ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

花組『うたかたの恋』感想

花組公演

ミュージカル・ロマン『うたかたの恋
原作/クロード・アネ
脚本/柴田侑宏
潤色・演出/小柳奈穂子

今年も「あけましておめでとうございます」の開演アナウンスを聞いて、一年の健康を約束された気分になりました。ありがとう、れいちゃん(柚香光)。私の初詣です。
最初に花組で『うたかたの恋』が決まったときは、「再演……」「すでに見た気もする……」「役が少ない……」と後ろ向きな気分で、唯一の救いといえば潤色・演出が小柳先生であることかな、というところでしたが、先行画像やチラシが出ると、「お、おお?! これは今までとひと味違う、かな?」「セピア色! 永遠に色あせぬセピア色の化石ともなれ!@ベルばら」などと期待が高まり、フライング歌劇の「座談会」では、これはいよいよ新作ばりの期待ができるのでは!?と胸躍り、途中で「ぶたかたの恋」に邪魔されながらも(おいしくいただきました・笑)非常に楽しく観劇することができました。ありがとうございます、ありがとうございます。花組、ありがとうございます。小柳先生、本当にありがとうございます。

私はそもそも「宝塚は新作当て書きオリジナル主義」であり、例えば新作といえば『ディミトリ』のような原作付きのものでさえ、「オリジナ、ル……?」みたいな人なので、再演にはそら当然厳しいです。宝塚の本場の大劇場公演で再演なんて、よほどの意味や理由がなければ納得できないという面倒くさいファンです。だから再演する意味がわかった星組『エルベ』はとても買っている一方で、去年の月組の『ギャツビー』はあまり買えなかった(しかも一本物でショーもついていない)。
ただ、去年の11月に芸能の在る処の講演会を聞いたことで、「再演=作品のストック、アーカイブを増やす」という考え方もあるのは非常によく理解できたので、これはこれで大切にしなければならないというのもわかる。
とはいえ、花組はすでに全国ツアーで『哀しみのコルドバ』『フィレンツェに燃える』と柴田作品の再演を繰り返していて、しかもその再演というのが「潤色して、演出家! 仕事して!」「潤色の意気込みは買うけど、でもその方向性あってる?!」みたいな感じで、ツッコミ疲れも起こしていました。勝手な話ですが。
思えば花組は本公演は今までオリジナル作品が多くて(しかも『アウグストゥス』以外はわりと良作)、別箱は再演ものが続いていますね。『殉情』も『TOP HAT』『銀ちゃんの恋』も再演でした。

でも!!! さすがです!!! 小柳先生!!!
今回は潤色が非常に功を奏していたと思います。「ルドルフがマリーとの出会いを通して自殺する話」という骨格はそのままに、その他、今の花組のスターに合わせてキャラクターや場面を書き足したり、既存のキャラクターでもセリフを増やしたり減らしたりして、上手にバランスをとっていたと思います。
もちろん、相変わらず場転が多い、幕前芝居が多い、娘役二番手のミリーでさえあの出番の少なさ……と思わないわけではないんですけれども、今までの『うたかたの恋』の再演の、どれよりも時代や組子に合わせた潤色がされていて、もう最高だよ!と思いました。
新しい意味での「宝塚らしさ」の創造に成功したのではないでしょうか。そう、まさに現代の初心者に勧めたいと思う作品になっていたのです。だからこれを修学旅行生とか学生団体が見るのはとてもとても良いことだと思います。

今回、演出助手に竹田悠一郞先生が入っていました。とても勉強になったのではないでしょうか。
むしろ、この潤色の仕事をしたあとに『殉情』の潤色をした方が良かったのではないかと思うくらいです。それくらい意味のある潤色だったと思います。
デビュー作『Prince of Roses』、前回の『殉情』とすっかり花組担当の様子ですが、次のまいてぃ(水美舞斗)のディナーショーも楽しみにしています(それにしてもチームワークで力を発揮するタイプの彼女を専科に送るとは何事……いや、退団せずに残ってくれるのはありがたいことなんだけど……もやる)。
ちなみにショーには平松結有先生、佐野剛基先生とまだデビューされていない先生の名前が演出助手に掲載されていました。こちらも合わせて楽しみです。

小柳先生が公演プログラムで、本作品は「極めて政治的な話」でもあり、さらに柴田先生が「心に残った風景」として「玉音放送を聞いた焼け野原の駅前の風景」と答えていることを挙げ、「愛というテーマはもう一つ深いレベルで立ち向かうべきテーマ」と述べているのが非常に印象的です。
なるほど、確かに政治的なニュアンスは以前よりも作品全体を覆っているように思えました(そしてそれを現代でやる意味はもはや論じるまでもないでしょう)。政治的なニュアンスは「羽ばたく」というような台詞に集約されていたと思います。
「新しい皇帝をいただかないと、ハプスブルクは羽ばたけない」「ハプスブルクを出るに羽はばたく力をくれる可愛い恋人が必要」という台詞が印象に残ったのです(結構うろ覚えです、すいません)。ハプスブルクだけでなく、個人にも使われていたような気がしますが、いまいち記憶が曖昧です、重ねてすいません。でもとにかくそのワードが印象深かったんですよね。
さらに大劇場ならではなのでしょう、大きな双頭の鷲が舞台奥にどん!と控えている、というよりは鎮座ましましている。オーストリアハプスブルクという重責がいかほどのものなのか、その十字架の重量感を視覚にも訴えかけてくる。これぞ舞台芸術、ブラボー!なのである。
そして新しく付け加えられた第12場の場面。タイトルは「双頭の鷲」とある。ジャンとミリーが上手から出てきて、主要キャストがグループ分けされて回る盆の上に並ぶ。やがて上手からフェルディナンド大公、下手からその恋人であるソフィーが登場、背景にはもちろん大きな双頭の鷲が飾られている。この場面の最後には「鷲が羽ばたいた」と台詞か歌詞か、とにかくそんなことが言われる。
公演プログラムには「未来への希望が閉ざされ、絶望に陥るルドルフ。ハプスブルクの運命も大きく動こうとしていた。」とあり、「鷲が羽ばたく」ことで、「運命が動く」ことが象徴されている。でもその運命は、ルドルフにとっては「死」を意味していたし、一方でジャンにとってはミリーとの本格的な結婚生活(すでに同居はしているようですがw)、フェルディナンド大公にとっては王冠を手にすることを意味していた。三者三様、羽ばたく方向が違っているのがおもしろい。
この象徴的な場面、私はとても好きでした。今回の再演の意味がつまっているように感じられました。

実は今までの『うたかたの恋』で、マリーが最後につぶやく思い出の数々、たとえば「私たちのあのワルツ」とか「サファイアの指輪」とかはわかるんですが、「三日月の髪飾り」とか「朝の匂い」とか一体いつの間に!?と唐突感が否めなかったんですよね。
でも今回は、ちゃんとそれが納得できた。舞台では描かれていないけれども、ルドルフとマリーの間には確かにそういう時間があったという説得力が今まで見た『うたかたの恋』のどれよりもあった。奥行きが感じられた。私にとってはそれが何よりも収穫でした。

れいちゃんがまたね、不吉な影を背負っている感じの演技がうまいんだな、これが。
もう出てきた瞬間「あ、こいつ、死ぬな」って思えるし、「マリー、その男はやめておけ」って全力で思うし、ヤケ酒飲んでも、女を口説いても、気分が晴れないんだな、それくらいハプスブルクって重いんだなと感じられるし、マリーを殺したくないけれども、殺して、自分も死ぬというあの流れは圧巻でしたね、さすがだわ。
酒を飲んでいてもつらい。女を逢瀬を重ねてもつらい。正妻であるステファニーはもちろん重い。厳格な父とは話が合わず、美貌の母は逃避の名人。ジャンを見ればうらやましくなり、フェルディナンドまでもが身分に縛られない可愛い恋人を連れてくる。目に映るもの、耳に聞こえるもの、すべてが不愉快であったその中で、マリーだけは何一つそういったものを背負わずに存在していたのでしょう。まさに天使。

マリーのまどか(星風まどか)は、そりゃ天使ですわ。ちょっと大きいけど、天使であることに違いはないですわ、なんせ2グラムですからね。マジで天使じゃん。
だいぶ高い声、可愛らしい声、幼い声を出しているようで、後半の喉が心配されますが、黙っているとちょっとマリーにしては大人びてしまうからでしょう。ラストのうたた寝の場面は台詞がないと「いやに大人びたマリーだな?」とまで思いました。マリーを演じるギリギリの成熟具合であったということでしょう。
衣装もどれも素敵だった。もう着せ替え人形マリーだった。すばらしかった。最初の白も、舞踏会のピンクも、ルドルフと逢い引きするときのラベンダーも、山荘での赤も、ラストの花嫁衣装も全部全部可愛かった。
ただラストのベッドはシングルベッドだったような気がするのですが、あれはあれでいいのか? 今までツインだったような気がするのですが、一緒に山荘に来ているホヨスやフィリップがルドルフとマリーの関係を知らないわけではないだろうし、ロシェックやブラットフィッシュに隠す理由もないでしょうに、なぜシングルベッド、まさかそんな狭いベッドで二人はいつもいちゃついていたのか。もっとも30歳のおっさんと16歳のお嬢さんは犯罪だろ、と思ってしまうけれども。これが25歳と40歳なら、大人の分別のある二人の判断だとも思えるのですがね。まあ20歳年上のスパダリがいる私が何を言ってもこのあたりは説得力に欠けるわな。
ヴェッツェラ邸のジェシカ(美風舞良)とのやりとり(「あら、ばあや、いつまでくっついているの? 私はもう平気よ!」など)はもうちょっと観客が笑えるようになるといいかな。あそこも難しいのよね、どかん!と笑いが起こるような場面ではないけれども、うまくやればくすりとなる。
同じことがマリーとロシェックの場面にもいえるでしょう。エリサベートが来るのがかわって、ロシェックがマリーを隠すところです。今回ロシェック(航琉ひびき)はだいぶ役作りを変えてきましたが、この場面もうまくやればもうちょっと笑える場面になるでしょう。
まあ、笑いが全てではないですけどね! そういう芝居でもないし。

ジャンのまいてぃは気性の激しい一面がありながらも好青年かつ狂言回しというポジションを上手に演じておりました。いや、この人も芝居がうまいんだよ、知っているよ。そんなの前回の『巡礼の年』でいやというほど知っているよ、と思ったけれども、やっぱりうまいですね。
劇団がどう育てたいのか、将来的にどうなって欲しいのかが全く分からないのが一番つらいところであって、彼女のもっている能力や技術はおしなべて高い。うまく生かしてくれよ、劇団!
ジャンに常に寄り添うミリーは星空美咲。二番手娘役としてめきめきと力をつけてきています。

大きく書き足されたフェルディナン大公はひとこ(永久輝せあ)。ルドルフの山荘にやってくるフェルディナンはどんな気持ちだったのでしょう、他の兵士がいる前では「取り囲んでいます。逃げられませんよ」と言う一方で、ルドルフと二人きりになったときは「○○から逃げられます」(具体的な場所は聞き逃した……ッ!)と彼を生かそうとする。一体、それをどんな気持ちであなたという人は……っ!
フリードリヒ公爵に「なぜ父上が周りの反対を押し切って母上と結婚できたか、わかりますか。彼が皇帝だったからです。あなたが皇帝にならない限り、あの女性との未来はない」みたいなことを言われて、ここまで兵隊をつれて来ちゃったのねー!と思う一方で、やっぱりルドルフには友人として生きて欲しいんじゃんかよ!つらいな、その立場!とドキドキしちゃうわけですね。
なんぜ再演で新しく書き足されたことが多いから、どうなるの!?と手に汗を握ってしまうんですよね。再演でもこう思って見られるって本当に幸せなことだと思うの、ありがとう小柳先生。

ひとこフェルディナンの可愛い恋人ソフィー・ホテックはあわちゃん(美羽愛)。主要キャラの中では、新しいキャラクターです。ソフィーとしての出番は2回しかありませんが、どちらも要所であり、ルドルフを死に駆り立てる要因にもなっている。大事な役どころです。
今までにいなかったキャラクターを、観客になじみのある世界観で演じるというのはどういった緊張感がありますでしょうか。手本がありすぎても混乱しそうですが、全くないというのも途方に暮れてしまいそうです。
しかし、そこは芝居の人あわちゃん。さすがでした。プラーター公園では、脚本にある台詞はそれほど多くないものの、日々のアドリブを楽しそうに演じております。
おもちゃのティアラをつけて、もう一つのティアラをフェルディナンにつけようとするソフィーは、別に本当に皇帝皇后の地位をのぞんでいるわけではないのでしょうけれども、無邪気で愛らしく、マリーに通じるものがあるなと思いましたし、最後の花嫁衣装のマリーがティアラをつけているものだから、これまたグッとくるんですよね……っ! たまらん!
電車や人形、ブレスレットなどのアドリブの報告を聞いていますが、今後も楽しみです。

赤毛にラベンダーのドレスというヴィジュアルも素敵でした! 好き! ひとこがまた舞台写真に選んでくれることを祈ります!
こちらが愛らしさ全開のソフィーであるのに対して、2回目の象徴的な場面では大勢がいる中で情感たっぷりに踊り、歌い、今から「ハプスブルクの運命が羽ばたく」ことを予感させる佇まいでした。美しい、ブラボー!なのである。
スチール入りもおめでとうございます。もちろん、買いました。四つ切りまで(笑)。
ツイッターではあわちゃんのスチール入りのお祝いをしているツイートに「いいね!」を押し続けるなど、大変迷惑な女でした。嬉しい! ついでに劇場の卵にも入れてやって! 2つ空いていたの、知ってるんだからね!(ひそかに『舞姫』か『鴛鴦歌合戦』のあと組替えなのでは……と思っている)
プロローグの踊る女ではピンクのドレス! これが! めちゃめちゃ! 可愛いんだな!!!
いかにもTHE宝塚の娘役!って感じで、たまらん。よく似合っている。カツラも最高だった。

ルドルフの母・エリザベートのかがりり(華雅りりか)はすばらしかったですね。出番は多くないけれども、集大成という感じがしました。
ピストルの音の後、彼女の姿で「あなたね~息子を奪った~♪」というシシィが見えました。圧巻でした。マリーとの鉢合わせの場面も皇帝に「せめてもう一度」とルドルフの願いを後押しする場面も良かったです。退団しないで欲しいけれども、退団が納得できる佇まいでした。
ルドルフの政略結婚相手・ステファニーはうららちゃん(春妃うらら)。こちらも良かった。すばらしかった。最初から不機嫌なの、わかりみが深いし、そう、別にルドルフを愛しているわけではないのだろうけれども、でも夫が女遊びをしていい顔できる妻なんか、この世にはいねぇよって話で。
マリーをにらみつけて、一言言ってやろう!と意気込んでいたのに、ジャンに邪魔されて踊る羽目になり、それでも視線はマリーを捉えて離さない、あの執着っぷりよ! だってそうよ、二人の間は冷め切ってはいるけれども、とりあえず娘までいる仲なんだからね! 王位継承権とかいろいろ面倒な問題は起こしたくないし、こっちは祖国ベルギー背負ってきてるんだからな! そう簡単に引き下がれますかいな!って感じですよね。ジャンとのダンスが本当にたまらなかった……。
ステファニーの侍女・エヴァはみこちゃん(愛蘭みこ)。マリーを見る目が、異分子であることは認めつつも、なんだか申し訳ないような、恨めないような……という女主人のことを思う一方で、主体性のあることがわかる演技でした。
ルドルフとマリーが踊り出して、不機嫌マックスになったステファニーが席を離れようとしたときも「ま、そう言わずに、こちらにお戻りください」みたいな演技をしていて、主人にとって耳の痛いこともきちんと伝えられる侍女なのだな、と思いました。不機嫌なステファニーの質問もはぐらかしつつ、なだめつつ答えて、後者に失敗して、結局ルドルフを探しに行く羽目になるところも、あまり今までにないエヴァだったと思います。よき。
みこちゃん、舞踏会のドレスも青いいかにも侍女という感じのドレスもよく似合っていましたね~! 新人公演のミリーも楽しみです。

これが最後のここちゃん(都姫ここ)はルドルフの妹。妹として台詞もありましたし、前髪オン眉パッツンは超可愛いし、酒場の女でもソロがあって、見せ場盛りだくさん。しかしこれで最後なのが本当に惜しまれるよ……っ!
酒場の女頭とでもいいましょうか、新キャラクターであるミッツィは詩希すみれ。キャー! 格好いい! 素敵ー!と心の中で叫びまくりましたね。こちらも出番は多くないですが、ソロもあるし、見せ場をありがとう。すばらしかったです。史実のミッツィはかなりルドルフに近かったそうですね。
すみれちゃんには、ツェヴェッカ伯爵夫人をやってもらいたかったなーという気もしましたが、そこは鈴美梛なつ紀、頑張っていました。今までに見たことがないくらい怖い顔をしていました。やさしい感じの顔立ちですし、そういう役かコメディっぽい役のイメージが強かったですが、これは新発見。もっと頑張れるぞ。ファイト。彼女のスパイ行為にルドルフが気がついているのも政治色を強めています。
ザッシェルの女王マリンカは咲乃深音、こちらも今までのキャストを考慮するとかなり荷が重かったようにも思いますが、美声を響かせておりました。
ルドルフとマリーをつなぐラリッシュ伯爵夫人は朝葉ことの。春琴をやって一皮むけたのでしょうか、いわゆる世話焼きおばさんみたいなポジションを上手にこなしていたと思います。よきよき。あわちゃんが新人公演で演じる役ですが、出番が前半に集中しがちなのが残念。
背の高い美人の娘役を見れば大抵みさこちゃん(美里玲菜)だし、よく動く小さな娘役を見れば大抵初音夢ちゃんですし、丸顔の可愛らしい小さな娘役を見れば大抵湖春ひめ花ちゃんだし、好みの顔の小さい娘役を見れば大抵真澄ゆかりちゃんです。みんな違ってみんな可愛い。貴族だろうが、店の女だろうが、酒場の女だろうが、どこにいてもよくわかるよ。
あとはオフィーリアを演じた七彩はづきちゃん。新人公演ヒロイン、おめでとうございます。楽しみにしています。

エリザベート』でおなじみのゼップスはしぃちゃん(和海しょう)。はー! たまらん! あの知的で物腰柔らかな感じだけど、心には秘めたる闘志を宿している知識人! すばらしい! 好き!
一緒に逮捕されるクロードははだいや(侑輝大弥)。ちゃんと台詞と出番が付け加わり、小柳先生の組子愛を感じる。そもそも逮捕される場面そのものが新場面ですかね?
皇帝フランツは峰果とわ。珍しく、ちと物足りない感じ。なかなか重厚感というのは出ないものですな、難しい。ビッグ(羽立光来)のフランツも見てみたかったような気もしますが、フリードリヒ公爵はフェルディナンをたきつけるいいお役でした。
ルドルフの御者・ブラットフィッシュはあすか(聖乃あすか)。四番手としてはちょっと出番が少ないですが、しっかり爪痕を残していますね。今までのようにコミカルになりすぎないところは、ロシェックと同様であり、たくさん役作りの話をしたのだろうなと思います。
ホヨス伯爵のほってぃ(帆純まひろ)とフィリップ皇子のはなこ(一之瀬航季)はショーでもそうでしたが、芝居でも双子か兄弟かみたいな感じでニコイチ、常に一緒に出てくるし、色違いみたいな衣装だし、華もオーラもあるし、立派なスターになって……とハンカチで目元を拭う。
芝居ではちょっとほってぃの方が大人かな、「あのお嬢さんなら兎か牝鹿か」ってあんた、そんな直接的な……と思いながらも、この台詞がなかなか効いていると思ってこの作品を見たのは初めてでした。
おそらく「羽ばたく」ことと「狩り」に関連があるのでしょう。ジン……としてしまった。
あとはなんといってもモーリス大尉のまる!(美空真瑠)
ルドルフについて困ったことがあるとすぐにホヨスとフィリップを頼みにするものだから、ちょっと頼りない感じがあって、それがちょっと棒、とまではいかないけれども、困った感じの演技が絶妙で。ショーでも今までより格段に出番が増えたせいか、前の場面の汗が吹き切れていないぞ!と思うこともありましたが、絶賛成長中ですね。可愛い。きっとすぐに「いつのまにかこんな成長して」とハンカチを握りしめる日がくるのでしょう。
らいと(希波らいと)はマリーの兄弟ジョルジュ。こちらも新キャラクター。金で爵位を買ったといわれるヴェッツェラ家ですが、子供たちはのびのびと育っているのが姉のハンナ・みくりん(美空凛花)を見てもわかりますね。
顔が綺麗だなと前回の全国ツアーで思ったはるやくん(春矢祐璃)。スチール入りしたものの、今回で退団が惜しまれる……なぜもっと早くに見つけられなかったのか(それは私が基本的に娘役を見ているから)。目立った台詞はありませんでしたが、今回も綺麗な顔でした。

私事ですが、母がしめさん(紫苑ゆう)の大ファンなので、『うたかたの恋』はそら、死ぬほど聞かされて育ったんですよ(音源は残っているが、映像は販売されていない)(大劇場公演はけがのため、二番手の麻路さきが代役でルドルフを公演したため)(しめさんは東京公演から復活、地方公演も上演)。
しめさん自身が非常に『うたかたの恋』という作品のファンだったこともあって、しめさんのファンはそら今でも、30年経った今でも映像化を希望するくらいなんですよ。
でも、きっと今、30年前の『うたかたの恋』を見ても、楽しむのは当時のファンが中心だろうなという気がします。この花組の令和版を見てしまった人は、全然違う作品に見えるだろうな、と。だからいっそ映像化はしない方がいいかな、と。いや、しめさんのファンには申し訳ないんだけど。一方で私は『元禄バロックロック』の新人公演の映像を見せてくれって30年以上言い続けるのだろうけれど。業が深い。
前述したように、役は少ないし、場転や幕前芝居が多く、そう何度でも見たい作品とも思わないけれども(だからこそ初心者にはよい)、再演することの意味を再確認させてくれてありがとうございました、小柳先生。

長くなったので、ショーの感想はまた別の記事で!(最近、こればっかりやな)