ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

雪組『BONNIE & CLYDE』感想

雪組公演

Musical『BONNIE & CLYDE』
Book by IVAN MENCHELL
Lyrics by DON BLACK
Music by FRANK WILDHORN
潤色・演出/大野 拓史

実話をもとにしたミュージカル、ということでしたが、個人的にはちと辛かったかな……。
誰にも共感できなくて(できたら困る人ばかりだったが)、ボニーとクライドが蜂の巣にされても、まあそりゃそうだよね、仕方ないよね、くらいにしか燃えなくて、もうどうにもなからなかったかな、私の中では。
「実話を基にしているのだから、暗くなるのは仕方がない。最後に二人が死ぬのも仕方がないじゃない」という人もあるようですが、その実話をきちんとフィクションに昇華させきれていないのではないかと疑問を持ちました。
「現実」と「歴史」と「物語」の垣根の低さはわかるけれども、「物語」の設定や展開、構成にはやはりそれなりの必然性が必要であって、それがないと「私たちは何を見せられているのだろう……」という気持ちになってしまうのだよ。

一方で、物語のラストは超おしゃれ!と感動しました。
「最後に二人が死ぬのも仕方がない」という感想を持った方もいるようですが、私は、物語のラストでは別に二人は死んでいないのでは?と思っています。
母親思いで、母に会いに行こうとするボニーとその運転をすることになっているクライド。ボニーはすでに一人でまともに歩くことが出来ないほどの重症を脚に負っている。クライドはそんな姿のボニーを母親に会わせなければならないことがひたすら申し訳ない。どんな顔をして会ったらいいのかわからない。
そして二人とも行きつく先は、というか、そう遠くない未来、あるいはこの道のりでおそらく死ぬだろうことを知っている。ボニーの方が先に覚悟を決めているように見える。この役をトッププレお披露目公演で演じる夢白あやはさすがにすごい。末恐ろしい……。
彼らの人生がハッピーエンドだったかどうかはさておき(それは彼ら自身が決めることであり、外野が決めることではない)、物語は最期の穏やかなひと時で終わる。これがよかった。上手と下手には冒頭で蜂の巣にされた車が映し出されているのも気が利いている。

まあ唯一「わかるわー」と思えなくもないのは、ブランチでしょうか。敬虔なクリスチャンで、犯罪を犯す弟を持つ夫にどうにか真っ当な道をあるんで欲しいと願う美容免許を持った女性。アメリカに「髪結いの亭主」という言葉があるかどうかはわかりませんが、バックがまともに働かなくても、なんとか生活はできていた様子がうかがえます。
なりゆきでクライドたちと一緒に行動することになってしまい、警察に取り囲まれ、自首を勧める悲鳴、心から血を流しているブランチが痛々しかったです。
彼女が逮捕されるのは仕方がないけれども、でもあのときバックを追いかけて家を出て来たことは、病院や自宅で警察からバックの死を聞かされるよりもずっとマシだったのでしょう。彼女は、自分のための選択をすることができていたように思います。平穏な生活を求めていた彼女にとっては、どちらも辛いことに違いはないのだけれども、後悔が少ないというか。
うっかりボニーの髪に関する悪口を言って神に許しを乞うところは人間らしくて、実にチャーミング。可愛いひまりちゃん(野々花ひまり)でした。ありがとう。
一方で、その「神」という存在が、私たち日本人にはわかりにくいような気もしました。

あすくん(久城あす)が神父として登場し、2幕冒頭なんかは朗々と歌い上げることで「神」の存在を感じることができるといえばできるだろうし、アメリカで上演する分にはそれだけでもいいかもしれないけれども、そもそも唯一神を信仰するという感覚から遠い私にはどうも……。1幕冒頭でバックが自首した場面でも、バックを滝に無理矢理突っ込んでいる神父が果たしてちゃんと「禊」「洗礼」●に見えていたかどうかは怪しいのではないあでしょうか。少なくとも私はプログラムを読んで観劇しなかったら、きっとわからなかっただろうなと思います。偉大なる神とか言われてもいまいちピンとこないのだなあ。

フィナーレがあることが救いであったのだけれども、それは『蒼穹の昴』でも同じことであったし、だったら『蒼穹』の方がよいフィナーレだったよなと思ってしまう。少なくとも私は断然『蒼穹』のフィナーレの方が好みでしたね。舞台のサイズや人数の関係もあるのでしょうけれども。

咲ちゃん(彩風咲奈)のスーツ姿はもちろんどの場面も素敵でしたし、ファンにはたまらないな!というところだったでしょう。そらくん(和希そら)ももちろんスーツで、ええ声で演じてくれたし、かせきょー(華世京)も聖海由侑もよかった。夢白ちゃんの着せ替え人形もどれも似合っていた。さんちゃん(咲城けい)、はいちゃん(眞ノ宮るい)の警官姿も麗しかった。かりあん(星加梨杏)のカーボーイ姿もありがとうって感謝している。
けれどもどれほど生徒が頑張ってもこの題材ではどうしようもないよな……と遠い眼をしてしまう。もとがブロードウェイだから役も少なくて、娘役のともか(希良々うみ)やありすちゃん(有栖妃華)も美容院であれっぽっちで、他はどうしようもない役どころだったように見えます。
お金のない話というのもこれまた世相的にはちときつかった。ああいう状況に置かれたら誰もがボニーになってしまうのは仕方がない、クライドみたいになる可能性がないと本当に言い切れるだろうか? ブランチは幸運だっただけなのでは? だからこそ彼らは一度は英雄視されたのでしょう。みんな鬱憤を溜めていたということでしょう。
もちろん、人を殺してしまってからはそうではなくなくなってしまったけれども、でも今、私たちの社会はボニーとクライドを生もうとしているのではないか?と、いろいろ気になることが多すぎて。
もっともこれは宝塚歌劇団のせいではない。

大野先生は『エドワード8世-王冠を賭けた恋-』や『白鷺の城』戸かは割と好きなのですが、『Bandito -義賊 サルヴァトーレ・ジュリアーノ-』とかはめっちゃ苦手で、つまり今回は後者だったな、と。本当、娘役なんて全然出番ないじゃん……咲ちゃん、全然作品に恵まれなくて、本人もファンが気の毒。

観劇はもとも1度のみの予定でしたし、これからチケットを増やす予定もなく、配信は東京で『クラブセブン』を見てくるので、こちらも見られず。生徒の配置とか同時期の雪組公演『海辺』と比べるとなんだかな、と悩ましくなってしまいます。すいません、『海辺』厨で……。

ところで新しくなって早数年の経つ御園座、1階席は傾斜がなく、4列目でさえも沼、サブセンターからの眺めは前の人の頭が重なること必須の地獄席だとよほど評判が悪かったのでしょう、座席には赤いクッションが置かれていました。私は幸い今回は1階席は1階席でも一段高くなっているサイド、非常に座席数が少ないところだったのですが、見切れることもなく、人の頭が気になることもなく、クッションも快適で、実に幸せに観劇することができました。ちなみに2階席からの眺めはわりとどこからも良好で、御園座で観劇するなら、2階センターだな、と思うわけですが、なんと件のクッション、後ろの席に行けば行くほど分厚くなっているということがわかりました(笑)。よほど苦情が多かったのでしょう……でもクッションで解消されるほど私の背は高くないので、これからも2階席か1階席のサイドを狙っていきたいと思います。