん聞かれたのだろう。
想像するだけで心がいたくなるような話だ。
そうしてマルタの母親のことを話してしまう。
それを悪いことだと私は思えなかった。
仕方ないよねって感じだった。
メグは一族の中でも力があるわけではないし、どちらかというと庇護される側であったから。
そんなやりきれなさがよく伝わってくる演技だった。
 
●一族の長女リンダ(ジェイミー・リー・カーティス
格好いいいいいいいい!!!!!!!!
こういうおばあちゃんになりたいです。
ヘレン・ミレンでもいいです。大好きです。
何、あの上から下までショッキングピンクのスーツ。
白髪頭にそれがまたよく似合う!
老いてはいるのだけれども、そこに全くマイナスのニュアンスを感じさせないっていうのがすごい。
格好いい。強い女性や。そりゃハーランおじいちゃんからお金借りて会社を作っただけはあるわ。
旦那に会社の権利が一ミリもないのも素敵。
 
ハーランじいちゃんとは「独自の方法」で仲良くやっていたという。
その方法とやらは最後に出てくるのですが、ちゃんと伏線もあって、すばらしかった。
っていうか、あんなのもう当然でしょ!?
白い紙が出てきて安心するリチャードは甘ちゃんなのよ!
作品世界では語られていないけれども、このあとのリチャードを想像すると、お腹抱えて笑いたくなりますね。
ざまあみろ!って感じ。
 
ブランに対して、「父親の葬儀を終えたばかりの私に家族と父親の不仲を証明させる気?」みたいな台詞があったと思いますが、ここも強くて格好良いですね。
お金持ちの家のお嬢さんって感じ。長女という設定がまたたまらない。
 
●そのほかの一族メンバー
ランサムについては、物語の構成上触れないわけにはいかないだろうけれども、私はあんまり好みの顔つきでなかった上に、警察に捕まったときにすぐにマルタから聞いた話を伝えたのもかなりうさんくさいと思っていたし(「守る」って言ったくせにー!)(メグとは状況が違いすぎる)、なんだかなあ、という感じ。
監督はクリス・エヴァンスにぜひともやってほしかった役のようですね。
一族の問題児というのは、まあありがちな設定で、ただ、その役者の名前がタイトルロールで2番目に出てくるのはかなりのネタバレなのではないか?と思う。
ダニエル(探偵)、クリス(一族の問題児)、マルタ(看護師)という順番に???となりました。
たぶん、マルタが2番目でいいと思うよ。
 
名脇役!と拍手を送りたくなるのが、K・カランの演じた「ハーランじいちゃんの母」。
誰も彼女の年齢を知らないという設定がおもしろおかしい。
しかも彼女が謎ときのカギを握っている。これも最高。
すばらしい演技でした。
 
ちょっと拍子抜けかなと思ったのは、一族の次男の男児かな。
スマホが手放せないネトウヨ
彼が他人をののしるときに「ぱよく」と字幕をつけた人は天才だな?!
日本でしか通用しない! ここの訳の比較とかおもしろそうだなー。
役どころとしてはもう少し何かあってもよかったかなーと思ったり。
 
アガサ・クリスティ『ねじれた家』
この映画を見れば誰もが思い出すアガサ・クリスティの『ねじれた家』。
つい最近こちらも映画化しましたからね。
ええ、もちろん見に行きましたとも。
お金持ちの一族のおじいちゃんが亡くなり、遺産が一人に集中し、一族全員が容疑者という枠は同じですね。
舞台はイギリスとアメリカの違いはありますが、『ナイブズアウト』の一族はみんなブリティッシュコンプレックスでも持っているのですか?と聞きたくなるようなお衣装でしたしw
ああいうの、大好きだぞ。
マルタの車が動かなくなったあたりも『ねじれた家』を連想できますね。
もっとも自分で車の故障を装ったのか、それとも他者の手が入ったのかに違いはありますが。
こういうときにタイミングよく一族の問題児が出てくるのは、おもしろいが怪しいよねー。
死者が一族のおじいちゃんだけでなく、屋敷の召使も含まれているあたりもよく似ていますね。
進研○ミのあれじゃないけれども「あ、みたことある!」という感じです。
衝撃のラスト! とても読めない展開! キャー! みたいな展開はよく似ているかな、と。

どちらがより衝撃かといえば、ミステリーとしてはクリスティに軍配があがりそうですが、映画としてはやはりライアン・ジョンソンかなと思います。
サブタイトルが効いている小道具の使い方は小説ではなかなか表現しきれないものがあるでしょう。
どちらも私はおもしろかったので、ミステリー好きさんにもまたそうでない人にもおすすめです。