ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

宙組『アナスタシア』感想

宙組公演

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三井住友カード ミュージカル『アナスタシア』
潤色・演出/稲葉 太地

アーニャ役であるまどか(星風まどか)がとにかくすばらしかった……っ!
さすが、タイトルロールなだけはあるよ!
なんで彼女のソロ曲があんなにも少ないかわからないよ!
お芝居も歌もダンスも、そしてデミトリ役の真風に寄り添うという娘役芸も本当にすばらしかった。
なんでこの二人のデュエットダンスを見るのが最後になるの……?ともう意味がわからなかった。
この二人のデュエットダンスで泣いたことなんて一度もなかったのに、思わず涙がほろりと。
とてもいいコンビに成長したのにね……っ!

海外ミュージカルものということで、初日の幕が開く前から予想できていたことではありますが、やはり役が少なくてもったいない……><と思う役者はたくさんいましたね。
やはり宝塚歌劇団という場所は「誰が演じている」ということも一つの楽しみとして提供されている場所でもありますから。
しかしそんな中でもみねりちゃん(天彩峰里)の少女時代のアナスタシアは幕開きから、もうべらぼうに可愛い。最高に可愛い。
そりゃマリア皇太后の1番のお気に入りになるわけだよ!と納得させられるし、マリア皇太后の威厳がありつつも孫娘を可愛がる様子が本当にすばらしくて……。
『神々の土地』では「兄ではなくアレクサンドラです!」「とにかくアレクサンドラはそう信じているようで……」と冒頭でアレクサンドラを批判しまくっていた副組長(美風舞良)がアレクサンドラ皇后役というのもおもしろくて、冒頭ではくすりと笑ってしまいました。
マリア皇太后との仲も相変わらず悪いようで、アナスタシアにオルゴールがプレゼントされたことを知るやいなやものすごい勢いで「今の時代に必要なのは、オルゴールではなく、お祈りです!」とキッパリと言い放つ姿に「陛下を守るのは神ではない!」と私の中のドミトリーが叫びました。すいません、『神々の土地』オタクなもので……。
父親に向かって「私は大公女、アナスタシア・ニコラエヴァナ・ロマノフよ!」と言い切る少女アナスタシアを演じたみねりちゃんがとにかく愛らしかったです。ラブリー。ソーキュート。

『神々の土地』関連で言うなら、最後に近い場面、マリア皇太后デミトリに「あなたを誤解していたのかもしれません」と言ったとき「そういう人生なんで」みたいな返答をしたときは、フェリックスううううう!!!!!と思いました。
あの人も誤解されやすい人ですよね。とっても友達思いなのに。デミトリ―思いというべきか。
なんといっても麗しのイレーネを救うために「ご自分のレンブラントを全部ボリシュヴィキに渡した」というくらいですから。
冒頭でデミトリがユスポフ家の劇場で暮らしていることがわかったときよりもときめきました。

ららちゃん(遥羽らら)がアレクセイで、そらくん(和希そら)がリリーという発表を見たときは、「なぜ娘役に女性の役を、男役に男性・少年の役を与えないのだ……?」とも思ったのですが、ららちゃんのアレクセイも、リリーのそらくんもすばらしかったです。
ららちゃんは2幕でしゃべったときに大変声が愛らしかったですね。
「秘密を教えてあげるよ。僕、もうすぐ死ぬんだ」「君は誰?」「そんなバカな!自分が誰かわからないなんて」みたいな台詞だったと思います。
台詞の真意はちょっと意味不明だな……と思いながら正直聞いていたのですが、声が大変すばらしかった。可愛い。

デミトリの悪友役である秋音光、紫藤りゅう、瑠依薪世、鷹翔千空の四人は、第1幕第6場でデミトリとアーニャの関係をからかったすぐあとの場面で、ロマノフの男性として早着替えで再び登場するのですが、これがまたすばらしい。
美しい青年貴公子になって白い軍服のお衣装で出てくる。早着替えがすばらいしこともさることながら、すぐに役を変えられる彼女たちもすばらしい。
そしてわかっていたことではありますが、このメンバーだとしどりゅーに目がいく。
しどりゅー、あの、芝居をしているときは「昔から宙組にいました」みたいな感じなのに、どうしてフィナーレのパートだと星男になって観客をあおるのですか……もう……すき。
スチール写真が白い軍服のお衣装でないのが残念だ。残念極まりない。

個人的にはデミトリと一緒にある女の子をアナスタシアに仕立て上げて一攫千金を狙うパートナーが、実はボリシュヴィキのスパイでした、みたいね展開の方が盛り上がるような気もするのですが、そうするとさらに役が少なくなってしまうのがまた難しいところですし、オリジナル版を踏襲している以上、そうできないのは仕方がないのかもしれません。
でもヘラヘラしながらデミトリの相棒やっているききちゃん(芹香斗亜)が実は冷酷なスパイでした、みたいな2面性、見てみたくないですか?
私はとっても見てみたいです。

第1幕、パリ行きの列車に乗る場面はやけにシリアスで、りんきら(凛城きら)演じるイポリトフ伯爵が歌い出す。
時計の針が動く演出は印象的ですが、あまりにもシリアスで、そのままみんなが列車に乗っていくものだから、てっきりここで1幕が終わるのかと思うほどでした。
アナスタシアを見て伯爵が「神のご加護がありますように」と言うのも印象深く、伯爵は一目見ただけで実は彼女がアナスタシアであることを見抜いたのではないかと思うほど。
もっともここで1幕は終わらず、紆余曲折を経て、パリの風景を見下ろして終わるわけですが。
この終わり方も結構好きで、パリの風景を見に行ったはずのアーニャが歌うためだけに戻ってきたように見える演出はなんとかして欲しいのですが、デミトリとアーニャがパリの風景を見下ろしながらせり上がっていく上手からグレブという魔の手が近づいていることを暗示するのは美しかったです。

ダイヤモンドの存在を明かしたことでロシアを出国できることになったのですが、アーニャに「本当に信頼できる人にしかこの存在を教えてはいけない」と言った看護婦はおそらくアーニャの正体を知っていたのだろうなあ、となんとなく思いました。
アーニャという名前を与えたのも彼女でしょう。
個人的にはキーパーソンだと思っているのですが、これ以上話を膨らませるわけにもいかないのかな。

ラストのデミトリの「俺は手を伸ばしても届かない人を愛し続けることはできない」という台詞はとても素敵ですね。少年少女時代に実はパレードで目が合っていた、というエピソードはいかにも宝塚が好きそうな感じですが、あの場面は芝居の中にはないにもかかわらず、目に浮かぶようで……好き。
実は1幕にフラグが立っていたことには2回目に気がついたことでしたが、あのパレードで手を振る美しいアナスタシアとそれを薄汚れた少年デミトリが見ている様子が想像できて、とても好きです。
ここはいい演出でした。

ちょっと残念だったのは舞台装置かな。
第2幕のバレエを見る場面、あの舞台装置はセンターの席からでないとよく見えないかと。
上手と下手のボックス席に座るデミトリとアーニャ、マリア皇太后とリリー、そしてその奥の枠の中で繰り広げられる「白鳥の湖」は上手からはちょっとよく見えない部分が多く、しょぼんとなりました。
とはいえ、本公演だから舞台装置を大がかりにしたい気持ちもわかりますし、難しいですね。
そんなことより優希しおんくんのロットバルトは最高でしたね。ノリノリじゃねぇの!
なんでジークフリートに負けるかがわからんくらい格好良かったです。しびれました。

ただ2幕頭の橋と坂の舞台装置はとてもよくて、後ろにいる生徒もよくわかる。
下級生がよくわかるのはとてもいい。
アーニャが橋の名前を答えるときはブックレット?観光本?を見ずに言って、「昔、聞いたことがある気がする」みたいな台詞が挟まってもいいかなと思いましたが。

そしてだいぶ残念だったのが脚本ですかね……。
細かいこというようで本当に申し訳ないのですが、文章を構造的に読むのが仕事なものでどうしても気になる職業病だと思っていただければ。
2回見たから「アーニャはデミトリたちに会ってから、本当に自分がアナスタシアだと思っていたこと」「デミトリの幼少時代のたった一度のお辞儀の意味」の2つを理解できたのですが、いまいち演出が足りないと思うのです。
ちゃんとその言葉が観客の印象に残るような演出が欲しいかなーそんなに尺はとらなくてもいいからさ。
後者は歌詞にも入っているはずなのに、なんだか印象に残らないんですよね。

2回見てもわからなかったのは「アーニャはいつ自分がアナスタシアだと確信したのか」「マリア皇太后はなぜアーニャの部屋を訪れたのか」の2つですかね。
デミトリもアーニャも、もしかしたら本物のアナスタシアかも?と疑念を抱いたのは、おそらくオルゴールをアーニャが難なく開けたタイミングだと思いますし、デミトリが確信したのは、「皇女様」といって白いお衣装同士でひざまずいた場面だと思うのですが(しかしここの演出もなんか印象に残らない。役者の力量だけでインパクトを残しているような気がする。音楽や照明をカットアウトにしたらどうだろう)、アーニャ自身はいつ確信したのかさっぱりわからず、ホテルでマリア皇太后と対峙しているとき突然アナスタシアだった頃の記憶をぺらぺらと流暢にしゃべりだすから、一瞬私は置いてかれてしまいました。
あ、記憶戻っていたのね、みたいな。

マリア皇太后もそもそもなぜアーニャに会う気になって、わざわざ自分でホテルまで足を運んでのはか全くわからなかったわ。
会う気になったらなら、もう一度呼び寄せればいいのでは? なぜ自分できた? いや、皇太后だよ???みたいな疑問が。
そもそもバレエの時点で「おや?」と思っているわけだし、1度目で会ってあげてもいいような流れでしたが、それを裏切ってくるのはよくある方法かと思うのですが、そのあとのデミトリがマリア皇太后にぶつけた言葉にそれほど説得力があるようにも思えず、マリア皇太后の心変わりの理由もよくわかりませんでした。
「最初はアナスタシアに仕立て上げようと思ったけれども、今は本物のアナスタシアだと確信しています。だから会ってください」とストレートに言えばいいものを、なんだかよくわからないことを長々としゃべって背を向けたという感じになっているのがなんとも。
もちろん現実にそういう場面になったら、あたふたしてよくわからないことを述べるということはあるかもしれませんが、これ、お芝居ですからね……?

ラストはたたみかけるように意味がわかないところが多く、記者会見するといいながら「あなたの彼は?」と言って、マリア皇太后はアナスタシアから離れていくし、突然グレブがどこからともなく現れて「ここの警備はどうなっているんだ?」と思わざるをえないし(少なくともマリア皇太后が近くにいるような場所の警護ですよ?)、グレブは殺せないままなのはわかるとして、「財産を受け継ぐ者としてアナスタシアを発表する日」であるといって、おや、記者会見とは違う日なのか?同じ日なのか?と思って、時間軸が行方不明のまま、橋の場面でアーニャとデミトリが再会、ダンスして完!って、ええええええと思ってしまいました。
おとぎ話だからこれでいのか? ふんわり雰囲気わたがしみたいなラストでした……全くわからんかった……。

台詞でもかみあっているのかないのかよくわからない場所がいくつかありました。
マリア皇太后とアナスタシアの写真撮影のあと「誰もあなたの発言を否定しないようになるわ」「そんなのおかしいわ」「ところであなたの彼は?」というようなやりとりがあったと思うのですが、んんん?どういうこと???と思いましたし、2幕冒頭の橋の場面でも「バスタブのお湯は残しておいてよ!」「気をつけろよ」「うん」というデミトリとアーニャのやりとりも、なんか一言足りないような……ともやもやしました。
壬生義士伝』のときも脚本に赤ペン先生したいわ……と思ったけれども、今回も思ってしまった。
稲葉先生ってショーのイメージが強いからな。
最近の芝居だと『WEST SIDE STORY』もあるけれども、やはり海外ミュージカルなのね。
『WSS』そのものを私はあんまりかってないからな……。

第2幕はリリーが大活躍ですが、ヴラドに再会したリリーの反応も実は私はあんまりよくわかっていないのですよ。
死んだと思っていた元恋人が生きていて、わざわざ会いに来たという事実に対して、「過去の異物」と思っているのか「会いに来てくれて嬉しい」と思っているのか、その両方で揺れ動いていてもいいのですが、芝居野中では変化には要因が必要で、揺れ動いている要因がよくわからないな……と。
うれし恥ずかし、というわけでもないし、完全にコケにしているわけでもなさそうですし。
「あなたが愛したリリーかしら?」というのも突き放すために言っているのか、今の私も愛してくれるかしら?というニュアンスで言っているのか、どっちだろう……。

男女のやりとりでいえば、バレエを見に行くためにきれいに着飾ったデミトリの蝶ネクタイを、これまた大変美しいお衣装に早着替えして出てきたアーニャが直してあげようとしているのを、デミトリは嫌がるけれども、そのすぐあとに腕を組むように示す。
いちゃいちゃしたいのか、したくないのか、どっちやねん。

あと、気になることといえば冒頭でアナスタシアがベッドにオルゴールを取りに来る場面。
完全にゴリンスキーと鉢合わせているのに、アナスタシアは無事なんですよね……。
最初、ゴリンスキーがグレブの父親かと思ったのですが、グレブの父親はロマノフ一家を銃殺した後、「己を蔑んで死んだ」と母親は言ったというくらいですから、違うんでしょうね。
グレブパパとゴリンスキーは同僚で、同じようにロマノフ一家の処刑に立ち会ったけれども、前者は「己を蔑んで」、後者はいまだに新政府の役人として、生き残りのロマノフを追っている、といったところでしょうか。
自分が殺し損ねた娘を自分で片付けるのではなく、かつての同僚の息子に頼むってどういう心境なんでしょう。
ゴリンスキーは繰り返しグレブに「父親の意志を継げ」といいますもんね。
グレブ自身も「信じている彼の誇りを」と歌う。
実は父親、精神でも病んだのでは?と勘ぐってしまうな。

それから宙組に詳しい方にお聞きしたいのですが、本日A日程のフィナーレのパレード、トップスターたちが銀橋挨拶する前の段階で、上手の花道にいる、右から数えて2人目の頭身おばけの男役さんはどなたでしょうか……10秒に一回くらいウインクしていて、私も見事に被弾したのですが……。
マチネ公演でドキドキしたのですが、おもわずソワレ公演でもオペラグラスで見ていたところ、やはりしゃんしゃんを持ちながら、ウインクを飛ばしまくっていたので、これは自分を見ていると思った人には手当たり次第ウインクしているな?と思っていたところ、オペラ越しで再び被弾しました。
プログラムを見ても全くわからない……スタイルで覚えているからか……。

あと気になった下級生は、ネヴァクラブのギャルソンヌのお嬢さんを演じた愛未サラさんとロケットの一番上手で小さい身長ながらも輝いている栞菜ひまりちゃんのお二方の娘役です。
サラさんはもともと美人だなーと思っていたのですが、歌って踊っている姿はとても美しかったです。
ひまりちゃんは、160センチない中、一生懸命なのが大変に愛らしかったです。
個人的には山吹ひばりちゃんも応援しているのですが、今回はA日程だったので、残念ながらお目にかかれませんでした。残念!
AとBにわかれてもプログラムの最後のページの下級生さんたちは本当に少ししか出番がなくてかわいそうだな……。
次の生田先生、頼むよ!

フィナーレの曲は『NZM!!』の第1幕最後の「ノゾミ~♪」に聞こえた気もしますが、私だけかしら。