ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

宙組『NEVER SAY GOODBYE』感想

宙組公演

kageki.hankyu.co.jp

ミュージカル『NEVER SAY GOODBYE』-ある愛の軌跡-
作・演出/小池修一郎
作曲/フランク・ワイルドホーン

初演はたかこ(和央ようか)とお花様(花總まり)の退団公演。
幼心には『ベルサイユのばら2001フェルゼンとマリー・アントワネット編』や『ファントム』、『白昼の稲妻』なんかはキラキラした世界として印象に残っており、『ホテル ステラマリス』もわりと好きだったのですが、本作についてはあまり記憶がなく。
退団するのがつらくて観劇に行かなかったのか、別の理由で行けなかったのか、定かではありません。
円盤は手元にあるものの、特に予習もせずに今回観劇にはせ参じることになりました。
初日後すぐと前楽のチケットがとれていたので、その間に円盤を確認しようと思っていたのですが、前者は流れてしまいました。無念。
ストーリーはほぼ覚えていませんでしたが、それとは裏腹に曲はほぼ覚えていました。「あ、この曲はこの場面だったんだ」とか「そもそもこの曲はこの作品だったのか」とか、不思議ですね。音楽の力でしょう。さすがワイルドホーン。いい加減なおっちゃんかと見せかけて(失礼)、やはり仕事は大変すばらしいものを残す。

冒頭、ペギー・マクレガーがエンリケ・ロメロに案内されてオリーブの丘を訪れる。
最後に明かされますが、キャサリンアメリカに帰国後、ジョルジュの写真に解説をつけて出版したことから、スペインには永遠に行けなくなってしまった。だから孫が変わりに来るわけですね。
ペギーがスペインを訪れたこのときには、もしかしたら亡くなっていたかもしれませんが、それでもジョルジュのカメラを求めて。
人物関係図にペギーは「ジョルジュとキャサリンの孫」と書いてあるのに対してエンリケは「ロメロの孫」としか書いていなくて、いろいろ不穏(笑)。テレサはどこに行ったのか。
ヴィンセントがスペインに戻ったときにはすでに亡くなっていたのか、それともヴィンセントが終戦後病をこじらせて帰国が遅くなり、その間にテレサは別の男と仲良くなってしまったのか、思えばエンリケは「じいちゃん(ヴィンセント)」の話はしますが、「ばあちゃん」の話はしませんね……テレサを演じたしほちゃん(水音志保)が美しかっただけにしょっぱい気持ちになります。
ききちゃん(芹香斗亜)とのコンビもよかったし、キキちゃん自身もまだまだ進化しているのがすごい。あれは惚れてまうやろー!
「あんたが、ここでやめるような男なら、惚れてないよ」というテレサの台詞がじんとくる。
しほちゃんテレサの公演スチールがなかったことには怒っているけどね。そういうとこだぞ、劇団。
まあ様(朝夏まなと)が宙組に来てから、なんとなくまあ様に似ているなと思っていたのですが、それは私の気のせいですかね。
いずれにせよ、今後も活躍が期待したいところです。ショーでの起用が目立ってくると嬉しいのだけれど。

同じように『夢千鳥』で頭角を現し、私は見ることができませんでしたが『バロンの末裔』でも活躍したと話を聞くひばりちゃん(山吹ひばり)は、出身に私もゆかりがあるので『フライング・サパ』の頃から注目していたわけで(そして『サパ』ではしどりゅー(紫藤りゅう)と仲良くなるというラストに感激)、今回もココナッツクラブでは偶数とはいえ、センターに立っていたのがまぶしかったです。
少年役も『ホームズ』のイレギュラーズで演じた少年が活きていましたね。思えば少年役が一列に並ぶときもセンターよりにおりましたな。そうそう、殿堂の『ホームズ』楽しかったですよ!
フィナーレでも輝いていました。すぐに見つけられる。
大劇場サイズだとややまぎれがちですが、私のオペラはすぐに見つけるわよ!
プログラムに掲載されているお写真も新しくなりましたね。繊細な髪飾りがよくお似合いです。これはお手紙コースかな。
サラちゃん(愛未サラ)も背が高いので、どこにいても見つけられる。キレイ系娘役ちゃん。彼女の活躍も期待したいところ。

さて、舞台はスペイン内戦の頃。私はピカソの『ゲルニカ』とヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』くらいしか思いつかないですが、そりゃ悲惨な毎日が続いていたことでしょう。
外国人でありながらスペインにとどまった人々には頭が下がります。
イケコにしては地に足の着いた、いってしまえば地味なストーリーで、演出も豪壮華麗というわけではなく、落ち着いている。いや、これくらい落ち着いた雰囲気が出せるのなら『ポーの一族』もそういう路線でよかったんだよ?とは思ったのは、また別の話。
この大人でしっとりとしたストーリーに観客を引き込むためには、役者は相当力を求められることでしょう。
コーラスの力は以前からすばらしかったですが、今回は全体のお芝居の完成度も高かったと思います。
ジョルジュが簡単に民主と同化しないのもいい。カメラを置くの本当に最後だけ。最後までカメラマンでいてほしかった気持ちも、実はある。従軍カメラマンとして命を落としたというシナリオもあったでしょう。けれども、やはりジョルジュは武器を手に取る。スペインの市民のために。それはポーランドで何もできなかった、過去の贖いのようにも見えます。別に武器を取ることが正しいとは思わないし、戦わないに越したことはないのだけれど、あのときのジョルジュにはあの道しかなかったのだと思える。
華々しさはないけれども、いい作品です。娘役の数が少ないのが気になりますが、さらにいてば男役の役の数はあれど、それぞれに見せ場がないことも問題ですが、また再演もあることでしょう。
そのときにはウクライナが少しでも落ち着いていることを祈るより他、ありません。

1幕、マキセルイ(留依薪世)が出てきたときには、思わず涙がこぼれてしまったのよ……いや、出てくるタイミングもそうなんだけど、なんていうかもう佇まいが素晴らしい。
『歌劇』の「座談会」によるとオーディションで決まったみたいですが、オーディションを受けてくれてありがとう。
勇気づけられるのよね、本当。ああいう迫力のある人が市民軍に一人いると本当に励まされる。
だからといって彼女にばかり頼ってはいけないのですが、旗印、希望の星になるのよね。

同じく「座談会」によると、エレンを演じたみねりちゃん(天彩峰里)は『雨に唄えば』のリナのように振舞うといいとアドバイスされていましたが、もう一押しというところでしょうか。
今までああいう役がなかったのかと、ちょっと不思議にさえ思いましたが、これもよい経験になるでしょう。
線が細すぎるのが気になるところですが、東京ではもっとはじけて欲しいところです。もっとも東京のチケットはありませんが。

アギラ―ルはずんちゃん。
王道スターに育ったとは思うけれども、あんまり好みでないことも手伝って、うっかり「これが愛ちゃん(愛月ひかる)だったら」と考えてしまい、ファンの方には本当に申し訳ない限りです。そしてこれはキキちゃんの役でなくていいのか、とも思ってみたり。主人公と対立する役ですから2番手が普通かな。
ずんちゃんアギラ―ルは、キャサリンへの執着が色濃く出ていて、本気でスペインの支配者にキャサリンと一緒になるという夢を見ているのが痛々しいし、非常に小物っぷりが発揮されていました。
ファシズムに対抗するため、という名目のもと粛清を行う。やっていることはファシストと同じである。

常に行動を共にするソ連の文化省諜報員ははっちさん(夏美よう)。たまんないわ、こういうの。
『CH』の海原神を見たばかりでしたが、この手の不穏な役どころを専科がやる意味もいっそう感じられました。宙組にいつもいない人という違和感とでもいうのでしょうか。
アギラ―ルを操り人形とし、ソ連諜報員としてスペインをクイモノにしようとしている黒い影。彼にとってアギラ―ルは仲間でないのはもちろんですが、部下でさえなく、本当にただの手駒の一つなのでしょう。
彼によって第二のアギラ―ルが生まれる日もそう遠くないことを思わせます。

ココナッツクラブの歌手三人はそのままデビューした方がいいメンツ。
しどりゅー、もえこ(瑠風輝)、こってぃー(鷹翔千空)。文句なしのメンバー。ハリウッド試写会にはもってこいの人材ですな。好き。
そしてそのまま3人はしおんくん(優希しおん)、風色日向、キョロちゃん(亜音有星)と合流して、スペインにとどまったスポーツマンとして出てくる。あとは6人1ユニットとして基本的には動く。スターぞろいだわ。
ここにまかぜ(真風涼帆)とキキちゃんが入るのだから、本当に長身の群れね、宙組は。
キョロちゃんは途中で一度「ふるさとに帰りたい」といって離脱。けれどもあっという間に捕まり、自白剤を飲まされ、他のメンバーを危機にさらす。
どこにも帰る場所のない彼は、再びヴィンセントたちと合流しようとしますが、ヴィンセントはただでは許さないという姿勢を示し、銃を向ける。弾がなくんてよかったね、キョロちゃん(役名で言え)。
いや、ここの芝居、とても良かったと思うんですよね。そりゃ帰りたくなるのもわかる、けれどもそう簡単にうまくいかないだとうこともわかる、拷問のあと行く場所がない彼はヴィンセントたちと合流するしかない。
ヴィンセントが銃を突きつける、あの場面だけが脳裏で何度もリフレインする。すばらしかった。
キョロちゃんは、『スペインの風』の試写会にホセの役者としても登場。大忙しです。

まっぷー(松風輝)が演じるパラオはちゃらんぽらんに見えますし、あそこまで上り詰めるのには人に言えないようなこともやってきただろうことが伺えますが、そういう彼が1幕の終わりにジョルジュたちと一緒に「ONE HEART」を歌うのが大変よい。彼のラジオはあくまでも民衆のためであるのがよい。
だからキャサリンの原稿にもケチをつけない。
ハリウッドではうさんくさい興行師という顔ですが、母国の一大事となれば立ち上がるパラオ、格好いいわ……いや、そういうキャラクターではないのだろうけれども、でも良かった。

良かったと言えば、バルセロナ市長のりつ(若翔りつ)も大変すばらしかったです。
『夢千鳥』でも思ったのですが、専科でないのが不思議なくらいの貫禄ですね。組長になってほしなと勝手に思いましたが、え、なに、まだ99期なの? 全然そんな風に見えないけれども。どこでそんな貫禄を身に着けたのよ!

これが最後のせとぅー(瀬戸花まり)は占い師兼ヴィンセントたちの支援者のアニータ。よい。好きなんだよな、せとぅーの声が。
ドン・ジュアン』で美穂圭子が着ていたドレスを着て、ヴィンセントたちを支える。
いい役だよね。こういう裏社会に通じた女性っていうの、良かったわ。もっともこれが最後なのに出番が少なすぎないか?とは思うけど。同じことはあられ(愛海ひかる)にも言える。でも元気でよかった。
テレサを庇護するのもいい。きっとテレサは何度もアニータにヴィンセントについて漏らしたことでしょう。アニータはそれをしっかりと支えてくれたことでしょう。

戦場カメラマンといえば、「飢えに苦しむ子供を写真におさめるとは何事だ」という意見も根強くあるでしょう。
写真をとるよりも食料を与えた方がいいのではないか、お前はその写真でメシを食っているのだろう、と。
ただフォト・ジャーナリストの長倉洋海がいうように「写真を見た人が世界を変えてくれるなら」という希望は捨てきれないし、被写体になってくれたお礼として食べ物を分け与えていては真実を映し出すことは難しいのでしょう。
これはジョルジュにも通じるところがあると思います。
その中でキャサリンが解説をつけて本を出版するというのは、とても意義のあること。ただの写真集として出版するのではなく、キャサリンの解説がついているというのがいい。
「あなたと同じものが見たい」といってキャサリンはスペインに残ることを決める。
ジョルジュが出版だけでなく、解説も頼んだことが「同じものを見た」と認めてくれた証でしょう。
キャサリンはどれだけ嬉しかっただろう。そして出版にどれだけ力を注いだだろう。
ソ連をバックにするスペインの内戦状況を伝えるのは、アメリカとしてはやぶさかではなかったでしょう。出版が難航したとはそれほど思いませんが、キャサリンの解説に込めた想いを考えると、悩ましい。それは最初で最後の、ジョルジュへのラブレターでもあったかもしれないと思うから。
解説を書き、出版への流れの中で、おそらく妊娠が発覚、出産、育児の傍らで、ジョルジュの魂に形を与え続けるには膨大なエネルギーが必要だったと思います。
だからこそ、キャサリンが出版した解説付き写真集を手に取ってみたい。そんな不毛な夢を見る。

フィナーレ、良かったな。キキちゃんから始まる歌唱指導。同道と銀橋を渡り歩き、主題歌を高らかに歌い上げる。
そこからのロケット。プラグラム見て、美星帆菜ちゃん、かわいいな~と思っていたら、身長が158ということで、ロケットの一番端にいた子やー!となりました(ロケットに出ている娘役の身長を全部書き出したw)。
実はロケットで「一番上手の子」「一番下手の子」「下手から3番目の子」が気になっていたので、そのうちの一人です。やっぱり、舞台でもよくわかる愛らしさ。これから楽しみな生徒がまた増えてしまったわ……。
引き続き残り2人も募集中です。宙組有識者様、よろしくお願いします。
しかし娘役も165、164とみんな身長が高いわ、うらやましい限りです。
からの男役群舞。まさかの目が足りない説。しどりゅー、しおんくん、キョロちゃんあたりを見ていたい。
しかしなぜかダンサー組長(寿つかさ)が出ていないのが気になる。大丈夫かな。
その後娘役もぞろりとするよ! ひぃー! 格好良い! 好き! 頭の飾りはちょっと踊りにくそうですが、大丈夫でしょうか。
ひばりちゃんも前髪チョロンと巻いていて可愛い。サラちゃん、本t脳に綺麗なお顔立ち。そしてしほちゃんも最高。
みねりちゃんは言うまでもなく、すばらしい。女王然としたその風格をエレンのときにも見せてくれ~!
そしてみねりちゃんとシンメはマキセルイ。圧巻です。
娘役退場は階段を上っていく『異ルネ』方式。これ、結構好きだな。
デュエットダンスをはさい、パレード。エトワールは安定のみねりちゃん。
いつもよりも今回は階段降りが多かったかな? ショーの銀橋渡りがない分、こういうサービスは嬉しいし、上手と下手でコーラスしているひばりちゃん、サラちゃんが美しい。上下にわかれていたので、目が忙しかった。
はっちさんがキキちゃんのあとに真ん中から降りてくるのもよかった。
いや、実に良いものを観ました。

先月公演のあった『王家に捧ぐ歌』もテーマは似ていますし、テーマの強度も高く、今後また10年後くらいに再演を望みます。
テーマをしっかり言葉で伝えているのが『王家』で、芝居で伝えているのが『ネバセイ』かな。
好みから言えば本作の方が好きです。『王家』よりも再演して欲しい作品です。あわよくば1幕ものに、と思うし、できるとも思います。歌減らして台詞で芝居すれば(『王家』でも同じこと言ってたわ)。初演の円盤をもう一度じっくり見てみることにします。

できればあと1回見たかったなと思います。
なんせ前列のお姉さんが最近はやりのトップを引き出すヘアスタイルだった上に、2列前はすごく座高の高いお兄さんで銀橋センターあたりはなんだかもやがかかったようでした。しゅん。
大劇場の設計は悪くない。身長の低い私が悪い、そうなんだよ……わかっているよ……。