星組 『眩耀の谷 ~舞い降りた新星~』『Ray -星の光線-』感想2
星組公演
幻想歌舞録 『眩耀(げんよう)の谷 ~舞い降りた新星~』
作・演出・振付/謝 珠栄
Show Stars 『Ray -星の光線-』
作・演出/中村 一徳
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今回は思い出し、追加感想です。
●音楽と振付がすばらしい
プロローグの一族の音楽やダンスもすばらしいのですが、個人的に一番耳に残ったのは戦いの場面の音楽です。
「じゃんじゃじゃじゃーんじゃん」というちょっと重苦しい音楽なのですが(たぶん伝わらないです、すいません)、今から何かが起こるぞという感じをお腹で受け止めるような強い曲です。
この戦乱の音楽があるからこそ、プロローグの平和な音楽もいっそう映えるのでしょうし、逆だともいえると思います。
プロローグは、平和だよ!全員集合!みたいな感じで、これはこれですごく好き。
みんなが真ん中に集まって客席をむいているときなんか、遠足のクラス写真撮影か?って思う姿勢なのに、全員美人だから、そんなこと、どうでもよくなる。
もちろん物語の鍵となる「月のしずく~♪」というのも耳に残りやすいメロディーになっていると思います。
もっとも「王族の女にだけ伝わる曲」というのはちょっと無理があるかなと思って。
そもそも「王族の女」に育てられた子供は「男女関係なく」その歌を知っているのでは?と思うし(だから麻蘭王は知っていたのよね)、「王族の女」は自分で子育てするのか?という疑問をもつ人も出てくるでしょう。
もう少し広く「王族」に伝わるとか、「一族」に伝わるとか、そういう方が説得力があったかもしれません。
しかしまあそれも些末な話です。
振付はさすが謝先生!って感じですよね。
冒頭で「作・演出・振付、謝珠栄」という文言は新鮮でした。
振付は、やっぱり瞳花(舞空ひとみ)の舞の場面が素敵だなと思いますが、こちとら『ベルばら』に育てられたので、管武将軍の訓練の場面が、非常に印象に残っています。
『ベルばら』の近衛隊、衛兵隊の訓練と全然違うんですよね。
剣の大きさというか、長さ? 太さなんかも違っていて、近衛兵はもちろん、衛兵隊だって優雅で華麗な訓練の『ベルばら』に対して、こちらはひたすらに力強く、直線的な動きが多かったように思います。
いや、私はダンスのことなんか全然わからないのですけれどもね?
●語り部が若い女性ということ
以前の記事にも書きましたが、やはり語り部が若い女性というの異色で、この作品が異彩を放つ一つの要因になっていると思います。
語り部というとやはり男が担うというイメージは古今東西どの文学でもありがち。
日本でも『大鏡』の語り手は大宅世継、夏山繁樹ですし、『平家物語』も盲目の琵琶法師というのはたいてい男性でした。
最近の宝塚の作品でいえば『金色の砂漠』のジャー(芹香斗亜)や『群盗』のヴァールハイト(鷹翔千空)も男性の語り手です。
一方で最近の宝塚作品で女性が語り部となったのが『蘭陵王』です。
ただし、こちらは「年配の」女性というのが一つ伝統様式に則っているものと思われます。
『大鏡』の大宅世継と夏山繁樹が、それぞれ190歳、180歳(諸説あり)と当時ではありえないほど大変高齢であるのは、「今から語って聞かせる物語は自分たちが見てきたことだ」という設定で若侍たちに語るからであり、つまり、説得力が増すのです。
お能の世界でもワキ(旅人)が旅先のシテ(主人公、たいてい老人の恰好をしている)に過去にこの土地であった話を聞いたあと、その話の中心人物(老人の真の姿)と旅人が夢幻世界で邂逅する、というパターンが多い。
やっぱり過去の話を語るのは「老人」なのです。
その方が「本当にあったこと」として語ることができるから。
そう考えると、「若い」「女性」が語るというのはやはり面白い。
面白いと同時に、役作りはやはり難しいのだと感じる。
今までにあまりないパターンだから「語り」を踏襲しつつも、「若い」「女性」ということも意識しなければならない。
そのあたり、くらっち(有沙瞳)は本当に違和感なく演じてくれたと思います。エーイヤン!
歴史ものというと難しいイメージがあるかもしれませんが、今回の『眩耀の谷』と『月雲の皇子』を鏡合わせにして鑑賞すると面白いかもしれません。
周との争いを避けて礼真と一族は逃げた。
一方で、穴穂皇子(鳳月杏)を筆頭とする大和との衝突は土蜘蛛たちにとって、木梨軽皇子(珠城りょう)にとってはどうしても避けることができなかった。
けれども、最終的に残されたものが「歴史を紡ぐ」というエンドは同じ。
非常に興味深いかと思います。
●貴種流離譚
話の大枠は千年以上昔からある貴種流離譚の類なのですが、まあ、それは「今更……」という人もいるだろうなという気はします。
民主主義という方法を知っている私たちが結局血筋かよって投げやりになってしまう人がいるのもわかる。
琴ちゃん自身も音楽学校首席、そこからおおむね順風満帆にここまで上り詰めたという印象がある人が多いだろうから、「流離」とはちょっとイメージが違うのでは?という人がいるのもわかる。
私はお話としてはよかったなあと思う部分が多々あり、おおむね満足なのですが、琴ちゃんのお披露目公演である必要があったかと言われると悩ましい。
なんといってもヒロインの瞳花もいろいろ背負っているものが重いので、もう少し二人のコンビを続けてからでもよかったかなとも思う。
キャラクターが少ないかな? もう少し出番があってもいいかな?と思う人もいますが、それはご贔屓や好みの問題でしょう。
ただ、やっぱり初の「作・演出」作品でここまでやりきる謝先生は本当にすばらしいと思います。
貴種流離譚にムキ―!となる人には『アルスラーン戦記』がおすすめです。
完結していますが、物語の終わり方については賛否両論あり、私も立場としては微妙なのですが、途中までは最高におもしろい。
いわゆる一期がおもしろい。
王家の血をひかない王子・アルスラーンが王になるまでのお話と思って読むとおもしろいでしょう。
人柄で他者を引き付けるってすごいなと改めて思うし、こういうタイプの話がこれからたくさん出てくるといいなと思います。
なお、最初は「谷にある黄金が偽物であるからこそ一族がその土地を捨てることができる」と考えていましたが、「谷にある黄金が本物であっても、生命を繋ぐことの方が大事だと考えて、その土地を捨てる」という筋書きもありなのかなと、今では思っています。
●人の心は同じからず
「春の日差しは同じかれども、人の心は同じからず」という台詞が何度か出てきます。
自分の崇めている周の国が過ちを犯しているかもしれない、それに気が付き初めて礼真に麻蘭王は言う。
このときはまだ謎の男という形ですが。
これは重い言葉で、現代にも通じるのではないかと思います。
劉希夷(りゅうきい)という人の漢詩「白頭を悲しむ翁に代わって」にも似た心情が詠まれています。
詳しくは以下のホームぺージがお役に立つかと。
・詳細版
http://sakou8kikai.jpn.cx/book/daihihakutouou/daihihakutouou.htm
・簡易版
http://www.rinnou.net/cont_04/zengo/050401.html
ものすごく長い漢詩ですので、全部読むのは嫌になるかもしれませんが、この中の「年年歳歳花相似/歳歳年年人不同」の部分はことわざとしても通用するほど有名な字句です。
「年年歳歳花相似たり/歳歳年年人同じからず」と書き下しますが、ざっくり言えば「毎年咲き開く花は変わらないけれども、時が経つと人間は変わってしまうのだなあ」というところでしょうか。
まさに「春の日差しは同じかれども、人の心は同じからず」。
「花」が「春の日差し」と変わってはいますが、「偉大な自然」というモチーフは変わりませんし、「人間のちっぽけさ」を対比している点でも大変よく似ています。
もっとも同じようなテーマの漢詩や和歌はたくさんありそうですけれどもね。
ただ、この漢詩の次の部分が『眩輝の谷』とあわせて考えると絶妙だなと思うのです。
書き下し文にすると「言を寄す 全盛の紅顔の子/応に憐れむべし 半死の白頭翁」となります。
これまたざっくり訳すと「伝えよう、今を盛りの若者たちよ、どうか憐れんで欲しい、この半ば死にかけている白髪頭の老人を」という感じでしょうか。
この「白髪頭の老人」を「麻蘭」に置き換えて読むと、なるほど、礼真が麻蘭の言葉を「天意」といったことにいっそう説得力が増すなと。
「今を生きる一族のみんなよ、どうか自分が犯した過ちを繰り返さないでほしい」という麻蘭王の願いが込められているような気もするのです。
深読みしすぎか?
でもこういうのが楽しい。あれこれ考えるのが好き。
●シャンシャン
『Ray』は始終楽しく拝見したのですが、(ひっとんの歌が少ないこと以外で)一点気になるのはシャンシャンの形ですかね。
私ははじめて見たとき「折れたポッキーの詰め合わせか?」と思いました。
大変失礼で申し訳なさマックスなのですが、何度見てもそう思ってしまう。
いや、よく考えたら「光線」なんですよね。わかりますよ?
でもちょっと短すぎやしませんか?
どうせだったら大きく「Ray」って書いたシャンシャンでよくなかったですか?
友人曰く「シャンシャンにRayって書いてあったよ!」とのことですが、私は最後まで見つけられず……。
もっとそれを全面に出してもよかったのに><
全国ツアー版でもシャンシャンは変わらないだろうけれども、きっと情緒の欠片もない私は何度見ても「折れたポッキーの集合体」と思ってしまうでしょう。
全国ツアー版も楽しみですね。
もっとひっとんの歌を増やしてくれてもいいのですよ!
いや、踊りながら歌うのは大変なのかもしれませんが><
そもそもチケットはとれるのかっていう話もあります。