雪組『Sweet Little Rock 'n' Roll』感想
雪組公演
バウ・ミュージカル・プレイ『Sweet Little Rock 'n' Roll』
脚本・演出/中村暁
珍しく観劇することになっていた東京公演花組のチケットがチリとなり、かなり楽しみにしていた雪組彩風組が中止となり、なんだかもうな……月組が公演しているだけでも奇跡なのに、その月組も次々に休演者が出るから心配でたまらないな、という感じの中の雪組『SLRR』。
再演ですが、初演は未見。だいぶ古いので新しくなったところは多いでしょう。多いと信じたい。多くてこれか?げふんげふん。その話は最後に。
とにかくあみちゃん(彩海せら)を見続けたライブ配信でした。
最初にあがち(縣千)がセンターでダンスしているときに、あみちゃんがいなくて、はいちゃん(眞ノ宮るい)は見つけられるのに、あみちゃんはどこ!?となり、カメラワークの関係か!?そんなバナナ!!と思っていたら、娘役を引き連れてやってきた……もうそのときの感動といったらなかったわ……。
そして娘役に囲まれているところにとてもあーさ(朝美絢)の血を感じる……じんわり感じる。
踊っているときは良い意味であーさの影が見えて、あーさの故郷月組に行くのね……とぐっと涙しました。
メアリーについてフレディと話しているときのオドオド加減や冴えない態度の芝居はだいもん(望海風斗)を思い出しました。『SV』の日記の場面がしのばれます。
月組に行っても頑張って。みちるちゃん(彩みちる)がいるよ、れいこちゃん(月城かなと)もいるよ。
れいこちゃんとはバウホールで一緒に舞台に立っているのよね、きっとれいこちゃんも覚えているよ。
将来はタカスぺであがち・あみちゃんの並びを見るのが今から楽しみで仕方がありません。
『ギャツビー』の新人公演では主演ができるといいなあと勝手に思っています。
そしていきなりですが、フィナーレの話からします。
なぜなら後半は苦言が多いからです(笑)。フィナーレはとても良かったのです~!
プログラムに書いていないから、てっきりフィナーレはないのだと思っていたんですよ。
それなのに、あるじゃないですか。この裏切られた感じがよかった。
最初のあがちセンター、選抜男役メンバーは学園ものの続きとして学園祭の有志ダンス発表のようにも見えてとても良かった(言い換えるとあんまり宝塚っぽくはなかった/それは褒めているのか?)。
あの情けないフレディがキレッキレに動いているのがよかった。
こういうのに先生が登場すると、盛り上がるよね、わかる。
さすがあのギャップ。さすがタカラジェンヌ。まなはる(真那春人)最高。
で、ここにあみちゃんがいない!と思ったら、あとから一人で歌いながら出てきた……感無量。
しかも衣装が、たぶん『エクレール・ブリアン』で琴ちゃんが着ていた衣装なのよね。
すごい……こりゃたまんねぇ……『MRNS』の「Such a Night」をうたうあーさが見えました。
娘役群舞も良かったし、デュエットダンスはさすがダンスの縣千でした。
で、振出しに戻ります。
オープニングが終わってグッドマン校長登場。
いいね、こういうゆるーい感じの管理職のもとで私も働きたいよ、と涙がちょちょ切れました。
でもフレディやマクリーンが同僚っていうのは、なんていうか楽しそうだけど、ちょっと距離を置きたいなって思いました(正直)。
校長はフレディの「大きなお節介」「大きなお世話」に気が付いていながら、別にそれを咎めることも励ますこともしない。こういう見守る系の人が管理職に向いているし、にわにわ組長(奏乃はると)はまさにそういう立場だろうし、私は向いていない。
マクリーンものっけからテンション高かったですね、「おはようございまくりーん」って挨拶と自己紹介と同時にやっちゃった、こりゃすごいな、たまげたってなりました。演劇界では一石二鳥。
芝居で名前がわかることは大切なことですが、大抵それって人から呼ばれる形が多いのに、自分で言っちゃった、でも全然不自然ではない、さすが愛すみれ!と拍手喝采でした。
時間帯はたぶん朝の設定だと思うのですが、マクリーンは一瞬ピンクのライトもあたるし、なんていかがわし先生なのwと思っていたら、ロバートが自分のことを好きだと勘違いするし、本当に頭の中がお花畑の人だった。もともとそういうキャラクターとして描いたのか、あいみちゃんのセンスなのかはよくわかりませんが……後者、かなあ……。
ところでフレディはなんのコーチなのだろう。1幕ではてっきりバスケかラグビーかと思っていたのですが、結局明かされませんでしたね。というかラグビーの場面もちょっと意味がわからなかった……あれ、必要?
あ、アメリカだからラグビーではなくアメリカンフットボール? 作中ではよくわからなかったなあ。プログラムにはフットボール部って書いてありますが。
娘役ちゃんたちはオープニングのドレスにそれぞれカーディガンやらセーターやらを着て、学校の場面には登場。
このお衣装がまた可愛いんだな!
ゆきの(妃華ゆきの)は紫、はおりん(羽織夕夏)は水色、くるみちゃん(莉奈くるみ)はオレンジ、りりちゃん(琴羽りり)は薄い黄緑。
はおりはんは足元がスニーカーで一人だけカジュアルな感じもよい。
ヒロイン・シンディーの夢白あやは赤、メアリー役のはばまい(音彩唯)は青。
はばまいは眉の描き方がうまくなっているのが映像でもわかりました。下級生の成長は早い!
スクールガールたちはみんな靴下をはいているのに、全然ださくみえないのがすばらしい。
それが果たしてアメリカンハイスクールな雰囲気になっているのかはよくわからないのですが(私には昭和レトロのようにも見える)そういうものなのかな。可愛いけどねw
私は特にりなくるちゃんが好きなのですが、コケティッシュな感じがたまらないんだよね~! 超かわいいんだよね~!
『ヴェネチア』のときも全体の中でコメディな役割を与えらえていましたが、今回はぐっと台詞も増えましたし、これからに期待するわ~!
そしてビリーが教室(と思しきところ)で転校生として紹介されるわけですが、ここのシンディーの台詞がめちゃめちゃ刺さる。
「女の子に囲まれてにやついている軽薄な男」とビリーを頭からののしり、スクールボーイたちには「あなたたちにとって私は高根の花!」と自分で言いきるあのみなぎった自信が眩しくて仕方がないわ! 実に輝いていてよろしい。
自己肯定感マックスすぎて最高だよ、シンディー。
そしてビリーも自己肯定感の高さなら負けていない。
実際人よりも牛の方が多い地域ではビリーはもてたのかもしれませんが、オクラホマよりは多少都会であろうこの学校ではどうでしょう(もっとも「こんな学校にのこのこ転校してくるやつ、スーパーマンなわけがないわよ」とも言われていますが/オクラホマってミキサーを思い出して『プロプロ』のチャックを連想してしまう)。
最初はもの珍しさもあるのでしょう、シンディー以外は結構ファーストインパクトが良かったようですが、年頃を考えれば女の子の方が大人びている(ませている)世代に、ビリーがそれほど格好良く映ったとも思えません。
スクールボーイズたちはシンディーについて散々な言いようですが、事実シンディーに口喧嘩で勝てるような人間はこの学校にはいないのでしょう。
頭の回転か早くて、口が達者で、チャキチャキした女の子、私は大好きですけどね!
自身でもいっていたように「美貌」の持ち主だし、ああいう勝気な女の子を同年代の男の子はきっとちょっと遠慮してしまうのは、わかる。すごく歳の上の人が下の人でないと、たぶんまともに相手にされないタイプ。
きっとこの学校の中ではお勉強もできる方なのだろうと思われます、たぶん。
「優等生」と言われていたけれど、メアリーも「優等生」と言われていたので、この作品の中における「優等生」の基準やら語意がよくわからないなと思ったのですが、私だけかな、げふんげふん。
とにかくそんなシンディーがオクラホマなんて田舎からやってきた男の子を最初から手加減なしで潰しにかかろうとするのは、とてもよくわかる。
シンディーの言っていたように「本当はひょうきんなのに二枚目を気取っているところが気にくわないの」は本当にその通りとしか言いようがない。
しかし、実はシンディーも周囲から「ひょうきん」と言われていたので、これまた作中における「ひょうきん」の意味が問われるげふんげふん。
3人チンピラははいちゃん、一禾あお、壮海はるま。うたうま3人組で、これは歌わせなければもったいないだろう、と最初から思っていたし、ちゃんと歌があってよかった。
よく考えると全員きぃちゃん(真彩希帆)のディナーショーに出ていた人たちかな?
そりゃうまいわけだ、という感じ。
「オー!マーイ!ベイビィ!粋なロックンロール♪」って可愛かったなあ。
この学校に入学するためには歌の試験でもあるのかいな、って思うくらいですね。音楽学校はあります。
この3人チンピラは、チンピラな風体をして、ロバートとメアリーの恋のために一役買ってやろうというかフレディによって買わされるのですが、ロバートはこの演出を実際はどう思っていたのでしょうね。
上手にはけるときは「頼んだよ」と声をかけていましたが、次の場面でビリーには「こういうのはちょっと」とあんまり乗り気でない様子もうかがわれて、どっちやねん!となりました。
もはやこれは演じているあみちゃんの問題ではなく、演出の問題に違いないですが。
ロバートの性格から考えれば、後者の方が本音だろうな、と思うけど、どうかなあ。
もっとも最初はメアリーとデートできるかもしれないと思ってちょっと舞い上がってしまっただけ、という解釈もできます。なんにせよ、台詞が足りない。
そして、ロバートあみちゃんとメアリーはばまいの組み合わせは可愛すぎてマジで天使。エンジェルカップルだわ。
ビリーとシンディーは猛獣同士、ライオンと虎、みたいな感じがしますが、こちらはチワワと子猫みたいな愛らしさがある。可愛い、キュート、あと歌うまい。
ロッキーとミリーはライオンと子猫みたいな感じかな。1幕終わりで、ロッキーが突然「ミリー!」って呼ぶから、誰のことかと思ったら、黄色のスカートをはいた女の子。
『CH』新人公演でアルマ王女を演じた可愛い子、華澄沙那ちゃんでした。うぶで可愛いの~! まあ、展開としては突然だったけどな、げふんげふん。
1幕終わり、そうそうにビリーとシンディーがくっついてしまって、え、これ、2幕は何やるの~!?と慌てましたし、てっきり作戦にはまって「このやろう!」と周りに復讐(笑)をしていく中で、本当の愛が芽生える、とかだと思っていたので、何かの次回予告ではないですが、本当に「これからこの話、どうなっちゃうの~!?」て感じでした。
勘違いから生まれる恋はきっとあるでしょう。けれども1幕終わりの段階でビリーとシンディーがくっつくとは想定していなかったので驚きましたよ、本当に。
そしてこの状況は本当に恋なのか?とも思いました。
ビリーとシンディーはお互いに自己肯定感が高すぎて、噂を聞いて相手を見る目が変わった、というよりは、そりゃ自分に惹かれるのは当然よね~!みたいな気持ちが根っこにありそうじゃなですか。だからこれは恋愛なのか、と疑問に思った次第。
ビリーは言うてオクラホマの田舎の坊ちゃんだけど、シンディーはこの学校一男の子たちから美貌と気の強さで恐れられている女子ですからね。ビリーほど簡単には落ちないと思ったんだけどな……。
とはいえ、シンディーも普段から男子たちに敬遠されているところがあるから、いきなり「ビリーが自分のことを愛している」と強気な態度の噂を聞いたらぐらつくのかな……いや、それは男の勝手な妄想ではないかな、とげふんげふん。
ロッキーとミリーはいい感じで1幕は終わるのに、2幕の冒頭のダンス場面では一緒に踊っていないのが謎だなと思ってみていたのですが、なんなら2幕の内容はロッキーとミリーの茶番劇が大半で、終わるころにはますます「なぜ2幕冒頭は一緒に踊らなかったんだ?」と謎が深まりました。
っていうか全体的に2幕が謎過ぎて、ちょっとよくわからなかったげふんげふん。
ヒロインであるシンディーを奪い合うのではなく、ミリーちゃんがターゲットになっているのは、とてもおもしろい構造だとは思うよ。
けれどもだったら、ロッキーとミリーちゃんの話ももうちょっと丁寧にやってあげればよかったのでは?そして最終的にビリーとシンディーが結ばれるという流れでもよかったのでは?と色々考えてしまいました。
ここからはちょっと苦言が多くなります。
1幕にもありましたが、「優等生」「ひょうきん」という言葉の意味が、どうも芝居の中で定まっていないような印象がありましたし、2幕では「おっちょこちょい」という言葉が乱用されていたように思います。
もちろん、人によって同じ言葉でも少しずつ意味が違うということは現実の生活ではあるでしょうが、でもそれって芝居の中ではあってはならないというか、あるならあるで意味を持たせなけれっばならないことではないでしょうか。
そうでないと観客は混乱してしまいます。
「ひょうきん」はビリーとシンディーに使われますが、似たもの同士ってことが言いたかったのかな。
ビリーが早とちりをしたロッキーに対して「おっちょこちょいの唐変木」と言いますが、たぶんビリーの語彙に「唐変木」という言葉はないのではないでしょうか。
そういういわゆる「賢いキャラ」としてビリーは描かれてはいないと思います。
マーガレットも突然人が変わったようになります。
もちろん1幕から「男の子が好き。彼氏が欲しい」という印象はありましたが、いつの間にかスタージョンなる人物と付き合うようになり、それで人が変わったというならそれもそうでしょう。
けれども1幕で同じガールズグループにいなかったミリーの家に泊まりに行くほど仲良くなっていることは説明がつかないのではないでしょうか。
大概今の日本の高校生も「スクールカースト」に支配されていますが、あらゆる人種のるつぼであるアメリカンハイスクールはこれから逃れようがないでしょう。
1幕はシンディーたちのグループにいたマーガレットが、ミリーと仲良くなるのはいいのですが、それが家に泊めるほど!?というのはちょっとついていけないなと思ってしまいました。
さらに、そのマーガレットの彼氏であるスタージョンとその友人(?)のぐいぐいジョーというのはもっと意味がわからないな、と。
同じ学校の生徒、なんですよね? 隣町の学校の生徒ではないんですよね?
「ぐいぐいジョー」と言われているから、てっきりお笑い芸人コンビか何かと思ってしまいましたよね。
なにがどう「ぐいぐい」で、どこがどう「スター」なの? いや、中の人ではなく、ジョンがスターなのはどういう意味があるの?と、もう彼らが出てきたあたりから、実は全くついていけなかったのです。
そしてビリーがマーガレットからスタージョンなる人物を聞き出して、探しに行って、「俺のことを聞いて回っているのはお前か」と言われますが、どれくらい時間が経っているのかもよくわからない。
最終的にスタージョンを引っ張って来るけれども、むしろ引っ張ってこられるべきなのは彼ではなくぐいぐいジョーなのでは?とか、最終的にぐいぐいジョーはどうなったの?とか、ごめん、もう全然わからないわ……となりました。
2幕はここ、どこやねん!というのも、プログラムがないとわかりにくかったかなと思います。
冒頭はまちのハンバーガー屋さんだったようですが(1幕終わりも同じ場所で、私はてっきり学校の食堂かと思っていた/しかし学校のダンスパーティーにまちの人も参加可能というのは非常にオープンな学校でよい)、ミリーの家はともかく、ビリーは一体どこをどうめぐっていジョーにたどり着いたのか、「ローズ・ドア」ってどういうところなのか、いつもスタージョンと一緒にいると思っていたぐいぐいジョーが一緒ではないのはなぜ……疑問がつきない……。
だからそのあとのビリーとシンディーの口喧嘩もとても置いてけぼりだったわ……なんでシンディーが謝らなければいけないの? むしろ「心配させてごめんなさい」って謝るとするならば、彼女ではなくミリーなのでは?とか、ツッコミが追い付かない……呆然としている間に終わってしまった。
まさかこれがビリーとシンディーの周りをアッと言わせる復讐とか言わないよね?
ロバートとメアリーがくっつくことになったシナリオにもハプニングが生じましたが、これは、のちにロバートの知るところになったのかどうかもよくわかりませんでした。
「ハプニングもありましたが」と言うのが、本物のツッパリ3人だったということを指しているのか、何なのか、よくわからない。
あの本物のツッパリの台詞もよくわからなかったんですよね。
お金が欲しかったのか……メアリーが欲しかったのではなかったのか。
台詞がわからなかったという点では夢白ちゃんのシンディーも、滑舌はめちゃめちゃよくて、ちゃんと台詞が聞こえるのに、罵りの意味がちょっとわからないなと思うことはあった。
りりちゃんの不思議っこの設定もよくわからなかったわ。本気になるタイミングをもっとうまく使えばおもしろいと思うのだけど。
だからこそフィナーレがあって助かったけれども、演出の先生としてはダメでしょう。
役者はいいのに本がダメ。脚本がスカスカ。演出がダメ。どういうことよ? ええ?
なんで劇団側もこれでいいにしちゃうかな。本当は脚本の点検って必要だよね。できれば外部の。
でもきっと今はそんなことに回しているお金もないだろうしな。
役者の時間は限られている。特にタカラジェンヌには。演者のファンがこれでいいっていうなら、ここは宝塚の世界だから引き下がりましょうが、私はこれをご贔屓や好きな役者が主演で上演された日にはたまらな、と正直思ってしまいました。
そういう人があみちゃんへの送別会みたいなものを企画しちゃったから、なんていうか、なんとも言えなかった。
白々しいとまでは言わないけど、ここは生徒たち自身が考えた方がもっと盛り上がったと思うんだ。
劇中の台詞を使うことが悪いとは思わないけれども、あれはなんていうか、ちょっとね。
役者があれだけできるのに、1990年に大劇場デビューを果たしたベテランとはとても思えないのが残念でした。