ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、古典文学など好きなものについて語るところ。

宙組『プロミセス、プロミセス』感想

宙組公演

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ブロードウェイ・ミュージカル『プロミセス、プロミセス』
翻訳・演出/原田 諒

品行方正、「清く正しく美しく」がモットーの宝塚歌劇団で、不倫をテーマにした作品はなかなか難しいのではないか、相性が合わないのではないかという話も当初ありましたが、実際に観劇してみると、妻子がありながらごく当然のように若い女の子をベッドに連れ込む重役が脇役とはいえたくさん出てくるような作品、おぞましくて宝塚以外で見られるかよって思いましたし、現代劇の中で自分のことを大切にしない人間をどうしてあれほど好きになるのかわからない私としては見るのがちと辛かったな……。
そりゃ、モノクロのセットはオシャレだし、回転してあらゆる場所に変幻自在に変身するのも気が利いているし、その中でもベッドが1番上にあるのも最高な上に衣装はカラフルでオシャレ、真ん中のききちゃん(芹香斗亜)のコメディセンスは抜群だし、まゆぽん(輝月ゆうま)は宙組が初めましてとは思えないくらい馴染んでいるし、マキセルイ(留依蒔世)の代役もパンチが効いていたし、じゅっちゃん(天彩峰里)ももちろん演技、歌唱力ともにすぐれているのだけれども、マイク・カークビー、ジェシー・ヴァンダーホフ、エッド・ドービッチ、アイクルバーガーらしょうもないおじさんが「どこかにホテル代わりに使えるアパートメントがあるはずだ」と歌う場面はなんとなく心が渇いた気持ちになりました。いや、たぶんこれは不倫という題材と私個人の抱える問題の相性の悪さなのでしょうけれども。
幸い私の友人で不倫で身を滅ぼした人はいないのですがね。もちろん私自身もそんな経験はない。ないけど、害はしっかり被ったので、不倫も浮気もバカバカしいのです。

だからこそ、といいましょうか、個人的なMVPはせとぅ(瀬戸花まり)が演じたシェルドレイクの秘書を演じたミス・オルスンなのです。
4年前のどこかの支店長の彼女です。
シェルドレイクに捨てられて、それでもシェルドレイクの秘書として近くで働いているのは、未練があったからというのも少しはあるかもしれませんが、それよりもなんといっても「仕事と給料」が慰めになったからだと言う彼女は「コンクリート」並の精神をもったスゴツヨ女です。
ああなりたいとは思わないし、こうならざるを得なかったオルスンにむしろ同情を禁じ得ませんが、それでも彼女は最後の瞬間まで美しかった。
1幕終わりのクリスマスパーティでフランに「恒例の奥さんと別れるって演説はもう聞いた?」と聞く場面はこれ以上ないくらいに痺れましたね。フランにそんなこと言ったら、彼女壊れちゃうよ?!って思ったよね。(そして実際そうなった)
この場面のオルスンはちょっと意地悪にも見えるし、実際に意地悪なのでしょう。でもフランの反応を見て気がつく。彼女はこちら側の人間ではない、と。
だから2幕でシェルドレイクに忠告する。そのあたりの変わりようの鮮やかさよ。すばらしい。
シェルドレイクに捨てられた女の会にはオルスンを合わせて5人出席しているようですが、もちろん彼が手を出した女は他にもいるでしょうし(メンタルがコンクリートな女性たちしか集まれないでしょう)、オルスンの言うように今後「会社中の女に手を出す」ことも十分に考えられる。
シェルドレイク、お前という男はなんと罪深いんだ……オルスンが退職願をもってきて、さらりとサインをさせてしまうのも最高。どうせろくに見ないでサインすることをわかっている。
あそこに書かれた退職金はきっと法律ギリギリセーフくらいの金額なのでしょう。働いた分と慰謝料分と。
そして奥さんに密告されることに怯えるシェルドレイクの小物さよ……小さい男だな、本当に。
シェルドレイクにしたって、奥さんがいて、子供が3人いて、クリスマスにはツリーを家に飾るくらいには団欒を築くことができているのに、なぜ他の女性と関係を持つのか。そういう貞操観念ガバガバな男性が出世する(出世するから貞操観念がガバガバになるのか?)、その一方で女は強くなければ生きていけないなんて世界、辛すぎるわい。世の中にはフランみたいな子の方が多いよ。全員がオルスンにはなれない。そしてそれを責めることは、もちろんできない。

とはいえ、シェルドレイクを演じたそらくん(和希そら)は安定した演技力と歌唱力でカンパニーをききちゃんと引っ張っていっている感じがありましたし、『夢千鳥』の経験も生きたのでしょうか、脇役でも光っておりました。同じことはじゅっちゃんにもいえますね。
私がこんなに腹が立つのも、そらくんが的確にシェルドレイクを演じたからでしょう。
しかし、クリスマスプレゼントを用意し損ねたからといって100ドル渡すのは間違っているよ。
「君に似合う鞄があるだろう」じゃないよ。それを一緒に選ぶのが楽しいんだろうが。
一緒に選べない不倫の関係はやはり誰も幸せにしないよ。
もっとも不倫相手に手編みのマフラーを渡すフランも相当重たいけどな。手編みかどうかなんて見ればわかるからね?
それを使ってくれるはずなんてないのに、なんでそういうことするかな……自分を傷つけるの、止めようよ。私も辛かったわ。
裏向きになったベッドの上でフランといかがわしいことをしたあとの芝居が繰り広げられているのは萌えでしたね。これはファンはたまらんでしょう。

急遽マージを演じることになったマキセも良かったですわ〜。新しい扉を開いた感じなのでしょうか、それとももともとあった才能がここでお披露目になったのでしょうか、定かではありませんが、とにかく良かった。
コメディセンスも抜群、大柄であることから、チャックを圧倒するのも説得力がある。
突然の関西弁、からのききちゃん、まゆぽんへと続く関西弁のアドリブ、爆笑ものでした。
フランの兄も、ありがちなキャラクターですが、観客はマージと一人二役と知っているので、別のおかしみもあって、たまりませんでした。
マージとして登場するときは黒ストッキングなのですが、足の細さに驚きました。とにかく細い!
そんな足で、一体どうやってあんな力強いダンスをしていたの?!ねぇ?!『サパ』のタオカと同一人物とは思えないんですけどー?!と脳みそがパニックを起こしました。ビックリだよ!
マージの代役はきっと他の娘役も候補に上がったのだろうけれども、マキセで良かったです。ありがとう!

まゆぽんも専科として初の舞台は同期がいないというちょっと過酷な状況でしたが、やりきりましたね!というどころの騒ぎではない。
のりのりじゃないですか!楽しんでますね?!とてもうれしかったです。
お稽古場でも宙組の皆さんがあたたかく迎えてくれたのでしょう。こちらもありがたいことこの上ない。
体格がいいせいか、ヒゲモジャにダサ眼鏡というおっさんスタイルも違和感なく、演技が本当にすばらしい。おじさん役、それでいて宝塚として品の良さみたいなものは内在していて、専科として素敵なスタートを切ることができたのではないでしょうか。

しどりゅーは、ききちゃんと扉を開ける開けないの攻防を繰り広げる中、さらっとタイトルを回収するし、不倫相手の看護師に扮するさくらちゃん(春乃さくら)は口で手袋を外すし、もう何がなんだか。『HSH』のシルヴィーも良かったよなあ。
あんなに力一杯扉を押したり引いたりしてもビクともしないわけですから、さぞ丈夫な舞台セットなのね、とも思いしたし、素敵な舞台装置でしたよね〜。
一番上にベッドというのがまたなんともたまらん。
フランが睡眠薬を飲んで倒れ込むときは、おいおい目線は大丈夫か?!とも思いましたが、ベッドがてっぺんにあるのがやはりおもしろい肝なのでしょう。カーテンコールのときに二人仲良く布団の中から顔を出したのが可愛らしくてたまりませんでした。
下にはアパートのLDKが続き、扉を開ければ階段、そしてようやく舞台の上。
裏側にはシェルドレイクの会社の個室、その他は社内病院の待合室になったり、巨大エレベーター、バーや中華レストランの壁など早替わりが多彩でした。
ブロードウェイ版もこんな形なのでしょうか。とにかく目が楽しい!
なぜ中華レストランなのかはよくわからないけれども……フレンチやイタリアンではないのね、ブロードウェイにおけるアジアのイメージってどんな感じなのでしょうか。不倫カップルが使うイメージなのでしょうか。

シルヴィアを演じたさらちゃん(花宮沙羅)もたまらんかったわ~可愛かったわ~可愛い子やわ~。
『夢千鳥』の菊子も良かったし、『デリシュー』のプロローグのソロも良かったし、これから期待できますね!
あと全体的に影コーラスが豪華すぎるので、もういっそ影ではなく舞台上で歌っていただいたらどうかしら。
クリスマスパーティーみたいにさ!

ところで、チャックがフランにかつて自殺しようとした話をしますが、あれは作り話かなと個人的には思いましたけれど、いかがでしょうか。フランを励ますための作り話。
フルーツケーキがあったのもチャックがシェルドレイクとその愛人のためにシャンパンと同じように用意したのではないでしょうか。フランの兄に自分から殴られに行くことからもわかるように、彼はお人好しなんですよね。
だから、ヴァンダーホフに言われように「オクラホマミキサー」ではない曲も用意したのでしょうね。
チャックのテーマソングをかけるとき「オクラホマミキサー」だと思ったのが、ツイッター上にもたくさんいて、おもしろかったです。そうだよね、そう思ったよね、私も思ったよ。
全く色気のない曲ですね、さすがです。

テーマは別として、噂に違わぬおもしろい作品でした。
これが円盤化されないのは本当にもったいない。惜しい。目が楽しい芝居だったので。
CDはライブ盤かな。曲だけではないといいのだけれども。劇団にお金を入れられなくて申し訳ない気にもなる。
ダーハラはそろそろオリジナル脚本でこのレベルのものを作ってくれるといのだけれども。そしたら劇団にお金を落とすことができるのに。
そしてなんなら一緒に雪組『20世紀号に乗って』もぜひ一緒に! お金を落とします!と思ってしまう亡霊です。