ゆきこの部屋

宝塚やミュージカル、映画など好きなものについて語るところ。

花組『ENCHANTEMENT-華麗なる香水-』感想

花組公演

タカラヅカ・スペクタキュラー

『ENCHANTEMENT(アンシャントマン) -華麗なる香水(パルファン)-』
作・演出/野口幸作

お芝居『うたかたの恋』の感想はこちら。

yukiko221b.hatenablog.com

一度、休演になってしまいましたが、19日から公演再開、21日の今日のマチネ公演からは休演者も復活ということで、おめでとうございます。どうかどうか、このまま30日まで走りきれますように。本当に頼むよ、私のチケットもなくなってしまったのだよ。新人公演までもがああああ……っ!><
まあ、言うても詮無きことです。これに関してはジェンヌたちは誰も悪くない。悪いのはコロナとその対策をろくにしない政府です。

私は野口センセの星組『THE ENTERTAINER』が大好きです。デビュー作ですね。雪組の『SV』は、嫌いではないのですが、しょうくん(彩凪翔)とあーさ(朝美絢)のいわゆるアイドル場面が録音と知ってからはちょっと心が離れている感じ……花組の『BG』も、全体的には好きなのですが、中詰でタカラジェンヌに「生足ヘソ出しマーメード♪』と歌わせる神経は疑いました、ええ心の底から。宙組の『デリシュー!』は盲目の少女の扱いが気になるものの全体的には好きでした。ちなみに雪組『ODYSSEY』は全く乗りこなすことはできませんでした。
そして今回の花組は王道のレビューという感じが強かったです。直前に見た星組ジャガビー』が反則ワザが多かったからかもしれませんが(笑)、大変見やすいショーでした。初心者にはとても見やすいと思うので、芝居ともども宝塚を始めて見る人におすすめの二本立てだと思いました。

オープニング、まさかのゴンドラではなかった調香師のれいちゃん(柚香光)はセンターセリ上がり。エイトシャルマントにまる(美空真瑠)がおりましたね! テンションあがる!
そしてプロローグの最初の銀橋渡りにあわちゃん(美羽愛)がいたことはもう感動でございました。ありがとう、野口センセ!
プロローグ銀橋渡りの娘役は、かがりり(華雅りりか)、うらら(春妃うらら)、ここちゃん(都姫ここ)、あわちゃん、みさきちゃん(星空美咲)の五人。このうち、かがりりとここちゃんが今回で退団。なんだかな……上級生娘役があまりにもいなさすぎるのが心配になります。どの組もそういう印象がありますが、花組は特に。公演スチール写真の有無とか、どうやって決めているのだろう、本当に娘役、少ないんだよ。

こういうザ☆ロイヤル貴族!という衣装もとてもいい。男役のリボンタイ、とてもいい。私はこういう衣装のしぃちゃん(和海そう)にめっぽう弱いのです。もう、本当に、好き……っ! 歌手起用、本当にありがとうございます。
ムスクの場面や『元禄』のイケイケみたいなキャラも好きだけど、ああいうのを見ると「あー!お客様!落ち着いて下さいー!お着替えを!お着替えを!」という感じになってしまう。あのカリ様(煌羽レオ)のピンク髪青Tシャツのときもそんな感じだったから、性癖に刺さっていることは間違いないんだろうけどな。見ているとドキドキしすぎるからヤバいのだろう、わかる。

くるくる回る大きな舞台装置にタカラジェンヌを乗せるのは、野口センセのお家芸なのでしょうか。いや、嫌いじゃないけどね。みんな見えるからね。THE☆大劇場っていう感じもするし。でも、だからこそ、野口センセのショーはなかなか全国ツアーなどの地方公演ではなかなか採用されないのかな、と思ってみたり。
それだけが理由なら、ちょっともったいないような気もします。

お次はラインダンス。「シトラス・ビューティーA」のらいと(希波らいと)がデカいのなんのって……っ! こりゃすごい! たまげた! ヒールを履いていることもあるのでしょうが、とにかく大きいんだよ。
シトラス・ボーイのひとこ(永久輝せあ)、ほってぃ(帆純まひろ)、あすか(聖乃あすか)、はなこ(一之瀬航季)、だいや(侑輝大弥)の五人よりもさらにデカい。目立つなースターだなーという感じがする。ラインダンスの真ん中も圧巻でした。
らいとのルドルフが、どうしても見たいので、東京では頼むから新人公演が上演できますように。心の底からお願いする。ホント、頼むで……!
ラインダンスは小さい娘役大好きな私としてはいつも一番端を見てしまう。上手のゆめちゃん(初音夢)、ゆかりちゃん(真澄ゆかり)、下手のひめかちゃん(湖春ひめ花)、みんなみんな可愛いです。
ゆりかちゃんは前回のバウ『殉情』で幼少期の春琴をAチーム、Bチームともに演じた娘役。期待が高まります。見つけられてよかった!

「葡萄」畑で美男美女の「舞踏」会みたいな場面のセンターはまいてぃ(水美舞斗)。なんで、まいてぃ、専科に行ってしまうん?と節子の無邪気さで問いたい。もちろん実力としては申し分ないのですが、キャラクターとしてはチームの中で力を発揮するタイプではなかろうかと思ってしまうのです。
そしてここのまいてぃの相手役はまさかのあすか。いや、まさかもなにも『歌劇』「座談会」を読んでいたから知ってはいたけれども、あの場面だったら別にあすかが演じる必要はなかったのではないか、と正直思ってしまった。劇団からの要請なのか、野口センセの趣味なのかはわかりませんが、なんだかなー……娘役を育てる気持ちはないんかい!と思ってしまったよ。育てないと駄目でしょう。
それは歌手起用を見ても同じことがいえるかな。組長(美風舞良)、副組長(航琉ひびき)、ビッグ(羽立光来)、おいとちゃん(糸月雪羽)が歌えることはみんな知っているよ。うん、美声でよかったけどね。
こちらもタカラジェンヌに非はないでしょう。

ニューヨークであらゆる種類の香水瓶を手にした娘役ちゃんたちは、どれもソーキュート!で目が足りないいいい!!!><という感じでしたが、本当もう、みんな可愛い……私ついあわちゃんを見てしまうけど、新人公演ヒロインのはづきちゃん(七彩はづき)もここでちゃんと認識したのよ。東京は絶対にやろうね。
みさこ(美里玲菜)はやはり大きいなあ……華がある。好き。もうちょっと役付きがよくなるといいのですが。
で、この場面で文句を言いたいのはさ、マリリン・モンローに扮したまどか(星風まどか)の、あの風でスカートをあおるシーン、本当に必要でしたか?
私は、絶対にいらなかったと思う。だって、そもそも役名も「NYCガールS」なんだよ? 「マリリン・モンロー」ではないんだよ? あれ、どういう気持ちで女性が見ているのか、わかる?
マリリン自身は、靴のヒールを斜めに削って歩くとお尻が揺れて色っぽく見える、ということを実践した一方で、少しでも知識や知恵を身につけようとすると「女はバカな方がいい」と言われ続けてきたような、そういう女性だよ? そりゃ鬱にもなるし、ヤクにも手を出さずにはいられなかろうと思ってしまうわ。
私はものすごくこの場面が嫌だった。そういう目的で宝塚を見ている男性が一定数いることもわかっているから、本当に、心底、腹が立った。絶対にいらん。やめてくれ。セクハラ・パワハラで最近問題になったばかりですよね、劇団。しっかりしてくれよ……。
ダンスそのものも、それ『TOP HAT』で見たヤツ、と思ってしまった。

そして中詰のオリエンタル。なんとなく『Dream Chaser』のカンフー中詰ブルーの場面を思い出しましたが、ノリとしては同じということでしいのかな。ただし、こちらのお衣装は赤。
ここも娘役の衣装が好きだったなー。胸のあたりが逆さのハートマークみたいな形で空いているの、可愛いんですよね。スリットも入っていて良き! すみれちゃん(詩希すみれ)可愛かったな。彼女も、もうちょっと出番があるといいのだけれど。
スケスケの扇は軽くて、軽すぎて少し扱いにくいのでは?と思いましたが、扇が今流行っているのでしょうかね。『グランカンタン』でも見ましたし、『蒼穹』のフィナーレでもありました。もっとも、野口センセの場合、一緒に踊れるグッズを!という頭もあるかもしれませんが。
前回のショーで反省したのか、今回はわりと安価かつ実用性も備えたグッズになっていましたね。しかし、もうこれも飽きたよ……という感じです。
あわちゃんは、もう常に前列にいる感じで、探すというほどでもなくなりましたね。しかし、映像化するときはセンターの後ろ二列目とかがよく映るんだよな……という葛藤もある。やはり舞台は生で見なければ、という気持ちになってしまって、大変いけない。
「オリエンタルの美女A」はプロローグの5人に加えてことのちゃん(朝葉ことの)の6人。バウヒロインの成果でしょう。

シーソルトの場面では、みさきちゃんを中心に、新人公演世代の下級生娘役たちが銀橋を渡ります。これは画期的だった。画期的だったがゆえに、ダブルセンターでもよかったのではないかとさえ思った。
さきちゃん、劇団が二番手娘役にしたいのはわかるんだけどね……このメンバーなら、もはや誰がセンターでもええやんと思ってしまった次第です、すいません。
ここちゃんとあわちゃんの同期シンメは可愛かったです。104期生もどんんどん退団していってしまって淋しい……とジーンとしてしまいました。
みこちゃん(愛蘭みこ)も可愛い―! ヒュー! 新人公演のミリー、めっちゃ楽しみにしています。ちょっとヤンチャなミリーになりそうです。
男役も出てきてペアダンス。あわちゃんはらいとと一緒。このコンビ、私にとっては『元禄』新人公演を思い出させて、非常に嬉しいコンビでした。頼むよ! どこかに映像残ってないの!? 雪組『ワンス』の新人公演みたいな番組を、こちらでも、何卒! ぜひに……っ! 死ぬに死ねないよ!

ムスクは男役たちの怪しいナイトクラブ。葡萄畑の舞踏会の男役バージョン。ちょっとコンセプトが似たり寄ったりになっていないか……と思ってしまった。あえていえば、ナイトメアの存在があることが特徴かな。副組長、ビッグ、そして峰果とわ、三人ともさすがでした。
そして存在感を表すトナカイ。鹿?という話もありましたが、なんか、あの感じ、私にはトナカイに見えました。鷲といい、大きな動物の装置が出てくる二本立てですな。でも「ムスク」の香りはジャコウジカからとれるものだから、やはり鹿なのだろうな。雄鹿の睾丸から分泌されるのがムスクの香り。
ほってぃとはなこがシンメ、だいやとらいとがシンメ、わかりやすい。だから初心者にも見やすいのでしょう。それがスターのファンにとってどうかは、またちょっと別の問題なのかもしれませんが。だって、本当にいつもこれじゃん。どの場面もこれで、いわゆるピックアップみたいなのがない。そう、しかしだからこそ見やすいとも言える……。

そして、ANGELまどかが! あーちゃん(綺咲愛里)が『キラル』で一瞬だけ来た、ブルーの星のドレスを着てくれた……っ! 嬉しい! あのドレス、本当に好きだったんだ! それなのに、出てきたのが一瞬すぎて、淋しかったんだ! めちゃんこ可愛いよね、あれ!
はばまい(音彩唯)好きな友人は「ティティス!」と喜んでいました。うん、ちょっと違うドレスだったけどね? まあ、いいか。
あのドレスで堂々と銀橋を渡ったり、大階段を降りてきたりしているまどかを見て、本当にすばらしいと思いました。下級生の娘役ちゃんたちはぜひ見習ってね。
THE STARのれいちゃんの踊りはさすがだったなー。もちろんどのダンスも素敵だったんだけど、ここのダンスの身体の使い方で表現される物語が私はとても好きでした。「ダイナミックに踊る」と公演プログラムの解説をまさに体現していました。

アイドル場面のシンメも学年順で相変わらずな感じでした。まるが入ってくるのは嬉しい。そしてまるは今回のショーで出番が飛躍的に増えたせいなのか、出てきたばかりなのに汗が!?みたいなことが何回かあって、裏での準備の忙しさに思いを馳せました。慣れもあることでしょう。頑張って!

フィナーレの淑女と踊るのはれいちゃんでしたが、ここはまいてぃでもよかったかな、とよこしまなことを思ってしまいました。組子の娘役に囲まれて踊るまいてぃが見たかったんだよ、私は。最後だから……ぐすん。
パレードの階段降りはとにかく忙しかった印象。上手下手と4人ずつ降りてきて、あっという間に終わってしまった。つまり、ここまでが詰め込みすぎということなのでしょう。下級生娘役ウォッチャーとしては淋しかったかな。
あと、娘役の階段降りが少なくて……少ないっていうか、エトワールとまどかだけってどうなの……かがりりが歌はなくてもセンター降りしていたようですが、なんせ超忙しいパレードだったから、私は最初、見逃してしまった。その上、次のチケットもとんでしまった。肉眼では確認ならず、というところかな……すんすん。

どうか無事に東京千秋楽まで突っ走れますように。休演も休演者も出しませんように。どうか、どうか! ちなみに私の香水は「ジョーマローン」です!!!

花組『うたかたの恋』感想

花組公演

ミュージカル・ロマン『うたかたの恋
原作/クロード・アネ
脚本/柴田侑宏
潤色・演出/小柳奈穂子

今年も「あけましておめでとうございます」の開演アナウンスを聞いて、一年の健康を約束された気分になりました。ありがとう、れいちゃん(柚香光)。私の初詣です。
最初に花組で『うたかたの恋』が決まったときは、「再演……」「すでに見た気もする……」「役が少ない……」と後ろ向きな気分で、唯一の救いといえば潤色・演出が小柳先生であることかな、というところでしたが、先行画像やチラシが出ると、「お、おお?! これは今までとひと味違う、かな?」「セピア色! 永遠に色あせぬセピア色の化石ともなれ!@ベルばら」などと期待が高まり、フライング歌劇の「座談会」では、これはいよいよ新作ばりの期待ができるのでは!?と胸躍り、途中で「ぶたかたの恋」に邪魔されながらも(おいしくいただきました・笑)非常に楽しく観劇することができました。ありがとうございます、ありがとうございます。花組、ありがとうございます。小柳先生、本当にありがとうございます。

私はそもそも「宝塚は新作当て書きオリジナル主義」であり、例えば新作といえば『ディミトリ』のような原作付きのものでさえ、「オリジナ、ル……?」みたいな人なので、再演にはそら当然厳しいです。宝塚の本場の大劇場公演で再演なんて、よほどの意味や理由がなければ納得できないという面倒くさいファンです。だから再演する意味がわかった星組『エルベ』はとても買っている一方で、去年の月組の『ギャツビー』はあまり買えなかった(しかも一本物でショーもついていない)。
ただ、去年の11月に芸能の在る処の講演会を聞いたことで、「再演=作品のストック、アーカイブを増やす」という考え方もあるのは非常によく理解できたので、これはこれで大切にしなければならないというのもわかる。
とはいえ、花組はすでに全国ツアーで『哀しみのコルドバ』『フィレンツェに燃える』と柴田作品の再演を繰り返していて、しかもその再演というのが「潤色して、演出家! 仕事して!」「潤色の意気込みは買うけど、でもその方向性あってる?!」みたいな感じで、ツッコミ疲れも起こしていました。勝手な話ですが。
思えば花組は本公演は今までオリジナル作品が多くて(しかも『アウグストゥス』以外はわりと良作)、別箱は再演ものが続いていますね。『殉情』も『TOP HAT』『銀ちゃんの恋』も再演でした。

でも!!! さすがです!!! 小柳先生!!!
今回は潤色が非常に功を奏していたと思います。「ルドルフがマリーとの出会いを通して自殺する話」という骨格はそのままに、その他、今の花組のスターに合わせてキャラクターや場面を書き足したり、既存のキャラクターでもセリフを増やしたり減らしたりして、上手にバランスをとっていたと思います。
もちろん、相変わらず場転が多い、幕前芝居が多い、娘役二番手のミリーでさえあの出番の少なさ……と思わないわけではないんですけれども、今までの『うたかたの恋』の再演の、どれよりも時代や組子に合わせた潤色がされていて、もう最高だよ!と思いました。
新しい意味での「宝塚らしさ」の創造に成功したのではないでしょうか。そう、まさに現代の初心者に勧めたいと思う作品になっていたのです。だからこれを修学旅行生とか学生団体が見るのはとてもとても良いことだと思います。

今回、演出助手に竹田悠一郞先生が入っていました。とても勉強になったのではないでしょうか。
むしろ、この潤色の仕事をしたあとに『殉情』の潤色をした方が良かったのではないかと思うくらいです。それくらい意味のある潤色だったと思います。
デビュー作『Prince of Roses』、前回の『殉情』とすっかり花組担当の様子ですが、次のまいてぃ(水美舞斗)のディナーショーも楽しみにしています(それにしてもチームワークで力を発揮するタイプの彼女を専科に送るとは何事……いや、退団せずに残ってくれるのはありがたいことなんだけど……もやる)。
ちなみにショーには平松結有先生、佐野剛基先生とまだデビューされていない先生の名前が演出助手に掲載されていました。こちらも合わせて楽しみです。

小柳先生が公演プログラムで、本作品は「極めて政治的な話」でもあり、さらに柴田先生が「心に残った風景」として「玉音放送を聞いた焼け野原の駅前の風景」と答えていることを挙げ、「愛というテーマはもう一つ深いレベルで立ち向かうべきテーマ」と述べているのが非常に印象的です。
なるほど、確かに政治的なニュアンスは以前よりも作品全体を覆っているように思えました(そしてそれを現代でやる意味はもはや論じるまでもないでしょう)。政治的なニュアンスは「羽ばたく」というような台詞に集約されていたと思います。
「新しい皇帝をいただかないと、ハプスブルクは羽ばたけない」「ハプスブルクを出るに羽はばたく力をくれる可愛い恋人が必要」という台詞が印象に残ったのです(結構うろ覚えです、すいません)。ハプスブルクだけでなく、個人にも使われていたような気がしますが、いまいち記憶が曖昧です、重ねてすいません。でもとにかくそのワードが印象深かったんですよね。
さらに大劇場ならではなのでしょう、大きな双頭の鷲が舞台奥にどん!と控えている、というよりは鎮座ましましている。オーストリアハプスブルクという重責がいかほどのものなのか、その十字架の重量感を視覚にも訴えかけてくる。これぞ舞台芸術、ブラボー!なのである。
そして新しく付け加えられた第12場の場面。タイトルは「双頭の鷲」とある。ジャンとミリーが上手から出てきて、主要キャストがグループ分けされて回る盆の上に並ぶ。やがて上手からフェルディナンド大公、下手からその恋人であるソフィーが登場、背景にはもちろん大きな双頭の鷲が飾られている。この場面の最後には「鷲が羽ばたいた」と台詞か歌詞か、とにかくそんなことが言われる。
公演プログラムには「未来への希望が閉ざされ、絶望に陥るルドルフ。ハプスブルクの運命も大きく動こうとしていた。」とあり、「鷲が羽ばたく」ことで、「運命が動く」ことが象徴されている。でもその運命は、ルドルフにとっては「死」を意味していたし、一方でジャンにとってはミリーとの本格的な結婚生活(すでに同居はしているようですがw)、フェルディナンド大公にとっては王冠を手にすることを意味していた。三者三様、羽ばたく方向が違っているのがおもしろい。
この象徴的な場面、私はとても好きでした。今回の再演の意味がつまっているように感じられました。

実は今までの『うたかたの恋』で、マリーが最後につぶやく思い出の数々、たとえば「私たちのあのワルツ」とか「サファイアの指輪」とかはわかるんですが、「三日月の髪飾り」とか「朝の匂い」とか一体いつの間に!?と唐突感が否めなかったんですよね。
でも今回は、ちゃんとそれが納得できた。舞台では描かれていないけれども、ルドルフとマリーの間には確かにそういう時間があったという説得力が今まで見た『うたかたの恋』のどれよりもあった。奥行きが感じられた。私にとってはそれが何よりも収穫でした。

れいちゃんがまたね、不吉な影を背負っている感じの演技がうまいんだな、これが。
もう出てきた瞬間「あ、こいつ、死ぬな」って思えるし、「マリー、その男はやめておけ」って全力で思うし、ヤケ酒飲んでも、女を口説いても、気分が晴れないんだな、それくらいハプスブルクって重いんだなと感じられるし、マリーを殺したくないけれども、殺して、自分も死ぬというあの流れは圧巻でしたね、さすがだわ。
酒を飲んでいてもつらい。女を逢瀬を重ねてもつらい。正妻であるステファニーはもちろん重い。厳格な父とは話が合わず、美貌の母は逃避の名人。ジャンを見ればうらやましくなり、フェルディナンドまでもが身分に縛られない可愛い恋人を連れてくる。目に映るもの、耳に聞こえるもの、すべてが不愉快であったその中で、マリーだけは何一つそういったものを背負わずに存在していたのでしょう。まさに天使。

マリーのまどか(星風まどか)は、そりゃ天使ですわ。ちょっと大きいけど、天使であることに違いはないですわ、なんせ2グラムですからね。マジで天使じゃん。
だいぶ高い声、可愛らしい声、幼い声を出しているようで、後半の喉が心配されますが、黙っているとちょっとマリーにしては大人びてしまうからでしょう。ラストのうたた寝の場面は台詞がないと「いやに大人びたマリーだな?」とまで思いました。マリーを演じるギリギリの成熟具合であったということでしょう。
衣装もどれも素敵だった。もう着せ替え人形マリーだった。すばらしかった。最初の白も、舞踏会のピンクも、ルドルフと逢い引きするときのラベンダーも、山荘での赤も、ラストの花嫁衣装も全部全部可愛かった。
ただラストのベッドはシングルベッドだったような気がするのですが、あれはあれでいいのか? 今までツインだったような気がするのですが、一緒に山荘に来ているホヨスやフィリップがルドルフとマリーの関係を知らないわけではないだろうし、ロシェックやブラットフィッシュに隠す理由もないでしょうに、なぜシングルベッド、まさかそんな狭いベッドで二人はいつもいちゃついていたのか。もっとも30歳のおっさんと16歳のお嬢さんは犯罪だろ、と思ってしまうけれども。これが25歳と40歳なら、大人の分別のある二人の判断だとも思えるのですがね。まあ20歳年上のスパダリがいる私が何を言ってもこのあたりは説得力に欠けるわな。
ヴェッツェラ邸のジェシカ(美風舞良)とのやりとり(「あら、ばあや、いつまでくっついているの? 私はもう平気よ!」など)はもうちょっと観客が笑えるようになるといいかな。あそこも難しいのよね、どかん!と笑いが起こるような場面ではないけれども、うまくやればくすりとなる。
同じことがマリーとロシェックの場面にもいえるでしょう。エリサベートが来るのがかわって、ロシェックがマリーを隠すところです。今回ロシェック(航琉ひびき)はだいぶ役作りを変えてきましたが、この場面もうまくやればもうちょっと笑える場面になるでしょう。
まあ、笑いが全てではないですけどね! そういう芝居でもないし。

ジャンのまいてぃは気性の激しい一面がありながらも好青年かつ狂言回しというポジションを上手に演じておりました。いや、この人も芝居がうまいんだよ、知っているよ。そんなの前回の『巡礼の年』でいやというほど知っているよ、と思ったけれども、やっぱりうまいですね。
劇団がどう育てたいのか、将来的にどうなって欲しいのかが全く分からないのが一番つらいところであって、彼女のもっている能力や技術はおしなべて高い。うまく生かしてくれよ、劇団!
ジャンに常に寄り添うミリーは星空美咲。二番手娘役としてめきめきと力をつけてきています。

大きく書き足されたフェルディナン大公はひとこ(永久輝せあ)。ルドルフの山荘にやってくるフェルディナンはどんな気持ちだったのでしょう、他の兵士がいる前では「取り囲んでいます。逃げられませんよ」と言う一方で、ルドルフと二人きりになったときは「○○から逃げられます」(具体的な場所は聞き逃した……ッ!)と彼を生かそうとする。一体、それをどんな気持ちであなたという人は……っ!
フリードリヒ公爵に「なぜ父上が周りの反対を押し切って母上と結婚できたか、わかりますか。彼が皇帝だったからです。あなたが皇帝にならない限り、あの女性との未来はない」みたいなことを言われて、ここまで兵隊をつれて来ちゃったのねー!と思う一方で、やっぱりルドルフには友人として生きて欲しいんじゃんかよ!つらいな、その立場!とドキドキしちゃうわけですね。
なんぜ再演で新しく書き足されたことが多いから、どうなるの!?と手に汗を握ってしまうんですよね。再演でもこう思って見られるって本当に幸せなことだと思うの、ありがとう小柳先生。

ひとこフェルディナンの可愛い恋人ソフィー・ホテックはあわちゃん(美羽愛)。主要キャラの中では、新しいキャラクターです。ソフィーとしての出番は2回しかありませんが、どちらも要所であり、ルドルフを死に駆り立てる要因にもなっている。大事な役どころです。
今までにいなかったキャラクターを、観客になじみのある世界観で演じるというのはどういった緊張感がありますでしょうか。手本がありすぎても混乱しそうですが、全くないというのも途方に暮れてしまいそうです。
しかし、そこは芝居の人あわちゃん。さすがでした。プラーター公園では、脚本にある台詞はそれほど多くないものの、日々のアドリブを楽しそうに演じております。
おもちゃのティアラをつけて、もう一つのティアラをフェルディナンにつけようとするソフィーは、別に本当に皇帝皇后の地位をのぞんでいるわけではないのでしょうけれども、無邪気で愛らしく、マリーに通じるものがあるなと思いましたし、最後の花嫁衣装のマリーがティアラをつけているものだから、これまたグッとくるんですよね……っ! たまらん!
電車や人形、ブレスレットなどのアドリブの報告を聞いていますが、今後も楽しみです。

赤毛にラベンダーのドレスというヴィジュアルも素敵でした! 好き! ひとこがまた舞台写真に選んでくれることを祈ります!
こちらが愛らしさ全開のソフィーであるのに対して、2回目の象徴的な場面では大勢がいる中で情感たっぷりに踊り、歌い、今から「ハプスブルクの運命が羽ばたく」ことを予感させる佇まいでした。美しい、ブラボー!なのである。
スチール入りもおめでとうございます。もちろん、買いました。四つ切りまで(笑)。
ツイッターではあわちゃんのスチール入りのお祝いをしているツイートに「いいね!」を押し続けるなど、大変迷惑な女でした。嬉しい! ついでに劇場の卵にも入れてやって! 2つ空いていたの、知ってるんだからね!(ひそかに『舞姫』か『鴛鴦歌合戦』のあと組替えなのでは……と思っている)
プロローグの踊る女ではピンクのドレス! これが! めちゃめちゃ! 可愛いんだな!!!
いかにもTHE宝塚の娘役!って感じで、たまらん。よく似合っている。カツラも最高だった。

ルドルフの母・エリザベートのかがりり(華雅りりか)はすばらしかったですね。出番は多くないけれども、集大成という感じがしました。
ピストルの音の後、彼女の姿で「あなたね~息子を奪った~♪」というシシィが見えました。圧巻でした。マリーとの鉢合わせの場面も皇帝に「せめてもう一度」とルドルフの願いを後押しする場面も良かったです。退団しないで欲しいけれども、退団が納得できる佇まいでした。
ルドルフの政略結婚相手・ステファニーはうららちゃん(春妃うらら)。こちらも良かった。すばらしかった。最初から不機嫌なの、わかりみが深いし、そう、別にルドルフを愛しているわけではないのだろうけれども、でも夫が女遊びをしていい顔できる妻なんか、この世にはいねぇよって話で。
マリーをにらみつけて、一言言ってやろう!と意気込んでいたのに、ジャンに邪魔されて踊る羽目になり、それでも視線はマリーを捉えて離さない、あの執着っぷりよ! だってそうよ、二人の間は冷め切ってはいるけれども、とりあえず娘までいる仲なんだからね! 王位継承権とかいろいろ面倒な問題は起こしたくないし、こっちは祖国ベルギー背負ってきてるんだからな! そう簡単に引き下がれますかいな!って感じですよね。ジャンとのダンスが本当にたまらなかった……。
ステファニーの侍女・エヴァはみこちゃん(愛蘭みこ)。マリーを見る目が、異分子であることは認めつつも、なんだか申し訳ないような、恨めないような……という女主人のことを思う一方で、主体性のあることがわかる演技でした。
ルドルフとマリーが踊り出して、不機嫌マックスになったステファニーが席を離れようとしたときも「ま、そう言わずに、こちらにお戻りください」みたいな演技をしていて、主人にとって耳の痛いこともきちんと伝えられる侍女なのだな、と思いました。不機嫌なステファニーの質問もはぐらかしつつ、なだめつつ答えて、後者に失敗して、結局ルドルフを探しに行く羽目になるところも、あまり今までにないエヴァだったと思います。よき。
みこちゃん、舞踏会のドレスも青いいかにも侍女という感じのドレスもよく似合っていましたね~! 新人公演のミリーも楽しみです。

これが最後のここちゃん(都姫ここ)はルドルフの妹。妹として台詞もありましたし、前髪オン眉パッツンは超可愛いし、酒場の女でもソロがあって、見せ場盛りだくさん。しかしこれで最後なのが本当に惜しまれるよ……っ!
酒場の女頭とでもいいましょうか、新キャラクターであるミッツィは詩希すみれ。キャー! 格好いい! 素敵ー!と心の中で叫びまくりましたね。こちらも出番は多くないですが、ソロもあるし、見せ場をありがとう。すばらしかったです。史実のミッツィはかなりルドルフに近かったそうですね。
すみれちゃんには、ツェヴェッカ伯爵夫人をやってもらいたかったなーという気もしましたが、そこは鈴美梛なつ紀、頑張っていました。今までに見たことがないくらい怖い顔をしていました。やさしい感じの顔立ちですし、そういう役かコメディっぽい役のイメージが強かったですが、これは新発見。もっと頑張れるぞ。ファイト。彼女のスパイ行為にルドルフが気がついているのも政治色を強めています。
ザッシェルの女王マリンカは咲乃深音、こちらも今までのキャストを考慮するとかなり荷が重かったようにも思いますが、美声を響かせておりました。
ルドルフとマリーをつなぐラリッシュ伯爵夫人は朝葉ことの。春琴をやって一皮むけたのでしょうか、いわゆる世話焼きおばさんみたいなポジションを上手にこなしていたと思います。よきよき。あわちゃんが新人公演で演じる役ですが、出番が前半に集中しがちなのが残念。
背の高い美人の娘役を見れば大抵みさこちゃん(美里玲菜)だし、よく動く小さな娘役を見れば大抵初音夢ちゃんですし、丸顔の可愛らしい小さな娘役を見れば大抵湖春ひめ花ちゃんだし、好みの顔の小さい娘役を見れば大抵真澄ゆかりちゃんです。みんな違ってみんな可愛い。貴族だろうが、店の女だろうが、酒場の女だろうが、どこにいてもよくわかるよ。
あとはオフィーリアを演じた七彩はづきちゃん。新人公演ヒロイン、おめでとうございます。楽しみにしています。

エリザベート』でおなじみのゼップスはしぃちゃん(和海しょう)。はー! たまらん! あの知的で物腰柔らかな感じだけど、心には秘めたる闘志を宿している知識人! すばらしい! 好き!
一緒に逮捕されるクロードははだいや(侑輝大弥)。ちゃんと台詞と出番が付け加わり、小柳先生の組子愛を感じる。そもそも逮捕される場面そのものが新場面ですかね?
皇帝フランツは峰果とわ。珍しく、ちと物足りない感じ。なかなか重厚感というのは出ないものですな、難しい。ビッグ(羽立光来)のフランツも見てみたかったような気もしますが、フリードリヒ公爵はフェルディナンをたきつけるいいお役でした。
ルドルフの御者・ブラットフィッシュはあすか(聖乃あすか)。四番手としてはちょっと出番が少ないですが、しっかり爪痕を残していますね。今までのようにコミカルになりすぎないところは、ロシェックと同様であり、たくさん役作りの話をしたのだろうなと思います。
ホヨス伯爵のほってぃ(帆純まひろ)とフィリップ皇子のはなこ(一之瀬航季)はショーでもそうでしたが、芝居でも双子か兄弟かみたいな感じでニコイチ、常に一緒に出てくるし、色違いみたいな衣装だし、華もオーラもあるし、立派なスターになって……とハンカチで目元を拭う。
芝居ではちょっとほってぃの方が大人かな、「あのお嬢さんなら兎か牝鹿か」ってあんた、そんな直接的な……と思いながらも、この台詞がなかなか効いていると思ってこの作品を見たのは初めてでした。
おそらく「羽ばたく」ことと「狩り」に関連があるのでしょう。ジン……としてしまった。
あとはなんといってもモーリス大尉のまる!(美空真瑠)
ルドルフについて困ったことがあるとすぐにホヨスとフィリップを頼みにするものだから、ちょっと頼りない感じがあって、それがちょっと棒、とまではいかないけれども、困った感じの演技が絶妙で。ショーでも今までより格段に出番が増えたせいか、前の場面の汗が吹き切れていないぞ!と思うこともありましたが、絶賛成長中ですね。可愛い。きっとすぐに「いつのまにかこんな成長して」とハンカチを握りしめる日がくるのでしょう。
らいと(希波らいと)はマリーの兄弟ジョルジュ。こちらも新キャラクター。金で爵位を買ったといわれるヴェッツェラ家ですが、子供たちはのびのびと育っているのが姉のハンナ・みくりん(美空凛花)を見てもわかりますね。
顔が綺麗だなと前回の全国ツアーで思ったはるやくん(春矢祐璃)。スチール入りしたものの、今回で退団が惜しまれる……なぜもっと早くに見つけられなかったのか(それは私が基本的に娘役を見ているから)。目立った台詞はありませんでしたが、今回も綺麗な顔でした。

私事ですが、母がしめさん(紫苑ゆう)の大ファンなので、『うたかたの恋』はそら、死ぬほど聞かされて育ったんですよ(音源は残っているが、映像は販売されていない)(大劇場公演はけがのため、二番手の麻路さきが代役でルドルフを公演したため)(しめさんは東京公演から復活、地方公演も上演)。
しめさん自身が非常に『うたかたの恋』という作品のファンだったこともあって、しめさんのファンはそら今でも、30年経った今でも映像化を希望するくらいなんですよ。
でも、きっと今、30年前の『うたかたの恋』を見ても、楽しむのは当時のファンが中心だろうなという気がします。この花組の令和版を見てしまった人は、全然違う作品に見えるだろうな、と。だからいっそ映像化はしない方がいいかな、と。いや、しめさんのファンには申し訳ないんだけど。一方で私は『元禄バロックロック』の新人公演の映像を見せてくれって30年以上言い続けるのだろうけれど。業が深い。
前述したように、役は少ないし、場転や幕前芝居が多く、そう何度でも見たい作品とも思わないけれども(だからこそ初心者にはよい)、再演することの意味を再確認させてくれてありがとうございました、小柳先生。

長くなったので、ショーの感想はまた別の記事で!(最近、こればっかりやな)

2022年観劇まとめ

2022年観劇まとめ(配信含め)

【宝塚編】
月組 ミュージカル・キネマ『今夜、ロマンス劇場で』(脚本・演出/小柳奈穂子)、ジャズ・オマージュ『FULL SWING!』(作・演出/三木章雄)
雪組 バウ・ミュージカル・プレイ『Sweet Little Rock 'n' Roll』(脚本・演出/中村暁)
花組 三井住友VISAカード シアター忠臣蔵ファンタジー『元禄バロックロック』(作・演出/谷貴矢)、三井住友VISAカード シアターレビュー・アニバーサリー『The Fascination!』-花組誕生100周年 そして未来へ-(作・演出/中村一徳)
宙組 ミュージカル『NEVER SAY GOODBYE』-ある愛の軌跡-(作・演出/小池 修一郎、作曲/フランク・ワイルドホーン)
星組 ミュージカル・コメディ『ザ・ジェントル・ライアー ~英国的、紳士と淑女のゲーム~』(原作/オスカー・ワイルド、脚本・演出/田渕大輔)
星組 グランド・ロマンス『王家に捧ぐ歌』-オペラ「アイーダ」より-(脚本・演出/木村信司
花組 ミュージカル『TOP HAT』(脚本・演出/齋藤吉正)
花組 Fantasmagorie『冬霞の巴里』(作・演出/指田珠子)
雪組 大江戸スクランブル『夢介千両みやげ』(脚本・演出/石田昌也)、ショー・スプレンディッド『Sensational!』(作・演出/中村一徳)
月組 ドラマティック・ショースペース『Rain on Neptune』(作・演出/谷貴矢)
星組 ミュージカル・エトワール『めぐり会いは再び next generation-真夜中の依頼人-』(作・演出/小柳奈穂子)、レビュー・エスパーニャ『Gran Cantante!!』(作・演出/藤井大介)
花組 ミュージカル『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』(作・演出/生田大和)、ショー グルーヴ『Fashionable Empire』(作・演出/稲葉太地)
宙組 SUZUHO MAKAZE SPECIAL RECITAL@TOKYO GARDEN THEATER『FLY WITH ME』(構成・演出/野口幸作)
宙組 ミュージカル・プレイ『カルト・ワイン』(作・演出/栗田優香)
雪組 ミュージカル『心中・恋の大和路』~近松門左衛門「冥途の飛脚」より~(脚本/菅沼潤、演出/谷正純)
雪組 Midsummer Spectacular『ODYSSEY-The Age of Discovery-』(作・演出/野口幸作)
月組 三井住友VISAカード シアターミュージカル『グレート・ギャツビー』-F・スコット・フィッツジェラルド作“The Great Gatsby”より-(脚本・演出/小池修一郎
星組 ミュージカル『ベアタ・ベアトリクス』(作・演出/熊倉飛鳥)
宙組 TAKARAZUKA MUSICAL ROMANCE『HiGH&LOW -THE PREQUEL-』(脚本・演出/野口幸作)、ファッシーノ・モストラーレ『Capricciosa!!』-心のままに-(作・演出/藤井大介)
花組 バウ・ワークショップ『殉情』-谷崎潤一郎作「春琴抄」より-(監修・脚本/石田昌也、潤色・演出/竹田悠一郎)
花組 ミュージカル・ロマンス『フィレンツェに燃える』(作/柴田侑宏、演出/大野拓史)、ショー グルーヴ『Fashionable Empire』(作・演出/稲葉太地)
月組 ミュージカル・ロマン『ブラック・ジャック 危険な賭け』─手塚治虫原作「ブラック・ジャック」より─(作・演出/正塚晴彦)、ジャズ・オマージュ『FULL SWING!』(作・演出/三木章雄)
雪組 グランド・ミュージカル『蒼穹の昴』~浅田次郎作「蒼穹の昴」(講談社文庫)より~(脚本・演出/原田諒)
星組 浪漫楽劇『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』─並木陽作「斜陽の国のルスダン」より─(脚本・演出/生田大和)、メガファンタジーJAGUAR BEAT-ジャガービート-』(作・演出/齋藤吉正)

チケットが飛んだ公演は(ギリギリ)片手ほどではありますが、こうしてみると、結構公演そのものはコロナで飛んでますね。来年はどうなるのでしょう。しっかり対策をしてくれないから、国が……深いため息が出ます。
それはさておき、この中でもやはり光を放っているのは『冬霞の巴里』と『カルト・ワイン』ですね。感想記事を貼り付けておきます(良かった作品でも感想がうまく書けるとは限らない)(そんなに作品を褒めてないのに伸びる記事もあるからな)。

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今の私にとって栗田先生、指田先生なしの宝塚なんて考えられません。それくらいこの二作品はずば抜けてよかった。どちらも宝塚でしかできない、女性たちで演じることに意味があったようにも思います。
指田先生は次の作品も決まっていますね。『海辺のストルーエンセ』、とても期待しているのですが、残念ながらチケットが手元にありません。ギブミー、チケット!><

次点では『ベアタ・ベアトリクス』でしょうか。こちらも若い熊倉先生。次の作品が待たれます。
本公演はあえていえば『巡礼の年』でしょうか。生田先生、応援しているよ! もうちと頑張ってくれ!

反対に見られなかったのは、月組ブエノスアイレスの風』、星組モンテ・クリスト伯』『Gran Cantante!!』(当初の配信予定では見られたのですが……!)、月組『ELPIDIO』の三作品ですかね。
いやはや、本当にライブ配信様様です。来年は諸事情で生観劇の回数が一気に減る予定ですが、ライブ配信はできれば見続けたいと思います。

【外部公演】
『カーテンズ』(演出/城田優
『ラ・カージュ・オ・フォール』(演出/山田和也)
『The Parlor』(作・演出/小林香)
『バイオーム』(作/上田久美子、演出/一色隆司)
8人の女たち』(脚本・演出/板垣恭一)
シベリア少女鉄道vol.35アイ・アム・ア・ストーリー』(作・演出/土屋亮一)

外部公演はうっかり感想を書き損ねているのもあるので、取りこぼしがありそうな気もするけれども、まあこんな感じ。
どれもよかったけれども、やはり『バイオーム』と『8人の女たち』は格別でした。

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『バイオーム』が円盤化されないのはもったいないかな。海外向けのライブ配信まで行ったのに、なぜ……。『8人の女たち』はスペシャルボックスを予約済み。二月に届くのが待ち遠しい。

あとは、こちら「芸能の在る処〜伝統芸能入門講座〜宝塚歌劇編」に参加できたのも今年の嬉しいことです。

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みなみなさまの来年のご活躍を祈念いたしております!

***

さて、非常に残念な、というか、言葉を選ばずにいうなら、非常に胸糞悪いニュースも宝塚関連では年末にぶち込まれました。
雪組のみなさん、本当に最後までよくやったよ、すごいよ、あのテンションでずっとやり続けることができたのは、一つはやはり娘役トップスターである朝月希和の退団公演だったからのようにも思えます。なんとしても最後まで公演を続けるのだ、という周りの意気込みとでもいいましょうか。
一本物だったため、別の先生からのものの見方を提示されにくい状況であったのも辛かったことでしょう。
本当に、本当にお疲れ様でした。そして感動をありがとうございました。でも誰かの感動のために、誰かが傷ついていたらいけないでしょう。

件の演出家はもともと「男女の恋愛が描けない」「娘役の描き方に疑問がある」「宝塚よりも外部に気がむいている」という疑念はありましたし、私は好きではありませんでした。
とはいえ、「先生」と「生徒」という立場をわきまえて稽古に臨んでくれているものだと思っていました。それができないのは、暴走以外の何者でもないでしょう。愛のある厳しい指導と人権侵害は別物です。
宝塚の演出家はもともとキングのような扱いだとも聞きます。まあ、脚本を見ればわかるけれども、ホント、全然第三者の目とか専門家の意見とか取り入れていないですものね。それなのに、稽古場に外部機関なんて入ろうはずもない。
そこのところはさ、これからお金をかけていかなければいけないところでしょう。脚本にも、稽古場にも第三者の意見が通るような空気を作っていかなければなりません。
演出家を辞めさせました、はい、おわり、ではありませんよ、聞いていますが、劇団!っていうか、阪急! もちろん解雇そのものを雪組千秋楽後にしたのも配慮の一つだろうし、にもかかわらず、それ以前に劇場に出禁にしていたことも、対処として間違っていたとは思いませんが、これからのことも考えていかなければいけません。

再発防止のガイドラインを提示して、それを実施して、結果をまとめてくださいよ。コロナのときはあれだけ科学的なレポートがあったではありませんか(銀橋の上で歌うと一列目には飛沫がかかる可能性があるので、販売は二列目以降です、とか)。同じことが求められています。肝に銘じてください。そしてさっさと行動に移してください。えらい人たちに年末も年始もあるかいな。

組子の前で生徒を罵倒したら、当然ののしられなかった他の生徒のパフォーマンスにも影響が出る。もちろん悪い影響だ。
そこを「なにくそこのやろ、みかえしてやるぜ!」という凄まじい精神力がないと宝塚には入れません、というのは間違っているでしょうし、そんなものは先細るに決まっている。もっと健全なあり方を目指していこうという気は、劇団や阪急のおえらいさんたちにはないのか。所詮おっさんたちのやることなのか。
血を流すのはすみれの乙女たちだけってすごい構図だぞ、沖縄と同じではあるまいか。さすがヘルジャパン。

被害者の心と魂の回復を祈ります。
そして二度と同じようなことが起きないために、劇団や阪急には具体的な行動をお願いします。

今年の年末は初めて仕事をまともに納めず、体調を崩してそのまま年末年始の休みに入ってしまいましたが、なんとか趣味のこちらは年内に納めることができてよかったです。もっとも書こうと思っていた記事は二本くらい書けませんでしたが……(遠い目)。
それではみなさま、今年も一年ありがとうございました。
来年もたくさん観劇&感激して良い年にしましょう~!

星組『JAGUAR BEAT-ジャガービート-』感想3

星組公演

メガファンタジーJAGUAR BEAT-ジャガービート-』
作・演出/齋藤吉正

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ジャガビー』のすごいところ。

舞台を見て、わからないな、と思った場面について、プログラムの解説を読むと、さらにわからなくなるところ。

そういうわけで、今回は公演プログラムの解説を考えていきたいと思います(ツッコミを入れるともいう)。
引用は特にことわりがない限り、宝塚大劇場公演のプログラムによります。『歌劇』の「座談会」も参考にしています。
ショーとはいえど、芝居仕立てで、通し役もある。かといって、お芝居ほどガチガチに構成がなくても歌って踊って楽しければヨシ!という傾向があるのもまたショーの魅力。辻褄が合わないじゃないか!と怒り狂うというよりも、その辻褄の合わなささえ楽しんでいきたいと思います。

ヨシマサは足し算と掛け算しか知らない盛り盛り演出という評判ですが、それは芝居やショーの演出にとどまらず、実は文章も一文が長い、だから一文に情報量が多い、ついでにいえば点も少ない、いわゆる典型的な悪文なのですが、このわからなさというかでたらめさがこの作品の世界観とよくマッチしていて、もはやなんともいえない気持ちになります。声に出して読みたい日本語では決してないが、妙に味がある、ように見える。たぶん。でも読みにくいよ!

●1st FANTASY「HELL DESERT」

「宇宙空間に浮かぶ名もなき星の荒廃した砂漠ーー。かって花が咲き、生き物が歌う桃源郷であったその場所は、ブラックパピヨンの首領・マーリンたちにより侵され、今は生気をなくし、荒れ果てた姿となっていた。宇宙を旅する幻の鳥クリスタルバードは、彼らの襲撃により片翼をもがれてしまう。しかしクリスタルバードが恋の担い手クピドの歌により渾身の力で舞うと、荒廃した砂漠に奇跡が起こり、舞台には極彩色の植物、色とりどりの花々が息吹く。そして一つの尊い新たな命が生まれるーーJAGUARの誕生である。」

マーリンは「ブラックパピヨンの首領」、クリスタルバードは「宇宙を旅する幻の鳥」、クピドは「恋の担い手」とそれぞれ名前と属性・役割が別々に書いてあるにもかかわらず、なんと「JAGUAR」だけは「JAGUAR」。それが名前なのか、属性・役割なのかは、一見するとわからない。
このあとの場面で「俺の名はJAGUAR」という台詞があるから、名前だということがかろうじてわかるが、ではこの「JAGUAR」は私たちが普通に思い出すような動物のジャガーとは違うのか、と言われれば、そうでもなさそうな。オープニング映像のJAGUARは間違いなく、われわれのよく知る動物の姿をしていたからだ。ちなみにいえば、クリスタルバードはさながら鳳凰のようなビジュアルであったことも記しておく。
けれども、もちろん動物のジャガーがあらゆる植物が芽吹いたところに自然発生するはずもなく、だからつまり見た目は動物、中身は概念、みたいなそういう感じ?で、いいの???
最初からわけがわからないし、どうしたらこんな設定が思いつくのか、全くわからない。すごい。本当にすごいよ、ヨシマサ。
この論理でいくと、つまり「バファロー→バファロー」ということだろうか。

そしてJAGUARはクリスタルバードが作った世界の中で産声を上げるの? 母なる大地ってこと? そのクリスタルちゃんに惚れた挙げ句、翼の入った花束をプレゼントした上に、最終的にはその翼で天国に行き、クリスタルちゃんとデュエットダンスをするの??? 
すごい。全くわからない。どうしたらこんな設定を思いつくのか。いや、まじですごい。
このあたりついてはこの記事が参考になったので、紹介しておきます。

note.com

ところでこれは完全に妄想なのですが、「ブラックパピヨン」というグループがあるから、きっと「ホワイトパピヨン」というグループもあったはず。ホワイトパピヨンの首領は女で、ブラックパピヨンに殲滅させられた……と、思いきや、奇跡的に宇宙空間に逃れることができた戦士がたぶん3人くらいいる。女首領もきっとなんらかの形で生き残っている。それこそ鏡の中に閉じ込められているだけで、命はまだある。つまり、『セラムン』におけるキンモクセイの彼女たちを思い出す。
誰か、前日譚くれ。くらっち(有沙瞳)の通し役がないのはつまり、そういうことか? ホワイトパピヨンの女首領か??? そういや、ありちゃん(暁千星)とよく歌って踊っていたもんな。
白の女王とか言われても全く驚かんな。後述あります。

●2nd FANTASY「JAGUAR BEAT」

「クリスタルバードの涙が奇跡を呼んだ!荒廃した砂漠から、舞台はかって存在した熱帯のサバンナ、極彩色で彩られた伝説のジャングルへ。」

クリスタルバード、プロローグから奇跡を起こしまくりな件について。すごい。さすが、ひっとん(舞空瞳)。幻の鳥。さすが、クリスタルバード。私自身、自分が何を言っているのか、そろそろわ、わからなくなってくる頃だよ。

「名もなき星の救世主JAGUARの誕生を祝う謝肉祭と化す、華やかで壮大なプロローグ」

生まれたばかりなのに、すでに「救世主」扱いのJAGUAR。なぜ。どちらかといえばメシアはクリスタルバードなのではないのか?!?! 翼の片方をもがれていながら、渾身に舞を披露して、大地に自然の息吹を与えた上に、JAGUARまで生み出したんだよ?!?!
片翼をもがれたクリスタルちゃんに、最初に寄り添うのが娘役のクピドっていうのがいいな。最後も車椅子を押しているのはクピドちゃんでしたし、これもいい。シスターフッドが描かれている。
クピドちゃんの恋のお相手は誰ですか?! でもクピドちゃんに恋のお相手がいなくてもいいのです。恋愛至上主義にならないところもまたよいところだからです。

そして何度でもいうが、ここのジャングルレディの歌手の鳳花るりなちゃんがめちゃめちゃ可愛い。品のあるギャル。

ロックスターになりたいらしいJAGUARくんのソロからロケットへ。最後の掛け声が「ジャガービート!」ではなく「ビートビートビート!」というところに何らかのこだわりを感じる。

●3rd FANTSY「PARADISE JUNGLE」

「バファローは美しい翼を手に、女たちを虜にしていた。」

なぜマーリンが奪ったはずのクリスタルちゃんの翼をバファローを持っているかは、特に気にしてはいけない。「ノーリアル! イエスファンタジー!」だから(気が早い)。
マーリンは魔法使いだから仕方がないか〜!と一時期は思っていたけれども、プログラムの解説のどこを読んでもそんなことは書いていない。私はなぜマーリンを魔法使いだと思っていたのだろうか。猛獣使いを読み間違えたのか、バカすぎないか、大丈夫か。
『歌劇』の「座談会」には「トランプのジョーカーのようなもの」と言った意味合いの発言があるから、そこから来たのかな。まあ、ジョーカーなら魔法使いとほぼ紙一重だよね!(そうか?)
それかアフロディーテと対になっていると思ったから、魔法が使えると思ったのかな(後述)。

「レディ・クリスタは、バファローに勝負を挑む。『私が勝てば、片翼を返してもらえるか』と。」

倒置法を使っているあたり、ここにヨシマサの気合いを感じる。他のセンテンスはあんなに長いのに。
レディ・クリスタがまず自分の力で翼を取り戻そうとするのがまず良い。すばらしい。拍手。そしてもちろん取り戻すし、もちろん横槍が入る。そう簡単にクリスタルちゃんのもとに翼は返らない。
この場面、相当好きだよ。目が足りない。

●4th FANTSY「MACHINE GIRL」

「街を彷徨うJAGUARはクラブから出てきた愛しのクリスタルバード(レディ・クリスタ)をキャッチする。」

キャッチするってwww  いつの時代の用語www
ただのナンパになってしまうような気がするけど、それでいいのか?
JAGUARの気持ちはただのナンパ程度なのか?!?!と思わないわけではないが、まだ名前も知らないもんね、仕方ないね。ヨシマサショーだからね、気にしないよ。やっぱり気にする。ちょっと用語がやはり古いかな。

「束の間の彼女とのランデブーに心躍るJAGUARだったが、ふとした瞬間クリスタルバード(レディ・クリスタ)を見失ってしまう」

ランデブー?!?!ランデブーだった、あれ???JAGUARくんの完全な片想いだったと思うよ??? 完全にアウトオブ眼中だったよ???
いや、この銀橋の場面、結構好きなんだけどね!!!

「やがて、JAGUARは綱渡りの少女マシーンガールと踊り始めるがーー。」

マシーンガールはうたち(詩ちづる)。
なんとなくJAGUARはここでマシーンガールと心を通わせているような気がする。ように見える。
けれども少女は動かなくなり、彼女が持っていた翼を申し訳なさそうに取り、去って行き、ものすごーくムーディーな曲調で歌う。あえていうなら、本作で唯一と言っていいくらいの「緩急」で言うところの「緩」の場面。
クリスタルちゃんの映像が後ろに現れますので、もちろんJAGUARはクリスタちゃんを思って歌うのですが、突然理由もわからず動かなくなってしまったマシーンガールへの哀愁のようなものを感じるのは私だけだろうか。場面のタイトルも「CIRCUS」ではなく、「MACHINE GIRL」なんですよね。意味深。
最終的にうたちが2人の天国デュエットダンスのカゲソロを担当することを考えると、マシーンガールにJAGUARはクリスタルちゃんを見出していたとは言えないだろうか。

●5th FANTSY「CRYSTAL FANTSY」

「黒曜石(トヒル)の鏡に閉じ込められたクリスタルバードを救い出すため」

ちょ、ちょっとまったー?! いつ? いつクリスタルちゃん、鏡に閉じ込められたの? いつの間に? 実行犯は誰? でも鏡が割れる前にクリスタルちゃん、出てきているよね??? ものすごいギャルな感じで髪の毛をリボン結して頭のてっぺんに乗せている姿で。む、むじゅんだー!!(気にしてはいけない)
ちなみに『歌劇』の「座談会」では「鏡の世界に迷い込んだクリスタルバード」とあるので、『鏡の国のアリス』みたいた世界を想像していたけれども、なんか違った……。

ヒルとは、調べてみると「血を欲する神」で、人間が生贄にされたこともあるという、なんとも禍々しい神。この場合は、だから、クリスタルちゃんが生贄になったということでいいのかな?
「オリジナルリメイク」しているということですが、もはやどこがオリジナルなのか。詳しくない私には全くわからなかった……ごめん、ヨシマサ。

JAGUARくんが鏡に閉じ込められているのかとも思ったよ。もっとも、鏡が割れる前にJAGUARくんも出てきてはいるんだけどさ。でも、ゴッドゴレンジャーたちは鏡が割れて喜ぶんだよね? だからやっぱりクリスタルちゃんなのか? マーリンではなく、バファローが鏡に閉じ込めたの? 何のために? 翼が欲しいなら、最後に持っていたのは、やっぱりJAGUARくんだよね?

これがもしマーリンが鏡に閉じ込めたと言うことなら、マーリン、もしかしてクリスタルちゃんのこと、気になっている? だから自分のものにしたくて鏡に閉じ込めたの?ホワイトパピヨンもそうやって倒したの?(妄想)(完全に『セーラームーンR』の影響です)だからここのありちゃんには「マーリン」の記述がないの?バファローはあるのに???みたいな妄想がいくらでもはたらくのだけど、でも、違うんだよね。なんなんだ。

鏡を割るゴッドゴレンジャーのセンターはせおっち(瀬央ゆりあ)で、バファローで、鏡にクリスタルちゃんを閉じ込めた張本人で、その人を真ん中にしてカラーゴッドたちが並ぶけど、彼らは鏡を割りたいんだね? そういうこと? どういうこと?
敵がセンターにいるのか……も、もうよくわからくなってきたぞ。

ジャガー獣をテペヨロトルという神に見立て描かれるアステカ神話のエピソードをオリジナルにリメイクし、美しく、摩詞不思議なレヴューシーンで綴る豪華絢爛な中詰シーン」

アステカ神話はよくわからないけど、摩訶不思議はわかりみが深すぎ。
調べてみると「テペヨロトル」とはそのまま「ジャガーの神」だとか。ここだけ公演解説も「JAGUAR」ではなく「ジャガー獣」と表記されているのは、そういうことなのか?(どういうこと)

黒の神が「テスカトリポカ」と言われる最強の神で、キリスト教では悪魔と同一視された神のことかな?とか。
赤の神は「ミシュコアトル」と言われる狩猟と戦争の神のことかな?とか。「赤いテスカトリポカ」とも言われるとか?
アステカ神話は難しいし、それをオリジナルリメイクされたから、さらに難解になっている。すごいよ、ヨシマサ……。

●6th FANTASY「NARKISSOSー星の砂漠の恋人たちー」

ここで初めて日本語の副題がつきます。

「名もない星の砂漠の物語。」

ここで、なるほど!と膝を打つのは、つまり、今までも場面ごとで違う星での物語であり、それぞれがパラレルワールドのようにつながっていると考えれば、似たような登場人物たちが全然違う世界観の中に生きていることは納得がいくな、ということです。
「荒廃した砂漠」という最初の設定にも通じますが、これはマーリンによるものではなさそうだということは次の一文でわかります。

「宙を旅するナルキッソス(マーリン)は名前を失ったアナザースターで美しい青年アメイニアスに見込められ二人は愛し合う。」

読点が一つもなくてとても読みにくいw
「名もない星の砂漠」と最初に書いておきながら、続けて「名前を失ったアナザースター」と説明する。くどいわw
「宇宙」ではなく「宙」にもこだわりを感じる。クリスタルバードについては、「宇宙を旅する幻の鳥」とあるのに。
ジョーカーはいつのまにかナルキッソスになる。

ナルキッソスに恋焦がれていたアフロディーテは激怒し、アメイニアスに魔法をかけ彼らの心を奪ってしまう。」

アフロディーテが激怒するのはわかるが、アメイニアスに魔法をかけたのに、心を奪うのはアメイニアスだけではなくナルキッソスもなんだ……。アフロディーテの怒りがすさまじいことがわかります。
と、いうところまできて、もしかしてアフロディーテはホワイトパピヨンの女首領、白の女王だったのではないか?!と思い至る。どこまでも妄想の話です。あしからず。
そりゃブラックパピヨンに星を殲滅させられた恨みもあろう、ただ殺すのではなく、心を奪うというやり方もものすごくよい。さすが女神という感じがする。これが女の復讐よ。
最後に高笑いしているくらっちが忘れられないのだ、素敵すぎるのだ。

水仙といえば、白い花を思い出す人が多そうですが、ここで「黒スイセン」というのも上手いし、だから連動して語り手三人も「黒い貴婦人」「黒い吟遊詩人」なのでしょう。いかにも、おしゃべりが好きそうな語り手ですわ。

●7th FANTASY「THE PURPLE COMMANDO」

JAGUARは敵国に住む愛しのクリスタのもとへクリスマスの約束を果たすため、掟を破り営舎を脱走する。」

JUGUARの敵国ってどこ? クリスタルバードが作った国でJAGUARは生まれたのに、2人の国は敵同士なの? 『ロミジュリ』なの? 
そんなツッコミはノーセンキューです。だってパラレルワールドだもん。違う星での2人の話だもん、と思えばいいのか、なるほど。

で、でもさ……「クリスマスの約束」って何?w
クリスマスの約束するくらい仲良くなっちゃったの? え、いつのまに? しかも「営舎」って何? JAGUARはいつのまに兵士になったの? 掟を破って脱走するのは物語のセオリーだけど、え、ごめん、全くついていけないよ!!! どこからインスピレーションがわいてくるの、ヨシマサ先生!!!
と、思ったものの上記で紹介した記事を読んである程度はすっきり。なるほど、元ネタがあるのねー。

「プレゼントのウイングフラワー(翼花)のブーケを手に都会の繁華街を抜け彼女が待つ泉へと急ぐJAGUAR

ウイングフラワーという発想は天才ですね!
ところで、繁華街でバファローに会うのはわかるのだが、営舎は繁華街近くというか、そこをこえたところにあるのか? 兵士が繁華街近くにいるというのは穏やかでない世界だな。そして突然出てくる「泉」。営舎ってこういう自然の中にありそうなイメージもあるんだけどな。

なぜクリスタルバードは泉にいるのか。バードなのだから、山や里のイメージだが、とにかく泉にいる。そしてなぜか車椅子に乗っている。無理やり解釈すれば、渾身の力で世界を生み出し、涙で奇跡を起こし、様々に姿を変え片翼を探してきたが、とうとう力尽きたということか? 残った片翼も動かない象徴?

マーリンは最初から侵略者で治安が悪い感じがしていたけれども、バファローはただの残念なナルシスト、徹頭徹尾ダメな男の典型だと思っていたら、こちらもまた治安が悪い感じで、マーリン同様、部下らしき男女を引き連れている。そしてバファローと動物の名前を冠してはいるものの、武器は極めて人工的。殺伐とした銃。前場アフロディーテとは異なる。

「想いを通わせた大切な命を奪われ悲しみに暮れるJAGUAR。類を流れる初めての涙”悲しみ”を知り”愛”を知るJAGUAR

ここで愛を知るの? 今までクリスタルちゃんを追いかけていたのは何だったの? 愛ではなかったの? 自覚、なかったの? 名前のない感情だったの?!
むしろそれであそこまでクリスタルちゃんのために行動できるのはすごいわ。

「彼の涙は翼となり、クリスタが待つ天国へとジャガーを誘う。」

いつの間に死んだの?! しかも片翼で天国まで飛べたの?!
クリスタルバードの翼、激強だね! そりゃ、マーリンも奪いにくるわ!

●8th FANTASY「CRYSTAーガラスの中の聖夜ー」

副題の昭和感たるや……! 岩崎良美かよ!(「硝子の聖夜」という楽曲があります)

「天国で再会したJAGUARとクリスタルバード。二人の魂は一つになる。」

天国で2人は一つになっちゃうの? 鳥が自分の生み出した世界の獣と?
パラレルワールドだからツッコミはノーセンキューですね!!!
途中、鏡の世界に迷い込んだものの、ラストはガラスの中で完結するのね、そうか、なるほど。わからん。

カゲソロのうたちが効いている。
JAGUARはやはり心のどこかであのマシーンガールにクリスタルバードを見出していたのかな。

●LAST FANTASY「HEAT BEAT!〜JAGUAR THE FINAL」

「THE FINAL」って映画でよくみるタイトルだよね。

グラムロックスター風のアダムボーイと魅惑的なミス・スネークたちのナンバー。」

聖書ネタきたー!
しかしスネークが多すぎ、誘惑多すぎ、でも蛇が誘惑するのはイブのはず。一体イブはどこにいるのか、スネークに混ざっているのか。本物はリンゴを持っている、のではないか。
ミス・スネークたちはジャングルバードたちの黒髪おかっぱバージョン。これはこれで可愛い。
「愛は惜しみなく奪うもの」らしい。

「ヒートビート男Sと女たちが情熱的に歌い踊る。」

これまたあまり治安が良くなさそうなせおっちセンター。娘役はアヤネ・ミランダ・カーこと綾音美蘭が前に出てくるのが非常に嬉しい。
ここから続く男役群舞も、さすがタカラジェンヌ、品はあるが、ややヤンキーより。

「クリスタルビートの歌からはじまる星組男役トップスリーの競宴。」

突然のメタ発言「星組男役トップスリー」。
なんかもっと他の言い方はなかったんかーい!w

***

銀橋回転寿司かのようにスターに銀橋を渡らせまくる演出も、実はとても嬉しいです。
以下、銀橋を渡る/渡らないの話になりますが、私の記憶違いでしたら申し訳ありません。また、銀橋を渡らないスターを軽んじるような主旨もありません。あしからずご了承ください。

路線スターの他、基本的に各FANTASYの語り手と思われる人たちが歌いながら銀橋を最初に渡ります。

●3rd FANTASY「PARADISE JUNGLE」第5場
ムッシュクラウン→美稀千種
マダムクラウン→紫りら、二條華
●3rd FANTASY「PARADISE JUNGLE」第8場
マーリン(猛獣使い)→暁千星
女豹A→天華えま
チルクの男→碧海さりお
※ただし、場面の始めというよりはつなぎのタイミングであり、共通のモチーフの3人でない上に、歌っているのはありちゃんのみ、さらに3人とも別の場面でも銀橋を渡るので、他の場面の語り手とはいささか趣が異なる。
●5th FANTASY「CRYSTAL FANTASY]第12場E
月神→美稀千種、天路そら、颯香凛
太陽神→輝咲玲央、朱紫令真、夕陽真輝
※場面の初めではないが、明らかに共通モチーフキャラクターであり、3人とも歌うので語り手とカウントする。
●6th FANTASY「NARKISSOSー星の砂漠の恋人たちー」第15場
黒い貴婦人→白妙なつ
黒い吟遊詩人→大輝真琴、ひろ香祐

こう考えると、上級生で歌いながら銀橋を渡っていないのは、音咲いつきと朝水りょうの2人だけになるでしょうか。
しかし前者は本舞台でソロ曲を歌い上げ、後者は総踊りときには大抵センター付近にいる印象。素敵な金髪が見つけやすい。
そう考えるととてもタカラジェンヌに気を配っているな、ということも見えてきます。
銀橋は路線スターだけが渡るものではないでしょう。

一方で、語り手ではないため歌いながらではないが、銀橋を渡るのが以下の場面(プロローグ、中詰をのぞく)。

●7th FANTASY「THE PURPLE COMMANDOー君に逢いたくてー」第17場
バファロー→瀬央ゆりあ
ローグ男→夕渚りょう、朱紫令真、碧海さりお、天飛華音
ローグ女→音咲いつき、彩園ひな、水乃ゆり、詩ちづる

歌わずとも銀橋を渡る人がこれだけいるのはすごい。ファンにとっては嬉しい。
これは男役4人、娘役4人を引き連れたバファローという構図だが、この偶数人に注目すると別のものが見えてくる、かな。
娘役4人もしくは2人の偶数になると銀橋は渡らないらしいことが見えてくるからだ。興味深い。

●3rd FANTASY「PARADISE JUNGLE」
パラダイスガール→水乃ゆり、瑠璃花夏
※ただし、これはブラックボーイ(極美慎、天飛華音)の対である考えるので、同等の扱いになることは必定かと。
●5th FANTASY「CRYSTAL FANTASY」第12場E、第13場B
ワイルドキャット→澪乃桜季、都優奈、瑠璃花夏、星咲希
●6th FANTASY「NARKISSOSー星の砂漠の恋人たちー」
スイセン→澪乃桜季、瑠璃花夏、星咲希、碧羽陽

このうち3回とも出ているるりはなちゃんは、別の場面で銀橋は渡っている。
さらに男役4人(偶数)でも、以下は銀橋を渡らない。

●5th FANTASY「CRYSTAL FANTASY」第13場B
暁の風男→天希ほまれ、碧海さりお、天飛華音、碧音斗和

あれこれ考えるのが楽しいショーだから(そして唯一無二の正解はない)、CDを買ってしまいそうなのが恐ろしい。歌詞とか知りたいよね、きっともっと情報が載っているよね、と思ってしまう。
楽しみにしています!

「芸能の在る処~伝統芸能入門講座~宝塚歌劇編」メモ3

芸能の在る処~伝統芸能入門講座~宝塚歌劇
ゲスト:上田久美子、松本俊樹
案内人:木ノ下裕一
主催:ロームシアター京都
2022年11月30日(水)18:00~

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【第三部】木ノ下さんと上田先生と松本先生の三人でトーク

○木ノ下さん
上田先生の話、どうでしたか?(松本先生にむかって)

○松本先生
ファンとして作品の裏側を知ることができておもしろかったです。
挙げられた三作品の題材はわかるのですが、『金色の砂漠』のインスピレーションはどこから来ているのでしょうか。

○上田先生
んー……ボリウッドにはまっていたときがあって、そこでインドにおける『ロミオとジュリエット』といわれる古典小説を映画化した『デーブダス(Devdas)』という作品が、あえていえば、どこかで作品の種になっているかな、と。お互いを支配しようとし合う愛、というモチーフを男女逆転にしました。

○木ノ下先生
松本先生から見て、上田作品というのはどうなんですか。

○松本先生
非常に宝塚に適している特徴があるなと思っています。宝塚から離れたと思われるところももちろんあるのですが、基本路線や枠組みがちゃんと「宝塚」になっていて。それは、今のお話を聞いていると、娯楽を作りたいという上田先生の気持ちが、宝塚的なウェットさがありながら、単なるメロドラマに陥らないというところが、娯楽性と相性が良かったのかな、と。

○木ノ下さん
松本先生は宝塚における楠正行の表象についても研究されていますが、そのあたりはどうですか。

○松本先生
以前、正行の表象について、公共性を考えて戦に行く正行を描くこととプロパガンダの違いは、どこにあるのだろうと考えていた時期があって。やっぱり公共心と共同体、忠誠みたいなところは一緒になりがちではないかな、と。だから公共の民のために正行が戦にいくのはどこかでプロパガンダにつながってしまう恐れがあるのではないかと。
けれども、正行はあくまで「民のため」に戦に行く。「民がお腹を膨らませるため」という、これが公共性。つまり、戦う動機が南朝の貴族たちと正行とでは違う。ピラミッドとしての共同体を守るために戦いにいくわけではない。行動が同じであっても、動機が違えば、それはプロパガンダにならないと上田先生がおっしゃっていて腑に落ちた記憶があります。

○木ノ下先生
忠義の物語、と読むと、やばい本になりかねない。現代ならこう解釈できるよ、と新しい解釈を提示することに意味がある。古典をどう読むか、というのは一つの課題ですよね。
一方で、先生の発表では宝塚の戦争協力についても触れられていましたが、それはやぱり娯楽性というものと関わってくるのでしょうか。

○松本先生
たぶん娯楽性を関わっているでしょうね。国からの要請もあるでしょうけれど、観客にウケるから作る、流行だから作る、という側面はあったでしょう。だから戦争責任はあるでしょうね。
ただ、当時の作品の実際の評判はよくわからないところもあって。というのも、『歌劇』が休刊になって、そもそも劇評があまり残っていないのです。戦後になってから「あれはおもしろくなかった」という劇評があるのですが、戦後というバイアスはかかっているでしょうし。どの程度本当につまらなかったかどうかはよくわからないのです。
「おもしろい」という評判が残っているものもあるのですが、大衆娯楽としておもしろいから宝塚で上演する、という要素もたぶんにあったでしょう。軍部との積極的な関わりもありましたし。

○木ノ下先生
ドラマや映画で、普通の男女でやりとりしても泣かないだろう、というところで、宝塚だと泣ける、ということもありませんか。

○上田先生
ありますね。他愛もない純愛すぎるようなもので目頭が熱くなるような。そんなことあるいかな、と思いながらも。例えば普通の男女が演じていたら見られないような子供だましのものでも、宝塚だとちょっと幼稚な感じというか、稚拙でナイーブな感じがあって、それに包み込まれて泣いてしまうことが。それも宝塚の特徴でしょう。

○松本先生
まさしく草創期の宝塚は「インセンス」が売りだったんですよね。「イノセンスこそが売りである、宝塚の命である」というように。

○上田先生
イノセンスって実際に言っていたのですか?

○松本先生
実際に使っていましたね。歌劇団の中の人が、「イノセンス」について議論している資料もあります。ある種の無邪気さというものが戦前から継承されているといえるでしょう。

○上田先生
15歳やそこらで親元離れて少女だけで過ごしていたら、メンタリティとしてもイノセンスになりやすいというところはあるでしょうね。
私、初めて宝塚を見たのはお正月にBSでやっていた『ベルサイユのばら』だったんですけど。演出「長谷川一夫」とあって。役者が西洋人の格好をしているのに、もう何もかもが歌舞伎調でびっくりしたんですよ。スターが台詞を言って見栄を切るところとか。曲も演歌調だし。でも金髪で白タイツ、なんなら時代が古かったから、金髪のクオリティもちょっとアレで、黄色いカツラみたいな? 相当異常のものにみえて。
でも見ているうちに山場の場面で泣いてしまったんですよ。ネットと違って、存続するのが難しい、劇場の中でしか収益を得られない不利な収入源が限られたメディアであるにもかかわらず、助成金ももらわず、関西の片隅で、いつも満員御礼でここまで続いているって本当にすごいな、奇跡だなと思ったんですよ。

○木ノ下さん
『ベルばら』初演のときはどういう評判だったんですか。歌舞伎っぽいね、という感じだったんですか。

○上田先生
もともと宝塚が歌舞伎的なところがあるので、特にそういう評判があったというわけではないでしょうね。

○松本先生
歌舞伎から題材をとっているところもありますし、小林は歌舞伎を継承していくことにも価値をおいていましたし。特に宝塚の中で異質、特殊という感じではなかったと思います。海外公演も歌舞伎を意識している演目もありますし。

○木ノ下さん
ベルサイユのばら』を長谷川一夫演出の宝塚って、なんだか異種混合試合みたいですね。
さて、では「宝塚の課題」って何だと思いますか。まずは興業の面で。

○松本先生
あえていえば、成功しすぎているところでしょうか。本当はロングランが理想的なんですよね。けれども宝塚はそうではなくて、だからチケットがあまりにも瞬殺すぎて、ビギナーはチケットをゲットしにくい状況になっています。
まあ、あるところにはあって、私設のファンクラブを経由することも考えられるのですが、初心者はなかなかそこにはたどり着けないでしょう。親や友人がディープなファンでないと、なかなか手に入らない。
僕自身は当日券を学割がきいた時期にはまったこともあって、わりとそのころはチケットがとりやすかったんですけど。

○木ノ下さん
なるほど。そういうところを配信が上手に補っていけるといいですね。
他に、表象の面ではいかがでしょうか。

○松本先生
やはりジェンダーステレオタイプすぎる、というところでしょうか。しかし男役と娘役とわけて、全員女性でやっている以上、ある程度強調しないと、男に見えない、ということもありますし、難しいですね。
娘役が退団すると歌がうまくなるという現象があるのですが、これは宝塚にいたころ、いかに無理して高音を出していたかということとも関わってくると思います。つまり、男役中心なんですね。
舞台がオフのときにも娘役が娘役になりすぎてしまうことも問題かもしれませんが、でもそうかっといって、それがなくなったら宝塚は成立しない面もあるだろうとも思いますし、難しいですね。
ただ、外国人の表象はステレオタイプすぎるものから、最近少しずつではありますが、改善しているところもあります。

○木ノ下さん
歌舞伎なんかは時代が違うということで許容されているところもありますが。理想化された女性というのは、古典だから目をつむってもらえるところがあるけれども、宝塚は新作主義ですからね。
上田先生もやはりそのあたりは意識して作られましたか?

○上田先生
いえ……(会場笑)。
それについては、何も深く考えていなかったというか、それを言い出したらそもそも成立しないのが宝塚の舞台ですよね。
ただ、舞台の男役に観客が求めるものは確実に変わってきているだろうな、と。
昔(『ベルばら』四天王時代)の宝塚の裏舞台を取材する番組で、舞台の上では王者みたいに一番強くて美しかったトップスターが袖にはけて、男の演出家の先生と顔を合わせると「えー! 先生みてはったんですかー! ありがとうございます。いややわー! 私、大丈夫でしたかー?」みたいな感じに急にしたでに出る様子があって。言ってしまえば、大阪のおばちゃんみたいな。すいません、おばちゃんとか言って。本当によくある、絵に描いたような男女のコミュニケーションって感じで。なんか袖にはけたら百獣の王も猫になる、じゃないですけど。
今は別に同じことがあっても、もうちょっとえらそう、というか。もちろん最低限の礼儀は尽くすけれども、へこへこすることは全然なくて、普通に「あ、先生見に来てたの」みたいな感じで。
相撲とは反対に、女しか上がれない舞台の袖で一番強くて美しくてえらいという女性が、男を演じることで溜飲が下がる思いがあったでしょう。ただ、そういうカタルシスは、今はもう別のものに変わっていて、別に社会としてフェミニズムは全然浸透はしていないですけど、昭和の女性観客に与えていた影響とは今の女性観客に与えている影響や効果とは違うものでしょうね。

○木ノ下さん
女が男を演じるからこそ、見えてくるものがあるのでしょうね。
例えば『桜嵐記』を男女で上演したら、全然違う作品になると思います。暑苦しいというか。女性が男性を演じることの批評性、なんというか宝塚はマッチョにならないという感じがありますね。ある程度脚色されている、虚構性が高くなって。女性がやることで男性が作ってきた歴史に対するアンチテーゼにもなりますよね。
いろいろまだ話したいですが、そろそろ時間なので……あ、オーバーしてますね、それではここから質問コーナーにいきたいと思います。

○質問1 上田先生へ
上田先生がいろいろなことに興味をもっているということがわかっておもしろかったです。トップスターさんにはいろいろな持ち味があると思うのですが、上田先生があてる役はその持ち味とはちょっと違うような気がしていますが、スターと役をどのように結びつけていますか。

○上田先生の回答
それ、よく言われるのですが、私自身はスターに持ち味に適した役をあてているつもりなんですよ。でも、周りからは「ちょっと違うのがおもしろいね」みたいな反応をもらうことが多くて。私の感覚がやっぱりみなさんと違うのかな……。

○木ノ下さん
宝塚は複数の演出家の先生がいるところが魅力ですよね。そうやっていろいろなスターの顔を見ることができますから。
では、次の質問。(たくさん手があがる)あら、たくさん。やはり次は五時間コースですかね(笑)。

○質問2 上田先生へ
次のオペラの演出についてとこれからの活動について教えてください。

○上田先生の回答
オペラは偶然、演出の話をもらっただけなんです。これから留学するし、自分にできることをやっていきたいと思って引き受けました。でも、何が自分にできるかもよくわからないところもあって。
アバンギャルド的なものをやると門戸が狭くなって来る人が限られてくるから、多くの人に見てもらえるような。そして、見た人が何か持ち帰れるものを作りたいと思っています。ちょっと教育的なことも。遠くの世界に気がつくような作品を作りたい。

○質問3 上田先生へ
宝塚とジェンダーの話がありましたが、男役が娘役を演じるときの配役がすごくおもしろいと思って見ていました。どうやって決めているのですか。

○上田先生の回答
ケースバイケースですかね。本人の持ち味を考えることもあるし、娘役のテクニックで演じない方がいい女性の役のときとか。あとは大人の事情ですよ。スターの序列を決めるための劇団からの要請とか。

○木ノ下さん
では、質問コーナーはこれくらいにして。
私、いつか木ノ下歌舞伎を上田演出でやりたいです!

○上田先生
(目をぱちくりさせて)今初めて聞きました。

○木ノ下さん
ここで言おうと思っていました!(したり顔)

○上田先生
ありがとうございます。

○木ノ下さん
そのときはみなさん、見に来て下さい。
それでは今日はこれで終わりにしたいと思います。上田先生、松本先生、ありがとうございました。
(拍手)

***

「世界に資する作品を作りたい」といって退団した上田先生が、多少教育的になろうとも娯楽作品を作り続けると言ってくれたことは深いなと思ったし、何よりも「今ここ」ではなくて「あるかどうかもわからない遠くの、未知の世界」を想像できるような作品を作りたいとおっしゃっていたのが印象的でした。
世界に資する作品は娯楽でもできるし、それは私たちに今とは違うものの味方を教えてくれるはず、と私も信じたい。
あとは郡上のお城の案内板や吉水神社の立て看板が創作のヒントになっているという話は、前回の上田先生の講演会で、演出家になりたいと思っている学生に向けて「言語が分からない舞台を見る。そうすると話の構成で理解するしかなくなる。それで泣けるようになれば、旧跡の案内板でも泣けるようになる」というようなことをアドバイスしていたことが思い出されます。
要は話の筋が大切なんだな、と。
小柳先生も、作品をつくるときはまず「(主人公)が○○する話」と一文で、一行で、話の骨格をつくると言っておりました。その骨の部分がしっかりしていないと、やはりいくら肉付けしたところで、たいした作品はつくれないのでしょう。

私個人としては宝塚歌劇団を「未婚の女性だけで構成された劇団」というのをウリにするのは、もはや時代遅れだなと思っているところも確かにあります。
でも、100年以上続いた宝塚をこれからも残していきたいとも思っています。
では、何をウリにするかといえば、松本先生がおっしゃっていたように「新作主義、オリジナル作品を上演する」というところなのではなでしょうか。
過去の作品を再演することにも意味があると思いますが、それは少なくとも本公演ではなるべく避けた方がいいのではないかと思うことがあります。もっとも最近はバウホールなどの別箱でのオリジナル作品がかなりおもしろいとも思っているので、再演なら別箱で、とも簡単には言えないのですが。
一方で、木ノ下さんが指摘したように、同じ劇団にたくさんの演出家たちがいる。座付きでいる。これが宝塚の強みなのではないでしょうか。トップスター、トップ娘役に当て書きができる、ってとても素敵なことだと思いますし、他ではなかなか真似できないことだと思います。だから常に私は当て書きオリジナル良質脚本を求めているのです。
それから「レビュー(ショー)を上演できること」これもまた宝塚の大きな特徴でしょう。OSKなど他の劇団もやっていないわけではないですが、大きい規模でレビューやショーを上演しているところはありません。もっともこちらの要素は、最初に松本先生がお話したように、宝塚の舞台そのものがレビュー向きであることを考えれば、なくなることはあるかもしれませんが、もっとアピールすることはできると思います。
この二つを劇団側がもっと認識して、持ち味として活かしていこうとしなければ、宝塚歌劇団の存続そのものも危ういと考えています。それは創設者の思惑とは異なるかもしれないけれども、でも今だって草創期とは異なる部分があるのだから(今、『どんぶらこ』を上演したら、観客は「宝塚で見たいのはこれじゃない」と言うでしょう)、少しずつアップデートしていけばいいのではないでしょうかね。ダメですかね。
劇団のお偉いさんの中にどれだけ女性がいるのかもよくわからないのですが、組プロデューサーも女性が担当したことってあるのでしょうか。舞台の上からは見えない、そういう内部のところも変えていく必要があるのかもしれません(もし、今の段階で女性の管理職がたくさんいたらすいません)。

最後に書くのはあれですが、これはあくまでも私が聞き取ったメモであって、ご本人たちの考えと異なることもあると思われますので、そのあたりはゆるく読んでいただきたいと思います。
一人の方がずっとお話されている講演会ならともかく、対談や鼎談の速記はあまり経験がないので(誰の発言かを明記したり、一度に複数人が話をしたりするところもあって思っていた以上に大変だった)(しかもスライドがある発表を記述するのは初めてだった)、ちょっと自信ないな、と思われるところはカットもしましたが、あしからずご了承ください。

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星組『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』『JAGUAR BEAT』感想2

星組公演

浪漫楽劇『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』─並木陽作「斜陽の国のルスダン」より─
脚本・演出/生田大和

メガファンタジーJAGUAR BEAT-ジャガービート-』
作・演出/齋藤吉正

運良く宝塚大劇場千秋楽の配信を見ることができました。
無事に完走できましたこと、心よりお祝い申し上げます。今、またコロナが増え始めてきている状況の中、これは本当に嬉しいことです。
前回は芝居の感想だけでしたので、今回は配信を見て改めて思った芝居の感想とショーの感想です。

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最初のリラの花、開演アナウンスのときにはすでに舞台にいて、そこから花びらが散るように上手と下手にそれぞれはけていき、物乞いが出てきて、再登場しますが、最初の印象としては綺麗でいいけれども、やはり長いな、と。もういっそリラの花が散ったらディミトリが出てきてよ……と思ってしまいました。リラの花、物乞い、ディミトリのところだけで7分くらいありましたかね。オープニングが長かったな。ヒロインなのにルスダンが全然出てこない。
これはもちろんジャラッルディーンにも同じことがいえて、彼が出てくるのは45分すぎたあたりかですからね。それならオープニングで全員集合させてもいいのでは、と穿った見方をしてしまう。余計なお世話ですいませんね。
しかし『BADDY』のパトロールバードのように台詞さえもハーモニーをつくって歌うようにつむぐリラの花の三人娘ガンベダオバ(勇気)、スィクヴァルリ(愛)、シブルズネ(知恵)はよかったです。申し分ないです。すばらしかった。

プログラムを手元に置きながら配信を見たのですが、主題歌の「夜明け色に、咲いた花」はふりがななしで「運命」を「さだめ」と読み、「永遠」を「とわ」と読むのか、と。いや、よくあるけれどもさ、それはふりがなを振った方がいいのでなかろうか、と思ってしまった。最初にその読み方を当てるのはオタクくらいなものだよw 生田先生!
あとは「たとえ世界を敵に回しても~」は歌う人が多いし、リプライズもあるし、載せてもよかったのでは?と思いました。『ル・サンク』がまだ届かないのだ~!><
そしてその曲を歌うバテシバの谷間を見てしまう悪い子は私です。配信だと自然に見える。やはりちょっと暗くなるからかな。
プログラムといえば、S4の歌手はどなたなのだろう。ジョージアの兵士で、上手と下手にわかれて歌っているのですが……明記してくれ~!

ツイッターにも書きましたが、S2とS15とS17とS19に出てくるトビリシの市民、というか少女で、髪の毛は一本の三つ編みで、赤い帽子をかぶり、金の刺繍の入った赤いベストを着ている娘役さんはどなたでしょうか。
観劇しているときも気になったのですが、今回配信を見ても分からず……。S19では銀橋を渡らないので、下級生娘役ちゃんではないだろうかと、プログラムの写真をみてもあまりピンとこなくて。むむむー!

衣装にお金がかかっているなあというのは改めて実感。雪組の『蒼穹の昴』もそうでしたけれども、お金があるのかないのかよくわからないな、劇団。
もっとも今は取材旅行はなかなかできないだろうから、その分のお金を回しているのかもしれませんが、やぱり脚本あっての演劇だよ。推し文化がブームだとしても、ブームの前からご贔屓文化で成立していたとしても、コンテンツをもって重視していただきたい、頼む。頼むよ、本当に……っ!

ギオルギから鍵をもらって、タマラ女王の文書をもらう場面。タマラ女王の文書は鍵付きなのに、公文書はわりと雑に、というか誰でも見られるところに保管してあるのね、というのはもはやツッコミをいれない方がいいのかな。寝室に公文書がある謎は、あの場面を成立させるためには仕方がないとしても、巻物はともかく、棚にそのまま文書がおいてあるかいな、と。
タマラ女王の文書と公文書のどちらが大切かと言われたら、それはそれで難しい話だとは思いますが。後者が実務的なものであるのに対して、前者は王者の精神みたいなものも含まれているでしょうからね。
タマラ女王の宝箱(違う)、殿堂で見られるのかしら。楽しみだわ。

黄昏時かどうかわかりませんが、結婚式のときに「婚礼の踊りを!」とイヴァネ(元帥としても本当にいい仕事をするんだ、ひろ香祐! 頼もしいぜ!)が高らかに宣言して、ディミトリとルスダンは踊る。
踊り終わった後に、ディミトリがルスダンを気遣って「大丈夫か」と声を掛け、「ええ」とルスダンが胸の前で手をぎゅっと握りしめながら答える。あの場面、アップで映って、よりグッときたわ。二人のやりとりの密度が上がってきたこともあるのでしょうけれども、ディミトリがここでルスダンを気遣うのがとてもいいと思いました。
だから寝所では、今度はルスダンがディミトリの気持ちを無視して自分の運命に巻き込んだことを気遣う。なんなら「ごめんなさい」と謝る。二人の気持ちがちゃんとお互いに向いているのがわかる。二人と取り囲む環境は決して優しいものではないけれども、二人の間には確かに絆があったことを感じさせるのがとてもよい。
もっとも寝所で歌われる曲は歌詞に何度も「愛している」という語が出てきて、それはそれでディズニー感はあったかな、とも思いましたが。いや、大事な言葉だし、リプライズでも使われるから、そう簡単に歌詞は変えられないだろうけれども、ディズニー好きの友人はちょっと気になったそう。
「愛」という言葉を使うのはやぶさかではないのですが、ちょっと糖分が高いかな、というところでしょうか。ノンシュガーの「愛」もあるはずだよね。ここではノンシュガーにはならないかもしれないけれども、薄めはできるかと。
あとは「恋愛」と「人間愛」との違いとかかな。寝所では前者であるのに対して、リプライズでは後者に近いものがあるでしょう。愛した人と一緒に生きることができなくても、愛した人がこの地上のどこかで生きていてくれさえすればいい、と。

ぷんすかアヴァクの後ろで踊るセルゲイ、ムルマン、カティアの三人。こちらはゆりちゃん(水乃ゆり)があの重そうなドレスで兵士の格好をした二人と同じように踊っているのがすごいな、と改めて。結構重量がありそうでした。観劇しているときは悪い顔したゆりちゃんしか見ていなかったけれども、裾はけっこうせわしなく動いていた。すごいな。重そうだ。
そしてアヴァクも加担してそうな感じはありますが、廷臣たちは異国生まれの王配が議会に出ることを認めない。ルスダンの台詞から察するに王配には議会に出る権利があるはずなのに。ディミトリが認められないのは「異国生まれ」だから。そういう話を南京虐殺のあった日に見ると、また違った味わいがある……勇気とは何なのか、と同時に、国とは何なのか、ということを考えさせられる。

そしてようやく登場するジャラッルディーン。「我が君のためならいつでも名文を書きましょう」という台詞のときのナサウィーのウィンク、しっかり映っていましたね。良かったです。私は今回初めて拝みました。いえ、なに、ついジャラッルディーンを見てしまう。ジャラッルディーンのひげを。
ジャラッルディーンは「寛大な人」という評価もあれば、一方で「その代償にどんなものを求められるかわかったものではない」という危惧ももたれるような人。ギオルギがどうだったかは、よくわかりませんが、少なくとも寛大なジャラッルディーンの様子にギオルギの寛大さを見つける。ギオルギが宗教に対してどれだけ冷酷無比かはちょっと想像するのが難しいかな。なんせ戦地で人妻を連れて帰ってくるような王様だからな。当時の常識をあてはめれば、そりゃ同じ宗教を信仰していない人には容赦ない感じはありますが。

ディミトリはなんとかルスダンを生かすために、ジャラッルディーンとの婚姻を薦める。たとえ改宗したとしても、ルスダンはルスダンであると考える。
けれども、ルスダンは「自分は死ぬまでジョージアの女王である」と言う。ディミトリはすぐにそれを実現するために舵を切り直す。ディミトリの、ルスダンへの愛が伝わってくる。「ルスダンを生かすこと」と「ルスダンがジョージアの女王であり続けること」を両立させるためにプランを練り直し、伝書鳩を飛ばす。
愛する者のために知恵を絞り、勇気ある行動をする。この場面に作品の主題はつまっている。
伝書鳩を飛ばすとき、ナサウィーは明らかにディミトリを疑っている。だから、部屋を出て行く前に一歩立ち止まる。
だったら、憶測だろうがなんだろうが、ジャラッルディーンの支配を守り続けるために文官である彼はすぐに主に報告すべきだったのではないかと、観劇したときは思ったのですが、ナサウィーもまた、ルーム・セルジュークの王子を疑いたくはなかったのだな、と配信を見て思いました。
特にあれですわ、トビリシが落ちた報告を受けるときの、あのナサウィーの表情が、なんだかちょっとウェットになっているような気がして。ディミトリに否定してほしいような感じの表情が印象的でした。
しかも、これも今日気がついたことなのですが、ナサウィーは、最初にディミトリに出会ったとき、床に落ちているグラスに気がついているようですので、ジィージアに毒殺されかかっていたことに気がついたことでしょう。だから、まさかディミトリがジョージアに情報を流すとは夢にも思っていなかったのかもしれません。ぴーちゃん(天華えま)をしっかり見ることができた配信でした。

あとはところどころで蘇る3列目の記憶……ということで、モンゴル兵のきわみやミヘイルのきわみは見るたびにドキドキでした。やだもう、そんな押し倒し方、一体どこで覚えてきたの……っ!>< ディミトリだって乗らなかったベッドなのに!と悶えてしまった。配信なのに。
チンギス・ハーンとモンゴル兵のやりとりはもっとカメラアップでもよかったで???
あとはジョージア兵が銀橋にずらっと並ぶところですかね、もうあまとかのんしか見えなかったよ、なんだあれ、すごいな。視線を惹きつける力というか、オーラというか。すごい。

リラの花の木の下で始まり、リラの花の木の下で終わる物語、なんならディミトリはリラの花の精になりました、といわれても不思議ではない。
「もし、ディミトリが戻ってきたら彼の議会の出席を認めてくれますか」というルスダンの台詞を改変したことは本当にすばらしかった。二人の愛の物語として美しい帰結である。
狐の手袋の毒って一体なんだろう、と原作を読んだときは思ってしまいましたからね。宝塚が夢を見せる場所だから、という理由の改変かもしれないけれど、物語として、こちらの方が圧倒的にすばらしいんだよなあ。もうこういうことがしれっとできるから生田先生の作品は期待しちゃうんだよ!

ショーは『ジャガー・ビート』。初日から「高熱でうなされているときに見る夢」「とにかくよく寝てから見るべき」「何度見ても分からない」「能く回るミラーボールと超高速電飾」「ヨシマサ渾身の怪作」ととにかくツイッターを賑わせていたショーです。
見ないと死ねない作品であることは間違いないと私も思うのですが(笑)、傑作といわれればそれは違うだろうし、だからといってトンチキかと聞かれればそうでもないし、難しいところです。積極的に何度も見るべきショーとまで思えないのは、見るタイミングをものすごく選ぶショーだからかもしれません。
とはいえ、主題歌は家で歌いまくっているので、スパダリも覚える有様です。「一言一句恥ずかしい」と歌詞について分析されました。そんなこといわれたら中詰の曲は歌えないよ! 「ブラックシーズン」ってなんですか!? ちなみに主題歌の「雪よ教えておくれ あの声は誰」で私はいつもだいきほコンビ(望海風斗・真彩希帆)を思い出してしまうのですが。

プロローグできわみ(極美慎)がしれっとひっとん(舞空瞳)よりも前に、せおっち(瀬央ゆりあ)の直後に銀橋を渡っているのは改めてみるとびっくりですが、くらっち(有沙瞳)と一緒だし、まあいいか。あのゴールドの衣装もすごいですが、私は中詰めと思われる場面の白い場面とフィナーレと思われる紫の衣装がとても好きですね、ええ。わかりやすいと自分でも思います。あ、でもブラックボーイも好きだった。顔が小さい。
あとはプロローグ、後ろで歌手として活躍しているジャングルレディの鳳花るりあちゃんがとてもキュートなんだな、これがたまらないんだな。女豹もたまらなく可愛かったんだな、大きなお目めに金髪ボブ! 最高に可愛いな!

白いせおっちも好きですよ。あの残念な感じがプンプンする駄目な男っぷり。すごい。出てきた瞬間からもう負けるのがわかっている。きざっているけど、全然ダメなのがめちゃめちゃ伝わる。すごい。好き(え)。
だいたいねえ、あんなに可愛いアリスみたいなひっとんとポーカー・ダンス対決して勝てる男がいますか?! いないでしょ!!! でも翼にしか興味がない! ジャガーにもバッファローにも興味がない! いっそ潔い! 謎の車椅子(無理やり解釈するなら、翼を片方もがれてしばらくは動くことができたけど、自分で翼を取り返そうとしたり、ジャガーに仕方なく付き合っていたりしたら、もう本当に飛べなくなってしまったということの象徴か)の白チャイナもきんきらドレスも素敵だけど、この衣装、最高に似合っているんだよな……これが中詰めでは渋谷系ギャルみたいになるんだから、びっくりだよ。何着着替えたよ、まじで。
そして目が足りない。くらっちもいるし、あかさん(綺城ひか理)もいるし、きわみ、あまと(天飛華音)、るりはな(瑠璃花夏)、ゆりちゃん、どこみろってんだよ!!! スターアングルしこたま寄越せー!
しかしあの場面、好きだ。そう、この場面はとても好きなんだ。あとナルシスの場面とひっとんが歌って、琴ちゃん(礼真琴)とせおっちとありちゃん(暁千星)が踊る場面。この3つの場面は好きなんだな、やっぱりこのショー好きなのかな、私。困ったな。
紫りらちゃんが着ているドレスは『AfO』でモンパンシェ夫人が着ていたドレスでしょうか。懐かしい。

ほのか(小桜ほのか)も大活躍でもう本当に嬉しいんだ。翼を失ったクリスタルバードに最初に近づくのは彼女なんですよ、ジャガーではないのですよ。たまんねぇな。シスターフッドなんてヨシマサが考えているとはあんまり思えないのだけどね!
しかし、クピドとして繰り返し出てくるし、ありちゃんと組んで踊る場面もたくさんあるし、最後はなぜかクリスタルの車椅子を押しているし、見せ場もたくさんあるし、最高なんだよ、ほのかキューピット。いっそ、その矢で射られたいのに、持っているのはなぜか傘。もうそんな設定のでたらめ加減も全く気にならないくらい全体が意味不明なんだけどな! まあ、仕方ないよ、だって「メガ・ファンタジー」だもん。常にパチンコの確変だもん!!! 『スカピン』の舞踏会の場面がずっと続いている感じだよね!!!

謎の車椅子といえば、その後、ジャガーバッファローの対決は、なんていうか、動物の名前を冠した者同士の争いなのに、結構物理的にケリがつくのも謎といえば、謎です。
銃なの!? 爪とかじゃないの!? もちろんそんなツッコミはむなしく消えるんだけどね! でも動物である意味ってあったのかな、ヨシマサ!!! もう別にいいけどね!!!

うたち(詩ちづる)もジャングルバードではセンターだし、マシーンガールではショーのキーである翼を持って踊っちゃうし、もう最高だよ、可愛いよ。ローグ女のときは、ゆりちゃんと一緒になってあんなに悪い顔しているのに! クリスタルちゃんの道を鎖で阻むのに!
このロボットサーカス団のコンセプトもよくわからないんだけど、でも目が足りないことは間違いないんだ。だって、女豹のあやね・みらんだ・かー(綾音美蘭)、るりあちゃん、乙華菜乃ちゃんを見ない理由が内でしょう!!! 配信ではなかなか難しいところもあるけれども、ここもスターアングルがめちゃめちゃいる場面だよ!
アヤネ・ミランダ・カーはヒートビート女のときは前にいたから結構映っていたけどね! ありがてぇ!

あとはくらっちとさりお(碧海さりお)と一緒に銀橋を渡ったかずとくんよ!(稀惺かずと)
ジョージアン・ダンスのときも「このるうさんに似ている下級生はどなた……どこかで見たことある……」と思ったら、『ジェントル・ライアー』でトニーの役をやっていましたものね! そりゃ見覚えあるわけだ!
中詰以降は完全に把握しましたわ。新人公演のジャラッルディーン、楽しみにしています。東京公演の配信、見られますように!

星の砂漠のナルキスソスの場面は、もうなんていうか本当にごちそうさまって感じで……っ!
プログラムの説明では「アフロディーテは激怒し、アメイニアスに魔法をかけ彼らの心を奪ってしまう。」と書いてあり、アフロディーテが激怒する理由はわかるけど、魔法をかけたのはアメイニアスだけなのに、心を奪われるのはアメイニアスだけではなくてマーリンもなの?とか疑問に思わないこともないんですけど、もう悪い顔をしたきわみを見ることができたので、何でも良いです!!! ホント役者で見るってこういうことだよな!!! でもこれはショーだからいいの!!!
最後にアフロディーテが「ざまあみろ」って感じで高笑いしているのもいい! お願いするなら、しっかりそこを写して、カメラ!

夢の詰まったデュエットダンスが望まれていたことなこコンビにようやくそれらしいデュエットダンスもありましたね。琴ちゃんが、ひっとんを肩でくるって回すの、すごいわ(伝わる?)。白い衣装の場面では、相変わらず銀橋は通るものの、通り過ぎていて本舞台で終わりでしたが、きんきら衣装ではきちんと銀橋で終わってくれて、もう胸アツ。こちらは夢が詰まったというにはちょっと治安が悪い感じもありますが、銀橋いっぱい渡ってくれたからよし! そう、銀橋は軽率に使うべき!

芝居では、ジャラッルディーンの最初の書状に「これではまるで求婚ではありませんか。夫のある身のわたしになんたる侮辱。すぐに派兵の準備を!」と言うくらい琴ちゃん強火担なのに、クリスタルちゃんは、最初は投げキスもスルーするし、ジャガーの名前も聞かないし(そもそも名前がジャガーなんだ、って感じでしたけどw)全然眼中にない感じもよかったです。中詰めあたりからラブラブになっていくんだけどね。

ファンタジーの語り手は三人という決まりがあるのでしょうか、クラブでもムッシュクラウン、マダムクラウン二人、中詰の月神も太陽神も三人、星の砂漠でも黒い貴婦人、黒い吟遊詩人二人とずーっと三人で語らせている。これに何か意味があるのか、ヨシマサの単なる趣味なのか、スターの見せ場をつくるための措置なのか。
でもメインキャストが通し役であるのにもかかわらず、語り手が場面ごとに変わるのはおもしろいな、と思いました。そのわりにワイルドキャットや黒スイセンと全員娘役になると四人になるのはなぜなのか。これは語り手ではないからいいのか、とか。いろいろ考えちゃうわ。
中詰の概念とかフィナーレの概念とか、いわゆる普通にある宝塚のショーの構成をぶっ壊そうとしているなら、それもそれで評価できると思います。挑戦は大事。壊し方は好みがわかれそうですがw 翼を花束に交ぜて返すのはすごくよかった!

パレードのビートジェントルAやBのあの帽子屋みたいな衣装もおもしろいですよね。つまり好きということです。ひっとんのラストの衣装もキラキラ豪華でかわいく着こなしていて天才だな、と思う。誰にでも似合うものではなかろうに。そしてジャガーポーズも可愛い可愛い可愛い。
ショーでもふみちゃん(茉莉那ふみ)がいるはずのところが空いているのは淋しかったかな……そして羽根の話をし出したらキリがないですし(ありちゃんとほのかはよく組むのに、くらっちはせおではなく、あかさんやきわみと組んでいるのが気になるといえば気になるんだよ!)、これはヨシマサのせいではないと思っているので、劇団さん、まじてファンを不安にさせてはいけないよ、とだけ言っておくわ。ギャグじゃないからね。
東京公演も完走できますように!

月組『ブラック・ジャック 危険な賭け』『FULL SWING!』感想

月組公演

ミュージカル・ロマン『ブラック・ジャック 危険な賭け』─手塚治虫原作「ブラック・ジャック」より─
作・演出/正塚晴彦

ジャズ・オマージュ『FULL SWING!』
作・演出/三木章雄

全国ツアー公演、配信を見ました。
ケインに渡した薬はどうなったのかとか、ベリンダとヨランダは間違えないだろうとか、ブラック・ジャックの影の活躍はあれでいいのかとか、気になることがないわけではないのだけれども、そんなことは本当に瑣末なことで、それはなぜかといえば、やはりブラック・ジャックをして「MI6も独裁者も変わらない」と言わしめるのは結構長い台詞だけどきちんと聞けるし、なんならその内容にはしびれまくるし、怪我をしたケインの心配をずっとしていたアイリスが最終的には大きな怪我をしてケインが心配しまくるという構造が大きく反転するのもおもしろいし、命があるだけではダメで、生きる意思がないとどうにもならんということをケインにもアイリスにもあてはまるように描いているし、なんといってもれいこちゃんのブラック・ジャックがすばらしくて、もう!もう……っ!
初演は、家にビデオがあったような気もしますし、母親が見ていた記憶もありますが、私自身はタカスペなどでよく歌われることもあるためか、主題歌くらいは知っているけど、という程度です。だから、こんな話だったのか〜!となんだかものすごく感心して見てしまいました。配信でしか見られなかったのは惜しい。

最近の10代は『春琴抄』を読んでも犯人探しはしないと聞きます。曰く「テクストにわからないと書いてある以上、わからないだろう」と。しかしその程度の読解力ではとても手塚治虫の原作漫画『ブラック・ジャック』は読めなかろうと思うのです。
長い作品ですから全部を読んだとは思えないのですが、原作漫画はそうとう好きです。手塚治虫のベスト3に入ります。残りは『リボンの騎士』と『アドルフに告ぐ』です。
ブラック・ジャックに話を戻しますと、これは新しいヒーロー像を作った作品だと思っています。いわゆるリーダーシップを発揮しまくる赤レンジャーでもなければ、頭脳の理詰めでみんなをまとめるタイプの青レンジャーでもない。その観点から言えば、どちらかといえば、ブラック・ジャックは敵役になってしまう。なぜならば、途方もなく口が悪いからであり、その歯に衣着せぬ物言いは時に周りの人をどきっとさせたり、いらっとさせたりする。けれども彼の行動を見ればわかるように、彼は非常に人類愛に満ちている人であり、人の命を何よりも重んじる人(開演アナウンスのれいこちゃんの声はブラック・ジャックにしては少し高いかな?と思うけど、この人類愛が滲み出ているんだよねー)。だから、彼の言葉にばかり注目すると、この作品を読み誤る。言葉ではなく、行動をきちんと見定めなければならない。それは必然的に周囲に考える力を求めることになる。
春琴抄』で犯人を探さない人たちは、ブラック・ジャックを理解できないだろうと思う所以はそのあたりにある。

スノードン卿に対して「命の重さに序列をつけるのですか?」みたいなことを聞くブラック・ジャック。この言葉はコロナのこの数年で我々が身をもって感じていることですよね。
政府の重鎮ともなれば、ちょっと熱があるくらいで直ぐに医療機関にかかれるのに、多くの一般市民は「熱がある場合は〇〇に電話してください」みたいな感じで病院に行っても、病院に入ることさえできないなんてこともある。私たちは命の重さに序列をつけられた世界に住んでいることを否応なく実感させられる。つらい。
だからブラック・ジャックはこういう連中からしこたま金をもらう。驕っている人間には容赦なくお金を請求する。一般市民側の読者としてはスカっとするが、その正義は現実にないこともまた痛感してしまう。

れいこちゃん(月城かなと)のブラック・ジャックが本当に良かった。演技が上手い人というのは、もうずっと言われ続けてきたことだし、もはや自明のことでさえあると思うけれども、本当に演技が上手い。完全ブラック・ジャックだった。すごかった。
「切って切って切りまくる」と言うわりにはケインに「手術は危険。安静に暮らしているのが一番」とアドバイスするところなんかも好きだな。ただの手術屋ではないのよね。
口は悪いけど人情のある人で、でも肉弾戦には弱くてケインに足を踏まれたときなんかは情けなくて、ピノコに見せる人間らしい一面もぐっとくる。
ベリンダに「本物のオペってものを見せてやる」って台詞はしびれちゃったもんなあ。よくわからないけど、ドキドキしたよ。すごく格好良かった。すばらしい。
スノードン卿とのやり取りも、自分の主義主張を理解されなくてもなんのその、とはいえ、そのあたりにいるような金儲け主義者でないことは理解するから、最後はああいう形になる。
原作漫画だったら言わないかな、と思われるような「こういうことは滅多に言いませんが、結構あなたの人間性を信頼していますよ」というような台詞も、まあ宝塚だし、100分で完結しなければいけないし、あれはあれでよかったのでしょう。

そしてスノードン卿がものすごくよかったですね、りんきら!(凛城きら)
今回はうっかりするとブラック・ジャックの相手役でしたよ、彼。
イギリスで開業しないか、とブラック・ジャックに持ちかけたときも「ごめんですね」「やはり」というやりとりの間の取り方が完璧。普段から月組にいらっしゃる方?と思われても納得でしたわ。
これまたサービスシーンのパジャマも可愛いんだから、もうー!!!
仕事に誇りと情熱をもっていることもわかるし、一方でアイリスには「どうしても行きたければ、情報部をやめなさい。君個人が何をしようと好きにすればいい」みたいなことを言って、自由にしてあげるし、優しいんだよなあ。少なくともお金のためには動いていない。国家のために動くし、そしてまた部下個人のこともきちんと考えることができる上司です。とはいえ、上司らしく部下が望めば命をかけた作戦も平気で口にする。国家のため、という大義名分のもとで。このバランスが絶妙だったわ。
ブラック・ジャックとは相容れないところもあるけれども、彼もまた根本のところでは人類愛をもっているように見えました。ブラック・ジャックが「独裁者でも患者なら救う」と言っていたのに対して、否定的だったことを理由に、スノードン卿が人類愛のない人だとは言えないと思います。そもそもこのブラック・ジャックの言葉に頷くことができる人がどれだけいるだろう、ということを考えれば、それは明らかでしょう。

海ちゃん(海乃美月)は恵とアイリスの2役。早着替えはなかなか大変そうでしたね。しかし出てくるたびに表情が違うのはさすがでしたわ。別人かと。
ブラック・ジャックと恵はかつて愛し合った仲のようですが、白衣を着ていたけど恵は同じ医者だったのか? けれども進行性の病が見つかってブラック・ジャックが手術をしたのか? その手術は成功しただろうけれども、その後彼女はどうなったのか? なぜブラック・ジャックと一緒にいられないのか?と、結構考える余白はありそうです。全部説明してくれー!と思う観客もいるかもしれませんが、私はこの余白はそれほど気にならなかったかな。人生、語り尽くせないこともあるでしょう。
ケインに渡した薬も使わなかったし、伏線を回収するばかりが芝居ではない、というか、本当に日常の延長として作られている芝居なんだな、と。正塚先生、ありがとうございます。
大事なのはとにかくブラック・ジャックがかつて愛した女性をまだ忘れられないというところです。
その恵にそっくりなアイリス中尉を最初に見たときのブラック・ジャックの驚きようといったら……! もう! れいこちゃん、まじでブラボーだったわ。
アイリスがその後どんな気持ちでブラック・ジャックを追いかけて行ったか、なぜかよくわからないけれども邪険にされたような印象も受けつつ、それでもケインのために後を追うし、話しかける。アイリスの気持ちを思うとやるせない。どんな気持ちで最後、連絡先を残して行ったのか。そしてブラック・ジャックはなんのかんの言って優しいから、それを持ち帰ってしまう(笑)。
とはいえ、アイリスはケインの恋人なので、がっつり濃厚なお芝居があるわけではなかったのですが、これはこれで仕方がなかったかなとは思います。もうちと出番があると良かったのかな。大劇場ではなく、全国ツアーのお芝居だから、まあこれもこれでよいのでしょう。

そのアイリスの恋人、ケインはおだちん(風間柚乃)。アイリスを庇って受けた銃弾の破片が神経を圧迫しており、絶え間ない頭痛やしびれに苦しみ、人生やってらんねぇと賭け師になる。ブックメーカー、とか言ってましたか? ちょっと私にはよくわからない用語ではあったのだけれど、とにかく世界中のいろんなことを賭けにして儲けている、というような、英国情報部にいた人間が一気に転落した感じのキャラクター、だと思うのですが、おだちんはいまいちやけっぱち具合というかやさぐれ具合が足りないかな、と。いや、きっと本人が真面目だということもあるのでしょうけれども、なんかいまいち堕落しきっていないような……だって、恋人をかばって怪我をして、仕事も辞めざるを得なくなったのに、その恋人は以前と変わらずバリバリ働いていながら自分を気にかけてくれる、とかたぶんケインから見たら相当惨めだと思うんですよ。それこそ「男のプライド」ってやつですよ。でもなんかその惨め感というか、ジメジメ感が足りなかったからかな。本人、カラッと明るいタイプだからかな。
でも最後にアイリスが手術しているときのケインはすごくよくて、「今までアイリスがどんな気持ちでいたのかわかった」というところまでの流れはすばらしかった。やっぱりしっかりした人の方がおだちんには合っているのかもしれません。

かれんちゃん(結愛かれん)はイギリスの大きな病院の医者ベリンダ。あの時代の女医、というのはあれくらい気が強くないとやっていられないのでしょう。あんまりこの言葉は好きではないけれども、いわゆる男勝り的な、そうでもしないと19世紀末に女の外科医なんてやってられないでしょう。医者にも患者にもなめられたい放題なのは想像がつく。
その前半の硬質さがあって、最後に「今夜のことは一生忘れません」とブラック・ジャックに頭を下げる。すばらしい。じーんとしちゃったよ。
オープニングでもダンスしていて、こちらはまたとてつもなくキュート。色々なかれんちゃんが見られて良かったです。

ぱる(礼華はる)も大活躍。私はあんまり刺さらないけれども、ぎりぎり(朝霧真)との芝居と、まのんちゃん(花妃舞音)ローラとの芝居は良かったな。
るうさん(光月るう)の悪役は安心と信頼があるし、じゅりちゃん(天紫珠李)のああいった感じの悪役はなんだか新鮮でした。
ピノコのそらちゃん(美海そら)もうまかったな。ちゃんと18歳の女の子でした。喋り方は、なんでも舌ったらずにしたらいいってもんでもないだろう、あれにはもっと規則性があるだろうと思うのだけど(ドラマで方言が使われるときなんかもよく思う)、まあ何を言っているかわからないわけではなかったから、まあ、いい……のか?
こありちゃん(菜々乃あり)にはもっと見せ場を!と思いながらも、ダンスで映る様子はそりゃもうすばらしい。彼女の柔らかいダンスが好きです。
まおくん(蘭尚樹)のコロスもよかった……! 彼女の見せ場ももっとあっていいのでは?! そりゃ、ショーでは活躍していたけれども……すんすん。
あと私にしては珍しく男役下級生七城雅くんも発見。『ギャツビー』の新人公演ではトムを演じていましたね。今回は、台詞はなかったような気はしますが、立っているだけでオーラがある。こちらも楽しみですな。

ショーは基本的には大劇場と同じでしたが、ここでもはやりぱるが躍進してきていますね。個人的にはあみちゃん(彩海せら)推しなので、このあたりの学年はちょっとセンシティブになってしまう。
あと大活躍だったのはやはりるねぴ(夢奈瑠音)ですね。ホント、顔が小さい!
ジャンゴの場面とアッデューの場面は相変わらずモエモエですが、ジャンゴの白い蝶がもうちと改善されていてもよかったのでは、と……なんだかちゃっちくないですかね、大丈夫かな。
りんきらが出てくれたのもとても嬉しかったです! るうさんとりんきらのパパラッチって圧が強すぎるだろ!と思いましたよ。また男役群舞のところで、おだちんがれいこちゃんとくっついて歌うところは、何かとれいこちゃんが仕掛けておだちんが驚きながらも音を外さなかったというつぶやきが目立ちましたかね。近くで聞いていたスパダリも「よく歌い、よく踊る役者だね」と。エトワール、今回も気持ちよくコブシがまわっておりました(笑)。
全体的に渋いお色味の衣装が多く、ジャズということで大人向けのショーなのでした。

次の大劇場は『応天の門』。
人生最推しといってももはや過言ではない在原業平をちなつ(凰月杏)が演じるということで、これまた楽しみです。
うみちゃんは昭姫ということで、またれいこちゃんとはラブにはならない予感ですが、どうなるのでしょう。演出が田渕先生であることは若干胃が痛くなるような気分ですが、その他の配役発表も楽しみにしています。