ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

花組『フィレンツェに燃える』『Fashionable Empire』感想

花組公演

ミュージカル・ロマンス『フィレンツェに燃える』
作/柴田侑宏 演出/大野拓史
ショー グルーヴ『Fashionable Empire
作・演出/稲葉太地

ご当地ジェンヌ紹介のみこちゃん(愛蘭みこ)、超絶可愛かったー! 私はこれを見るために観劇したんだ!と最後にうるうるとなりました。ありがとう、みこちゃん。可愛かったよ、みこちゃん。キュートだよ、みこちゃん。すばらしかったです。

お芝居は……あー、うーん……物語の筋は好きですよ? にくいな、うまいねという構成だと思います。
聡明で高潔な兄(これも年齢がよくわからない、お髭をつけているけれども一体いくつなの。青年と呼べる年なのか?)が、かつて酒場で歌っていたアバズレ女にひっかかりそうになり、弟がその女をたらしこんでというか、なんならその女と共謀して兄を振り、愛想尽かしをするが、弟がその女に本気になってしまう。一方で女のかつての男の一人がしつこく追いかけてきて、弟と決闘し、勝つものの、女を失い、兄と敵対することになっても義勇軍に参加することを決意する。
追いかけてきた男にも情婦がついてきたり、兄の幼馴染のお嬢さんが実は兄に惚れていたり(弟の幼馴染みではないということはこの兄弟は年が離れているのか?)、どこを切り取ってもどろどろの愛情で、うまいなと思う人間関係だったんだよ?
けれどもいまいち楽しめなかった主な原因は、とにかく台詞がわかりにくい、展開がわかりにくいことでしょう。台詞だけでなく、演出の問題もあるかと思います。なんせ「いつ盛り上がるんだろう?」と思っている間に終わってしまったからな。終わっちゃったよ!ってなったよね。

私が手直しして欲しいと思ったポイントは3つ。1つ目は冒頭の夜会。
アントニオとパメラは恋に落ちる。けれどもそれがよくわからない。パメラは瞳の話をアントニオにされたときに落ちたのかもしれないけれど、アントニオはなんで?という疑問がぐるぐると。
そもそも冒頭の夜会で客たちはパメラと初対面なのわかるけど、アントニオはそうでない様子なのがまず気になってしまう。初対面ではないの? じゃあいつ会ったの? 数日この屋敷で過ごしていたの? じゃあそこを描いてよ!と思うわけですよ。
一方でアントニオのパパもどのような理由でパメラを引っ張り出してきたの? パメラが不当な扱いを受けることは想像できたよね? でも庇いもしなかったよね? もう全然わからないわけですよ。
そして弟のレオナルドは「一曲歌ってもらいましょう」とか意地悪を言うわけでしょ。パメラとしてはやってらんねーよ!って感じになっても仕方がないのではなかろうか……。

2つ目は、レオナルドがパメラと共謀してアントニオに愛想尽かしをする場面。これもわかりにくいな……と思って見ていたよ。まずはレオナルドが「兄さんとあなたが一緒になって、兄さんは本当に幸せだと思いますか?」くらいはっきりしたことを言わないと、観客にはよくわからないと思うんですよね。
パメラもパメラで愛想尽かしをするなら「あなたにはもっと他にいい人がいる」みたいな湿っぽいことを言うのではなく、ちゃんと振らなきゃ。「純朴なあなたに私が本気になるとでも? ああ、おかしいわ」くらい言ってやって、なんなら高笑いも付け加えようよ。
「今度はこっち……」とか言いながらパメラがレオナルドを引き寄せるくらい、やってもいいと思うんだけどなあ。
あくまでパメラがレオナルドと遊んでいる体にしないと、今のままだとレオナルドがパメラと遊んでいるように見えてしまうわけですよ。
それではアントニオの心はパメラから離れないのでは? 弟に怒りが向くだけでは? それでいのか?

3つ目は愛想尽かしをしたあとパメラがアントニオの前に姿を現してはダメだろう……と思ってしまったことです。仮面をつけているならまだしも、仮面をはずしたらもう絶対にダメでしょ。アントニオが追いかけるならいいんですけど、自ら振ってやった男の前に姿を現すなよ。
百歩譲ってアンジェラに手紙を送るのはわかる。「アントニオを幸せにしてやって」と。でもアントニオはそれを聞いたら、「やっぱりパメラを忘れられない!」と思ってパメラを探しにいくべきではない?
「私があなたを幸せにしたいんだ!」とかなんとか言ってさ。そうして、そこにオテロが来れば、自然、その二人で決闘になると思うんだけど。
そもそも主人公のアントニオには何も起こらない。
好きになった女は社交界では嫌がられるタイプの女性で、でもその女性も弟に取られて、弟と別の男が決闘して、女は巻き添えをくらって死んで、弟は兵士になる。で、あなたは? お兄さんは? アンジェラと結婚して何事もなかったように暮らすの? 暮らせるの?
おそらく盛り上がる場面であるはずの決闘がいまいち盛り上がりきらないのは、ここに主人公か全く関係していないからなんですよね。
ヒロインの死に立ち会わない主人公って……。だから主人公をいっそレオナルドにすれはよかったのに、と思っている。
レオナルドが主人公ならもっと起伏に富んだ話になったと思われるのだが。わかりやすく変化する人物だからね。

私はそもそもパメラがなぜ倒れたのか、最初に見たときはよくわからなくて、友人がひとこばかりを見ていたので、「オテロが取り出した銃が暴発したっぽいよ」と教えてもらいましたが、いやいや、それじゃダメだろう。一回見ただけでわかる話にしてくれよ。そもそも暴発だったのかどうかも怪しいな。
パメラが亡くなったことには賛否あるかと思います。簡単にヒロインを殺すなよ、ヒロインを殺しておけば感動してもらえると思うなよ、というのはわかる。
ただ、これもレオナルドが主人公なら、義勇軍に参加するきっかけになるとは思うし、本当にパメラが侯爵を殺していたとするならば、まあ因果応報とも言えなくはないかな、と。パメラが死んで一番安心できるのがアンジェラではなかろうかというところもなんか不思議なんですがね。

初演はもちろん知りません。というか生まれてさえいません。大野先生によれば、脚本と音源、譜面とわずか数分の不鮮明な映像が残っているばかりであったとか。なるほど、楽曲はどれもすばらしかった! 47年ぶりの再演。なるほど、どれほど偉大な作品を残した先生でも、再演されない作品にはそれなりの理由があるのだなということを痛感した。
花組は前回の全国ツアーが『哀しみのコルドバ』で、こちらもまた柴田先生の作品でしたが、出来栄えはこうも違うのかと。ツイッターでも何人かおっしゃっていましたが、これが『琥珀色』につながるのもわかる。ただ、この作品自体はやはり習作、エチュードの域をこのままだと出ないな、と。
そもそも初演はスターシステムが確立する前のものでしょう。そうであるならば、兄なら兄、弟なら弟と物語の軸になる人間を定め直し、それに合わせて多少大胆に脚本を脚色する必要があったのではないでしょうか。『霧深きエルベのほとり』は強引なところもありつつ、しかしもとの物語の骨格は残し、細部に脚色を加えることで、見事に令和の時代に返り咲いた作品だったではありませんか。残していく名作だって思えたではありませんか。そう思えなかったのが一番辛いかな。
もっとも換骨奪胎のまずさは前回の全国ツアーの樫畑亜依子先生もだったし、同時期の別箱バウの『殉情』の竹田悠一郎先生にもほぼ同じことが言えるわけですが。自分が作った作品でなくても、勉強になるはずなんだけどな。

ラストで義勇軍に赴くレオナルドにアントニオは「向こうに行ったらロベルトによろしく」と言う。ここに志を同じくしていたはずのビットリオの名前は出てこない。
途中でオテロの罠にハマり、ビットリオは捕まってしまったけれど、やっぱりもう処刑されてしまったということなのかな。ビットリオの死を痛む場面もないのよね、よく考えてみると。それも淋しい話だ。

とはいえ、いつも通り役者は頑張っていたよなあ。
れいちゃん(柚香光)のアントニオは全国ツアーの各地でそれぞれ違ったアントニオだったと言われるし、まどか(星風まどか)は本当に何をやらせてもうまいし、まいてぃ(水美舞斗)も情熱的な性格、やんちゃ感が出ていてよかった。気になるとすれば、ショパンをやったときにしぼった体がいまいち戻っていないのではないだろうか、ということかな。しっかり食べてくださいね……まいてぃの迫力のあるダンスが好きなんです。
さすがにひとこ(永久輝せあ)も手堅い。オテロの情婦であるマチルドを演じた咲乃深音もうまかったし、二人のどうしようもない関係というか、ひたすらな一方通行とかしっかり伝わってきたのはよかった。こんな男、振り切ってしまいたいのに、それができない、辛い、苦しい、でも好き。ドロドロやんけ。
アンジェラの星空美咲ちゃんはな、なんかいつも眉間に皺が寄っているか、眉がハの字になっているかで、もうちと表情が豊かになるといいのだけれど。もちろん前よりはだいぶ柔らかくなったんだけどね。『歌劇』のポートレートにも初登場したしね、やわらかく笑ってよ。どうして劇団も急かすかな。ゆっくり育てようや。
アンジェラの役自体も、そんなにしつこくアントニオに付き纏ったら嫌われるやろ……と思ってしまい、全然共感できなかったんですよね。人物像もうまく掴めなくて、優しいタイプなのかと思えば、気の強い感じもあり、けれどもおっとりした姉より先に婚約者がいて、でも妹ほど無邪気でもなくて……難しいキャラクターだった。
アンジェラもいくつなのでしょうね。うらら(春妃うらら)演じる姉のルチア、みこちゃん演じる妹のセレーネたちとどれくらい歳の差があるのだろう。わ、わからぬ……アンジェラとセレーネはだいぶ歳が離れているようにも見えるけど。
母親のマルガレートは梨花ますみ、手堅い。ただ、娘の婚約者を目の前にして、娘に別の男のところに行くように勧める母親があるだろうか。イタリアだから、カトリックだよね? それでええのか。そしてレナートのあすか(聖乃あすか)はあんまりやりようのないお役だったけれども、オテロ初登場の場面であすかとうららが仲良くしていたのは、そうかそういうことだったのか!と。プログラムを見ると「街の男」「街の女」と一番下にいかにもいわくありげに書いてあるんだよね……レナートとルチアって思ってもいいってことかね、これ。

あとは個人的にはしぃちゃん(和海しょう)が足りなくて足りなくて……すんすん。
ここちゃん(都姫ここ)も、もうちと見せ場があってもよかろうと思ってしまった。衣装とか、周りと変えても良かったんやで。
それからひめかちゃん(湖春ひめ花)のマッダレーナは花があって力強くてよかったです。
まるくん(美空真瑠)も男役芸に磨きをかけているようです。今後が楽しみ。
そーしーて、なんと言ってもだいや(大弥侑輝)。新人公演主演を務めてグッと垢抜けましたね。格好良かったよ!

ショーの大劇場の感想はこちら。

yukiko221b.hatenablog.com

私はあんまりこのショーを買っていないのですが(いろいろあるけどとにかく衣装が鬼門なんやな)(しかし初めて宝塚を観劇する人たちはショーにいたく感激していた。「もっと出し惜しんでいいんだよ!」と言っていたw)、今回は数が少なくなったことでみこちゃんの出番が増えたのが良かったです。
あとまどかは全ての場面で髪型を変えてきたけれども、これは並大抵ではないぞ……花娘たち、しっかり学ぶんだぞ。
なぜかローソンガールことドリームガールの場面ではプログラムにはない、やたらとキラキラしたオタクたちが付いてくるのも楽しかったです。
全ツならではのご当地ネタも楽しい。ありがとうございます。
芝居では物足りないと思ったタカラジェンヌたちの活躍もたくさんあって良かったです。

くりすちゃん(音くり寿)のところは、プロローグのソロはひめ花ちゃん、中詰の銀橋渡りソングはみさきちゃん、中詰でまいてぃとデュエットダンスをするのはうらら、という感じでした。
そして何よりも男役群舞前の紫コートひらひらはまどかが登場してくれたのが嬉しい!
私はやっぱり5人というくくりが好きみたいで、『ザ・ファッシネイション』のときも思ったのですが、れいちゃん・まどか・まいてぃ・ひとこ・あすかの並びを見ると痺れるんだな。花組はこういう5人スタイルの振付が多いから、他の組でも是非やっていただきたい。

あとはショーのときになんとなくチラチラ見てしまう男役が春矢祐璃くんと瀬七波いろくんでした。綺麗目な顔立ちが共通していますかね。
普段娘役ばかり見ているので、別の意味で心が踊りますな。
次の大劇場公演でも見つけられるでしょうか。

さて『うたかたの恋』はポスターと主な配役が発表されましたね。とりあえずジャンがまいてぃ単独であることに安堵しました。ポスターは生命力を感じさせるルドルフとマリーで、これは幻のお花畑エンドも夢ではないかもしれません(一度柴田先生が紫苑ゆうのために作ったラストだが、しめさん自身がお願いしてもとのエンドになったという話がある)。
あとの問題はミリーだな……大人しくその他の配役を待ちます。しかし役が少ない上になんだかもう見た気さえしてしまうから、やっぱり良質なオリジナル当て書き脚本を期待しているよ、劇団。