ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、古典文学など好きなものについて語るところ。

宝塚の娘役についての一考察

●はじめに
今回は宝塚の娘役という存在について考えたい。
今、宝塚の「娘役」と表記したけれども、これを「女役」という人もいる。
個人的には、タカラジェンヌはみなさんどこかのお家の大切なお嬢さんである以上、女性であることは自明なので「女役」というのは抵抗がある。
「男役」に対する言葉なら「女役」でいいじゃないかと思う人がいるのもわかるし、そもそも公式でタカラジェンヌ自身がそういうこともあるからいいじゃないかという人がいるのもわかる。
その上わたし自身も時折使ってしまうことがないわけではない。
けれどもやはりここは「娘役」という言葉を使いたい。
もちろん、この「娘」という言葉のニュアンスに幼さが含まれることは、近年の若手娘役抜擢人事(またの名をロリコン人事)と併せて考えると悩ましいことこの上ないが、それでも仙名彩世は明日みりおの立派な相手役であり、娘役だった。
12年トップ娘役を務めた花總まり和央ようかの素敵な相手役で、娘役だった。
宝塚の娘役とは何だろう。トップ娘役とは何だろう。
そういうことを、上田久美子先生の考える娘役、娘役主演作品、センターコンビの学年差を頼りに考えてみたい。

●上田先生の考える娘役
2017年11月号の『歌劇』、読者には衝撃が走った。
「神々の土地」でイレーネを演じた伶美うららに上田先生が送った言葉に、読者は戦慄した。
ここでは、大変刺激的でグレイトな言葉ではなく(笑)、宝塚の娘役について述べているところを引用する。
 
「宝塚でヒロインをするような娘役はたいてい、色に例えると赤とかピンクとかの雰囲気を持つ人が多いけれども、伶美うららは対して銀色とか紫色をした娘役だ。こういった﨟たけた持ち味の娘役は最近では貴重で、芝居でもショーでも可能性を大きく広げてくれる。」
 
なるほど。確かに伶美は『メランコリック・ジゴロ』(2015年)のルシルは赤と黒というパンチのある色の組み合わせの上、キャラクターもパンチが効いていた。

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『ヴァンパイア・サクセション』(2016年)の死神カーミラもピンクと赤だったけれども、ド派手でギャルテイストのキャラクターは実に個性的で、王道娘役ではなかったけれども、よく似合っていた。
エリザベート』(2016年)では、ピンクと黒の露出の多いマダム・ヴォルフも上田先生がここで述べるところの「赤やピンク」ではない。
『神々の土地』(2017年)では、イレーネのメインのお衣装は緑に近い水色だった。他にも白のドレス、黒のドレス、黒のコートとあったが、「赤やピンク」は一度もお召しにならなかった。
けれども伶美の美しさは際立っていた。
ジナイーダ(純矢ちとせ)が繰り返し言うように「美しいものを見ることには価値がある」。
赤やピンクでなくてもうららの美しさは十分に表現できるのだ。
ちなみにこの作品ではオリガ(星風まどか)がピンクのドレスを着ている。
思えば上田先生の作品のヒロインはあまり赤やピンクを纏わない。
『月雲の皇子』(2013年)で衣通姫(咲妃みゆ)のメインの衣装は白、『翼ある人びと』(2015年)でクララ(伶美うらら)は赤いドレスを着るものの、あくまでも「貸衣装」だと言い、臙脂色の衣装も着るが、落ち着いた色味である。
その他の生成りやベージュのドレスを着ていることの方が多い。

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『金色の砂漠』(2016年)のタルハーミネ(花乃まりあ)はチラシでもスチール写真でも赤い衣装を着ているが、どちらかというと朱色に近い。
最初に登場するときはイレーネのような緑がかかった水色の衣装である。
またこの作品ではビルマーヤ(桜咲彩花)がピンクの衣装を着ており、姉妹のキャラクターを考慮すると「赤やピンクが似合う宝塚の娘役」には、ビルマーヤに軍牌が上がるだろう。
個人的には相手を愛するあまり自分も相手も燃やし尽くす愛情をもったタルハーミネは大好きです。

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『星逢一夜』(2015年)のチラシで泉(咲妃みゆ)は水色の着物を着ていた。
オープニングと中盤の祭りのときの衣装である。
幼少期も水色の着物に黄色の帯であった。

そして話題作(問題作?w)初のショー作品である『BADDY』(2018年)において、ヒロインであるグッディ捜査官(愛希れいか)ははじめは緑、おとり捜査でホタテのピンク、中詰めで白、怒りのロケットは青、命を懸けたデュエットダンスは赤、パレードは白という衣装チェンジでした。
ホタテのピンクは「おとり捜査」であることを考えれば「女を強調した色」になるかもしれませんが、デュエットダンスはバッディ(珠城りょう)との一騎打ちですので可愛らしい赤というよりは戦いの、情熱の赤といったところでしょうか。
もう一人のヒロインといっても過言ではないだろうスイートハートさん(美弥るりか)はオープニングで赤紫というかピンクがかったベロアのスーツ。なんて愛らしい着こなし……っ!
可愛いだけでなくワイルド味もある。
舞踏会の場面では黒×ピンクのドレスもお召しになりますね。小悪魔系です。
上田先生が「スイートハートは男でもあり、女でもある」と言っていたのが印象的です。
どちらにせよ、グッディもスイートハートもいわゆる「宝塚の娘役に求められる赤やピンク」をアイデンティティとしてはまとっていないわけですね。

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『霧深きエルベのほとり』(2019年)のマルギット(綺咲愛里)はレストランのシーンでベージュピンクのドレスを着ている。
親に見つかってしまう大切な場面ではあるが、港の酒場に入ってきたときや実家でのパーティーのとき、最後にカール(紅ゆずる)を探しに来るとき纏っていた白のイメージが強いのではないだろうか。
チラシでも白の衣装を着ていた。
『フライングサパ』で、ミレナ(星風まどか)はチラシでも制作発表でもグレーのお衣装を着ている。
『fff』の先行画像でも謎の女(真彩希帆)はゴシック系の黒の衣装である。
ここから、上田先生の作品においてヒロインは「赤やピンク」をあまりまとっていないことがわかるだろう。
しかし彼女たちは宝塚の舞台でヒロインとして輝いていた。
それは彼女たちの力でもあるし、作品の力でもあるだろう。

●娘役主演作品
では上田先生とは反対に「宝塚の娘役」にまさしく「赤やピンク」を求めた作品は何があるだろう。
ここでは、2018年に上演された『愛聖女』を取りたげたい。

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この作品のチラシ、公演プログラムの表紙はまさに「赤やピンク」に彩られている。
レースやビーズを惜しみなく使って、女の子の「カワイイ」をギュッと詰め込んだような写真である。
「キューティーステージ」は伊達じゃない。
大きな特徴はドレスではなく軍服(おそらく)であること。
ジャンヌ・ダルクをモチーフにしている以上、戦う女性として描かれるのは主演の強みだろうか。
 
ちなみに娘役主演作品を管見の限り以下に挙げる。
1975年、初風諄主演『ラムール・ア・パリ』(月組
1985年、条はるき主演『愛…ただ愛』(月組
1988年、春風ひとみ主演『サウンド・オブ・ミュージック』(月組
1998年、風花舞主演『LAST STEP』(月組
2001年、月影瞳主演『Over the moon』(雪組
 
ここに愛希れいかの『愛聖女』が入るのだから、圧倒的な月組率。
個人的にはもっと娘役主演が見たい。
仙名彩世の「セクシーステージ」も真彩希帆の「ミュージックステージ」も見たかったよ。
 
さて、女の子の「カワイイ」をギュッと詰め込んだ前宣伝だったが、内容はどうかというと、演出家が完全に女の子の「カワイイ」を誤解していることが露呈した作品だったように思う。
ドクター・ジャンヌに「モテたい」という言葉を連呼させたり、クララに「趣味は料理とお裁縫」と言わせたり……パメラはどう見ても裁縫は得意そうではなかったが、ヒモ男を飼っているし……。
なんだろう、この違和感。
「男を立てるさしすせそ」の延長にあるような作品にガッカリしたというのが本音だ。
いや、愛希れいかも紫門ゆりやもビジュアルは完璧だったのだよ……っ!
 
これが成功すれば、娘役主演作品がこれからも増えていくと思ったのだが、それははかない夢となってしまったという気分。
ただ、もちろんこれは宝塚の娘役に「赤やピンク」を求めた結果ではなく、単純に作品や演出の問題である。
ここではトップ娘役として、トップスターの隣で支える役ではなく、主演を務める作品でさえも「赤やピンク」が求められることを確認するにとどまる。
 
余談であるが、月影瞳は『Over the moon』のチラシではローズブラウン、ビデオの表紙ではシルバーのドレスを着ていた。
落ち着いた大人の女性というイメージである。

●センターコンビの学年差
「トップコンビ」と表記しなかった理由はのちに述べるとして、まずはトップコンビから考えたい。
1990年以降、管見の限り、トップスターの男役よりもトップ娘役の方が学年が上だった例はない。
12年トップ娘役として君臨した花總まりは77期生、最後にコンビを組んで一緒に退団した和央ようかは74期生である。
学年が1期しか違わないコンビで記憶に新しいのは珠城りょうの94期生と愛希れいかの95期生だろう。
遡れば天海祐希の73期生と麻乃佳世の74期生も1期違いである。
現在、もっとも若いコンビは礼真琴95期生と舞空瞳102期生であるが、ゆりよしコンビは今で言うと102期生と103期生の組み合わせなのである。
彼女たちがいかに「若いコンビ」であったかが想像できるだろう。
しかし1期しか違わないトップコンビは1990年以降、この2組だけである。
珠城りょうはこんなところでも天海祐希との共通点があるのだ。
 
さて、では「センターコンビ」はどうだろう。
「トップ」以外で真ん中を務めた人とその相手役である。
主に別箱でよくあるコンビだ。
別箱はその特性上、ヒロイン不在の場合もあるが、今回はヒロインがいる作品に限って考える。
記憶に新しいのは、礼真琴主演の『アルジェの男』(2019年)であろう。
ヒロインのザビーネを務めた音波みのりは91期生であり、礼の4期上である。
暁千星主演の『A-EN』(2015年)では、暁が98期生、ヒロインの海乃美月が97期生で、娘役の方が1期上である。
柚香光主演の『ノクターン』(2014年)では、柚香が95期生、華耀きらりが88期生で7期娘役が上の学年である。
彩凪翔主演の『春雷』(2013年)では、彩凪が92期生、大湖せしるが88期生である。4期違いで娘役が上だ。
この通り別箱では、娘役の方が学年が上ということは数こそ少ないがある。
作品の世界でも主演男役が演じる役よりも少しお姉さんの役であることが多い。
アテ役で芝居が作れる宝塚ならではの強みだろう。
『仮面のロマネスク』はトップコンビで演じられることが多いが、これこそ娘役が上でもいい作品だろう。
 
着目すべきは、主演の男役よりも学年が上で主演を務めた娘役は上記の4人は、今のところ誰1人トップ娘役になっていないということである。
この事実に、絶望しかないのは私だけだろうか。
学年が下の男役を主演として支える力がありながらトップ娘役になれないとは何事だろうと思ってしまうのだ。
むしろ反対で「主演の男役を支える力」なんぞがなまじかっかあるからトップ娘役になれないとでもいうのだろうか。
それではあまりにも絶望が深い。
もちろんセンターにいるより傍にいる方が輝く娘役もいるかもしれないが、それにしたって、ねぇ……。
これでは「年下の嫁がいい」「男を立てる女がいい」という絶望的な現実と何が違うのだろう、と言われても仕方がないのではないか。
トップコンビは男役の方が学年が上になるのは暗黙の了解だからこそ、別箱ではそれとはまた違った楽しみ方を提供するのなら、それはわかる。
しかしそれによって実力のある娘役をないがしろにはしないで欲しい。

●おわりに
3つの視点から「宝塚の娘役」について考えてきたが、まとめに移りたい。
・「赤やピンク」が似合わなくても作品次第でヒロインは演じられる。
・「赤やピンク」が似合っていても作品次第で残念に思うことはある。
・別箱に限り、作品にってはヒロインの娘役の方が学年が上ということはある。
つまり全部作品次第ってことなのか……。
いや、自分でもどこに向かっているのかよくわかっていなかったのですが、結局ここか。
仙名が退団するときに「ピンクが苦手だったけれども、今はとても好き」と言っていたのが印象的で、自身のサヨナラショーの最後でもピンクのドレスを着ていた。
組のカラーがピンクということもあり、その組のトップ娘役であるということが大きく関与していたのだろう。
確かに彼女も赤やピンクよりも『仮面のロマネスク』の濃い紫のドレスや『CASANOVA』のチラシの水色のドレスがよく似合っていたと思うが、『CASANOVA』の赤いドレスもさよならショーのピンクのドレスも彼女ならではのデザインだった。
得意でない色ならデザインでカバーするというのは常套手段だろう。

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求められる色が似合わないこともあるだろうし、パーソナルカラーが流行している昨今、似合うかに会わないか観客にもわかってしまうこともあろう。

私としては赤やピンクが似合おうが似合わなかろうが、実力のある娘役が主演を務め、その主演に合うような作品を演出家の先生が書いてくれることを望みたい。
むしろ「女の子はやっぱり赤やピンクでしょ!」というジェンダー観から解放されることがよい作品をつくる第一歩なのではないだろうか。