ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

花組『はいからさんが通る』感想

花組公演

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ミュージカル浪漫 『はいからさんが通る
原作/大和 和紀「はいからさんが通る」(講談社KCDXデザート) (c)大和 和紀/講談社
脚本・演出/小柳 奈穂子

ようやく、よーやく! 私のはいからさんが通り明日。
本来だったら3月の初日あけてすぐに見に行っていたはずなのに、そのあとも何度もチケットをとっても、7月の再開のときの分のチケットさえも、すべて払戻されてしまった私のはいからさん。
私の幻の新人公演チケット。ああ、初の新人公演だったはずなのに。
しかし、とうとう観劇できました。ありがとう、劇団。ありがとう、花組。ありがとう、紅緒さん。
気持ちとしては『BADDY』のスイートハートさんでしたね。「邪魔よ、どいて!」って。
新幹線も地元の電車も終電でしたが、気にしません。
前半はあわちゃん語り、後半が全体の感想です。

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7月の大劇場再開2日目の配信も、大劇場千秋楽の配信ももれなく見ましたので、初演との変更点はなんとなく頭に入っていたのですが、やはり生で見るのは違う。本当に違う。
何が一番違うかっていうと、やっぱり下級生を見ることができる、中心ではないお芝居を見ることができるということでしょう。
今回のMVPはあわちゃんこと美羽愛ちゃんです。
『恋するARENA』のときに見つけて以来、ずっと注目している生徒です。
これがまたとてもよかった。あわちゃんが良かった。
女学生でもメイドでもモダンガールでも何をやっていてもどこにいてもすぐにわかる。
マチネ公演は2階席からとにかくもうずっと彼女を見ていました。
すばらしかった。愛らしかった。キュートだった。最高でした。
どうして彼女のはいからさんが通らないのか、わからない(いや、わかるけど)。
しんどいです。でも一番つらいのはきっと彼女です。

下級生と周縁のお芝居を見よう!と思っていたのに、マチネ公演はうっかりずっとあわちゃんを見ていました。
あんまり他のことは覚えていないくらい彼女のことをずっとオペラグラスで見つめていました。
文字にすると変態みたいで気持ち悪いですね、すいません。
東京公演のプログラムは買わなくていいかな、3月分と7月分の大劇場公演のプログラムをもっているし、と思っていたのですが、あわちゃんが出てきているところを答え合わせするために、マチネ公演の幕間にあわてて買いました。3冊目をお迎えしましたよ。

あわちゃんは、オープニングの女学生では薄いピンク色の振袖に袴姿、頭には紅緒さんばりの大きなリボン、色はすみれ色、浅草の場面や2幕の冒頭のモダンガールではクレリック襟のワンピース(私の大好物)に、丈の長めの上着をはおって、赤いベレー帽をかぶっています。
その他、伊集院家のメイド、雪の精もやっています。
狸小路伯爵低のメイドとしては上手側に出てきます。
ロケットでは上手から登場、一列になったときは下手から三番目です。
パレードのラストでは、大階段一番下、真ん中にいます。
みなさん! ぜひ! ぜひとも! 注目してくださいませ!
バリバリに踊れる娘役です。思いのほか、お着替えが大変そうです。
B日程ではみさこちゃん(美里玲菜)が演じるのでしょうか。こちらも楽しみです。
大劇場のプログラムを見ると、あわちゃんは当初女学生を演じる予定はなかったようなので、日程がわかれたことではいからさんのスタイルができてよかったかなと思います(だって新人公演ないんだもーん><)。

オープニングの女学生はもうとにかくべらぼうに可愛くて、「ああ、彼女が紅緒さんをやるのだったらこんな感じだったのか……」と幻を見せてくれます。
紅緒さんが真ん中で怒られているときも、上手で「ああ、先生の話なんか聞いてられない」って感じであくびしたり、一人だけ列から飛び出したり、後ろでもやんちゃをしております。かわいい。
このとき持っている巾着(当世風にいうとカゴバック?)をずっと両手でもっているのも愛しい。
他の女学生は片手で持ったり、持ち替えたりしているのですが、基本的にあわちゃんは両手もち。
きっと中には大切なものが入っているのでしょう。
例えばご贔屓の写真とかw
女学生にはありがちですよね。今でも職場の机が舞台写真ばかりの私がいうのもあれですが。
はあー! もうー! すごくかわいいんです。

浅草の場面はライブ中継のときにはあまりわかりませんでしたが、思っていた以上に舞台に役者がいましたし、それぞれががいろいろなお芝居をしていて、とても楽しかったです。
あわちゃんはモダンガールとしてモダンボーイのボーイフレンドとおぼしき人と一緒に田谷力三、原信子のオペラを観劇しております。
これまた田谷力三の大ファンのようで、握手をしている時間が長かったです。
そしてそれをモダンボーイにとがめられているようでした。
困らせながら下手にはけるあわちゃんがとてもかわいかったです。紅緒さんやんけ。すてき。

ラスト、紅緒さんと少尉が桜を見上げている場面でも女学生たちは後ろに出てきます。
いちゃついている二人を思わず見てしまうあわちゃん、二人がキスをしたときに「あー!」みたいな顔をするあわちゃん、そしてそれを「見ちゃダメ!」と引き留める都姫ここちゃん、もう二人のやりとりが可愛くてたまらない。
はちゃめちゃに可愛いよ。語彙力がなくなる勢いです。
この二人のシンメトリーとか見てみたいな。
劇団のえらい人! 頼むよ!

伊集院家のメイドはたくさんいるから見つけられない!と思う人もいるかもしれませんが、前髪がある子です。
ここでもとても可愛かったのは、如月が紅緒さんの言動に対して取り乱しているとき、周りの執事やメイドは慌てて如月に近づいて手であおぐのですが、あわちゃんメイドはちゃっかり自分のこともあおいでいます。
そうね、メイドも驚いちゃうよね、あんなもんぺの娘が突然やってきたらね、って感じ。
こういうところを見ると、あわちゃんの紅緒さんも見たかったと思う。
彼女はどうやってもんぺを着たのだろう……(そこかよ)。

1幕終わりの方。ロシアに出兵することを新聞売りの少年が「号外!」と教えてくれる場面では、モダンガールとして登場。
ここではさおた組長と一緒に新聞を見ています。
組長、2幕ではバリバリの悪役なのに、ここではまるであわちゃんと父娘のよう。
ところで新聞売りの少年は宝塚の芝居によく出てくるというツイートを見て、なるほど花売り娘もだな、と思うなどいたしました。

あわちゃんがとても可愛かったです。これからも応援していきたいと思います。


さて、その他に気になるところです。
オープニングの「大正浪漫恋歌」には催涙ガスでも入っているのでしょうか。
「風の誓い」もそうですが、この場面はいつも泣く。涙失くしてこのオープニングは見られない。すごい。
2番の編集長(瀬戸かずや)、鬼島(水美舞斗)、高屋敷(永久輝せあ)、蘭丸(聖乃あすか)、環(音くり寿)のところは戦隊もののようでしたね。
真ん中が女嫌い、けれども一番環が強いというグループになります。
肉弾戦は鬼島で、知力を編集長と高屋敷でわけあい、蘭丸と環が色仕掛要員でしょうか。
おもしろそうです。これはラスボスが紅緒さんのパターンや。

これはもう最初から好きな演出なのですが、環と蘭丸との間に同盟が成立する場面において、徳利をもっているのが環、お猪口をもっているのが蘭丸というのがいいですね。
女性が大きい方をもっているというのが。
実際原作でも環はかなりの酒乱ですし(笑)。べろんべろんになっている姿が見たい人はぜひ漫画を読んでください。
環に関して言えば、初演のしろきみちゃん(城妃美玲)の環が高屋敷をかるーくあしらう感じの扱いをしていたのに対して、おとくりちゃんの環は、ちょっと引いているという感じに変わっていますね。
環に対して「すげー美人!」という編集部員の台詞もカットされていたし(まだいう)、原作に近い演出をしているのは初演なのだろうなあ。なぜ変えたのだろう。
再演版は鬼島とくっつくのも早いですよね。紅緒さんと編集長の結婚式のときにはもすでに仲良しでした。

結婚式といえば、紅緒さんのお父さんと吉次さんが、地震のときに一緒にいましたね。
まったくもう! ちゃっかりさんめ!
父親が吉次さんを先導していて、吉次さんもそれに小さく頭を下げて付き従っているという様子がもう……。
原作好きとしてはたまん。
ありがとう、小柳先生。にくいわね。素敵です。
果たして初演からこういう演出だったのでしょうか。

少尉がシベリアで紅緒さんの写真をみんなに見せて、鬼島が「こ、これはなんというか……」と言葉を濁したときに、「実物はかわいいんだ」という少尉の台詞がありますね。
この台詞を余裕たっぷりに言うのか、それともムキになって言うのか、解釈や好みがわかれるところかなと思われます。
個人的には余裕たっぷりに言ってくれると嬉しいのだけれども。
初演はそうでしたが、今回はちょっとムキになって、しかもそのあと早口になっていましたね。まあ、オタクあるあるですがw
それにしても少尉はいったいどんな写真を見せたのか。
次回の花組の宝塚の殿堂が楽しみで仕方がありません。

話には聞いていた大劇場公演との変更点。園遊会の場面で、蘭丸に怒りをぶつける伊集院伯爵から紅緒さんを守ろうと遠ざけようとする少尉の努力もむなしく、当の本人である紅緒さんは、少尉の足を踏んで「邪魔だ、どけ!」という感じになっていました。
さすが紅緒さん、はいからさんはそうでなくてはいけないね。
まるでバッディでした。素敵です。

それかららいとくん(希波らいと)の力量はすごいですね。下級生の中でもA日程、B日程両方出ているのですが、お芝居がちゃんとできているな、かたいな、という印象を受けました。
将来が楽しみな役者ですね。期待できる子がいるのはよいことであるだけに、新人公演がないのが残念です。
郡舞でもすぐに見つかるというスタイルお化け。

下級生といえばもう一人、都姫ここちゃんもとても愛らしい。
オレンジの振袖はまぶしいばかりで、髪形も大変工夫されている。
おさげやハーフアップの髪形が多い中、まとめ髪をしているので、大変目立つ。
芸者さん、記者さんのところもすぐに見つけることができました。
前回、新人公演もやりましたし、期待の下級生です。あわちゃんと同じ104期!
2幕狸小路伯爵邸では、一番上手にいるのですが、「ほんと、狸の話なんて聞いてられない!」と列からはぐれていくのを、おそらく同社の男の記者だと思われる人に、こらこらと止められています。
あわちゃんの女学生を連想させておもしろい。

1幕終わり、白い喪服で出てきた紅緒さんと黒いドレスの環の対照がとてもいい。
言葉はないけれども、「大丈夫? 無理しないでね」「うん、ありがとう」と話をしているだろうことがジェスチャーだけでわかる。すごい。
環から紅緒さんを抱きしめに行くのもよい。胸アツ。激アツ。同期愛。
このとき下手花道では倒れている少尉をラリサが発見しているのです。
いつせりあがって来たのか、結局わからなかったぜ……。

2幕、少尉が反政府主義者のたまり場になっているカフェの場所を、なぜか監視のついていない高屋敷に聞き出す場面。
いろいろなところに反政府主義者が隠れていますし、上からはさおた組長がじっと二人を見つめています。
もう目で殺すってこういうことをいうのねって感じ。
ここは映像には映らないだろうなあ。
大道具の関係もあり、隠れている反政府主義者たちもいい仕事をしていました。

デュエットダンスも本当にいつ見ても素敵。可愛らしくてこっちがはげそう。
華ちゃん(華優希)が先にしかけて悪戯をして、それをおいかけるれいちゃん(柚香光)みたいな構図が最高すぎてだな……。
先を行く華ちゃんの手を引いて抱きしめるとか本当にもう紅緒さんそのまんまじゃないですか、少尉そのままじゃないですか。貴すぎる……。
こういうデュエットダンスって今まであんまり見たことがなかったような気がするのですが、どうでしょう。
娘役が先に動き出す、というか、男役主導ではないというか。
ちょっと気になるのはれいちゃんが濃い赤リップであるということかな。
少尉と紅緒さんの結婚式だという話だからなあ。
でも郡舞のあとだし、そのあとパレードもあるし、忙しいから、そこまで手が回らないのかもしれません。

高屋敷は自分のことを「大正時代の森鴎外か、夏目漱石か」と言うけれども、この二人の文豪はまったく作風の異なる人なので、一体高屋敷がどういう作風を得意としているのかわからないのですが、書き上げたのが『はいからさんが通る』というのだから、もう完全に大衆小説なのでは?という気もしないではない。
結局二人とは全然違う作品を作り上げる。まあ、これもいいでしょう。
はいからさんの挿絵のあった『魔風恋風』という新聞連載小説は小杉天外、ゾライズムのフランス系と考えれば、ドイツ系の森鴎外とイギリス系の夏目漱石とは確かに違うな、という感じです。

娘役オンリーのダンスシーンがあるのも超絶嬉しいフィナーレ。
男役も出ては来るけれども、娘役のダンスのお相手というよりは、支え程度ですね。
はいからさんが通る』という少女漫画が原作の作品だからこそできることなのかもしれませんが、こういうのが増えるといいなあ。
『Ray』にもありましたよね、ブルーのドレスで娘役が銀橋ずらりというのが。
しかしその一方で、男役1人が娘役をずらーっとはべらせているショーも好きなので、悩ましい。
1本ものだと両方をショーに盛り込むのは難しいのでしょう。

郡舞はみなさん、どちらがお好きなのでしょうか。
タキシードはTHE正統派って感じ。ダンスの花組らしく、そして踊りを得意とするれいちゃんによるクラシカルな宝塚の男役の群舞です。
軍服はなんていうか、もうこれ完全にオタクの好きなやつやなって感じ。
きっと小柳先生が見たいと思うものを詰め込んだのでしょうw
性癖に刺さる人はものすごく刺さると思う。刺さって病むレベルだとさえ思う。
私は映像で見たときはどちらともそれほど刺さらなかったのですが(もともとあまり群舞で刺さらない人)、マチネでタキシードを見たときに「おお! これは!」と気持ちが前のめりになりまして、ぐっと迫るものがあったのですが、軍服はとにかく音楽が改めて心に刺さり、ヴィジュアルも最高で、私は結局どちらかを選ぶことができませぬ……。
ラフマニノフって反則やろって思うし、でも帽子だとお顔が見えないとも思うし、ああ幸せな悩みである。

残りの公演も無事にできることを全力でお祈りいたします……っ!

月組『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』『ピガール狂騒曲』感想

月組公演

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JAPAN TRADITIONAL REVUE『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』
監修/坂東 玉三郎  作・演出/植田 紳爾

ミュージカル『ピガール狂騒曲』〜シェイクスピア原作「十二夜」より〜
作・演出/原田 諒

 

大変良いものを見せていただきました。
ショーもお芝居もどちらも一定水準を超える作、演出となっており、満足しております。
ツイッターでは、こんな多幸感、『ひかりふる路』『SV』以来なのでは?と呟いたのですが、よく考えたら『エルベ』『エストレ』も2本ともすばらしかったです。
とにかく『雪月花』『ピガール』ともにすばらしく、見終わった後、すぐにチケットを増やしました。
こうやってチケットが増やせるって幸せですね。
前売りで売り切れないのは劇団としては不安かもしれませんが、私にとってはラッキーでした。

『雪月花』、世間では『WTT』と略すそうですが、シンプルな構成、番手に合わせたわかりやすい色違いのお衣装、有名なクラッシック音楽の日本舞踊のためにアレンジなど、どれもよかったです。
特にクラッシック音楽のアレンジはもう玉様の十八番ですから、ベタではあるけれども、ヨシキタ!という感じでした。
ベタな感じが宝塚にも合っているのでしょう。
まあ、私の好みの問題もあるのでしょうけれども、好きなんですよね。玉様も好きなんですよねー。
監修されるというお話を聞いたとき、飛び上がって喜びました。
観劇できて幸せです。
歌が少なかったり、娘役の見せ場が少なかったりすることは残念ですが、飛沫を飛ばさないため、楽屋でソーシャルディスタンスを確保するための対策でもあるのかもしれません。

プロローグでは番手を一気に詰めてきたじゅりちゃん(天紫珠李)、背が高くてどこにいてもすぐに見つけられるまゆぽん(輝月ゆうま)、和物のお化粧が美しすぎるれいこちゃん(月城かなと)、立っているだけで存在感を示すちなつ(鳳月杏)、傍にいるけれども一際輝くゆりちゃん(紫門ゆりや)と、まあどこを見たらいいのやら。
最初からこんな感じでしたが、最後までこんな感じです。
縦一列で並ぶ場面ではまゆぽんの前がアキちゃん(晴音アキ)、後ろがからんちゃん(千風華蘭)ということで、アキちゃんの顔の上からまゆぽんの顔がちゃんと見えるし、まゆぽんがいなくならないとからんちゃんは全く見えないという、なぜその並びにした……という気もしましたが、誰だってまゆぽんの後ろにいたら見えないですよね。

その後の口上はいつもの緑の袴ではなく藤色の和服でした。
こういうのもいいですね。組長がひっぱって歌舞伎さながらの挨拶をしてくれました。
いや、本当にこれ、歌舞伎のまんまなのよね。
玉様がどういう気持ちで見ていたのか、助言をしたのか、気になるところです。

雪の場面では歌舞伎の舞踊「鷺娘」を連想させるようなところもあって、とても好みでした。
玉様の「鷺娘」が好きなんですよね。舞踊の中で一番好きかもしれない。
この公演がサヨナラ公演となる松本先生のすばらしさは言うまでもないですね。
もう少し影の役(昔の恋人? 思い人?)と絡んでもいいかもしれません。
退団したら玉様と組んで、何かやってくれたら、日本舞踊の世界にまた新しい扉が開かれるかもしれません。
ずらりと並んだ赤鳥居に宙組『白鷺の城』を思い出した人は少なくないでしょうが(まるで伏見稲荷のよう)、あの場面にせーこ(純矢ちとせ)が出ていたことは今思うととても貴重ですな。
ダンスも種類が増えてきて、新しいダンスを踊れるようになろうとすると、きっと日本舞踊の時間は音楽学校でも短くなってしまうのだろうな。
音楽学校で、かつては教えていたお琴も、今は時間がなくてカットされたとか。ゆきちゃん(仙名彩世)の三味線もいかにすごかったかということが思い出されます。

月の場面ではずらりと出てきて、冒頭のチョンパとともに圧巻でした。
月の満ち欠けの形はあれでいいのか?という疑問は残りますが、演者たちはすばらしかったです。
出ている人数の割に見せ場のある役者が完全に固定されて、ちょっともったいないような気もしました。
当初の演出からどれくらい変更があったかはわかりませんが、久しぶりの宝塚でコテコテな和物のショーということなのかもしれません。
世界の人間を「ウエルカム」するにはこれくらいコテコテでもいいのかしら。

花の場面では、村上春樹「鏡」を思い出しました。
鏡の向こう側にいる人間が、鏡のこちら側にいる人間を支配しようとするお話です。
鏡というのはそれだけで不思議な存在ですからね。
最初はなんとなく自信なさげな役者、れいこちゃんが鏡に向かって芸事の練習に励んでいると、いつの間にか鏡の方が先に動き出す。
この場面に「くるみ割り人形」がものすごくマッチしている!と個人的には思っていて、印象深い場面となりました。
おだちん(風間柚乃)は『出島小宇宙戦争』でのシーボルトを経て、2回りも3回りも大きくなりましたね。すごい。
これは化けるな、と今更ながら思いました。
認識したのは『AfO』のジョルジュあたりからだったと思われます。
これからの成長が楽しみです。

そして、れいこちゃんが早変わりをしたところで、プロローグと同じ場面に。
もう一度松本先生が登場。尊いですわ、本当に。背中に翼が生えたようなお着物がすばらしかったです。サモトラケのニケのよう。
数えた人がいるようですが、本作品は「ウエルカム」と104回言っているとか。すごいですな、言う方も言われる方も、もちろん数えた方も。
でもどうせならあと2回、106回だと学年と同じになったのでは?と思いました。

 

そして『ピガール狂騒曲』。
シェイクスピアが原作で、原田が脚本ということであまり期待はしていなかったのですが(シェイクスピアは現代では翻案しにくいものも結構ある)(原田は言うまでもない)、とても楽しかったです。
もっともシェイクスピアから拝借したのは生き別れの兄妹がそれぞれ恋に落ちて、出会う(原作は再会する)というところだけだったような気もしますが、読んだのが昔すぎるのでなんとも。
とにかく月組は脇が固い。目が足りない。
ゆりちゃん、れいこちゃん、ちなつ、るうさん(光月るう)、れんこん(蓮つかさ)、まゆぽん、からんちゃん、るねぴ(夢奈瑠音)、やす(佳城葵)ともう芝居心に溢れた人が男役だけでこれだけいる。
さすが芝居の月組と言われるだけはある。
私が男役の群舞で目が足りないと思うのは、月組だけである。これはすごい。

からんちゃんロートレックは、もう本当にロートレックでした。ロートレックなんか絵を描いているか酒を飲んでいるかのどちらかだと思っているので(もちろん両方ということもある)(ロートレックは絵画界の李白)、本当にその2つの演技しかしていないのに、めちゃめちゃおもしろい。
酔っ払っているからの勘違いもあるのだけれども、やはりうまい。
背が小さく見えるようにしていますが、酔っ払っているから真っ直ぐ立てないかのようにも見える。
ムーラン・ルージュのカンカンの場面の後、客が入っていないことをれいこシャルルに指摘されて、「本当だ、空いてる……」と大劇場SS席5列目までに人が入っていない空席を見つめる。
ここ、これからちゃんと人が入るようになったら「嘘つけ! ちゃんと入ってるじゃねぇか!」とか一回言ってくれないかな。そんでもって大きな拍手をしたい。

「お望みのままに」の場面は、本当に芸達者しか出ていないんですよ。おもしろくて当然ですわ。
突然早口で歌い出すれいこシャルル、早口なのに歌詞は全くラップになっていないれいこシャルル、すごい濃厚なオレンジ色のロングコートに負けていないキャラクターがすばらしかった。
そして、それに続く振付師るうさん、衣装部ゆりちゃん、音楽担当ぐっさん(春海ゆう)っていうのがね。
芝居で笑わせてくる。はちゃめちゃに楽しい。
たまきち(珠城りょう)ジャックを捕まえて、わちゃわちゃするところなんかはこれからもっとアドリブが増えていくことでしょう。マジで天才だわ、この配役。
もう君たちがムーラン・ルージュの舞台に立てばいいのでは?
がっぽり稼げるよ?と思いました。
るうさんが初めてジャックを見たときのシーンも大変に印象的でした。憧憬や親愛に性別は関係ないのです。

ちなつのウィリーもものすごーく良かった。
難しい役だと思うのですが、チャーミングに演じてくれて本当に良かった。
ガブリエルの言葉に説得力を持たせるためにはある程度嫌な男、モラハラ男としての言動をしなければならない。
けれどもそれだけだと観客としてはただ不愉快になってしまうだけになってしまう。
やはり、観客は女性が多いですしね。
ちなつのウィリーはその不愉快な気持ちに一切させない。
モラハラ言動がコミカルな場面につながるようになっているからでしょう。
「あいつ、またあんなこと言ってやがるw」みたいな感じで見ることができるから、観客は全く不快にならない。
すばらしい。口で言うのは簡単だけど、きちんとそれをコミカルに演じきれるのはさすがだなと思いました。

まゆぽんマルセルは、ちなつとはまた違った意味で「悪役」を演じなければならないキャラクター。
この「悪役」の種類分けがきちんとできているのもすごい。
彼女たちの持ち味の違いといえば、それもそうなのでしょうけれども、ジャックの敵役となるまゆぽんとガブリエルの敵役となるちなつと悪の分類ができている。
芝居が上手くないとこうはならない。拍手。
本当に面白い空回りだったなあ。
ちゃんと部下の分のチケットも買ってあげるのだろうか。ここもアドリブが進化しそうなところですね。
楽屋のお掃除おばさんヴァネッサ役の夏月都も笑わせてくる。最高。

ムーラン・ルージュの支配人であるシャルルもよかった。
こういう役の場合、踊り子たちを金のなる木くらいにしか思っていないような嫌な人になりがちだけど、そしてあのひげはいかにも悪い人っぽいのですが、シャルルはそうではなくて、ムーラン・ルージュという場所もそこで踊る踊り子たちのことも大切にしているのが伝わってくる。
シャルルとジャック(ジャンヌ)は恋愛だったのか?という声もあるみたいですが、最初は敬愛や親愛だったものが恋愛に変わることはあるだろうし、恋愛にならなかったとしても敬愛や親愛で結ばれているカップルもありかなとは思います。
宝塚ではもっと理想的な男女のラブがみたい!大恋愛が見たい!という人には少し物足りなかったかもしれませんが。
ジャックとしては、最初はちょっと怖いおじさんだった人が、少年のようにひたむきに舞台を愛するシャルルを尊敬していったのだろうし、シャルルとしても、ここで終わりだもうダメだと思ったところで自分の死を引き留めてくれたのがジャックの言葉であったというのは大きいと思います。
2人が歩み寄る様子は、私はちゃんと描かれていたと思っているので満足です。
まあ気になるのは年齢差くらいですかね。
一体ジャンヌはいくつくらいなのだろう。

一方でヴィクトールとガブリエルの方が「お前ら、結局顔が好みだったんかい」みたいな話になりかねないなとも。
ウィリーとしっかりケリをつけて別れることのできるガブリエルですから、たとえ顔が好みであっても性格に難があればすぐに別れる選択肢を選べるだろうことは予想できるので、安心といえば安心です。ガブリエルの女性自立の言葉は今の世にも響きます。嬉しいのやら悲しいのやら。
彼女にウィリーの二の舞になって欲しくないという観客の心もわかりますが、ガブリエルの方が問題ないならヴィクトールをなんとかしなければいけない。
けれども、そもそもヴィクトールの出番が少ない。これが惜しい。
たまきちの男役としての出番が少ないのはね、やっぱり寂しいではないですか。
だからオープニング曲はジャックではなく、いっそヴィクトールとして出て来てもよかったかもしれないです。
からんちゃんロートレックもわりと序盤から出て来ているのだから、2人の会話で『クロディール』に言及したら、ヴィクトールは少なくともガブリエルに対して顔だけではないということがわかるかもしれません。

オープニング曲の前、ウィリー夫妻がムーラン・ルージュから出てくる場面で見たガブリエルのストライプのドレスはすごかったですね。
なんていうかもう本当にさくら(美園さくら)のために作られたドレスであることが一目瞭然。
チラシでは上半身しか見えなかったのですが、全身の姿を見たら震えるね。
顔のパーツがわりと直線が多いので、大変よく似合っておりました。
あれが似合う娘1はあまりいないかもしれない。
みんな、どちらかというと顔のパーツは曲線が多いから。

あとの場面で、ムーラン・ルージュに来ていたウィリーの奥方がとんでもない美貌の持ち主だ!とシャルルが舞台裏で話題にしますが、それなら記者に「相変わらず美人な奥さんですね!」とか言わせたらどうだろうか。
いや、ジェンヌはみんな美人なんだけどね。だからこそ芝居の設定を教えてね、と。
そこでガブリエルが「ありがとう」と応えて、続けて言葉を発しようとすること、自分よりも妻が目立っていることにいらだっているウィリーが「もう、このあたりで!」と切り上げれば、冒頭のキャラクター演出としてはうまい具合に進むのではないかと思われます。
まあ素人目線ですがね。

シャルルれいこちゃんが「この中に真ん中に立てるスターの踊り子がいたらムーラン・ルージュはこんな風になっていない!」みたいなことを言う場面があるのですが、ちょ、おま、それをくらげ姫(海乃美月)の前でのたまうか!と、演技だと分かっていても目を見開いてしまったよ。
うん、わかっているよ、演技だよ。
『ラスパ』大好きです。

おだちん弁護士は、まあすごいよね。パンチ力っていうの?破壊力っていうの?
ショーでも思ったけれども、すごい。
バッカンバッカン会場を沸かせてくれる。ありゃ、本人も楽しいだろうなあ。
どうしてムーラン・ルージュへの潜入捜査で女装をしたのかは謎だけど(そのまま男として入り込むこともできただろうに)(ガブリエルに近づくために女になったのかな?)、それが物語を動かす鍵になる。
別箱ではなく本公演であれだけ重要な役を任されるのだから、別箱で真ん中にくる日もそう遠くないかもしれません。
スターだなあ、本当に。

じゅりちゃんも『夢幻無双』で新人公演ヒロイン、『赤と黒』のマチルドときて、またひと回り大きくなって大劇場に戻って来ましたね。
るうさんに注意されているじゅりちゃんは、『ワンス』の潤花のようでもありました。
月組のこれからの人事も気になりますが、誰がトップでも応援したい。
くらげちゃんの出番がその分減ったかなと思われるのが辛いのですが、じゅりちゃんにも頑張って欲しい。
くらげちゃんも応援しています。
彼女がセンターなのにムーラン・ルージュに客が入らないのはなぜだ。
美しくてどこにいても芝居していてすぐわかる。

下級生はらんぜくん(蘭世惠翔)もいい。すごく目を引く。赤っぽい茶髪のカツラにくるくる丸いお目目が実にキュート。
そしてデカイ。大きい。でもキュート。
フィナーレのありちゃん(暁千星)歌唱場面でもダンサーとして活躍(ありちゃん、歌が上手くなっていましたね)。これからが楽しみな娘役の一人ですな。
どうなるのかなあ、わくわく。
新人公演がないのが辛い。
ちづるちゃん(詩ちづる)もこありちゃん(菜々野あり)もBバージョンに出演のため、舞台上にいないのが残念ですが、やはり初舞台生を全員舞台に上げるためには人数を制限するしかなかったのかなあ。寂しいでござる。
どちらのバージョンが円盤になるのか、東京も下級生は半分に分けるみたいですし、全員が舞台上に立てないのはやはり寂しいですね。
オーケストラも早く復活して欲しいな!

そして見つけた新しい期待の下級生は美海そらちゃん。気がつくと彼女をオペラで追っていることが多かったです。
とても楽しみな104期生です。

星組において金髪の天寿光希、黒髪の瀬央ゆりあならば、月組においては金髪の紫門ゆりや、黒髪の輝月ゆうまで決まりだな、と思いました。すてき!
金髪はロイヤル繋がりで、黒髪は95期つながりですな。
そして私はロイヤルに弱い。
雪組の黒髪は彩凪翔かな。

ちなみに覚えいるアドリブ。
ゆりちゃんがたまきちのサイズを測る場面「足、長っ!」
からんちゃんが墓地でちなつにからむ場面「おめぇ、あし、なげぇな!」
るねぴに近道を教えてもらったちなつ「早く言う!でも大丈夫、足長いから」
あしながまつりでした。みんなあしながおじさん(物理)な感じですかね。

フィナーレの羽はトップがピンク、白、水色でフランス国旗。トップ娘役が水色で2番手がピンク。
こういうとき、娘役がピンクになるところを水色をあてているところがすばらしい。
こういうところからジェンダーフリーにしたいところ。
確か花組の『BG』のパレードも、みりお(明日海りお)がピンクで、ゆきちゃんが紫でしたね。すばらしい。
しかし銀橋挨拶はやはりトップと2番手が最後だった。なぜだ……?
最後にトップコンビを2人銀橋に残して欲しいのだが。あれかな、歩くスピードの問題か?
ドレスは歩くスピードが遅いから最後舞台の真ん中に戻るのが遅れるということなのか?
では、曲をゆっくりめに演奏したらええのではないか?などとぐるぐる考えてしまう。

Aパターン観劇日は、コンプレックスビズとのコラボレーション商品、星組バージョンを髪飾りとしているのですが、キャトルレーヴの店長さんに「素敵ですね」って褒められてしまったのです!
ありがとうございます! ありがとうございます!涙
『グラフ』に掲載されていたトップ娘役のようなアレンジはできませんが。
コテ苦手! 何種類も使い分けているまどか(星風まどか)を初めとする娘役さんたちは心底すごいと思います。

そんなわけで月組、チケットを増やしました。
次の雪組に備えてちょっと控えに、と思っていたのが嘘のようです。
Bパターンも楽しんできます!

雪組『NOW! ZOOM ME!!』感想

雪組公演

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望海風斗 MEGA LIVE TOUR『NOW! ZOOM ME!!』
作・演出/齋藤 吉正

 

配信BパターンとCパターンの両方を観劇しました。
結果から言えば、もう東京公演は全部Cパターンでもいいのでは?と思うくらい、だいもん(望海風斗)ときぃちゃん(真彩希帆)のコンビがすばらしかったからです。
もっとも、Cパターンを見たときは前日のBパターンを見ていて、全体の流れがわかっていて、楽しむゆとりがあったからかもしれませんが。

基本的にはヨシマサ―!怒、という感じでしたので、先に良かったと思ったところから!
オープニングの「ZUKA!ZOOM UP!!」はダサいwとは思ったものの、まあ時折宝塚はこういうのってあるよねーという感じでした。
こういうクラッシック(笑)なのも、まあ宝塚のお約束のようなものでしょう。
コンサートだから、役作りメイクというよりはみんなヅカメイクで、映像で見るとなかなかに濃いのですが、それもよかったです。宝塚を見ているという感じがしました。

ひまりちゃん(野々花ひまり)がヒロインポジションでとにかくかわいくて愛らしくて正義でした。
だいもんの隣にいても、カリ様(煌羽レオ)の隣にいても、いつだってキュートでした。好き。
というかカリ様×ひまりちゃんって新しいですな。
根っからの悪い男と純情天然ヒロインみたいで最高だな。
ツッコミがひまりちゃんだとなおよい。個人的な好みの話です。

オープニングでは、あゆみお姉さん(沙月愛奈)が下手で男役を率いて踊っているのがとても印象的でした。素敵。
上手では娘役を率いてだいもんが踊っていたので、同期のシンメトリーがすばらしかったです。
悪者女という赤いメガネ、赤いおかっぱ、赤いお衣装という役者の区別がつきにくいときにも、あゆみお姉さんはキレッキレに動いているので、すぐにわかりますね。こういうの、とても大事だと思います。
ところで、だいもんは娘役に囲まれていても「はべらせている」感があまりないのはなぜでしょうか。
例えばみりお(明日海りお)は娘役に囲まれていると完全に「はべらせている」感があるじゃないですか。
カサノヴァだから? でもだいもんだってドン・ジュアンだよ??
娘役と一緒にいるだいもんは「俺の仲間!」という感じで、むしろ男役を率いているときのほうが「はべらせている」感があるような気がします。
こりゃどういうことだ。
素敵なことに変わりはないけどな!

スーツにハットの男役、アシンメトリーのワンピースの娘役も素敵でした。
どこのナイトクラブだ?という感じでしたが、ああいう雰囲気が好きなんですよね、私。
『ワンス』を連想させるようなスーツにハットでした。
裾がアシメというのも大好物だったので、娘役もかわいかったです。みんなかわいい。
だいもんはどの場面にも出てきて、「まだかなー?」と思うことは全くなかったですね。
この場面でも娘役がずらりと出てきたときに後からやってきました。
プログラムを見てもわかるように、だいもんが出ていないのは2幕最初の「アヤナギ先生」の場面だけですな。それはそれですごい。
水分補給と着替えが大変だろうなあ。

まあ様(朝夏まなと)主演の『A Motion』もヨシマサでしたが、ここでは「アサカボーイ」「アサカガール」だったのが「ズームボーイ」「ズームガール」になっていたのもよかったかな。
「ノゾミボーイ」「ノゾミガール」だったらどうしよう、と思っていたところでした。
だったら「エースボーイ」と「エースガール」で良かったのではないかしらんと思ってしまいますが。
両作品ともにメインのお衣装は娘役はスパッツですが、必ずドレス姿の娘役を出してくれるのは嬉しいところです。
まあ、ヨシマサがおっさん感性ばりばりだから、そうなるのでしょうけれども、『MR』でドレス姿に飢えていた身としては、とても嬉しかったです。
今回もピンクのドレスがありましたね。『キラールージュ』の中詰めのような。あの衣装、好きなんだよな。

上手と下手にある「NOW!ZOOM ME!!」の文字が「ノゾミ」と光るのも天才か?!と思いました。
ああいうのを考えるのは大道具さんなのか小道具さんなのか、はたまた演出さんなのか。
多彩でないとやっていけない宝塚の裏方。すばらしい。

あみちゃん(彩海せら)のお化粧がぐんとよくなっていましたねー!
ヅカメイクがより映えるようになっていました。すばらしい。
歌唱力も上がっていた。ステイホーム中も頑張ったことが伺えて、本当に涙がちょちょぎれる。
だいもんと一緒に地元の鹿児島のお祭りで、屋台船に乗って花火を見る計画、とても素敵だと思いました。
だいもんとおでかけプランといえば、カリ様は完全にデートプランでしたね。そのまま使える。

カリ様のダーティーLEOはすばらしかったです。なぜ負けたのかわからない。
本当に格好良かった。ヒゲが最高だった。なんていうか、完全にもう悪役だった。
あの格好良さはやばいね。あふれ出る色気がすごいね。
裏ピースの映像もお茶目だよ。好き。臙脂のベロアの手袋もたまらなかったわ。
もっともなぜコナンの曲だったのかは全くわかりませんが。
コナンってエイリアンは出てこないだろう?

ピンクの髪も素敵だったわよ、カリ様!
だいもんと翔くんとカリ様が並ぶと、もう世の中のすべてを手に入れた感がたまらなかったです。
「え、俺らに落ちない女とかいるの?」みたいな。すげぇな。すげぇよ!
もう黄色い声しか出てこないよ。なんて格好良いんだよ。

ここからはきぃちゃんタイムです。
きぃちゃんが白いドレスのお衣装で、古典的に髪をまとめてアップにしている姿がとてもクラシックな娘役という感じで素敵でした。
歌唱力もさることながら、娘役としての姿勢、スタンスがにじみ出るような歌声に、なんかもう本当に感動しちゃって、涙が止まらなかったよ。
その髪飾りもだいもんに360°パノラマ点検してもらったのかね、素敵な夫婦だよ。
ラプンツェルの曲では途中からだいもんも出てきてデュエット。光の中で振り返って笑顔でいることが稀なだいもん(笑)。
夢々しいデュエット曲が少なかったということからの選曲だそうです。
そうね、デュエットというと「焦燥と葛藤」みたいな戦いソングか、悲しい別れの曲が多かったからね、あなたたち……。

きぃちゃんが「望海さんは私の王子様」と言った後に、観客に向かって「みなさんにとっても望海さんは王子様ですよね」と言ってくれたのがすごいよかった。
私だけの望海さんにしないところがすごいよかったし、きっときぃちゃんもどちらかといえば、こちら側の人間なのだろうと思いました。
「王子様」と「おじさま」と聞き間違えるだいもんはどうかと思ったけれども、あれも照れ隠しだったのかな。
本当はもう! 覚えているくせに! みたいな。
あそこのやりとりのだいきほは多幸感に溢れていたな。
夫婦の会話は家でやれって? 彼女たちにとってここが家なのよ!

感動するのは、きぃちゃんのディナーショーの「ミーアンドマイガール」「顎で受け止めて」が、今回のデュエット曲「ランベスウォーク」の壮大な前振りのように見えるところ。二人で歌う「ランベス」最高でした。
そしてだいもんが自己紹介するとき「雪の中に輝くダイヤモンド」と説明するのですが、これもきぃちゃんがディナーショーで歌った「ダイヤモンドはベストフレンド」を連想させて、すごくよい。
友情というのか、愛情というのか、戦士の絆というか、本当にすばらしい。二人の結束がよくわかる。
そして『エリザベート』の「私が踊るとき」。個人的な好みからいえば、この曲は東宝版の方が好きなのですが、この二人で聞けたことがとても幸せでした。ありがとう!
できればもう1曲、『スカピン』の「あなたこそ我が家」も聞きたかったよ!
だってウエディングを連想させる白いお衣装来ているじゃないの、二人とも! やりましょうよ!
だいきほで『エリザベート』『スカピン』が見たいと思ったことはないのですが、曲を聴くことができて本当によかったです。

トークのお題「トップコンビの素敵なところ」は最高でしたね。髪飾りパノラマ点検という話も素敵でしたが、「のぞみさん」「まあやちゃん」という呼び方の話も、言われてみれば!という感じで改めてこのトップコンビのすばらしさが伝わってきました。
「きぃちゃんは星組? 雪組?からの輸入かな」と、さらりと「昔から知っている女性」というくくりに入れてマウントとってくるだいもん、好きですー><
しかし、恥ずかしいのか、照れ隠しなのか、途中から「私、これ一人で聞いていていいのかな」「どこかで聞いているかな」と繰り返すだいもん。
今回の舞台稽古で「すごい歌唱力」であることを再認識しただいもんが「どこから声出しているの?」ときぃちゃんに聞いたというエピソードもほのぼのしました。
研18になっても、相手が下級生であっても、貪欲に学ぼうとするだいもんの姿勢も拍手ものですね。
ちなみに腰のあたりから声を出している、という回答だったとか。どういうことよw
しかし映像を見ていて思ったのは、歌っているとき、確かにきぃちゃんはお腹のあたりが動いているようにも見えるから、やっぱり喉から声を出しているのではなくて、お腹から声を出しているのよね。すごい。
これはトレーニングの賜物だろう。私も声を使う職業だからボイストレーニングしたいよ。

だいもんのソロ曲リクエストは「ひとかけらの勇気」「かわらぬ思い」「愛の旅立ち」の3曲でしたが、まさか「かわらぬ思い」が聞けるとは思わなかった……すごい感動しちゃったよ。
実はこの曲、ずっと覚えていたのですが、なんの曲だったのか、いまいち思い出せない期間が長くて、今回のステイホーム中に(別にステイホームせずに普通に働いていたのですが)『ブラック・ジャック』だったことが判明したという個人的な経緯もあって、感動しちゃったよ。

最後にきぃちゃんがメインのお衣装で出てきてくれたこともとても良かったです。
髪形も超絶キュートでしたし、ピアスも「NZ」「M」というドデカアルファベットがしっかり映像にも写っていましたよ。溢れだす愛がすばらしい。

とにかくきぃちゃんが出てきてからが本番!という感じで、だったら1幕から出せばいいのではないか?と思うほどでした。
AパターンとBパターンがどれほど違うかはわかりませんが、これはもしかしたら1幕は全部々なのでしょうか。
と、いうことは2幕だけだったら、AもBもCも円盤になるのでしょうか。
そうだといいなあ。とにかく宝塚の曲を歌っているだいもんときぃちゃんが良かったです。


と、いうわけで、思ったよりもたくさん良かったこと、楽しかったことがあってよかったです。
その半分がだいきほの話だから、やはり東京は全部Cパターンでもいいのではないかと思うくらいですが。

あまり話にも出てこなかったことからもわかるように、1幕のバブル、2幕のパロディはなんていうかヨシマサがやりたいことをやっただけという感じがして、とても残念でした。
そもそもプレ退団公演で演出家の先生がやりたいことをやるってどうなんだろう。

これは人によって様々だろうけれども、私はタカラジェンヌが歌う歌謡曲が聞きたいのではなくて、彼女たちが歌う宝塚の曲を聞きたい。
『A Motion』のときは、まあ様の生まれた年代しばりというくくりがあったし、『Delight Holiday』のときも令和になって平成の振り返りという位置づけがあったけれども、なんていうか今回はでたらめでしたし。
なんならバブルの曲でさえないものもあったような。
生まれてさえいなかったはずの派手なバブルのお衣装が似合うのはさすがタカラジェンヌなんだけど、これは観客のターゲットまで絞ってしまうのではないか、と危惧するような場面でした。
そしてまたこの場面が長い。

長いといえば2幕のパロディも無駄に長い。
韓国や台湾でライブ中継されているのに「純日本人」という台詞をトップに言わせるのは心底どうかと思っています。
しかも2回も言わせましたからね。
もとの作品をまともに換骨奪胎さえしておらず、ただ底の浅い笑いをとるためにつなげただけ、圧倒的な歌唱力によってのみ保っている場面だったと思います。
2015年のタカスぺでも雪組は『星逢一夜』と『アルカポネ』のパロディをやりましたけれども、全然質が違いました。
一言でいってしまえば、おちょくるところが間違っているのです。
笑いをとりにいくポイントがずれているというか。
とても見るに堪えられなかった。
唯一、新選組がマシンガン銃をもってヴェルサイユ宮殿を目指すというところだけがうまかったな、と。
感想は人ぞれぞれでしょうけれども、私はこの場面をやるくらいなら、もっと花組時代の曲、宝塚の曲を歌ってくれた方がずっと嬉しかったです。

あと映像がちょっとうるさいような気もしました。まあ大きなホールでやることが前提だったから仕方がないのかもしれませんが。

Aパターンも見る予定ですが、このバブルとパロディは変わらないだろうから、ちょっと見るのがつらいかな、と思っている所存でございます。

講演会『指揮者・西野淳が語る楽しいミュージカル!』メモ2

メモ1はこちら。

yukiko221b.hatenablog.com

●『モーツァルト!』について
本当にいろいろあった演目で、思い出深い。
まずは市村正親さんからのお話。
あるとき、本番をやっていたとき、市村さんの歌と2、3回ずれることがあった。
1回だったら気にしないが、連続だったので、こちらも修正しなければ、と思う。
そういうときに本人におうかがいに行くのも指揮者の仕事。
でも相手は超大物、大御所の市村正親さんで、しかもうかがう内容としては、市村さんの歌が原因で、ちょっとおかしくて、という話であるため、ちょっと言いに行きにくいな、気が重いな、行くだけで緊張するな、胃が痛いなと心の中では思っていた。

そして実際に言ったところどうだったかというと。
「ここは、こうしてもらえるとうまくいくと思うんですけど」
「おっけー」
「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、ありがとうー」
と、すんなりいくだけでなく、お礼まで言われてしまった。はあ! すげぇ!
やっぱりえらい人というのは違うんだな、すごいな、と思った。
まだ自分が30際代だった頃の話。そんな若造に指摘されて、あんなに素直にお礼が言えるとは!
見習おうと思った。

ただでさえも指揮者という立場は気を遣われてしまう。
知らない間にオーケストラが大変なことになってしまうこともある。
だからダメなところを注意されたら謙虚に受け止めようと思った。

さて、演目の『モーツァルト!』は1幕がとても楽しい。
その反面2幕が重い。初演は塩田先生が指揮を振って、再演から参加している。
曲がとても難しく、指揮を振るだけで必死になる。舞台の上と必死に合わせないといけない。
精神力、集中力、体力がとても必要になってくる。
あの元気で体力のある塩田先生が「もーダメー」と言った演目を引き受けることになり、大変なことになったと思った。
とにかく2幕がいたたまれない。指揮者としては世界に引き寄せられるタイプではあるのだが、あるときとうとう病気になってしまった。
目が回って起きられず、眩暈が起きて救急車を呼んでもらった。
医者からするとよくあることみたいで「え、救急車で来たの?」と言われるくらいだったが、こちらはすごくしんどかった。
原因は心的ストレスで、薬を飲んで何とか指揮を振って、毎回終わるたび吐き気。
本番中に緊張しているから、メンタルが……再々演のときも稽古中から眩暈が……。
原因はわかりきっている。この作品である、と。

井上芳雄くんがヴォルフガング役を卒業するときに、指揮者である自分もとても痩せてしまった。
山崎育三郎くんに「やせたね~」と言われた。そのとき2か月で7キロ痩せた。
育三郎くんも「僕も5キロやせたんですよ~」と。
指揮者よりも役者の方がしんどかろう、と思うのだが、それよりも痩せてしまった。
というわけで、これ以上やったら命縮むな!と思ったので、千秋楽のときに「芳雄くんと一緒に卒業します」と言った。
初めて自分から仕事を断った。これは『モーツァルト!』のみ。この演目だけである、こんなこと。

マリー・アントワネット』『レベッカ』『エリザべート』と同じコンビのリーバイ、クンツェの作品の中では『モーツァルト!』が一番好きな作品。
にもかかわらず、その作品のお仕事を断らなければならないというのはとてもつらかった。

●シアタークリエ
そのあと『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の指揮を担当し、シアタークリエ(小劇場)としては初のミュージカル作品である『レベッカ』をやることに。
なんせその箱では初のミュージカルとなるから、まったく勝手がわからない。
客席が小さく、オケピを作ったら客席が半分になってしまうから、舞台袖でオーケストラをやることに、
舞台上の人とコンタクトとったり、全景、上下と三箇所からカメラがついていたりしていて、合わせる。
役者はどうするかというと、客席に指揮者のモニターが設置してある。

しかしこのモニターが問題となる。
実際に聞こえてくる音とモニターの画面が合っていないというのである。
ちなみに、同じカメラで撮影し、液晶テレビ、ブラウン管で流す場合、ブラウン管のほうが早い。
液晶は遅れて音がやってくるらしい。
そして客席に2、3台設置されているモニターは全て液晶であった。
役者はパニックを起こす。当然だな。
指揮を振っている映像と実際に聞こえてくる音楽がずれているわけですから。
指揮が遅れて見える。
役者は本当にパニック。
山口祐一郎さんは「できませーん!!」と良い声で叫んだとか。

液晶画面は遅れるからブラウン管のモニターの準備を、と言ってあったらしいが、用意されていなかった。
仕方がないので、4種類の液晶を比較検討。
そうするとわりとジャストタイムで流れてくる液晶を発見。
カメラによってもタイムラグがあり、配線のつなぎ方によっても異なるらしい。
液晶がよくてもカメラがダメだと、結局遅れて聞こえる。
結局舞台の真ん中にブラウン管のモニターを置いた。

企業に時差があることについて伝えたところ、その手の既にクレームがあったらしい。
気が付いたのはゲーマーさんたちだった。

●帝国劇場100周年記念『三銃士』
ダルタニアンを井上芳雄くん、アトスを橋本さとしさん、アラミスを石井一孝さん、リシュリュー枢機卿山口祐一郎さん、王妃をシルビア・クラブさん、ロシュフォールを吉野圭吾さん、とまあ主役を張れるような人ばかりを集めて上演。
石井一孝さん(かずさん)とはこのときはじめてご一緒させていただいた。
おもしろい人で、うたがうまい人で、三銃士だから当然3人で歌う場面が多い。
しかしかずさんは基本的に話している声がとても大きい人だから、歌声はましていわんや大きい。
3人で歌っているのに、かずさんの声しか聞こえないということもあり、これでは音響さんが困ってしまう。
こういうときも役者に連絡をするのは指揮者の仕事。

「あの、素敵な歌声なのですけれども、もう少し歌声をしぼってもらってもいいですかね」
「OK!」
というやり取りのすぐの後は、直る。しかし忘れた頃に大きくなる。
そういうときは楽屋まで行き、また声をかける。その繰り返し。
あるときすごく3人の歌声のバランスがいいとき、すばらしかったことを伝えに行った。
「聞いてくれた? 僕の渾身のメゾフォルテ」と。
この表現がすごいな、と。
「ここちょっとおさえたほうがいいよ~でも落とすけれども、気持ちは今のままで~!」というときに仕える台詞。
吹奏楽の指導なんかでも使っている言葉です。ありがたや。

私が思ったのは音の大きさってマイクで調節しているのではないのねーということでした。

作中には宝石箱を取り合うシーンがある。
絶対落としてはならないと役者には伝わっているが、万が一のときのことを考えてオケピの上にネットを張っていた。
しかしそのネットに落ちたとき、舞台上からは届かない。
そういうときは指揮者がとって舞台に投げ返すということになっていた。
ある日、本当に目の前に宝石箱が落ちてきて、そのときほぼワンタッチで舞台上に返したら、客席から大喝采の拍手が起こった。

もしネットの上でも、指揮者から届かない位置に宝箱が落ちたらどうするか。
実は指揮者のところにもう一つのダミー宝箱が置いてあって、それを投げ返すことになっていた。
もう少しで届くのにー!というときは、くまでを使って指揮者が宝箱をとることになっていた。
くまでで手繰り寄せて、トス、というのは時間がかかる。できる限り早く早く舞台上に返さなければならない。
毎朝、劇場についたらくまでの特訓をした。5回はやる。
結局ダミーを使ったのは1回だけ。千秋楽から3、4回くらい前。くまでは1回も使わなかった。

東京公演中、吉野圭吾さんがアキレス腱を切ってしまった。
その日は観客にさとられないようにやりきった。立って動くだけでも普通はできないのに、立ち回りもやった。
もちろんすぐに振りを変えたけれども、尋常ではない。

役者はこういうときすごい。別の公演で、ある役者が食中毒にかかってしまったと聞いていたが、舞台の上ではいつもと変わらない。
けれども話を聞くと舞台のそででは出る前からうめいていて、入った瞬間倒れこんでいたらしい。
舞台の人のみなさんの気力は本当にすごい。

自分も一週間前、腰を痛めて。今日も車いすかどうかというところだった。
ちょうど数か月ぶりに指揮を振る仕事があって、リハーサルのときは大丈夫だったのに、オケの練習のときにちょっと痛いな、と違和感を覚え、そのあと立てなくなってしまった。
仕事自体はアシスタントに変わってもらえた。
そう考えるとすごい人たちと仕事をしていたんだなーと。

●今の仕事の中心は宝塚
宝塚は夢を売る場所だから、今回は裏話がなくてごめんね~!
裏話をするとすぐにお客さんから怒られ、劇団からも怒られてしまう。
ディズニーと同じ夢の国だからね。
裏話はしないよ! しちゃだめなの!

宝塚は少女漫画を3次元にしたようなもの。
憧れて真似をしたこともあったけれども、鳳蘭さんに「男がやってもダメ」と言われてしまったw
音楽学校があり、卒業しても研1とか言われる(ちなみにこの「研」の意味をご存じなかったらしく、客席から教えてもらっていた)。
音楽学校を卒業しても、宝塚歌劇団を卒業するまでずっと生徒と呼ばれる。
指揮者のことも「先生」と呼ぶ。
ちょっとこの「先生」と呼ばれるのに違和感があって、えらい人に「先生って呼ばれるのは義務なんですか?」と聞いたら、「義務です」と間髪いれずに答えられたので、はいーと従っている。
だってえらい人にそう言われたらね……もう20年くらい前かな。

宝塚歌劇団の卒業式がまた見もので。一人ずつ大階段を下りてきて、挨拶をする。
ファンの感慨はひとしおではないだろうなあ、と。
特殊専用劇場があり、年間稼働率が90%を越えているというのも珍しいけれども、座付きの演出家、衣装部、音楽担当がいることもとても珍しい。
オーケストラも座付き。西と東にわかれていて、東京は2つのグループで回しているけれども、バックに阪急が付いているから自前でいろいろ揃えているのはここだけではないだろうか。
すばらしい。

お勧めしたい作品は、いろいろあるけれども、和物の出し物。
初めてやったのは2003年の本公演。オーケストラを使って和物の作品をやったことがなくて、ずっとどうやってやるのだろうな、と思っているところに舞い込んできた仕事だった。
その作品は『星逢一夜』(もうここで私のテンション爆あがり!)。
観客だけでなく、オーケストラピットでも泣いている人がいたくらい。
座付きの演出家(上田久美子先生)が描いて、作曲家がつくったオリジナルの曲。
美しい和物の衣装、立ち回り、歌舞伎とは異なる美しさ。これ以上美しい和物ってなかなかない。
宝塚を見たことがない人はぜひ一度、宝塚の和物を御覧ください!

最後に宣伝。
10月3日に愛知県の幸田で柿澤隼人くん小南満佑子さんと『Brilliant Show Theater』をやるよ!
もしよかったらぜひ!
90分もしゃべり続けることなんかできるのかー?と思っていたけれども、意外といけましたね! 100分でした!

●質疑応答
1 指揮者から役者にしかけることってありますか。
あるよ!基本的には音楽監督と役者と相談して、お稽古中に決めてしまう。
そこで「ここは指揮者が誘いましょう」となることもある。
劇団四季の『ウィキッド』のときは、濱田めぐみさんとしかけ合いまくった。
3か月限定で楽しませてもらった。こんなうまい人とやれるのだから、今日が最後だからしかけまくるぞ!と思っていたら、向こうもそう思っていたらしくて「最後だから楽しんじゃった~!」と終わった後、言っていた。
指揮者をガン見してしかけてくる。2人で楽しんだ。ごめんね~! お客さん!

2 西野先生と帝国劇場というテーマでお話をお願いします。
ネタはいっぱいあるよ~!
エリザベート』だったかな? 『二都物語』だったかな?
とにかく役替わりが多くて、楽屋の確保が難しかったときのこと。
大部屋をパーテーションで区切っていたとき、ちょうど指揮者の隣が子役のお部屋だった。
そのとき加藤清史郎くんが子役でいて。
もう彼は天才。稽古中も演出の先生に言われたことをきちっと理解して、表現する力がある。
楽屋には当然のことながら、お母さんがいる。
なるほど、普通の子供だな、と。
お母さんに怒られてしまいしたw

あとは帝国劇場のオーケストラピットって不思議で、音が上に抜けていく。
オケとしては決して良いとはいえない。
中の音の雰囲気を作りづらくなる。
日生劇場はとてもいい。とにかく床がいい。オペラができる劇場は違う。壁もいい。
帝国劇場はオケの音が聞こえない。それでもやっているうちに慣れてきて、2回目は違和感がなかったけれども。

3 スランプの立ち直り方を教えてください。
基本的には楽観主義者だけど、やっぱりスランプになることもある。
考えれば考えるほどドツボにはまってしまう。だからもがき苦しむ。苦しみまくる。
で、何かのきっかけで抜ける。それはもがかないと出てこないもの。
何がいけないのか、ということを見つめ直して、そこを起点にしっかり振り返ることが大事。
苦しめばいいというものでもない。過程を見直すということが大切。
どうしてこうなったのか?と振り返る。
悩んでも仕方がないからボーリングに行って逃げることもある。
自分の好きなことに打ち込むことも時には必要。
自分の今いるところだけでなんとかしようとしてもダメ。
抜け方にもいろいろあって、前と同じやり方で抜けることはあんまりないから「こうすればいい!」というのはない。

4 初演『レベッカ』で山口祐一郎さんのためがあまりにも長くて観客もドキドキしていて見たけれども、息がぴったりで次の音が重なったことがある。それも山カンだったのだろうか。
指揮者をやっていると不思議なことに歌い手の呼吸が聞こえてくるようになってくる。
演技で固まっちゃったとき、それまでも何度もやってきているから、祐一郎さんの癖がわかる。
山カンではないけれども、経験のなせる業ではある。


こういう裏方さんのお話を聞く機会がもっとあってもいいのかなーと思いました。
大変おもしろく拝聴しました。
お衣装部さんのお話なんかも聞いてみたいですよね。

雪組『炎のボレロ』『Music Revolution! -New Spirit-』感想

雪組公演

kageki.hankyu.co.jp

ミュージカル・ロマン『炎のボレロ
作/柴田 侑宏  演出/中村 暁

ネオダイナミック・ショー『Music Revolution! -New Spirit-』
作・演出/中村 一徳

今日が千秋楽ですね。おめでとうございます。
無事にできそうで何よりです。本当に、すばらしいことです。ありがとう!

個人的な話なのですが、『炎のボレロ』は母親がとにかく紫苑ゆうの大ファンで、今でもコンサートに行っているくらいで。
そういうわけで主人公のアルベルト、カテリーナのコンビよりもジェラール、モニカのコンビの話しか知らなくて、しかもその中でも耳にタコができるほど聞くわけですよ、「お前はいい女だが、聞き分けのないのが玉に瑕だ。勝手にしろ!」「勝手にするもん!」のやりとりを、ね。
なんでも当時のシメさんの会では、入出の合言葉にもなっていたようですし、私も昨年の秋のシメさんのコンサートに連れていっていただき、ちょうどその場面を再現したところも生で見ていたので、おお!これを朝美彩で観られるのか!と感動していたところなのですが、聞くところによると、スカステで放映されたバージョンではそのやりとりがカットされているとかなんとか。
おや? 今回はどうなるのかな? と思っていたのですが、ありましたね。無事に被弾しました。お疲れ様でした。ありがとうございました。

上記の理由というよりは、個人的に咲ちゃんと潤花がささらないこともあり、もうずっとジェラールとモニカについて考えていましたし、このコンビの視点から物語を追っていたのですが、脚本としてみると1番戦っているのはカテリーナの父ドロレス伯爵なのではないかなと。
家族のために祖国メキシコを売って、フランス側についたものの、反乱軍が力を増してきたら当然立場は危うくなる。
しかも娘はフランス人貴族との婚約が決まっていながら、メキシコの人間の恋に落ちてしまう。めちゃめちゃ戦っている。1人で戦っている。
むしろ彼が主人公なのではないかと思うほど。組長、ありがとうございました。脚本としてはイマイチその戦いぶりが弱いかなとも思いましたが、とても素敵な演技でした。
でも脚本でももっと書いてやれよという感じはありました。

ジェラール朝美は何度もお着替えします。どれもともても素敵です。
プロローグの黒い軍服、モニカに看病された後の淡いブルーというかグレーのベスト、くすみブルーの軍服、酒場のフランス貴族としてのネイビーの私服、ネイビーの軍服とまあどれも本当に最高なんですけれども、個人的にベスト大好きマンということもあり(旦那にも着せているくらいである)、モニカをキスで黙らせるという2次元でしか通用しないアレをやるお洋服が大好きです。
良い子は真似しちゃダメなやつだよなあ、あれ。でもささるのよねぇ、すいません。

出てきて最初からこんな感じの2人ですが、ラストはラストで「お前はいい女だが、聞き分けのないのが玉に瑕だ。勝手にしろ」「勝手にするわよ」のやり取りが、待っているのだから、本当にこのコンビの妄想が捗って仕方がない。尊い

そもそもスペインの酒場の踊り子のモニカとフランス貴族で軍人のジェラールは本来なら出会うはずのない2人で、しかも出会ったとしても敵同士だし、どうして恋に落ちることになったのか、もうそのあたりだけでも相当いろいろ考えてしまいますよね。
きっとアルベルトを酒場で誘ったときのように酒場に来たジェラールを誘って踊って、という感じなのでしょうけれども、最初こそ見た目が好みだったとかそういう理由だとしても、惹かれ合う何かがあったのだろうし、敵国の踊り子なんかにうつつを抜かすのは本来だったら遊びでしかないのに、結構本気でジェラールもモニカを愛してしまったからこそ、病気のことを言わなかったのだろうし。
だからまなはるタイロンがモニカに裏路地でこっそりジェラールの病について教えたことをジェラールは怒りをあらわにする。
いや、病気がなんであるかくらいは観客には教えてくれてもいいのよとも思いましたが。沖田総司みたいに白血病か何かかなあ。そういえば朝美氏は沖田を演じたことはありませんね。
病を負いながらも職務に専念する姿に惚れたか、酒場の踊り子でありながら一途で純情な姿に惚れたか、とにかくジェラールとモニカがよかったです。
朝美彩のコンビも大変息ぴったりでしたね。
オープニングから素敵でした。

オープニングといえば、プロローグのダンスシーンが長いという人もあるようですが、私はそんなことはないかなと思いましたよ。
ダンスのみでゆっくりと情熱的な世界にじわじわと入り込むことができてむしろよかったかなとさえ思っているくらいです。
いや、なんせ今回のメンバーはダンスがうりな人間が多いですし、まあこれくらい許してあげてね?って思うし、むしろ許せないのはその叙情的で素敵なダンスの後の第一声が、完全に事故ではないか?と思われるレベルであることだと思われます。
あの第一声がどなただったのかはわかりませんが、ビックリしてしまいました。

主題歌がジェラールとモニカのバージョン「2人で過ごす季節は〜♪」もありましたが、この二人こそ「二人で生きて♪」欲しい。
彼らのこれまでも気になるけれども、彼らにとってはこれからが問題で、むしろここからがスタート。
おそらくメキシコに残るだろうジェラールはメキシコでどんな扱いをされるのだろう。
モニカはどうやって支えるのだろう。
ジェラールはもう働かないで、ゆっくりと余生を送るのかな。それくらいの退職金がもらえるといいけれども。
そもそも働き口もなさそうだし。
酒場で働くジェラールはあまり想像できない(笑)。

もっとも、あの酒場のシーンでジェラールはどうしてアルベルトを逮捕しなかったのかという問題は、ずっと付き纏いそうですね。
私はあの「対決」の場面は、そりゃもう大好き好物もっとやらんか!というタイプなのですが、最後に胸を押さえてその場でジェラールがふらついても良かったかもしれません。
そして「クレマン大尉!」と呼びかけながらアルベルトが近づいて暗転、みたいな。
この2人は出会い方が違えばよい友人にもなっただろうし。
歌もダンスもこの場面は大好きです。
もっともここからしばらくジェラールは出番がないのが寂しい。

暗転といえば、セットも出ている役者も大して変わらないのに数日経ったことを示すためだけに暗転が一度ありましたが、あそこの場転はもっと他に方法がなかったのか。
暗転は場転の最終手段だよ。

朝美ジェラールは口元を歪めて笑う仕草が多く、いかにも辛気臭い軍人という感じでしたが(好き)、『サパ』の「その口元を歪めた笑い、何人の男を虜にしてきたのか」みたいなオバクからイエレナに対する台詞を思い出しました。
本当にもうどれくらいの人間を虜にしてきたのよ、朝美ジェラール!
悪い男です。フランスには婚約者がいるのでしょうか。社交界ではさぞ花形だったことでしょう。

思えば、ダンスが非常にダイナミックでしたね。足の縦の動きも横の動きも充分にありました。
足を上げるときもただ上げるというより弧を描きながらあげることが多く、迫力がありました。
すごい、雪組を見ているとは思えない!とも思いましたが、反対に歌については残念なことに同じことを思いました。
みちるちゃんはともかく(彼女も以前はだいぶ危うかったですが)りさと潤花の歌は、さ……あがちんも踊りの人だしさ…さすがに咲ちゃんとあーさは安定していました。
新生雪組は今までとは異なるカラーの組になるやもしれませんが、そうするとダントツ歌えるコンビは星組トップコンビということになりそうですね。
彼女たちもむしろダンスの方が得意な方たちですが。
もっともだいきほと歌唱力を比べて対抗できるのなんてとうあすコンビくらいではないかという疑惑もある。
ひらめちゃんが戻ってきますが、咲ちゃんのご指名なのか、劇団の思惑か、とにかく大人っぽいコンビの誕生は喜ばしいことです。みりゆきコンビのような夢を見させてください。
組替えが頻繁すぎて少しばかりかわいそうな気もしますが。

みちるちゃんは歌が上手くなっていただけでなく、とにかく男役をたてることがとても上手で丁寧な演技をするなと改めて思いました。
そういう娘役芸みたいなのは宝塚でしか求められないものだから、見ていてとても宝塚を見ているぞ!という気分になりました。
だからこそ、ひらめちゃんの娘役1就任はめでたいと思うけれども、みちるちゃんのことも大切にしてあげてね……娘役2番手格に据えてあげてね、朝美氏と組ませてあげてね。
わたし、ちょっと夢白さん、苦手なのよ……しょんぼりーぬ。
ひまりちゃんも大切に扱ってね。彼女のことも大好きよ。

ブラッスールはなぜああも簡単にマクシミリアン皇帝を敵に売るような形を取るのか、ということについてですが、これは世界史的な知識があると楽しいかもしれません。
ヅカオタとしてはお馴染みのエリザベートの夫であるフランツ・ヨーゼフの弟が今回、おとりにされそうになったマクシミリアンです。
ルドルフの叔父さんにあたるわけですね。
このマクシミリアンの出生が結構いわくつきで、もちろんゾフィの腹から生まれてきたのですが、父親がフランツとは異なり、フランツ・カール大公ではなく、ライヒシュタット公爵という噂が当時からあったらしく。
父親が違う、つまりハプスブルクの直系の血を引いていないというだけでもかなりスキャンダラスですが、このライヒシュタット公爵というのがいわゆるナポレオン2世にあたるわけでして。
父親がナポレオン1世、そして正当な血族とのつながりが欲しくてナポレオンがジョセフィーヌと離婚して再婚した相手がマリー・ルイーズ。彼女はローマ皇帝フランツ2世を父に持つ正当な皇女様。
だからマクシミリアンがローマ帝国の正当な血を継いでいないわけではないのですが、まあ事情はややこしい。
だからブラッスールも心の中ではナポレオン3世の傀儡であるマクシミリアンのことを侮っていた可能性はあるわけですよね。
そういう描写はなかったけれども、ただ単にブラッスールが自分勝手というだけでもなかったのかもしれません。
もっともドロレス伯爵との対比としてはおもしろいかもしれませんが。
歴史としてはマクシミリアンはメキシコで処刑されてしまいます。
本当、あすくんのブラッスールはよいブラッスールでした。

息子のローランは叶ゆうりでしたが、ショーで見るバリバリの男役!というよりは王子様みたいな役で、カテリーナだけでなく、周りの誰にでも優しそうな人でしたね。
なんだかちょっと新鮮でした。
父親の行為がやりすぎだと気がついていても、自分にとっては父親で、それなりに思い出もあり、政治的なこととなるとなかなか口を挟めない。
交渉の場において父に対してものを言おうとするジェラールを止めるのは、やっぱりそういうことかな、と。
ただ、ここでジェラールが何かを言おうとしたその姿勢はとても大切だと考えています。
もともと上司を鼻でせせら笑うようなキャラクターで、「さすがに炎のようなあの男のことは怖いらしい」みたいな台詞も最初にありました。
けれども、目の前で意見しようとしたのはここが初めてでしたし、だからこそ、ああいうラストになるのでしょう。

ところでこの「炎のような男」というのはいかがでしたかね。
最初の喧嘩をどんぱちチャンバラではなくお金で解決したり(殴ってはいましたが)、無血撤退の交渉の場でも仇を目の前にえらく冷静でしたし、復讐や祖国のために燃え上がる情熱はあったかもしれませんが、どちらかといえば冷静に対処している場面が多く、言葉だけが上滑りしているように感じました。
アルベルトとカテリーナのダンスはそれなりに炎のようだったかもしれませんが、あんまりときめきがないので、ちょっとこの「炎のような」という語には違和感がありました。

古き良き宝塚の脚本、という感じで、もう少し演出の方法はあろうけれども、それほど嫌いではなかったです。
ただやはり公爵を殺すところまでの盛り上がりに比べて、ちょっとラストがあっさりめかな。
国を取り戻すとかそういう系統の話だとああいうふうに大きな風呂敷を広げざるを得ないのかな、どうかな。
『追憶のバルセロナ』がまさにそうですよね。
だからこそ私は『琥珀色の雨』や『メランコリック・ジゴロ』といった個人にフューチャーした作品の方が好きなのかもしれません。

 

そして噂の『MRNS』は想像以上にオリジナル版とは異なっており、しかもそれが想像以上にショッキングだったみたいで、最初の音程から違ったのには「うわお!」と思わず声をあげてしまいました。
配信でよかったです。
とりあえず、何より朝美氏の白い羽根、おめでとうございます。白なのがとてもよい。
ただ羽根はともかく、朝美氏がセンターの新パートはとても嬉しかったものの、前回もそういう場面があってもよかったではないかと思っている身としては、嬉しかっただけに、なぜ前回は無かったのか?と終始考えてしまう。
前回の全国ツアーだって2番手だったからね?

主題歌の歌詞も振付けも新しくて、「お、おう?」と戸惑ってしまい、やはりセンターコンビに対する愛情やときめきって大事なのだなと再認識した限りでございます。
いや、本当ごめんね、咲ちゃん……。
みちるちゃんは大変好みなのですが。

タンゴの場面はそりゃもう眼福だったのですが、『義経』でシズカ役として朝美氏と絡んだ希良々うみちゃんとのコンビが復活していましたね。
あの頃よりだいぶ垢抜けたのでしょうか。
綺麗な娘役さんとして、朝美氏の隣に並んでくれてありがとうございます。
中詰なんかでもよく目に入ってきました。
革命が終わって若者たちのフレッシュなタンゴが素敵でした。

ただでさえ大好きな「サッチャナイ」ですが、もうこれを朝美氏が1人で歌いつないでいくというのは感動以外の何ものでもなくてですね……あの、本当にありがとうございました。
お衣装も爽やかな水色のキラキラストーンがたくさんついた燕尾でよかったです。
お色味は爽やかなのにセクシーさや色気が際立つのはなんででしょうね。最高でした。はあ、好き。
あやなちゃんもせらくん&みちるちゃんの「サッチャナイ」も大好きなのですが、そこのフレッシュさとはなんだか違う夜でした。

ありすちゃんはお歌で大活躍でしたね。フランス貴族のような輪っかのドレスも素敵でした。
デュエダンではカゲソロ、フィナーレはエトワールと美声を響かせてくれて本当にありがとうございます。
できればだいきほ作品の新人公演ヒロインを演じて欲しかったのですが……叶わぬ夢なのかなあ……。
1回くらいチャンスをあげたいところですが。

後半は新場面ジャズはまさかの『THE ENTERTAINER』のお衣装でしたね。私、あのお衣装がとても好きだから嬉しかったです。
何重にもなっているスカート、きらめく白黒金色、ピアノの鍵盤の模様、どれも素敵。みちるちゃん、可愛かったね〜!朝美氏もきまっていましたね〜!

ライブ配信、本当にありがとう。ありがたい、のだが、やはり劇場で見る時と集中力が全然違って、芝居を見た!という気分にあんまりなれないのがつらいところ。
部屋を暗くすればいいのかしら。どうやってみても家だと「ながら」になりがち。
円盤を流すときも同じだけど。

今回の円盤は11月発売ということで、軍服朝美氏とマーキューシオ朝美氏とたまきちと対談する朝美氏がいっぺんに家に来るわけですが。
一週間くらい休みを取らないと追いつかないのでは???という気が今からしている。休みたい。
ずっと見ていたい。見ていられる。

講演会『指揮者・西野淳が語る楽しいミュージカル!』メモ1

朝日カルチャーセンターの「指揮者・西野淳が語る楽しいミュージカル!」の講演会に行って参りました。
とてもおもしろかったです。勉強になりました。
以下、講演会の感想というよりは内容振り返りメモです。

●本格的なミュージカルに出会うきっかけ
生まれも育ちも名古屋。大学を卒業するまでミュージカルには興味が無かった。
大学在学中にテレビかなにかで「ロックオペラオペラ座の怪人』ロンドンで開幕!」というニュースを聞いたときも、クラッシックやオペラの勉強をしている人間としては「オペラとロックを一緒にしてくれるでない。なんてことをしてくれたんだ、アンドリュー!」と思っていたくらいだった。
その自分がまさか10年後劇団四季で『オペラ座の怪人』の指揮をすることになるとは……笑。
竹本泰蔵さんにずっと「弟子にしてください!」と言っていたのに、「友達でいいしゃーん、仲良くしていこう。わからないことは教えるよー」とゆるい感じで、弟子にはしてもらえず、しかしいろいろなことを教わった。
大学を卒業したら、クラッシックやオペラの指揮の勉強をするために、神奈川へ。
そこで竹本さんに「宮本亜門と一緒にミュージカルやるけけれども、一緒にやらない?」と誘われた。
心の中では「クラッシックやオペラの勉強をするために関東に行くのに、ミュージカル?」とも思ったけれども、足を向けてはねれない恩人からのお誘いなので、話を聞くことに。
そのときの作品が大地真央主演の『サウンド・オブ・ミュージック』であり、出演者として竹本さんの口から出てきた五人目の「酒井法子」という言葉を聞いて、心の中ではめちゃめちゃやる気になったとか。
当時のトップアイドルですな、のりピー。そんなわけでミーハー発揮して、たったそれだけのことで受諾。
のりピーがいなかったらミュージカル指揮者になっていなかったかもしれない、というほど。

サウンド・オブ・ミュージック』といえば「エーデルワイス」や「ドレミの歌」なんかが有名。
オペラの曲と比べるとそれらの曲は音が少なくて単純で誰でも覚えやすくてキャッチーでわかりやすい曲。
オペラの指揮がふれるなら、ミュージカルの指揮もふれるだろうと思っていた。
だから、指揮をするのは楽勝だろうって思っていたところがある。
けれども、自分が思っていたのと全然実際は違った。
このあたりはおそらくクラッシックとジャズの表拍と裏拍の違いもあるのでしょうね。
宝塚だと「ラテン(表)→ジャズ(裏)→タンゴ(表)」みたいな曲の並びはレビューやショーのときにしょっちゅうあるのですが、この切り替えがミュージカルでも求められるので、結構難しいのだと思われます。

そもそも違いオペラとミュージカルの違いはなんだろう。
役者がいて、音楽があって、小道具があって、ダンスがあって、観客がいて、というところは同じ。
こうしてみるとほとんど同じ。
『スイニートッド』という作品はいまだにオペラかミュージカルかという論争が繰り広げられている。
しかし音楽で分類しようとするのは難しい。
あえていうなら、ミュージカルは演劇のカテゴリでオペラは音楽のカテゴリなのではないか、と。
例えば「トニー賞」は演劇の賞であるから、オペラの作品がノミネートされたことはない。
もう一つ理由を挙げるとスタッフの序列が違うことが挙げられる。
ミュージカルは「演出家」「指揮者」の順番で、オペラは「指揮者」「演出家」の順番である。
オペラになくてミュージカルにあるものとしてはBGM。
ボールを投げる音の「ヒュー」とかボールをキャッチするときの「ポン」とかいう音はオペラにはない。

ミュージカルの場合、稽古中に音を合わせる。
何小節目にはどんな台詞か?というようなことを2小節とか4小節とか毎、楽譜をメモしていく。
本番では楽譜に書いてあるキーワードよりも早いな、と思ったらテンポを速めるし、遅いなと思ったら遅くするということをする。
役者の芝居に合わせて指揮をふるのが仕事である。
けれども、事はそう簡単なことではない。
例えば「お前○やめろよ、それは!」の○のための部分が日によって異なる。
さらにその後の台詞の後の台詞でまかれるときもある。
ある一つの台詞だけでは指揮のスピードを決めることはできない。
その日の芝居が始まってからの芝居の流れであればこうなるだろう、冒頭の感じからするとこうなるのかな、ここまでの雰囲気だとこういう流れになるかな、といろいろ考えてやっているけれども、正直なところメカニズムはない。
そういう流れを汲み取る能力をもっていないといけない。ざくっといえば「山勘」。
東京芸術大学の人がミュージカルの指揮をふりにきて、一回クビになって戻ってくるということはよくある。
だからちょっとばりかり特殊な才能が必要なのかもしれない。
そういう才能が自分にあったことに感謝している。

●『サウンド・オブ・ミュージック』について
これがミュージカルの指揮者として初の仕事。
座長である大事真央さんに78回公演中77回楽屋に呼び出しされた。
そこで「今日のあのナンバーは遅かった」とか「あのナンバーはもう少しまきで」とか「ちょっと速いのよね」とか、とにかくいろいろ言われて、こちらとしても初の仕事だから、こちらも謝りまくって。
毎回呼び出しされると、さすがに「えーまたー」という気持ちにはなるけれども、言われたことは全部聞いてきたつもり。
千秋楽だけ呼び出しされなかった。毎日ではなく毎公演。2回公演の日は2回呼び出された。

さて3年後、再演があり、初演のときのビデオを見直したところ、「これ、呼び出されても仕方がない」と思った。
初日あけて10日くらいのビデオだと思われる。
つつがなく、ちゃんとやっているように見えるけれども、確かに呼び出されるレベルだと感じた。
けれども、そのビデオをそういう風に反省して見ることができたのは77回呼び出しをされたからである。
再演は名古屋公演の3日目くらいに1回ダメだしの呼び出されたけれども、その後大阪公演の千秋楽まで呼び出しはなかった。
そのときに本当の意味で感謝した。
普通40回くらい呼び出ししたら諦めそうなものなのに、座長としての意気込みもあったのだろうと思われる。
77回の叱咤激励に感謝である。

再演の大阪公演のとき、一回すごい頭が痛くなった日があった。まだ30歳前だったから気合いで無理して指揮をふった。
そのとき、オケのメンバーは誰も気がつかなかった。
けれども1回目の公演が終わったあと、楽屋に真央さんからスポーツドリンクがおいてあった。
楽屋にお礼にいったところ「上から見ていてちょっと体調悪そうだったから」という。
もうそのときから大ファンになってしまった。
今でも会うと緊張する。10何年ぶりかにたまたま宝塚の舞台のが区や裏ですれ違ったときに知らないうちに「きをつけ」の姿勢をしていた。
真央さんは「良かったわよ~」と一言。そこでダメだしされたらどうしようと思ったけれども、そんなことはなかった。

劇団四季美女と野獣
サウンド・オブ・ミュージック』を通じて知り合った人が、塩田明弘さんにつないでくれたらしく、劇団四季の『美女と野獣』の四季をすることになった。
稽古中からいろいろなことを教えてもらって、足を向けて寝られない恩人二人目となる。
ここで今井清隆さん、石丸幹二さんらと始めて仕事をすることになる。
指揮者にとってロングランというのはしんどい。
美女と野獣』も3人くらいで回してした。一人抜けては一人入って……そういうことを繰り返していた。
その中で当時一番年下で、他の仕事がなかったため、一番時間のある自分が2年半の中でもっとも『美女と野獣』の指揮をふった。
おそらく300回とか400回とか。おそらくこの作品で指揮をした数は空前絶後のものになるだろう。

塩田先生からは「毎回新鮮な気持ちで指揮をしなければならない」と教えてもらったが、これがなかなか難しい。
スランプに陥ることもあるし、思うようにオケが動かないこともあるし、自分がうまくふれないときもある。
けれども、自分にとってこれが千秋楽だ!という日になったとき、この演目の指揮をもうしないかもしれない、と思ったら開始からうるうるしてしまった。
これが新鮮という本当の意味なんだなと感じた。
今までもいい加減な気持ちでふっていたわけではないけれども、いかに義務感から「新鮮」をつくっていたのかと思った。
実際は毎回「新鮮な気持ち」になるのは無理ではあるけれども、「新鮮な気持ち」の間違った作り方はわかった。
だから今は違うアプローチをしている。

劇団四季オペラ座の怪人
そして『オペラ座の怪人』の指揮をふることになる。
ここでお世話になったのが上垣聡さん。ここでもいろいろ教えてもらい、恩人三人目。
塩田さんと上垣さんは指揮者の中で東西の両横綱というイメージ。
この人達に追いつけ追い越せで若手の指揮者たちは頑張っているが、なかなか追いつけない……。

オペラ座の怪人』は1年半~2年くらい指揮をふった。
そこでは自分よりも年下の指揮者がいて、お正月は久しぶりに10日も休みがもらえた!のだが。
音楽チーフからお正月に電話があって「東京で指揮ふって」となる。
なぜそんなことが起きたのかといえば、ダブルキャスト、トリプルキャストが当たり前の四季では、新しいキャストが本番を迎えるときに本番前に打ち合わせをするのだが、今回の沢木順さんは一癖も二癖もある。
ものすごく歌をゆらす人で、感情の赴くまま歌う。
若手の指揮者では難しいよ~ということで自分がふることになり、東京に行く。
沢木さんとの打ち合わせは思いのほかスムーズに進んで、これならいけるなと思ったけれども、楽屋に戻ったときオケの人たちが寄ってきて口をそろえて「気をつけた方がいいよ~!打ち合わせと違うことをやるよ~」と言われる。
え~!と思っていて、打ち合わせと違うことをされたらどうしよう、と1幕はめちゃめちゃ集中してやったらどっと疲れた。
けれども2幕では、怪人が顔を黒いマントで隠しながら歌い始める場面がある。ここが肝。
そういうときは動きをつけて音と合わせることが多く、打ち合わせでも確認したけれども、打ち合わせ通りやらない人と聞いているので、その場面が近づいてくると緊張する。
こればかりは指揮者だけではどうしようもない。
そして2幕の例の場面で沢木さんがフリーズした。これでもう合図はないな、と思った。
ずれてもいいや、とええいや!と指揮をふったら偶然ピタリと合った。あのときは良かったー!と心底思った。
それから沢木さんが主演のときはすごく集中して四季をふったけれども、これがまたどっと疲れる。
けれども音楽チーフもオケのみんなも「打ち合わせと違うことをやる人」というので、おそらく指揮者が何を言っても無駄なのだろうと思った。

しかしこれが最後の方では快感になってくる。
ここで芝居の勉強をとてもさせてもらった。演者を見るということについて鍛えられた。
今日はこのテンションで楽屋入りしたから芝居ではこうなるだろう、とかここはちょっと速くなるだろうとか、舞台にたっていないときも、ものすごく観察した。そういうのが勉強になった。

この後四季では指揮をすることがあまりなくなる。
というのもこの後控えている『ライオンキング』の塩田さんにも誘われたのだが、自分が『ライオンキング』に入ると、『オペラ座の怪人』を仕切る人がいなくなってしまう、ということで残念ながら見送ることに。

東宝エリザベート
ウィーンミュージカル、日本では宝塚が初演の『エリザベート』。
ここではタイトルロールのエリザベートを宝塚初演でトートを演じた一路真輝さんが演じた。
トートを演じた山口祐一郎さんとはここで始めて出会った。
祐一郎さんはとてもいい人で、祐一郎さんがメインキャストで演じている芝居を最多で指揮をふっている。
とにかく優しい人で、稽古後、汗をかいて着替えのアンダーシャツを忘れたときに、なぜか祐一郎さんがTシャツをくれた。
祐一郎さんは190センチ、自分は164センチ、サイズが合うはずがないのに、なぜか祐一郎さんはMサイズをくれた。
風邪をひくといけないから、といって。
「クリーニングしてお返しします!」といっても「いいよ、いいよ、あげるよー!」と。
また、風邪をひいたときに成城石井の蜂蜜生姜を冷蔵庫から出してくれたり、息子を連れて行ったら山ほどお菓子をくれる。
これは自分にだけではなくて、誰に対してもそうで、スタッフに対しても大変な気配りをしている。
そんなやさしい人が歌えばすごい! 踊っている姿は……あんまりみたことないけれども、演技ももちろんすごい。

ただちょっと困ったこともある。たまに歌詞を忘れてしまうことが。
エリザベート』でトートのソロ曲「愛と死のロンド」で、最初の歌い出しはよかったけれども、なんだか途中から知らない歌詞になっていき、最後はよく知った歌詞に戻っていくということがあった。
「奪いさるー♪」か「消えさるー♪」かは忘れてしまったけれども、歌詞を作ってしまった。
それを袖で聞いていた一路さんが「私は『さる』じゃないわよ」とおっしゃったとかなんとか。
祐一郎さんは歌詞を忘れても絶対に歌うことをやめない。そこから「作曲大王」みたいなあだなもついた。
ちなみにこの公演は昭和40年生まれの世代が多く、楽屋や稽古中もとても盛り上がった。


とりあえず長くなったので、これでいったん終わり!
ここからは『モーツァルト!』、シアタークリエで初のミュージカル、『三銃士』、宝塚の和物の話になります。

宙組『壮麗帝』感想

宙組公演
オリエンタル・テイル『壮麗帝』

kageki.hankyu.co.jp

作・演出/樫畑 亜依子

ライブ中継を拝見しました。毎度のことながら楽天TVさん、ありがとうございます。
ずんちゃん(桜木みなと)はクラシカルな男役として立派に育っていますね。
動作の終わりに逐一見栄をきっていて、こういうのが好きな人にはたまらんだろうなあ、とぼんやり思いました。
残念ながら私には刺さらないのですが。
ららちゃん(遥羽らら)、そらくん(和希そら)も安定したお芝居と歌でした。
ヒュッレムとイブラヒムとを好演しておりました。
これだけの実力派がそろっているのに、個人的には、これでよかったの……?と思っているのですが、思いのほかファンには好評のようで、良かったです。
私が印象に残っている場面といえばプロローグの白いお衣装でのダンスシーンとスレイマンがイブラヒムを処刑した後のスレイマンの空想のダンスシーンです。
いかんせん脚本に不満があるせいか、むしろ言葉によらない場面の方がずっとよく見えました。
というか、そらくんがもったいないよね、あんなにダンスシーンが少ないなんて……彼はやっぱりショースターなのだなとも思いました。
プログラムがないので詳しいことが全くわからないので、見逃している点もあるかもしれませんが、よくわからない場面が多くあったのは事実です。
以下、ツイッターにもあげましたが、少々辛口のコメントが続きますので、見たくない人は回れ右してね。最後にも書いていますが、偉そうですいません。


『壮麗帝』というタイトルであるならば、そもそもなぜなぜスレイマンが「壮麗帝」と呼ばれることになったのか。
それをちゃんと作品の中で描いてくれないと物足りなくなってしまうのです。
「後に壮麗帝と呼ばれることになったスレイマンについてここに記す」みたいな語りで始まるのだから、彼の治世のどのあたりが「壮麗」であったのかを語らなければいけません。
戦ばかりをしている王が当然「壮麗」と言われるはずがないのですから。
作中ではヒュッレムの希望によって内政を重視することが語られていますが、具体的にどうだったということは、ヒュッレムの口から「町に学校ができた」程度しか語られません。
市場の場面でもキリスト教(異教徒)がせっかく商売をしているのだから、「税金を下げた」ことだけでなく、「異教徒でもイスラム教圏内で商いをする許可がおりた」ことなどももう少し描き込むことができたのではないでしょうか。
ちなみに市場の場面で「一杯だけだぞ」とお酒を匂わすようなフレーズがありましたが、イスラム教徒はお酒はアウトなのでは……?
『クルン○ープ』のときも似たようなことを思った記憶があります。

皇帝のお衣装が豪華なのは大変に眼福で良かったのですが、あまり物語の進行との関わりが見えてこないのも残念でした。
例えばヒュッレムは「奴隷としての衣装」「ハレムでの衣装」「公の場での衣装」「年をとってからの衣装」とある程度区分された上でさまざまなお着替えをされていましたが、スレイマンの着替えにはそういうことが見えてこない。
豪華ならいいというわけではないでしょう。
衣装といえばもう一人、サファヴィー朝の新しい王様のお衣装もあれでよかったのでしょうか。
最初、上半身しか画面に映らなかったので、「えらいヤンキースタイルやな!?」と思ってしまいました。
レイマンの衣装、一着さしあげたらどうだろうと思うほどです。

音楽も好きだと言っている人が多くいましたが、イスラムの曲としていかがなものだろうか、というのは1ベルのあとに、アナウンスの前に流れた謎の音楽からもうかがえます。
開演アナウンスの前に入るのだから、当然物語世界へと誘う音楽でなければいけないと思うのですが、オスマンっぽいメロディーとは到底思われない(もっとも『金色の砂漠』のオープニング曲もオリエンタリズムとは違うかなと思ったけれども)。
作中で使われている音楽も同様ですし、せっかくソロ曲のあるアフメトはこってぃ(鷹翔千空)が歌うのだから、それは期待していたのに、なぜか突然ロックですし……音楽によって世界を構築する、世界観を統一するということはわりと初歩的なことだと思うのですが。
いや、こってぃの歌はすごく良かったんですよ?!
アフメトの人物像もあれでよかったのか?という謎は大変に残ります。
なんか、もうちょっと奥行きのある描き方ができなかったのでしょうか。

ヒュッレムを大変知性的な女性として描いたのは良かったのですが、見る人が見ればスレイマンを操って自分の思い通りの政治をさせている悪女にも見えてしまうのではないでしょうか。
もちろんヒュッレムにそういう意図がないのはわかるのですが、腹心の言葉よりも寵姫の言葉を優先して政治を行うという有様はそうもとられかねません。
そしてヒュッレムが知性的であるだけで、女性としてスレイマンのどこに惹かれたのか、というのがいまいちよくわからないのももやもやの原因でした。
別にヒュッレムは「自分が妃になりたい」とか「自分の子供を王位につけたい」とか考えているわけではないのだから、子供が5人もできるということはそれなりにヒュッレムもスレイマンを愛していたのだろうけれども、自分の言葉を聞き入れて政治をしてくれていること以外に惹かれるポイントは一体どこにあったのだろうか、と。
単なる顔が好みだっただけかもしれませんが、それならそれで初めて会ったときにもうちょっと恋に落ちるような演出があってもよさそうなものですし、何なんだ……と始終おいてけぼりでした。泣いちゃう。

ヒュッレムのいう「親兄弟で国を平和に治める」というのもとてもいいのですが、それならスレイマンの兄の描写をもっとしたらどうだろうとも思います。
最初に台詞でちょっと出てきただけで、次には処刑されていて、イブラヒムを処刑したあとのスレイマンの空想に出てきてはまた殺されるという役どころでしたが、仲が良かったことをもっと描き込めばよかったのではないでしょうか。
レイマンとイブラヒムの固い絆でさえ、ちょっと描き込みが足りないのでは?と思ったクチですから(『はばたけ黄金の翼よ』のヴィットリオとファルコよりはあったかもしれませんが)、スレイマンと兄とのエピソードはもっと欲しかったです。

マヒデブランがヒュッレムを毒殺しようとした場面は『源氏物語』の弘徽殿女御と桐壺更衣のようであったし、スレイマンとヒュッレムの最後の散策場面は源氏の君と臨終前の紫の上のようであったことは大変におもしろかったのですが、毒殺計画をしったハレムのお嬢さんが果物ナイフで同じく毒殺計画をしった女官を殺したことには本当に意味があったのか……あれで追放されて以来、全く音沙汰なかったじゃないですか……追放されるのはわかるのですが、その演出の意味を問いたい。
女官が無駄死にだったようにさえ感じてしまう。
ハレムのドロドロを描くのなら、もっとハレムの場面が必要でしょうし、そうでないなら、このお嬢さんの設定そのものに問題があるのではないかとさえ思ってしまいます。

語り部がいることもあり、ぶつぶつ場面が切れるのもね……集中も切れますよ。
近年だと『壬生義○伝』もそんな感じでしたが(あれほどひどくはないが)、『金色の砂漠』や『鎌足』みたいにもっとうまくやれないものですかね。
良い例が同じ劇団があるのだからもうちょっと学ぼうと思えば学べるような気もするのですが。

 

遠い地においやられたムスタファ(ところで彼の後見は誰だったのだろう……)は、ヒュッレムの長男が亡くなると王位継承権を求めて軍を動かしますが、中央にいない彼がなぜそれほどまでに人を集めることができたのか。
それはイブラヒムの軍隊が、出自を問わず、たとえ奴隷であったとしても力のあるものを集め、私兵の傭兵としたからであって、つまり大変に指示が通りやすい人間たちを使っていたために、成果も上げやすく、それに対して世襲貴族、世襲軍人たちが大変な反感を持っていたからなのでしょうけれども、スレイマンに対する不満の描き方も微妙……。

イブラヒムはヨーロッパ制圧に精を出していますが、彼がなぜそれほどまでにヨーロッパにこだわるのか、自分の出身地だからか、ハンガリーは言葉だけで制圧されたけれども、あのあとヨーロッパとの関わりの中でどうなったのか、ということがあまり見えてこないのも残念。
私の見逃しかも知れませんが。
イブラヒムがヒュッレムをスレイマンの指示通り「女官」ではなく、「ハレム」に入れたことにももっと意味があると思うのですよ。
それなのに「私の評価が高くなれば、後見のあなたも嬉しいでしょう」とヒュッレムに言わせておしまい。
後見としてイブラヒムがもっとヒュッレムに何かを言っても良かったと思うけれども、それだとイブラヒムとヒュッレムの決裂が描けないのか……?
それでいてサファヴィー朝の罠にはまったときには、スレイマンとイブラヒムが共闘してしまうし。
「おいおい」と思わず口に出てしまったよ。

ヒュッレムの最期にスレイマンは「私たちのモスクを建てている。そこで一緒に眠ろう」といいます。
モスクはイスラム教徒にとってお祈りの場所であり、そのほかに霊廟としての役割を担っているので、モスクで眠るのはわかるのですが、そもそも作中においてモスクってそんなに大切な場所、建物として描かれていたでしょうか。
市場のある町中で眠った方がヒュッレムは嬉しいのではないかと思ってしまうのは私の気のせいでしょうか。
もちろんキーワードである夕日はわかるのですが、それだって町で見たじゃないと思ってしまう。

全体的に偉そうで本当にすいません。繰り返し見たら溶ける解ける謎だといいのだけれども、そもそも繰り返し見るだけの気力があるかと聞かれればそれも難しくてなんだか出演者に申し訳ない気分になってしまったよ。

『壮麗帝』からの流れで1991年の大浦みずき主演の『ヴェネチアの紋章』を見たのですが、これがまたイイ!
いっそ、今回はこちらを手直しして再演でもよかったのでは?と思うくらい。
別にこの作品でなくてもいいのだけれども、樫畑先生は柴田先生や菊田先生といった既存の脚本の再演の演出を一度手掛けてみたらいいがだろうか。
キャラクターを作る能力はあると思うのですが、話を作ったり、それを演出したりするのが苦手なようなので。
そしてもう一回り大きくなったところで再度オリジナル作品にとりかかっていただければ幸いかと。